「どうすればいいの?」
このお題を見て、僕は以前20歳のニートと会話したことを思い出した。
彼との出会いは精神科での集まりだった。
社会復帰を目指す、あるいは社会復帰した者たちで構成された参加者たち。
精神科クリニックの一室に集められた数人。
僕と彼は、その参加者だった。
ニートである彼は運動不足と食欲のない貧相な身体つきでポツポツ呟いた。
小学五年生から不登校生活は始まった。
それから20歳。ずっと不登校でいる。
中学、高校とまったく通っていない。
今話題のフリースクールも通っていない。
中卒確定。だから、受験というもの、宿題というものなどまったく知らないという。
約九年間自宅で引きこもっていた。
それで、冒頭のセリフということだ。
危機感を持っていると言っていた。
危機感? ははっ。
危機感があったら9年間もニートしてないだろ。
不登校とニートについて、心のなかで蔑んだ言葉が湧いて出た。
今では恥ずかしいものだが、自己肯定感が低かったのだ。自分の存在を理解するために、ネットで不登校ニートや派遣社員などのブログを頻繁に読みあさっていた。自分も同じようなもの。コメントは残さない。感想として上手く言語化できない、ドロッとした醜い感情。
ファシリであるクリニックの先生が、悩める彼について僕にアドバイスはないかと話を振ってきた。
僕には不登校歴が1.5年、ニート歴も1.5年あった。
それでも、社会復帰できている。正社員をやらさせてもらっている。もう二度とこんな奴にはならないぞ、という、一種の同族嫌悪である。
ファシリには申し訳ないが、僕はアドバイスを送るような人間ではない。
ネットの世界で散々貶したのだ。
彼のような無職ニート、不登校に対し、努力がないとか、やる気がないとか。
言葉にして残していないが、同調したのだ。
そんな甘ったれたこと言ってんじゃねえというドロドロとした黒い何かを吐き出そうとした。
でも、そんなこと……。
口を閉ざす。
面と向かって話すほど、彼を傷つけることはできない。
ニート・無職像は、ネットに属する画面の向こう側だから、あんな言葉が湧いて出るのだ。
「アドバイスできません。僕の人生のどこを探してもありません。とりあえず、うつを治したらどうでしょうか」
それだけを答えて、あとは別の話題へシフトした。
以降ニートの彼が喋るターンは来なかった。
僕がずっと喋っていた。雄弁は銀、沈黙は金。
そんなわけがない。
11/22/2024, 9:15:26 AM