騒がしい居酒屋の、奥の個室で男女二人が話し合っていた。
一人はビールジョッキ片手に机に肘をついて、もう一人はレモンサワーをちびちび味わって飲んでいた。
ビールジョッキを持った方の女性は、レモンサワーを飲む男性に尋ねる。
「雪(ゆき)ぃ......彼氏とどんな感じ?」
「それなりにやってるよ」
「どこまで行った?キスした?」
「うわぁド直球ぅ。言わねぇよ」
顔色一つ変えず返事をし、レモンサワーを飲むのは雪。
なんだよ教えろー、と少し赤くなっているのが葉瀬(ようせ)。彼らは大学時代のよき友人で今でもこうして関係が続いているのだ。
「いいねぇお熱いねぇ、お熱ですかぁ?」
「おっさんかよ。乙女なんだからもっと可愛く言え」
「きゃー!尊い!」
「なんか違うな」
「人に言わせといてなんだその態度はぁ!」
「葉瀬が始めた物語だろ?」
むすっ!と頬を膨らませる葉瀬の顔は、お酒のせいで少し赤くなっていた。
「それで?俺を誘ったのってそういう話じゃないよな」
どうした、と一度レモンサワーから口を離して聞く。葉瀬は机に顔を伏せて無言になる。
「............」
「なんだ、俺に言いにくい話か?」
「いや.....」
「言ってみろ言ってみろ。言え言え」
「.......あー...のさ」
「何?」
くいっ、と雪はレモンサワーを一飲みする。
「............恋愛って、どうやってる?」
「...え?冷たっ!!」
雪は驚いてレモンサワーから口を離してしまい、膝にビチャッ、とかかる。
「あー...!...今恋愛って言った?」
「言った」
「本当!?」
「む、私が恋愛しないように見えるのか」
「違う違う。葉瀬ってそういう話、大学の時無かっただろ?」
「...そうだっけ?」
葉瀬は顔を上げて頬をつく。雪は興味津々で葉瀬に質問を始めた。
「それでそれで?恋愛に関する相談か?」
「うん」
「そうかそうか...聞きたいことは何だ?なんでも聞け」
「...この恋愛をさ、どうすればいい?」
「......ん?」
「どう、すればいい?伝えたらいい?でもまだ好きかよく分かんないんだけど...」
「.........あー」
雪は気づいた。葉瀬は恋愛初心者なんだな、と。葉瀬の頬の赤さは酒のせいだけではないだろう。
「そんな急に思うことなのかな、好きとか。なんかの気の迷いとかじゃないのかな?もっと仲良くしたいだけで、別に恋愛ではないのかな...」
「待て待て葉瀬」
葉瀬の思考がどんどん悪い方に向いていく前に、雪は止める。そして人差し指をぴん、と立てて話し始めた。
「まず、好きに早いも遅いもない。好きだと思うならそれは好き。好きかわからなくても、特別な気持ちなら特別な気持ちって名前でいい」
「...へぇ」
「次に、恋愛は迷うもの。今まで無かった気持ちなら尚更。無理に名前をつける必要はない」
「ふんふん」
「最後に、無理してその気持ちを伝える必要はまだない」
雪は指を上げるのを止め、手をもとに戻す。
「友達でいたいならそれでも構わない。付き合いたいなら付き合えばいい。それは、葉瀬が決めることだからな」
「そう、なんだ...」
そう言うと雪は嬉しそうに笑う。
「でもなぁ~葉瀬から恋の話が聞けるなんてな」
「あ、はは...」
「じゃあ今度は馴れ初めでも聞こうかな!」
「え、は!?」
「葉瀬だけ話すのもあれだからさ、俺も話すよ」
「そういう問題じゃ」
「葉瀬が言わねぇなら俺から先に話しちゃおっかな~」
「待って私が先に言うから!」
お題 「どうすればいいの?」
出演 葉瀬 雪
11/22/2024, 10:01:35 AM