hot eyes

Open App
4/5/2025, 8:52:41 AM

「おっ、咲いてる!いえーい」

ぴーすぴーーす、と桜にチョキを作ってるのは俺の恋人である葉瀬(ようせ)だ。今日、買い物の帰り道に近くの川沿いを通ってみると桜並木の桜がちょうど咲いて散っている頃だった。
下を見ると散り落ちた桜の花弁が張り付いていた。上を見ると、薄桃色の花弁がひらひらと舞い落ちてくる。
綺麗だな、なんてぼんやり思っていると葉瀬が話しかけてくる。

「恋愛漫画とか小説にさ、恋人達が桜見てて急に『君が......桜に拐われちゃうと思って...』って言うシーンあるよね~」
「確かにあるよね」
「ね!玲人(れいと)も拐われとく?」
「なんでそうなるんだよ。阿保か?」
「阿保じゃない!私だって体験してみたいんだよ!桜拐われを!」
「なんだその名称。それに俺は体験したいわけじゃない」
「えぇー私、玲人に『君が桜に拐われちゃうと思って...』って言いたいんだけど~」
「やっぱ阿保だ」
「阿保じゃないーーー」

むー、と葉瀬が不満そうにしていると突然、ビュォワッ!と勢いよく風が吹く。「うわ!!」と葉瀬と俺は真横からその風を食らった。
「わぁぁ!」
「わっ!」
髪は荒れて手で直そうとするも、風に弄ばれてしまう。

風が強く吹いたせいか、桜の花弁が風に舞って降ってくる。
「わ、あはは!綺麗!」
葉瀬は桜を見上げて笑う。その声が花弁に混じって少し遠く聞こえる。

葉瀬が髪を耳にかける時、桜が彼女を包み込むように降ってきた。

刹那。

「うおわっ!!ビックリした~!急に掴んだら危ないじゃん!」
「...ごめん」
俺は気づいたら葉瀬の手首を掴んでいた。

「......もしかして、私が桜に拐われちゃうーって思った...?」

ひょい、と葉瀬は俺の顔を覗き込んだ。俺は無言を貫く。
「え、本当に?」
彼女にはそれが肯定に聞こえたらしい。
「......大丈夫だよ。私はここに居るから!拐われてないでしょ?ほらぁ~見えてるでしょ~幽霊じゃないでしょ~」
ほらほら、と掴まれている腕をブンブン振る。それでも俺は離していない。
「...葉瀬さ」
「ん?何?」
「俺が手、離そうとしたらどっか行くでしょ」
俺がそう言うと、葉瀬はぱちくりとまばたきをする。
「...ぃや行かないけど?それに、行くってどこに行くんだよ。買い物したのに」
「違うわ。葉瀬、俺が手離したいって言ったら頷いて離れるよね」
「?......葉瀬ちょっとよくわかんない。ギャッ!力強!!」
少しムカついて手首を握る力をちょっと強くすると、葉瀬は驚いたのか手首をブンブン振って離れようとする。強くしたと言っても離れにくくしただけなので手首に跡はつかないだろう。

「もう......心配し過ぎよアナタ!それに私が玲人の目を盗んでどっか行くとか無いからね!?」
「......そっか」
「うん!だから離しぃや!」
「...それはやだな」
「わっつ。信頼されてない?」
「そういうことじゃなくて、その......今は、手繋ぎたいなって...」

そう言うと葉瀬は無言になるが、再び口を開く。
「なら、ちゃんと繋ぎたいから一回離して?」
俺がパッと手を離すと、葉瀬が俺の手をぎゅ、と握ってくる。
「んふ、可愛い。そろそろ帰ろ!」
そう言って葉瀬は俺の手を引いて帰路へつく。

俺も肩を並べるようにちょっと一歩踏み出して歩き出した。

お題 「桜」
出演 玲人 葉瀬

3/11/2025, 10:43:54 AM

時刻は午前8時半。そろそろ授業が始まるが、藍佑(あいすけ)は教室とは反対の方向に歩いていた。教室にいても、なんとなく居心地が悪い。今は、誰かに何かされているわけでもない。
しかし過去を思い出すと、どうしても教室に居るのが苦手だった。
ぽりぽりと首を搔きながらゆったりとした足取りで校舎裏へと歩いていこうとした。

「おや?どこへ行くんだい?教室はあっちだよ!」

ゆっくりと視界を動かすと目の前には、自分より少し背が高く、腰に手を当て通せんぼのように立つ髪の短い男子が居た。
「今から授業だろう?一緒に教室へ行こう!」
キラキラと目を輝かせて藍佑の目の前に近づいてくる。
「...僕、体調悪いから保健室行こうと思って」
「それは大変だ!ボクも一緒についていくよ!」
「あ、いや一人で行けるから」
「油断禁物というだろう!途中で倒れたら誰にも助けてもらえないぞ!」
「大丈夫だから...僕行くね」
藍佑はすっ、と右に避ける。すると、彼も右に避ける。
今度は左に避ける。すると、彼も左に避けた。
藍佑は彼の顔を見る。
「すまないね!偶然君と同じ方向に避けてしまう!」
悪気があるのか無いのかなんてすぐにわかる。

(コイツ、わざとだな)
「...退いてよ。僕通れないんだけど」
「すまない!ボクも避けたいのだが同じ方向になってしまってね!」
「はぁ......そこ動かないでね」
藍佑はそう言って横に避けようとすると、彼は、すっと前にやってきた。
「...そこ動くなって...」

「本当に退いてほしいなら、押し退けてでも行けばいいんじゃないかな?」

藍佑が怒りに任せて言葉を放とうとした時、彼は涼しくそう言った。
先程声をかけられた時と変わらない、その目で。
「......そんなことしたら、怪我するよね。わかるでしょ」
「退いてほしいんだよね?」
何故そうしない?と彼は少しだけ、詰め寄るように言った。
「...だからって押すのは...」
「君には出来ないんだよね」

だって、君は優しい人だから。

「君は優しいから見ず知らずでも、ボクに怪我をさせたくないんだろう?優しいね。君は人の痛みがわかるんだ」
藍佑は音が止まったかのようだった。面食らったってこういうことを言うんだと、そんなことを思ってしまった。
「でも大丈夫、安心してくれ!ボクは押されても動かない!試しに押してみてくれ」

藍佑は急に世界に戻された。押す?

「...押す...?」
「そう!」
おいでと言わんばかりに腰に手を当てて立つ。

恐る恐る肩の辺りを押してみるがびくともしない。両肩を押しても動かない。肩を入れて踏ん張ってみたが動かない。
体全体で押しても一歩も動いてくれなかった。
「...っえ、岩?」
「ははは!ボクはバスケ部に属していてね、体幹を鍛えているんだ!凄いだろう?」

胸に手を当ててドヤ顔をしている彼をちょっとだけムカつく顔だなと思ってしまった。しかし同時に、こんな岩みたいなやつもいるんだなと少し面白いと感じてしまった自分もいた。

「さて!これだけボクを押す力があるなら元気だよね!」

パチン、と両手を合わせ、藍佑を見つめる。しまった、と気づいた時にはもう遅く彼の手は藍佑の手をガッチリと掴んでいた。
「教室に戻ろう!これから君と隣で授業を受けられるなんて嬉しいよ!」
「は、隣?え、ちょ、離せって.........力強ッ...!?わ、は、離せってぇぇ...!!」
藍佑は脱出を試みるが彼の力は強く、ずるずると引きずられていく。

「これからよろしくね、藍佑!ボクの名前は山吹(やまぶき)!学級委員長だよ!」
「そんなの知らなくていいよおぉぉ」

しばらくすると学校内で、問題児が学級委員長に片手で引きずられていった話が広まっていった。

お題 「星」
出演 藍佑 山吹

1/19/2025, 9:45:23 AM

吹雪と夜には分かり合えないことがある。

夜は一人、外へ出て大木に腰掛け、吹雪(ふぶき)が以前所持していた円盤に描かれた星空をくるくると回す。
調べたところ、これは星座早見盤というものらしい。指定された日時に見ることの出来る星座や星の位置を確認するための図らしい。今は地球からうみへび座やおとめ座が見えると記されている。

吹雪はこれを、熱心に眺めていた。

夜(よる)は地球から見える星座を見て、何になるのだと聞いたことがある。
吹雪はそんな夜に、自分は有意義よりも娯楽を取る派なんだ、と伝えた。

結局、夜は最後まで意味がわからなかった。
夜にとってはここから見える星を記した方が面白いはずだと思っていたから。

「............」

吹雪は夜の娯楽を分かっていなかったわけではない。しかし、これを娯楽だと言った。きっと吹雪にしかわからない娯楽なのだろう。

吹雪に聞こうにも、もう聞くことができない。

切れた電線は繋がらない。

吹雪と夜はまだ分かり合えないのだ。


お題 「手のひら宇宙」
出演 夜 吹雪

1/10/2025, 8:10:24 AM

「君と一緒に」より続き

次の日、吹雪(ふぶき)はいつも以上に仕事をはやく始めて終わらせる努力をしていた。夜(よる)は昨日の内に終わらせてしまっていたらしい。

「こっちでーす」
吹雪が手を振って遠くから歩いてくる夜を呼ぶ。吹雪のライトブルーの髪、白い瞳が星に照らされて光っている。まるでライトの換わりと言わんばかりに。
「ここです。ここがよ、く見えるんですよ」
ぽんぽん、と吹雪は地面に倒れている大木を軽く叩く。
「時間として、はもうそろそろですかね」
「会話モードに切り替えます」
「そのモード切り替え、大変じゃないですか?」
「僕はモード切り替えを取り付けた初めての個体のため、研究の一貫として切り替えを行っています」
「なら、仕方ないですね...」
よいしょ、と吹雪は大木に腰かける。その隣に、夜が静かに座る。

「ここ、何にもないで、すよね~」
「未だに新たな発見はありません」
「そうなんですよね......この流星群も、200年前に見つけたものですし...あ、来ましたよ」
吹雪が空を指差す。

一つ星が落ちる。

また一つ星が落ちる。

そうしてどんどん星の数が増えていく。
「わぁ…綺麗ですね...!」
「風情があります」
「そう、だ!雪(ゆき)にも写真を___」
そこまで言うと吹雪は写真機能を一時停止し、写真を撮ろうとするのをやめた。
「写真はいいのですか?」
「......はい、きっと雪もどこ、かで見てるでしょうし」
そう言う吹雪は少しどこか寂しそうだった。

「...人は、天寿を全うすると、星になるそうです」
「人が無に還るのではなく、星になって宇宙に漂うという言い伝えですね」
「夜は…星にな、ると信じていますか?」
「言い伝え通りになるならば星になるでしょう」
「夜自身、はどう思っていますか?」
吹雪は夜を見る。吹雪の白い瞳に星が流れている。
「僕は、信じていません。所詮は言い伝えです。生物学、天文学的には証明されていませんので」
「そうですか...」
吹雪は少し目を伏せる。そして、再び夜を見る。
「僕は、信じて、います。言い伝えだとしても、僕は信、じています。きっと、星になって見守ってくれていると...そう思っていま、す」
流星群に照らされた吹雪の瞳は静かに輝いている。

「そうですか」
「夜」

夜が流星群を見ようとすると、吹雪が夜の名を呼んだ。
「なんでしょ___」

「貴方に会えて良かった」

一つ星が落ちた。

「僕も、貴方に会えて良かったです」

夜はそう答えた。吹雪はただ笑うだけ。
「吹雪?」
夜が呼び掛けるも、返事は返ってこない。


吹雪の灰色の瞳はただ、星を写しているだけだった。

お題 「星のかけら」
出演 吹雪 夜

1/7/2025, 9:14:09 AM

「夜(よる)、聞いてください。明日200年に一度の流星群が見られるんです。見ませんか?」
吹雪(ふぶき)は充電中に、姿勢を正して夜に話しかける。
「吹雪、僕達は与えられた役割をこなす必要があります」
「いいじゃない、ですか。時には、休みも必要ですよ」
「否、機械に休みは必要ありません」
「そんなこと言わずに、一緒に見、ましょう」
にこっ、と吹雪は夜に笑いかける。
「吹雪、声帯に異常あり。検査をオススメします」
「確かに最近調子、が悪いんですよね。風邪でしょ、うか?」
「否、機械は風邪を引きません」
「それ、もそうですね」
ふふふ、と吹雪は手を口に当てて笑う。
「とりあえず、明日一緒に見ましょ、う。流星群」
「何故一緒に見ないといけないのでしょうか。一人で見ても、二人で見ても変わらないはずです」
「人は誰と見るかで見方が変わるそ、うですよ」
「否、僕達は人間ではありません」

「しか、し僕達は人間と似ています。なら、人間の真似事をしたって、いいじゃないですか?」

吹雪はこてっ、と首を傾げる。その首を自分の手で戻すのを見なければ、可愛いものなのだが。
「わかりました。吹雪の要望に応えましょう」
「ありがとうございます」
あ、充電終わりました、と吹雪は背中からコードを抜いた。

お題 「君と一緒に」
出演 夜 吹雪

Next