「――占いをしないか。オレの腕は百発百中だ」
「この状況でか?……笑わせるな」
拳銃を突きつけ合って、俺達は互いを鋭く睨んでいた。そんな切迫した中で、突然相棒は胸ポケットからタロットカードを出し、俺を占ってやると抜かしたのだ。
「生憎だが、俺の未来は占わずとも決まってる――お前をここで撃ち殺し、裏金を独占して、単身海外へ高飛びだ」
俺と相棒の出会いは、裏社会を牛耳るデカい組織の末端にあたる施設だった。同じような生い立ちで身寄りのない俺達は、すぐに打ち解けて寝食と「仕事」を共にした。
互いの背中を預け、初めて信頼という感情を知った。
殺されるならお前がいい、と冗談を言い合っていた。
互いの存在が、心の拠り所だった。
――それなのに。俺達は今まさに殺し合おうとしている。
「えー、オレの占いによると……」
俺に銃口を向けられているにもかかわらず、ぶつぶつと何呟きながら、相棒はカードを片手でめくり始めた。地面に奇妙な絵柄のタロットが散らばってゆく。
およそ占っているとは思えない、相棒の舐めた態度に俺は心底腹が立った。いよいよトリガーに指をかける。
「――オレ『ら』の運勢は最低最悪。ここで死ぬ」
「……そうか。そいつは残念だな」
俺達は、とある依頼をしくじった。なんとか掻き集めた金を明け渡そうとしても、組織は良い顔をしなかった。
相棒によって、丁重に葬られるか。
組織によって、惨い殺され方をされるか。
二人とも生き残る、あるいはどちらか片方が生き残るというマシな未来の可能性は一欠片も無い。
それならば、せめて相棒を弔った後に自分が囮となって相棒の墓を、臓器を、遺体を守り抜こう――そんな俺の勝手な願望を、俺の相棒は許さなかった。
ふと、地面に落ちているカードが目に止まった。
――確か、『審判』だったか。
占うと豪語したくせに、こいつは一枚も意味なんか知らないのだ。おおよそ、この状況を打開する方法が思いつかなくて、運任せにでもしようとしたのだろう。
どうしようもない相棒に、呆れた笑いが込み上げる。
最期に粋なことでも教えてやろうか。
そう思ってから、やめた。
こいつには、俺達には、希望的観測などもう無意味だ。
「どうすればいいの?……オレ達、どこから間違えた?」
今にも泣きそうな声で、相棒が俺に問う。
「――多分、初めから」
だから、やり直そう。
そう微笑んで、俺は餞(はなむけ)の弾丸を撃ち放った。
2024/11/21【どうすればいいの?】
11/22/2024, 9:59:00 AM