『たくさんの想い出』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
🕊️ほんとうに出会った者に
別れはこない
あなたはまだそこにいる
目をみはり私をみつめ
くり返し私に語りかける
あなたとの思い出が
私を生かす
早すぎたあなたの死すら
私を生かす
初めてあなたを見た日から
こんなに時が過ぎた今も
谷川俊太郎✨
「あなたはそこに」
🕊️🤍🕊️🤍🕊️🤍🕊️🤍🕊️🤍🕊️
山の奥、
見上げたら眩い星空が。
麓の方を見ると街の明かりが
キラキラと瞬いている。
空気が綺麗なこの場所で
私は育った。
生まれた頃から家には動物がいた。
犬、猫、ラット、鶏、メダカ、金魚。
殆ど死に際に立ち会い、火葬をして
この家の庭に埋めた。
お墓によって色々な花を植えた。
今年、9年前に亡くなった猫のお墓から
1度も咲いたことの無い藤の花が咲いて
亡くなってもなお
この子たちは励まそうとしてくれている。
私はたくさんの思い出と住んでいる。
ここにいる限りひとりにはならない。
ずっと、あの子たちがいるから。
『たくさんの想い出』
未だ色彩を阻む
煩う焦燥と飛燕の音
朧気に崩れた道化は
深く深くに
沈みゆく
未だ遠くで響く
揺蕩う孤独と風切りの音
灰色に褪せた造花は
ゆらゆらゆらと
舞い落つる
もし古びた記憶に、色彩を取り戻す方法があるのなら。
私は何の記憶に色を付けようか。
「モノクロ写真をカラー化する仕事、あるでしょう」
そう言って、無精髭を生やした男性が写真を二枚、目の前のテーブルに並べた。まー最近はAIだとかで誰でもカラー化できる時代だから、同業者は阿鼻叫喚ですわぁ……と男性は苦笑いを浮かべる。
モノクロ写真と、カラー写真。サンプルとはいえ、モデルの家族の笑顔はカラーの方がより輝かしく見えた。
「僕はこの素晴らしい技術を、記憶に応用したんです」
記憶屋。まだほとんどの人が知らない、新業態。
出先の街中で偶然見かけた看板に惹かれて、吸い寄せられるようにそのまま入店してしまったのだ。
「……あの、来店しておいて恐縮なんですけど……私、宗教とかスピリチュアルとかは、あんまり……」
なかなか失礼なことを申し訳なさそうに言い淀んでいる私に、男性はほのぼのとした笑顔で頷いた。
「大丈夫。うち、初回無料の成果報酬払いだから」
タダほど怖いものはない、と心得ているが――記憶のカラー化というのは、正直かなり気になる。
「じゃあ……お願いしてみようかな」
「本当ですか!」
まだ多少の迷いはありつつも恐る恐る返事をすると、男性の顔が驚きに変わった。まさか、こんなに渋っていた客が承諾するとは思わなかったのだろう。
「そ、それでは簡単なアンケートシートをお持ちしますので少々お待ちいただいて……」
どこにしまったっけな……と呟きながら、男性はガタガタと慌てて席を立った。そのあまりに不慣れな様子に、もしや私が初依頼の客なのではと勘ぐってしまう。
手つかずの冷えた緑茶をひと口飲み、ほっと息をつく。ふと時計を見ると、入店してから既に30分は経っていた。
世間一般でいう「大人」になるまで生きていれば、当然数えきれないほど記憶がある。いいことも、悪いことも、同じように頭の隅に積み重なって――色褪せていく。
何の記憶に色を付けたら、私はこの先も前を向けるか。
そう悩む時間は、これまで生きてきた時間と同じ長さ。
――それは、たくさんの想い出がある証。
2024/11/18【たくさんの想い出】
「思い出」と「想い出」
似ているようで少し違うイメージ
『思い』はふと考えたことや感じたことを
そのまま思い浮かべること
『想い』はその思い出に"愛"があること
なので「たくさんの"想い出"」とは
「たくさんの"愛"」を思い浮かべること
《たくさんの思い出💕》
私には、たくさん思い出💕がある。
嬉しい思い出😌🌸💕、悲しい思い出😖💦だって。
でもそれ全てが私👤をかたどっている。
だから、全部を受け入れてこそ、
「私👤」なのだ。
これからも私👤は、思い出💕と共に生きていく。
たくさんの思い出
私の頭の中には、小さな郵便局がある。
錆びた看板に書かれた「記憶郵便局」の文字。窓口の奥では、小さな職員たちが忙しく動き回り、思い出を封筒に収めて、時には手紙に綴り、それらを棚に並べていく。
「幸せ」の棚には、日の光を浴びたような暖かな封筒が並び、「悲しみ」の棚には、しっとりとした湿気を帯びた封筒がある。すべての手紙が、きちんと分類され、私の中で静かに息をしている。
その日もいつも通り、郵便局は仕分け作業が順調に進んでいた。職員たちは慣れた手つきで封筒を開いて、記憶を読み取り、棚の中に整然と振り分けていった。
「今日はこれで最後だな」
ルーキーの職員が、運ばれた本日最後の郵便袋を逆さまにして、封筒の束を出した。勢いよく飛び出したせいで、ひとつの封筒がテーブルから落ちてしまった。
「おっと、いけね。ん、なんだ?これは」
床に落ちた封筒。それは明らかに他のものとは違っていた。端っこが焦げたように煤けて変色している。差出人も書いてない。何より、鼓動のようにわずかな脈動をしている。まるで生き物のようだった。
どうした、どうしたと職員が入れ代わり立ち代わり見にくるが、誰も拾おうとしない。
「おい、ルーキー。お前の担当だろ。お前が処理しろよ」
誰かが声を上げると、そうだ、そうだと職員たちが続いた。
「わ、わかりましたよ。もう」
ルーキーが怯えながら封筒を拾い上げる。手のひらの中でも、封筒の脈動は続いている。
「じゃ、じゃあ開けますよ」
一堂が息をのむ中、一気に封を切った。
「なにも、ない?いや、待て」
耳を澄ますと静かな波の音が聞こえた。封筒の中から流れていた。
繰り返す穏やかな波の音。次第に大きくなる。これだけか?と、職員たちが思った次の瞬間、波が分厚い轟音に変わった。何かがぶつかって崩壊する音。と同時に郵便局全体が鮮明な映像に包まれた。
落ちる看板、崩れ落ちた街。亀裂の入った道路。怪しい黒煙を上げる発電所。それらを見つめる人々。泣きながら、歯を食いしばりながら、瓦礫の中に手を伸ばす人々。
そしてその全てをいつも通り照らす朝日。手を繋ぐ人々の足元に芽吹く、小さな緑の葉。
職員のひとりが口を開いた。
「これは、悲しみの棚に入れるべき、だよな?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なんだよ、ルーキー」
「全体的に悲しいけど、それだけじゃないじゃないですか。なんていうかこう、胸を打つ温かさ、っていうのもありますし」
「じゃあ幸せの棚か?」
いやいや、待てと、そこから局内で白熱の議論が始まった。
1日、2日、3日。1週間。まだ議論は終わらない。通常業務をこなしながら、同時にあの封筒をどこに振り分けるか、時間を見つけては話し合っていた。
結局ひと月、こんな日々が続いた。議論に疲れ果てた職員たちは、あす、最終的に多数決で決めようということになった。
「あした、か」
営業時間が過ぎた静かな郵便局で、ルーキーがひとり、例の封筒の映像を見返していた。
最初に届いた日からほぼ毎日、こんなふうに居残って、言葉もなく見返していた。
「それで?君の結論はでたのかね?」
声に驚いたルーキーが振り返ると、そこには白髪の局長が立っていた。
「あ、おつかれ様です」
「はい、お疲れ様」
局長がコーヒーを手渡した。
「ども、頂きます。いやぁ、実はまだ悩んでます。局長はもう決めましたか?」
「うん。悲しみの棚」
「そうですか。理由は?」
「当時、悲しかったからね。すごく。あの頃の振り分けは、ほとんどが悲しみの棚だった。だからあの封筒を見た時、直感的にわたしの中の振り分けはもう決まっていたよ」
「そうですか……」
「だからって君も同じ考え方をしなければならないってことはないんだよ。君は若いんだから。君は君の考えでいいんだ」
年老いた局長は、やわらかな優しい笑顔でそう言った。
「そう、ですよね。俺は俺のやり方でいいんですよね」
「うん」
「よし、決めました。俺、あしたは俺らしくやります」
ルーキーは力強く答え、コーヒーを一気に飲み干した。
翌日。
慌ただしく集合する職員たち。全員が集まったのを確認し、ベテラン職員が口を開いた。
「えー、では問題の封筒についてですが、さっそく多数決で……」
「はい、はい、ちょっと待ったぁ」
威勢のいい大声が飛び出た。みんなの視線の先に手を挙げたルーキーがいた。
「先輩方にいろいろ気を使わせちゃって、すいませんでした。でもこの封筒、元々は俺の担当なんで、俺が決めます」
そう言うと、ルーキーは周囲のざわめきを無視して歩き出した。
たどり着いた先には、先週、新調したばかりの棚があった。まだ未使用で封筒はひとつもない。
ルーキーはカバンからプレートを取り出し、棚の一番上に釘で打ち付けた。
「新しく棚を作ります。この棚の種類は希望。希望の棚にします」
そう言ったあと、例の封筒を金色のプレートが輝く希望の棚に入れた。
「っていうことなんで、みなさん、よろしくお願いします」
大声で、元気よくお辞儀するルーキー。
束の間の沈黙のあと、郵便局に割れるような拍手が鳴り響いた。
新しい棚に置かれた最初の封筒。くすんでいた部分が、ひっそりと光を帯びた。
スマホのライブラリを眺める。
色んなところに行って色んな景色を見たみたい。
色鮮やかな写真が並ぶ。
誰かの愛しい可愛い写真もあれば
かっこつけてる写真もある。
スクショも混じってて、あの時こんな話したな。とか。
めんだこのグミの写真もあれば
シマエナガのチーズケーキの写真もあって、
これにシマエナガは入っているのか、とか。
食べかけの棒付きチョコの写真が出てきてぎょっとする。
ポ◯ちゃんの顔が舐められてる途中経過。
あれはなかなかホラーなお菓子なの。
上裸のあいつの写真が出てくる。
夏の間あいつは室内では上裸なのだ。
これは人に見られると気まずい。
パンイチでJOJO立ちしてる写真まである。
やべーやつだ。
そしてまた現れるホラーなF家のぺ◯とポ◯。
これから先も楽しい写真が増えるといいな。
「たくさんの想い出」
ふうっとついた溜息が
上へ上へと結晶になる
その様は雪が降る朝の
光にも似ていた虹色の
粒はひらひらと掌の上
ナナカマドの赤い実が
雪の真白を際立たせて
鳥の囀りは讃歌となる
見上げている空は青く
いつも遠くいつも側に
『たくさんの想い出』
あれから3ヶ月。ようやく、父の部屋に着手する気になった。父が肌身離さず持っていた鍵を使って、扉を開けると、久々に、キィという音を聞いた。
中を見た。そのまんまだ。あの頃のまま。私が夕食の呼び出しをして、父が原稿のキリが良くて、すぐに部屋から出てきた時、隙間から見えていた部屋のまんま。
初めて入った。絶対に入るなと言われてきたから。中は古い本の匂いがして、埃っぽかった。
掃除は案外簡単だった。価値のないものは置いてなかったから、私が欲しいものか、古本屋や骨董屋に売るものか、分けるだけで良かった。
だいたい片付けてから、書斎机に取り掛かった。父の背中を思い出して、気が憂うから、最後にしたのだ。原稿の束を持ち上げたら、その下に、厚い革表紙の本があった。
それは、日記だった。
取材旅行と書斎の往復ばかりで、私に全然構ってくれなかった父。母は、父のそういうお堅いところが好きだから良いって、すべてを許していた。私も、そんな母の血を引いているからか、仕事人間の父は格好良いと思っていた。黙々と机に向かうその背中が好きだった。
父とはなんの想い出もなかった。けれども、心のどこかで繋がっていたって、そう信じている。
少し、気が引けるけれど、父のことを知りたくて、日記を開いた。
なにこれ。取材旅行なんて嘘っぱちじゃない。だから、売れなかったんだよ。この薄っぺらい人間性が作品に出てるから、売れなかったんだよ。
大嫌い。
日記の中には、想い出がたくさん詰まっていた。私じゃない娘と、母じゃない妻との、想い出が。
いい想い出も
悪い想い出も
たくさんあった筈なのに
薄れていく
消えていく。
極度に辛かった想い出だけが
鮮明なまま反芻される。
日本語って面白い。
思い出すのも
たくさんな想い出。
(たくさんの想い出)
丘の上は風が強い。髪を靡かせながら、綾瀬は立つ。視線の先には街が見える。これからあそこへ向かうのだ。
振り返ると、残してきた村が見渡せる。通っていた学校、よく通っていた駄菓子屋、幼馴染と駆け回っていた路地、そして好きだったあの子。たくさんの想い出が詰まった村を出て行くのだ。
再び綾瀬は街に向き合う。
折り重なる山の裾野の先を見る。
あの街に、奴はいる。父を、母を、弟を殺したあいつ。
顔は覚えている。あの夜、幼い綾瀬は咄嗟にクローゼットに隠れて助かったのだ。扉の向こうから家族の断末魔が聞こえ、声を殺して泣いた。
あいつは中年の男だった。
父の取引相手で、自宅にもよく来ていた。お土産を持ってきたが、諂うような笑顔が綾瀬はどうにも好きにはなれなかった。
あいつを殺すために、綾瀬は厳しい訓練を重ね、やがては師匠をも凌駕した。最終試験はその師匠を倒すことだった。
風が頬を叩く。感傷はしまいだ。これまでの俺はもういない。
顔を引き締めて丘を下る。まずは麓の情報屋を目指す。
復讐への道が始まった。
お題『たくさんの思い出』
荒れ果てた街のなか、破壊された研究施設に足を踏み入れた。僕のようなアンドロイドは時折充電しないと生きていけず、荒れ果てた街の中なんかは特にそういう場所を探すのに苦労する。それにアンドロイドを破壊する部隊が時折派遣されるから、一箇所にとどまることはできない。
僕はいつものように探知機能で人がいないことを確認してから首にプラグをさす。
いつもは体の中に電流が流れるような感覚がしてから体力を回復するものだが、何を間違えたのか、僕の頭の中に矢継ぎ早に映像が流れてきた。
それは、ある男性との記憶だった。彼は僕を作り、本当の息子のように育ててくれた。だが、戦争が起きて男性は僕を逃がすために、僕が独りでも生きていけるように僕と彼の記憶をリセットしたのだ。
最後の映像。僕が泣きわめきながら『とうさん』をなぐって、でも『とうさん』は「幸せになれ」と言いながら僕の思い出を消したんだ。目覚めた場所はここからずっとはなれた違う場所だった。
映像が止まって僕は目から涙をこぼした。とうさんはあの時もうすでに七十を過ぎていて、あれから五十年の月日が経っている。もう生きては居ないだろう。
僕は涙を拭いてしばらくたくさんの思い出が詰まったメモリに浸ることにした。
この思い出は赤のクレヨン。こっちの思い出は水色のクレヨン。子どもの頃からそうやってノートに思い出を書き分けていたら、だんだん、印象に残りそうな場面でこれは何色だなってわかるようになった。
友達といる時はオレンジ色、試験前は群青色、体育の時は黄緑色、歌っている時はピンク色。
美術の授業で色彩を勉強したら、どうやら楽しい時に暖色系に、悲しい時に寒色系に感じるみたいだ。
高校生になると、その感覚がどんどんエスカレートしていった。起きている間ずっと、感情が色になって見えるようになった。視界に色が付くわけじゃない。脳を色が覆うような感覚。たぶん共感覚みたいなことだ。別に不便なわけじゃないし、特殊能力を持った感じで嬉しかった。
でも初対面の人に出会った時は、変な先入観を持ってしまうこともある。ぱっと見で明るい感覚になれば、たぶん友達になるし、暗い色になれば、たぶん仲良くなれない。
上京して大学に入ってすぐ、サークルで出会った先輩は、ちょっと気味が悪かった。会った瞬間、視界でわかるほど目の前が真っ白になった。
この感情だけはわからない。これからどうなるのか、その人に何をされるのかわからない恐怖があった。東京にはまだ私の知らない感情があるのか…なんて詩的なことを思ったりもした。
私はちょっとその先輩を避けるように過ごしていたが、飲み会とかで話すことがあると何故か趣味が近くて、好きなバンドの話で盛り上がった。そんな時は頭にオレンジやピンクが薄く差した。
大学2年の年末、実家に帰省した。思い立って子どもの頃に書いていた思い出ノートを探した。それは子ども部屋の押入れの中にあった。
カラフルなたくさんの思い出の中に、私は白を探した。そしてある一文が目に留まった。
「きょうはちかちゃんと しょうらいのゆめ をはなした」
5歳ぐらいか?全部ひらがなの文章をゆっくりと読み進める。
「ちかちゃんは あいどる になるってゆった」
アイドルはやはりピンク色で書かれている。
「わたしは しょうらい をきたいってゆった」
ん? なんで書いてないんだ? 違う。よく見ると、そこに白い文字が書かれている。これだ。先輩の謎は私の将来の夢に関わっていたんだ。
じっくりと目を凝らす。心臓が高鳴る。脳は緊張の黄色で脈打っている。
「わたしは しょうらい ウエディングドレス をきたい…」
ウエディングドレスを着たい。子どもの夢としてはあってる。いわゆる「お嫁さんになりたい」という夢だ。つまり先輩は私の…運命の人?
大学を出るまで、私と先輩が付き合うことはなかった。なぜって、先輩は一緒にライブに行った私の同期とくっついたからだ。
そして大学を出ると…
先輩は就職してウエディングプランナーになった。
時を止める。
動画で昔を懐かしむ。
乳児と幼児だったあなたたちに涙する。
そこには幸せが溢れていた。
夢中に私を見つめて笑うあなたたちが、ただただ愛しい。
確かにそこにあった世界を忘れてゆく。
小説
迅嵐
「…もういい」
小さく、泣きそうな声でそう言った嵐山は、おれに背を向けて隊室を出て行ってしまった。
「……やっちまった…」
おれは壁に背を預け、ズルズルと座り込む。
事の発端は、数十分前に遡る。
「…勉強会?」
耳に入ってきた言葉をオウムのように返す。
「あぁ、同じ講義を取ってるメンバーで一緒に勉強しようかと思って」
嵐山の未来を視ると、そこに同性はおらず、可愛い女の子達しかいなかった。勉強会と言われなければ、合コンに見えなくもない。男嵐山しかいないけど。
「えぇ…女の子しかいないよ」
「…それでも誘ってくれたし…」
曖昧な返事を返す嵐山に少し苛立つ。恋人がいるのに、可愛い女の子達の中に飛び込むというのか。
「行くの?」
「そりゃあ…まぁ…」
「ふぅん、いいんじゃない?」
顔に出さないように務めて冷静に返した。つもりだった。けれど嵐山にはお見通しだったらしい。
「拗ねるなよ、勉強するだけだ」
「勉強する何も、可愛い女の子に囲まれてたらそりゃ嬉しいよね」
「…何を言ってるんだ迅」
「その女の子たち、勉強目的なんかじゃないよ。嵐山だけ見てる」
「そんな事ない」
「そんな事あるよ。逆になんでないって言い切れるの」
「…迅、話を聞いてくれ」
「何を聞くって言うのさ。嵐山も可愛い女の子の方がいいって話?」
「迅!!!」
大きな声で呼ばれ、おれは肩を震わせる。
いつ間にか下を向いていた視線を上に戻し、息を飲む。
眉間に皺を寄せ、眉尻を下げ、潤んだエメラルド色の瞳は今にも零れ落ちそうだった。
「…もういい」
ここで冒頭に戻る。
今回は全面的におれが悪かった。なんて謝ろう。そもそも謝って許してもらえる事なのか?…別れることになるのか?未来が多すぎて視えづらい。
嵐山は女の子の方がいいなんて、思わないし言わない。それはずっと知っていたことだったのに。
多分、おれは怖いんだ。同性で、仲間で、親友なのに。好きになって、付き合えて、一緒にいてくれる嵐山が居なくなることが怖い。
頭の中は未来と今と思い出が重なり合い、ぐちゃぐちゃになっていた。
『約束だ』
ふと、たくさんの思い出の中から、嵐山の声が聞こえた気がした。
「約束…?なんだっけ………あっ」
記憶を手繰り寄せると、嵐山と付き合いだした頃に小さな約束した事を思い出した。
『もしも俺達が喧嘩してしまったら、仲直りは家に帰ってからしよう。基地に居る時は、きっと仕事モードが抜けなくてお互い意地を張ってしまう。だから家に帰ってから。家にいる時は、一旦外に出てから仲直りだ』
そう言っておれと嵐山は指切りげんまんをした。命令でも契約でもない、ただの口約束されど約束。
おれはこの後任務が入らないことを視ると、嵐山が出ていったドアから部屋を飛び出した。
君とのたくさんの想い出
忘れたくない沢山のこと
君も覚えててくれるかな
いつまで覚えていられるだろう
私はいつまでも忘れたくないよ
─────『たくさんの想い出』
生きてりゃぁいろんなことがある
だけど
想い出というものになると
どれだけのものが残ってるだろう
何か強く感じたことがそれではなく
どちらかといえば、
淡く優しく
本当に何気ないものだったりする。
鮮明で
自分の身に起きた経験の中でも、
思い出すと笑ってしまったり
優しさのあまり泣き出してしまいたくなる
ソレが想い出だろう。
それらに強い感情は送付されず
もし、負の感情が呼び起こされたら
記憶の中の落とし穴の悲しさを埋めるものだ。
たくさん想い出は
生きてきた時間に比例せず
同時に、そんなにないと
思っても案外想像以上の量であることも
想い出だ
たくさんの想い出…
オレは後ろは振りむかねぇっっ!!!
たくさんの思い出。悪いことの方が覚えてるけど、それも全部思い出だよねと思うしかできない