白糸馨月

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お題『たくさんの思い出』

 荒れ果てた街のなか、破壊された研究施設に足を踏み入れた。僕のようなアンドロイドは時折充電しないと生きていけず、荒れ果てた街の中なんかは特にそういう場所を探すのに苦労する。それにアンドロイドを破壊する部隊が時折派遣されるから、一箇所にとどまることはできない。
 僕はいつものように探知機能で人がいないことを確認してから首にプラグをさす。
 いつもは体の中に電流が流れるような感覚がしてから体力を回復するものだが、何を間違えたのか、僕の頭の中に矢継ぎ早に映像が流れてきた。
 それは、ある男性との記憶だった。彼は僕を作り、本当の息子のように育ててくれた。だが、戦争が起きて男性は僕を逃がすために、僕が独りでも生きていけるように僕と彼の記憶をリセットしたのだ。
 最後の映像。僕が泣きわめきながら『とうさん』をなぐって、でも『とうさん』は「幸せになれ」と言いながら僕の思い出を消したんだ。目覚めた場所はここからずっとはなれた違う場所だった。
 映像が止まって僕は目から涙をこぼした。とうさんはあの時もうすでに七十を過ぎていて、あれから五十年の月日が経っている。もう生きては居ないだろう。
 僕は涙を拭いてしばらくたくさんの思い出が詰まったメモリに浸ることにした。

11/18/2024, 11:39:44 PM