愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐



「…もういい」

小さく、泣きそうな声でそう言った嵐山は、おれに背を向けて隊室を出て行ってしまった。

「……やっちまった…」

おれは壁に背を預け、ズルズルと座り込む。


事の発端は、数十分前に遡る。


「…勉強会?」

耳に入ってきた言葉をオウムのように返す。

「あぁ、同じ講義を取ってるメンバーで一緒に勉強しようかと思って」

嵐山の未来を視ると、そこに同性はおらず、可愛い女の子達しかいなかった。勉強会と言われなければ、合コンに見えなくもない。男嵐山しかいないけど。

「えぇ…女の子しかいないよ」

「…それでも誘ってくれたし…」

曖昧な返事を返す嵐山に少し苛立つ。恋人がいるのに、可愛い女の子達の中に飛び込むというのか。

「行くの?」

「そりゃあ…まぁ…」

「ふぅん、いいんじゃない?」

顔に出さないように務めて冷静に返した。つもりだった。けれど嵐山にはお見通しだったらしい。

「拗ねるなよ、勉強するだけだ」

「勉強する何も、可愛い女の子に囲まれてたらそりゃ嬉しいよね」

「…何を言ってるんだ迅」

「その女の子たち、勉強目的なんかじゃないよ。嵐山だけ見てる」

「そんな事ない」

「そんな事あるよ。逆になんでないって言い切れるの」

「…迅、話を聞いてくれ」

「何を聞くって言うのさ。嵐山も可愛い女の子の方がいいって話?」

「迅!!!」

大きな声で呼ばれ、おれは肩を震わせる。
いつ間にか下を向いていた視線を上に戻し、息を飲む。

眉間に皺を寄せ、眉尻を下げ、潤んだエメラルド色の瞳は今にも零れ落ちそうだった。

「…もういい」


ここで冒頭に戻る。


今回は全面的におれが悪かった。なんて謝ろう。そもそも謝って許してもらえる事なのか?…別れることになるのか?未来が多すぎて視えづらい。
嵐山は女の子の方がいいなんて、思わないし言わない。それはずっと知っていたことだったのに。

多分、おれは怖いんだ。同性で、仲間で、親友なのに。好きになって、付き合えて、一緒にいてくれる嵐山が居なくなることが怖い。

頭の中は未来と今と思い出が重なり合い、ぐちゃぐちゃになっていた。

『約束だ』

ふと、たくさんの思い出の中から、嵐山の声が聞こえた気がした。

「約束…?なんだっけ………あっ」

記憶を手繰り寄せると、嵐山と付き合いだした頃に小さな約束した事を思い出した。

『もしも俺達が喧嘩してしまったら、仲直りは家に帰ってからしよう。基地に居る時は、きっと仕事モードが抜けなくてお互い意地を張ってしまう。だから家に帰ってから。家にいる時は、一旦外に出てから仲直りだ』

そう言っておれと嵐山は指切りげんまんをした。命令でも契約でもない、ただの口約束されど約束。

おれはこの後任務が入らないことを視ると、嵐山が出ていったドアから部屋を飛び出した。

11/18/2024, 11:13:44 PM