『さよならを言う前に』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
"さよならを言う前に"
駅に電車が到着する事を知らせるアナウンスが響き渡る。まもなく電車が来る。身を引き締めて、皆に向き直る。
止めろよ…、そんな顔されたら……こっちだって辛いだろうが………。
鼻の付け根が、ツンッと痛くなるが、グッと堪えて言葉を紡ぐ。
「皆、改めて言わせてくれ。…短い間、沢山迷惑かけた。何度謝っても謝りきれない…。けど、それ以上に…短い間だったけど、楽しかった。皆と過ごして、あんなに笑ったり、がむしゃらになったりしたの、いつぶりだろ…。誰かと一緒にいて、こんなに楽しいって思ったのも、いつぶりだろ?何度楽しかったって言っても伝えきれない位、本当に楽しかった。…本当に、ありがとう」
全部は伝え切れてないけど、今伝えたい事を言い切って皆の顔を見る。出会った時からずっと、1番見てきた表情が浮かんでいた。
電車が到着し、ドアが開く。皆に背を向けて電車に乗り込む。
こんなに人との別れが辛いって思ったのも、久しぶりだな…。
また鼻の付け根が痛む。
まだダメだ、泣くのは…まだ。大人の俺がこんなんじゃダメだろ。ちゃんと笑顔で別れなきゃ。
身を翻して、皆に向き直る。鼻をすする音が聞こえる。
止めろよ、バカ……。
「さよなら。……ううん、またね」
そう言うと、皆がまた笑顔になって力強く頷いた。
さよならを言う前に、もっと他に言わなければいけないことがあった気がする。言い忘れていたことがたくさんあったようにも思える。何だったっけ。
ありがとう、こめんなさい、大好きだよ、とか。
今なら照れ臭いことも言えてしまう気がするのに、口がまともに動いてくれない。
ああ、泣かないで、って言いたいなあ。手を動かして、頬に伝うその涙を拭ってあげられたらなあ。
震えた手が、動かなくなったわたしの手に触れる。温もりがとても優しくて気持ちがよくて、身体に残ったわずかな力も浄化されていくような、そんな気になる。
「死なないで。」
泣いている。お母さんが泣いている。わたしを愛してくれたお母さんが泣いている。
最後の力をさよならの四文字に込めるのは間違いだったかもしれない。
お母さんが泣いているのに、わたしは何もできないまま、瞼を下ろした。
さよならを言う前に
さようなら。バイバイ
そう言って君は引っ越した
あれから何年も経った今でも思い出せる
君の声。君の笑顔。君の姿。
昨日のように思い出せる
いつかまた会えるのかな
会いたいな
もし君に会ったら久し振りって笑顔で迎えるんだ
そして今度は"さよなら"じゃなくて"またね"で終わらせたい
沢山の後悔がある
もっと話しをすればよかった
もっと手伝えばよかった
もっと早く気づけばよかった
こんなに早く別れが来るとは
誰が想像できただろうか
さよならを言う前に
ありがとうを伝えたかった
もしまた巡り会えたら
今度は私が幸せにしてあげる
早々と大学が決まった。
念願の志望校に合格決まった時は泣くほど嬉しかった。
新生活も楽しみ。
生まれて初めての一人暮らしも楽しみ。
都会へ行くのは不安半分楽しみ半分。
合格が決まるまでは明るい未来ばかりに目がいっていたけれど、決まって落ち着いたら色々なものと別れる事に気がついた。
両親。とは別れじゃないけど、もう朝起こされたり小さなお小言もいわれなくなる。
慣れ親しんだご近所さん。朝、いつも挨拶するおばあちゃんにも会わなくなる。
友達とも、今みたいに毎日会えるわけじゃない。
彼氏とは遠距離の予定だった。
よくよく考えてみると、会いたい時に会えないで縛りつけ合うだけの関係は、若者としていかがなものか?
縁が続いていつか結婚したとして、他の誰とも付き合わずに結婚したら後悔しないだろうか。
だから、最近別れようと切り出すタイミングを探している。
別に嫌いなわけじゃないし、好きが大きいから会うとなかなか言い出せない。
だからと言って、高校生活の大半を彼氏彼女として過ごしてきたのに、LINEや電話で別れるのも違う気がする。
彼からは、「離れても会いに行くから」とか言われちゃって、嬉しいやら切ないやらモヤモヤ。
人より早く決まった大学合格。
さよならを言う前に、たくさんの人とさよならする覚悟をしなければならないなぁ。
②
死のうと決めた。
今から死のう。
刃物や薬や死ぬ方法のイロハは調べ尽くした。
飛ぶ鳥跡を濁さず。
部屋を片付ける。
整理する。
やりだすと止まらない片付け。
いっそ、居なかった事にしたいと、手当たり次第にゴミ袋に突っ込んでいく。
部屋の隅にゴミ袋が積まれていく。
死ぬって決めて、どうでもいいはずなのに、資源ごみとキチンと分けたりしちゃう。
燃えるゴミ、燃えないゴミ…
家具の中は空っぽになった。
凄く汗をかいたからシャワーを浴びる。
シャンプーリンスを捨てたから、水浴びみたい。
汗臭い服で体を拭いて、燃えるゴミに突っ込んだ洗濯済みの服に着替える。
さぁ!死ぬぞって思った頃、朝日が登った。
今日は燃えないゴミの日で、今日を逃すと二週間は捨てられない。
燃えないゴミを捨ててから死のう。
ゴミ出しを終えていざ!
ちょっと待って。
親族とかが死んだ私の部屋に来るかもしれない。
メモをしよう。
死んだと報告してほしい人リストを作る。
そのためにゴミ袋から鉛筆やらメモやらを取り出す。
私は一体何をしているんだ。
メモをぐちゃぐちゃに丸めてまたゴミ袋に突っ込む。
さて、何もない部屋でどう死のう。
困った。
勢いで刃物は捨てた。
薬もゴミ袋の中。
紐…紐で首を!
山のようなゴミ袋から紐になりそうな物…
いや、面倒だ。
紐、コンビニで買おう。
一番上のゴミ袋に突っ込んだ財布を取り出して、外に出る。
最後の晩餐だ!とばかりに大好きなご飯屋さんでお昼ご飯を食べよう。
ご飯を食べていると、私、何してるんだろう?
と馬鹿馬鹿しくなった。
死のうと決めてから、全然死ぬ気になれてない。
さよならって言える人でもいたら違うのかも。
仕事を辞めてお金がなくなり、親にも頼れず友達もいない。
私が生きていようが、死のうが、誰も何も思わない。
せめて『さよなら』が言える人。
死ぬ前に『さよなら』って誰かに知らせたい。
自己顕示欲?
今、この世にさよならを言う前に、誰か私のさよならを聞いてくれませんか?
便所掃除をしてるおばちゃんに聞いてみた。
ロックンロールって、知ってるかい?
おばちゃんは、困ったように首を傾け、言った。
「でも、アンタは優しそうな顔してるね」
おばちゃんは続けた。
「ダンナは早くに死んだ。アタシゃ、一人息子を大学にやるため……そのために、ここの汚ない便所を綺麗にしてるんだよ」
返事に困ったので黙っていると、おばちゃんはさらに、ひとりごちた。
「こないだなんかね。便器の周りいっぱいにウンコ! おまけに、クソまみれのパンツも捨てられてたさ」
「ホントに、酷い話だよ。恥ずかしくないのかね? 」
「だけどアンタ。人として、こんな事が許されるかい? きっと、すごくマトモな生活をして、他の誰からもマトモな人間として受け入れられて暮らしてんだよ! 」
深いため息を吐いてから、おばちゃんは言った。
「便所掃除をしてるアタシより、まともな人がさ! 」
ロックンロールって、知ってるかい?
--おばちゃんに聞く前に、彼女は次の便所掃除に向かった。
おばちゃん。
せめて
ありがとう、さようなら。くらいは言いたかった。
それを言う前に彼女は、
言いたい事だけ言って、
自分の仕事を遂行した。
--皆さん、
ロックンロールって、知ってるかい?
話せた日は嬉しい
このままでいたいと願ってしまう
どこか遠くに行ったとしても
一緒に居られなくても…
大好きだったよ
2人で並んで歩く道も
さよならを言う前に
この気持ちを伝えよう
【さよならを言う前に】
『さよならを言う前に、一つだけ言わせて』
深夜、貴方が私を抱いたあとに淡々と話し始めた
何を言われるのか緊張はしたけれど、貴方が言うことに今まで一度も間違いがなかったから安心できた
『無理やり唇を奪ったこと、意味もないのに好きを言ったこと』
うん、分かった
『適当に連絡して、適当にセックスして、適当に慰めて、適当に好きって言ったこと』
分かったよ、もう分かったから
『全部全部嘘だったこと』
そうだよね分かってたんだよ
だから分からないフリをした
『でもさ、』
彼が口を開く
『騙された君が悪いんだよ』
『また慰めてあげるよ』
『だからさ、』
『明日も会おう』
あぁ、なんだ
そんなことか
さよならと言ったら、もう会えなくなるような気がした。
もう君に会えなくなような気がした。
だから僕は、彼が「さような」と言う前に、
「またね」
君の背中に向けて、そう呟いた。
#さよならを言う前に
ロスタイム
差し込んでくる鮮やかな紫
太陽はもう見えない
今日と明日の狭間に掛かるベールは
後戻りができない事を
そして
今ならまだ間に合うと言う事を
伝えている
※空模様
※さよならを言う前に
108
「おはよう。」
少し眠そうな声で
「ねぇねぇ。」
好奇の目をこっちに向けて
「ばいばい!」
少し寂しそうに手を振る
そんな君が好きだった。
いかにも冷たくなった君の顔を見て、少し拍子抜けした。
「そんな顔で、寝るやつだっけ、お前。」
学校で居眠りする君の顔は、ヨダレが垂れそうでどこか春にうかされたような顔だった。
「そんなふうに寝なかったじゃん、前まで。」
信じる方が酷な事って、あるんだな。
さよならを言う前に、君に気持ちを伝えておくべきだった。
題:さよならを言う前に
「ねぇ、ほんとにもうさよならなの?」
『うん。』
「さようならって言う前にさ、なんかやっと来たいこととかしたい事とかないわけ?」
『あー、
さよならを言う前に
洗濯物を干しておきたい
さよならを言う前に
洗い物をしておきたい
さよならを言う前に
限定コスメを買っておきたい
さよならを言う前に
ディズニーランドに行っておきたい
さよならを言う前に…』
「あのさ、まだあるの?」
『うん。まだあるよ、たくさん』
「そっかぁ。じゃ、さよならはまた今度ね」
『え?』
「こっち見て」
『ん?』
「【また明日】」
『……うん。【また明日】』
「さよなら」
その言葉を聞いた瞬間、頭に浮かんだ言葉は
「違うだろ」だった
浮かんだと同時に叫んでいた。
驚いた顔をしていたけれど最後は笑って
「そうだね」と言った
そして、あなたは━━━。
【さよならを言う前に】
#1 妄想家
さよならを言う前に
彼がここを去ると言ったのは、あまりにも突然のことだった。いつも通り彼と遊んで、たまにはちょっと冒険して。そんな普通がずっと続くと思っていた。
「じゃあ、そろそろ……」
そう切り出した彼の表情は、相変わらずわからなかった。真っ白いのっぺらぼうの仮面をして、自分の事を何も悟らせない人だった。私は彼の手を握る。
「待って。少しだけ、もう少しだけ、話してちゃダメ?」
胸が詰まって、言葉が詰まる。楽しかった、とかありがとう、とかの月並みな言葉しか出てこなかった。
それでも優しく頷いて、彼は耳を傾けてくれた。
こんなに別れが惜しくなるなんて、思いもしなかった。一緒に過ごしたのはたったのひと月なのに。
とうとう言葉が出てこなくなって、手を握ったまま俯いていると、
「大丈夫。そんなに心配しなくても約束するよ。俺は帰ってくる。いつかの春、またここを訪れる。」
「本当に……?」
私はとうとう泣き出してしまっていた。彼は私を安心させるように、手を握り返してくれた。
手を離して、彼を見送る。
「それじゃ、さよなら。また会おう。」
「うん、さようなら……!」
さよならを言う前に気づいた恋は、ひどく苦しいものだった。それでいい。もう少しだけ、この気持ちを背負っていたい。
卒業式の後、少しでいいので時間もらえますか?
って聞いたらあなたは笑顔でOKしてくれたよね。
私が伝えたいこと絶対に分かってないでしょ。
ねぇ、私のことどう思ってるの?
恋愛対象ではないことだけは分かってる。
あなたに恋人がいるのかは分からないまま。
恋人がいるのならまだ諦められたかもしれない。
私の気持ちを伝えないまま終わるのは嫌だ。
あなたに引かれるかもしれないのは分かってる。
それでもいいの。
あなたのことを諦めようと思って
いろいろ努力したんだよ?
彼氏を作ったり、
あなたの悪いところを頑張って探してみたり。
でもダメだった。
だから決めたの。
もう会うこともなくなるし、自分の気持ちを
整理するためにも、卒業式に告白しようって。
伝えたいことはたくさんある。
でもね、伝えきるには時間が足りない。
今まで本当にありがとうございました。
私はずっと先生のことが大好きでした。
迷惑かもしれないけど、絶対伝えたかったんです。
さようなら。
それを伝えるだけで私は精一杯だった。
あなたの前では最後まで笑顔でいたかったら。
あなたの前を去ってから、
涙が枯れるんじゃないかってぐらい泣いた。
同性で、あなたは先生で私は生徒で。
絶対叶わないって分かってても、
私は諦められなかった。
先生、世界で1番大好きです。
#さよならを言う前に
君にさよならを言う前に
心の準備がいくつも必要だった
一緒に歌を歌ったこと
並んで歩いたこと
何気ない話で時間が過ぎていったこと
いつでも思い出して寂しさを誤魔化せるように
言いたくない、さよならはまだしたくない
それでも君は去っていく
だから後悔しないように
精一杯の笑顔で、さよならを君に
(さよならを言う前に)
さよならを言う前に
してた約束、全部やってから…
って、本当は言いたかった
その約束全部はたしたら、さよならはせずに済んだから
ひとつだけ言わせておくれ
さよならは終わりではない
明日に繋がるのだ
#さよならを言う前に
わたしの夢は、マークスとタピオカを飲みに行くこと。
え?もうちょいあるだろって?やだ、わたしにはこれでいいの。
(だってわたしは、一週間後に起きる大事件、平和ボケしてるアクシーとの戦いで死ぬから。)
「…マー、クス…」
わたしが視た未来の通りの末。わたしは震えながらでも声を絞り出した。
「タピオカ…、いっしょ、に…のみっ」
パンッ
彼女が撃たれた。鋭い音が鳴った。俺は棒立ちしたまんま。
早くしないと、動かなければ、と思考が急いだ。
眼の前の俺を睨む男。
俺は思考するのをやめた。
狼らしく、人間らしく。
「うああ"あああ!!」
_2023.8.20「さよならを言う前に」
お前を殺す。
さよならを言う前に
少年と村のお狐様のお話。
「僕ね、余命があと一ヶ月なんだ」
「は‥?」
僕が笑ってそう言えば目の前の彼は心底信じられないような顔をしていた。そよ風が僕らの間を通り抜け落ちた葉っぱを乗せて彼方遠くまで吹いていった。
去年の夏休みの間、僕は母の実家に泊まりに行った。何度か行ったことはあるが、都会暮らしの自分にとって田舎は世界観がガラリと変わり、見慣れないものばかりでワクワクしていた。そこの近くの人気のない神社で僕と彼は出会った。
月のように綺麗な長い髪に、それに似合うフワフワの耳と尻尾。澄んだ海の瞳を持つその人はとても美しかった。
彼はこの町を守る"お狐様"らしくずっとこの神社から離れていないのだそう。確かに人間とは思えないくらいの綺麗な顔立ちで、思わずぼんやりと見惚れてしまうほどだ。
僕は暇な時はその神社に行って彼と話していた。彼は最初警戒していたが、次第に心を開いてくれて一週間もすればすっかり仲良くなった。
夏休みが終わる頃、東京に帰る前に僕は例の神社に向かう。僕が帰らなくちゃいけないと言うと、彼は驚いたような顔をしていた。そしてすぐに悲しそうな表情を浮かべた。
「そうか‥」
視線をずらして言う彼に僕は心が苦しくなった。
「でも、来年の夏! ここに来るから!! また君に会いに行くよ!」
だから、一人じゃないよ。僕がそう言うと彼は目を見開きクスリと笑った。
「お前はいつも元気だなぁ。いつか、本当に遠くに行くんじゃないかと心配になるよ」
「そんな事ないよ! 僕ね、大人になったら此処に住もうと思って考えてるんだ。そしたら、いつでも会えるでしょ?」
「そうかそうか。それは頼もしいな。クフフ‥約束だぞ?」
「うん、約束!」
◇
目の前に居る痩せ細った人間は俺の顔を見て力のない笑みを見せた。一年前に出会った時とは全く違い、あの朗らかな雰囲気が今ではススキのように欠けてしまっている。
余命が一ヶ月?
最初、彼の言っている意味が分からず困惑してしまった。すると彼は「あのね」と小さな声を漏らした。
「帰ったあと、体調が悪くなっちゃってね。‥‥‥最初は風邪を拗らせたのかなって思ったんだけど一向に治らなくて。それで病院に行ったら、不治の病だったんだって」
「‥‥」
「不思議なんだよね。あと、一ヶ月で死ぬって言うのにどうしてこんなにピンピンしてるのかなって。それで思ったの」
一拍置いて彼は言った。
「きっと君との最後のお別れの時間を神様が残してくれたんだって」
あぁ、嘘だ。嘘だろう?
嘘だと言ってくれよ。
どうして、彼がこんな目に‥!
「泣かないで‥。でも、ごめんね。ずっと一緒にいるって、もう君を一人にしないって約束したのに‥‥」
ゲホッゲホッ。
彼が激しく咳き込み始める。
元気だなんて嘘じゃないか。
彼を怒ってやりたい気持ちと心配が重なり言葉に詰まる。俺はどうする事も出来ず、ただ、彼の細い背中を優しく摩る。前までは程よい肉付きの体格だったのが今では別人へと痩せ、華奢とは言えないくらい寂しい背中だ。
「‥‥ありがとう。君は、優しいね」
「なぁ、ナツカ。俺を一人にしないでくれ‥。俺は、お前を失ったら、一体どうしたら‥‥」
彼—ナツカは「ふふ」と微かに微笑んだ。
「でも心配しないで。君は一人じゃないよ。僕のお婆ちゃんや近所のおじさんとか言ってたよ。君のこと。『この町には、心優しいお狐様が見守ってるんだよ』って。僕、その話を聞いてこの神社に来たの。そしたら、君に会えた」
「ナツカ‥‥」
「僕は君に会えて良かったよ。短い間だったけれど、もっと早く君に会えてたら良かったのにな‥‥」
オレンジ色の空がナツカを照らす。日が暮れ、鴉の鳴き声が響き渡る。茶色く透き通ったナツカの髪の毛は橙色に染まりかけ不意にも綺麗だと思ってしまった。ナツカはふわりと笑った。
「君は‥いつ見ても美しいね。夕焼けに見る君は更に綺麗だなぁ」
「‥‥‥」
「いつか、生まれ変わったら会いに行くね。必ず‥絶対‥」
そう言ってナツカは俺の髪を優しく撫でた。
保証のない約束をしても意味がないと言うのに、俺はどうしてここまでになっても信じようとするのだろう。
でも、確かにあったのは、
信じたかったと言う最後の願いだけだった。
「じゃあ、また、明日来るね」
「あぁ。此処ら辺は夏でも夜は冷える、暖かくして寝ろよ」
「うん。君が言うならそうだね。じゃあ」
「さようなら」
ナツカはそう言ってゆっくり神社の階段を降りていく。俺は彼の背中が小さくなるまで後ろから見ていた。
「さようなら‥‥。ナツカ」
また明日、会おうな。
でも、この夏が終わってしまえば。
そしていつか、本当の本当に—————。