『この場所で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
誰かが死んだのかもしれない
誰かがシャッターをきったのかもしれない
誰かが景色を眺めたのかもしれない
誰かがいらないものを捨てたのかもしれない
誰かが 誰かが
この場所で
誰かと向き合い 生きたのだろう
#この場所で
Prr。Prr。
昔ながらの黒電話が着信音と共に机を揺らして、職員に伝える。
職員は慣れた様子で受話器を手に取り、受話器の向こう側の人間を想像して笑顔で応対を始めた。
「はい、こちら”ま〜だホテル“予約受け付けセンターです。宿泊のご予約ですか。」
「はい、場所は日本海の孤島の洋館を十名様で貸し切りですね。」
「はい、ええ。確かにその日時だと、次の日から三日三晩は天候が荒れますね。えっ、どれぐらい。そうですね……、海上保安庁でもヘリは出せないくらいですね。」
職員は目の前の開かれたパソコンから、予約日時等を入力しつつ天気予報を確認した。
「はい、はい。以上でご予約は完了です。あっ補足事項として、当ホテルではアメニティグッズとして穴あけドリルに万能ノコギリ弛まない長いロープの入った工具箱と縫合用の針に注射器が入った本格治療キットが洋館内に設置しているので、ご自由にお使いください。」
「えっ、至れり尽くせりで凄いです?。お褒め頂きありがとうございます。当ホテルでは予約者様達が気がねなく過ごして頂けるように、日々研究と改善をモットーとしております。」
「はい。では、またのご利用お待ちしております。」
職員は受話器を黒電話へ戻した。そして、祈るのだ。
どうか、探偵がいませんように。と。
《この場所で》
【この場所で】
いつもの場所集合ね
私達にとって(いつもの場所)という言葉は合言葉のようなものだった
いつもの場所という言葉は特別だった
当たり前の場所
いつもここから始まっていた
何をするにもここから
私はこの場所がとても大切で思い出がたくさん詰まった場所だった
ある時いつもの場所は私にとって辛い場所へと変わった
親友が死んだ
私を庇って私の目の前で私のせいで死んだ
私が人にぶつかられ駅から線路に落ちた
落ちそうになって親友がかばった
次に親友を見たときには
親友と言われてもわからないほどぐちゃぐちゃだった
そして親友の首から上が私の目の前に落ちてきた
わたしは思わず蹴飛ばしてしまった
最悪だった
その日からいつもの場所に行くとその光景が浮かんでくる
わたしはその場所に行けなくなった
親友のお母さんがあるとき家にやってきた
親友の日記を渡して帰っていった
親友を蹴ってしまったことをまだ怒っているのだろう
当然だ
日記を見るとそこには私のことがたくさん書かれていた
この場所で親友を待っているときが一番楽しいと
待っている間こんな事もあったなとかあんな事やったなと思い出すのが楽しいと
私は泣いた
私はその親友の親友との思い出を忘れようとしていた
忘れられないのに無理やり忘れようとしていた
親友が死んでから一度も行っていない二人だけの秘密基地
いつもの場所に行くことにした
そこには親友からの手紙があった
そこには引っ越すこと楽しかった思い出すべてが書かれていた
私は引っ越すことを知らなかった
最後まで隠し事の多い親友だったけど私は親友が大好きだ
正直死のうと思っていた
でも親友の分まで生きることを決めた
そういつもここから始まるこの場所で
名前を呼ばれるまでずっと、
私はこの場所で待たなければならない。
広い部屋のなか、たった一人で。
聞こえるのは自分の息遣いと、時計の秒針。
それから、時折廊下から聞こえる人の声。
予定の時刻まであと10分。
《―――ああ、早く面接から開放されてぇ…》
心のなかでぼやきながら、私はテーブルにぐでーっとと突っ伏した。
この場所で
この場所がいつも貴方の定位置だったね
この場所で お茶を飲み
この場所で テレビを見て
この場所で 日向ぼっこをして
いつも私や 家族の事を見守ってくれたね
大好きだった おじいちゃん
今も もちろん大好きだよ!
おじいちゃんがいつも座っていた席
おじいちゃんがいつも座っていた 椅子の
方を見ると 今もおじいちゃんが優しい
笑顔を浮かべて 温かく手を振っている
姿が目に浮かぶよ
これからも 私やひ孫達を変わらない
眼差しで見ていてね!
天国に先に旅立った
おばあちゃんとこれからも仲の良い夫婦で
いてね!
二人ともずっと変わらず大好きだよ!
これからもずっと
そう想いを込めて私は、二人の遺影の
写真が並んでいる仏壇に花を添えた。...。
この場所で
ここで もういっかい あえたらいいな
いまは どこに いるか わからないけど
きみは いつも ぼくより さきをいっていて
のろまな ぼくは きみを すぐに ふりかえらせる
でも いっかいだけ おいつけたんだ
つかみどころの ない きみに
やっぱり きみの うしろを ついていかないと
おいつけないし みうしなっちゃう
だから またきみに あいたくなったら
まえみたいに きみのあとを おえばいいんだね
じゃあ きみがさいごに していたことを
おぼえてるかぎり そのままで
きみのすきな でんしゃのおと
きみとよく あるいてたふみきり
いっしょうにいちど を いま ここで
この場所でしていること
これでいいのだろうか
なんのためにしているのか
時々答えが欲しくなるけれど
結局今できることは
今をひたむきに生きること
それができていれば
それでいい
呆気ないもんだな。
俺、今年で44歳だ。
後、倍生きれるかわかんないし、
生きていても色々しんどいだろうな。
勉強だってそこそこ頑張った。
普通よりもいい大学に入った。
顔だって悪くなかった。
性格だって良かった、嫌な事も引き受けてクラス委員もやった。
だけど、いまいちパッとしなかった。
彼女がいたこともあった。
でも、結婚はしなかった。
就職氷河期ってやつで100社受けても1、2社しか内定もらえなかった。
いわいるバイト生活、俺じゃ無くてもいい、誰でもできる仕事だ。
いつクビを切られるかなんかわからない。
でも、この場所で這いつくばりながらも生きていくしかないんだ。
誰かのせいにしたいけど、何の意味も持たないから。
希望を持たずに上手に這いつくばって生きていくよ。
これが44歳の俺の現状。
政治家たちには到底わかんねーだろうな。
またこの場所だ…
いい加減にしてくれ…
ジョウは目の前の光景にうんざりした。
いくらやってみても前に進まない状況に陥ってから、どれだけ経ったのだろう。
時間の概念すら通じない今、焦りばかりが先走る。
ジョウとコハルは月曜日の朝を何度も繰り返していた。
原因は分からない。
月曜日の朝、電車を降りたホームで顔見知りのコハルと会い、友達でもないので何を話すわけでもなく学校に向かう道の途中、横断歩道を渡るとなぜか二人はまた電車から降りるところに戻っているのだった。
何かに巻き込まれてるのか?
何で二人だけなんだ?訳が分からない。
ジョウは何とかコハルと通常の時間に戻るれるように学校までの道を変えてみたり走ってみたり、毎回パターンを変えて試してみたけど、ある一定の時間になると同じ場所に戻っている。
決まって7時30分に二人だけ戻るのだった。
「…一体何だってんだ」
二人は今度は学校には向かわず、駅のホームのベンチて座っていた。
でもやはり7時30分にこの場所に戻ってくる。
何をしても無駄かもしれない。
糸口は掴めないものの二人は何となく学校に向かって歩き出した。
これしか出来る術がなかった。
もう何度目かの道。
何とか戻れないかとトライアンドエラーを繰り返しながら二人は話し合ってきた。
今までお互いじっくり話した事はなかったけど、同じ中学出身だったこともあり、コハルの意外な一面を知ってつくづく一人じゃなくて良かったとジョウは思った。
コハルは周りの友達にはいない地味なタイプで、時々顔を赤らめたり、早口で一人で暴走する癖がある。
一人で忙しなくワタワタするコハルが、だんだん飼っていたウサギのように見えてくる。
思い出して和んでいたジョウがちょうど交差点を渡りきった頃、コハルが足を止めた。
「?」
「あのね…」
ジョウが振り返るとコハルは今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。
実はこうなったのは…と震える声で切り出していたが、交通量の多い道路だけあって、コハルの声はかき消されそうだ。
「私!この後、ここで…車に轢かれるの」
何を言っているんだと一瞬理解できなかったジョウだったが、今この状況も常識からかけ離れている。
原因が事故だったとしたらと思うと全身が総毛立った。
「…それでその時、最期にジョウくんといっぱい話したかったなぁって思ったら…あの時間と場所に…」
戻ったの、とコハルは続けた。
「こんなことになったのは私のせい…ごめんね」
歩行者信号が点滅して赤に変わった。
コハルはまだ横断歩道の途中にいる。
コハルの事故が原因だったとしたら、同じ時間に事故に遭わないとまたループするということか。
でもそうなるとコハルは…
ジョウは咄嗟にコハルに駆け寄り手を取って道路を渡ろうとした。
「ダメだよ!私が死なないと元の時間に戻れない!」
時間が迫っていた。
自動車用の信号が黄色から赤になる。
減速が間に合わず左折しようとしている車が一台。
横断歩道の途中で手を振り払おうとするコハルを無我夢中で抱き寄せ、二人は間一髪のところで歩道に倒れ込んだ。
その瞬間、腕の中にいたコハルはいなくなり、ジョウは駅のホームに立っていた。
見慣れた光景だ。
朝の通学時間だから人も多い。
ここにいると言うとはコハルは無事なはず…
心臓はまだ早鐘を打っている。
同じ車両の左側のドアからコハルが降りてきた姿を見て、ジョウは長い息をついた。
「またこの場所で会えた…」
ホッとして安堵するジョウを見てコハルは涙を流した。
あの日貴方とこの場所出会ったのは、
運命なんじゃないかと思う。
私は貴方に一目惚れだった、
でも貴方は私のことを覚えてくれるまで
2年かかった。
この2年が、
貴方が、
私にとってどれだけ大切か。
知らなくてもいい。
でも、貴方も今、私と同じ気持ちでいてくれたら
って。そう思う。
ここにいるよ
私の人生
ありがとうね
いつも心から感謝しているよ
私は、私の脳を鋭利に抽出する言葉を探している
臓腑を的確に抉り出すような、手術台上のメスのような言葉
スパッと頭を切り刻むような鋭い銀色が欲しい
それは大衆的であってはならぬ
それは曖昧蒙古であってはならぬ
こいつが切るのは生身の感情だ
だから血肉で錆びるなまくらでは駄目だ
脂で切れ味の鈍るなまくらでは駄目だ
欲するのは煉獄の炎で叩かれあげたような名刀だ
しかしそれは妖刀の域にある
ならば使い手にも相応の腕がいる
いくら掌中の銀色が豪物であろうと
使い手の私が味噌っかすでは話にならぬ
故に私は私の脳を抉り、言葉にする
脂肪の詰まった臓物で試し斬りをする
それしか道はないのだ
抽象的事物を活字に記すには
それしか道はないのだ
2024 2/12(日) 18『この場所で』
この場所で 2/12 (月).
家では1番愛されたい。親から沢山の愛情を受けて、兄弟からも愛されたい。
学校では1番人気者がいい。誰より目立ってモテて好かれて尊敬されたい。
ネットでは誰よりも注目されたい。拡散されて、褒められて、愛されたい。
もっともっともっともっともっともっともっともっともっと。
誰よりも誰よりも、この場所でこの場所でこの場所で。
愛してほしい愛してほしい愛してほしい。
そんな行き場のない気持ちが、爆発して今、
絶賛ネットで叩かれ中です。
『あの日、この場所で』
こんなフレーズに憧れていた。
私にはそんな場所ないから。
今の生活には心底うんざりしてる。
『やめて』って言えない自分が嫌い。
あいつらの言いなりになるだけ。
もういやだよ。
こんな自分、いやだよ。
*:.。..。.:+・゚・*:.。..。.:+・゚・*:.。..。.:+・゚
「やめなさい!!」
「やっべぇ逃げろ!!」
ある日のことだった。
クラスの女子に助けられた。
こんな事、はじめてだった。
あの日、この場所で、私は彼女に助けられた。
「1月15日あたりが『この世界は』、7月3日が『この道の先に』。『この◯◯』シリーズのお題はこれで3回目、か?」
前回と合わせれば「誰もがみんな」「この場所で」、なんて長文になるんだろうけれど、俺、あの投稿の続編、書ける自信無いぞ。
某所在住物書きは己の前回投稿分をチラ見して、いわゆる「続編」の投稿を断念した。
「この場所で、『過去◯◯が発生した』、『今後◯◯が開催される予定だ』、『今まさに◯◯が行われている最中』。時間軸はいくらでも変えられるな」
問題はその、「この場所」を、どこに設定するかだが。どうしよう。
物書きは自室の天井を見上げ、己の加齢で固くなった頭から、なんとか柔軟なネタを引き出そうと――
――――――
3連休も最終日。生活費節約に理解のある職場の先輩のおかげで、これまでの2日間、出費を最小限に抑えることができた。
あんまり遠出せず、あんまり欲を出さず、アパートで一人暮らしの先輩宅に現金と食材持ち寄って、シェアランチだのシェアディナーだの。
本当は昔々一緒に二次創作してた友達と、二次のオンリーイベに行って、原作者様の聖地巡礼もしてくる予定だったんだけど、諸事情で延期アンド中止。
しゃーないったら、しゃーない。
で、そんなこんなの、3連休最終日。
今日も先輩のアパートにご厄介になって、更にお金を節約して、今月末に備えようと、
思ってた、ワケだけど。
何があったか職場の先輩、今日は地下鉄乗って区を越えて、ちょっと遠くまで珍しく……?
「解体途中の、コレ、なに?」
「古いアパートだ。取り壊しが決まったと聞いて、ずっと、気になっていた」
都内某所。乾燥した晴れの、お昼頃。
祝日でお休み中の解体工事現場は、ひとつの区画を防音パネルとシートで覆っていて、中が見えない。
東京では、別に珍しくもない光景だ。毎日どこかが解体されて、どこかが新しくなってる。
先輩はそんな、ありふれた防音パネルのひとつに、
懐かしそうに、右手で触れて、軽くポンポンと。
「初めて契約したのが、このアパートだったんだ」
先輩が言った。
「十数年前。上京にあたって、一番安い家賃を自分で探して、契約して。……狭い部屋だったよ」
この場所だ。
この場所で、私の東京が始まったんだ。
先輩はポツリ、そう付け足して、まるでパネルの向こう側が見えてるように、2階か3階あたりだろう角度を見上げた。きっと「そこ」に住んでたんだ。
「この場所で、先輩何年住んでたの」
「8年前まで。つまり、今の職場に来るまでだ」
「うるさかった?」
「うるさかった。慣れるのに半年以上かかった。だから8年前、新しい今のアパートに決めるときは、ともかく防音防振性能を第一に」
「ここから始まったんだ」
「そう。このアパートの、あの部屋から」
ものの数分で気が済んだらしい先輩は、吹っ切れたようなため息ひとつ吐いて、防音パネルから離れた。
「近くに昔よく通っていた軽食屋がある。寄るか」
「オススメ is 何」
「昔懐かしいミルクセーキとコスパ最高パフェ」
「みるくせーきとは……?」
知らないミルク料理に誘われて、私は久しぶりの外食にくっついていく。
あったかい雰囲気の昭和なエモエモ軽食屋さんでファーストコンタクトした「ミルクセーキ」は、ちょっとオシャレな練乳かき氷みたいで、
これを昔々、上京1年目の先輩が、幸せそうな顔してこの場所で食べて、その日の仕事と心の疲れを癒やしてたのかなって想像すると、
少し、なんとなく、かわいかった。
「なんだその顔」
「なんでもないです」
「何を想像している」
「なんでもないでーす」
この場所で
私は人を
××した
『しょうがなかったの』
あの子を虐めるのはやめて
これ以上
あの子を苦しめないでって
勇気を振り絞って
言ったの、
でも
彼女は
「なんで、辞めないといけないの?」
って気味悪く
笑って
言うことを聞いてくれなかった
それで
私の方へと
ゆっくり歩いてきたの
それで腕を掴んできて
『やめて!』
ってさけんで、
掴まれてる腕を
振りほどこうとしたら
ガシャンッ
ゴツッ
って音がした。
しょうがなかったの
その時は
危ないって思ったの
だから
『私、悪くないよね?』
【この場所で】
今の職場に入社した時、この場所で定年まで働くのだと考えていた。
今はいつ辞めてやろうかと毎日考えている。
入社当時は胸を躍らせ、仕事に邁進していたが、人間関係、モラハラ、手柄の横取り、サービス残業…しばらく働いてみないとわからないことだ。
石の上にも3年、忍耐力…色々言われるが、辞めて新しい場所で羽ばたくのも選択の一つ。
その選択をする時が今かもしれない。
この場所で人を殺した
この場所で涙を流した
この場所で息を止めた
「みて。ソフトクリーム、売ってるね」
毛玉の多いマフラーの中から、母がぽそりと呟いた。
屋上遊園地の古いワゴン。
お客さんはずっと誰もいなくて、特製ソフトクリームと書かれた細長い旗が風に震えている。
「うん……」
我ながら、この上もなく気のない返事をしたと思う。
「……食べたい?」
私は目を見開いて、母を見上げた。
うそ。だって、450円もするよ。
「まっててね」
まっててね、まっててね。
この場所で、まっててね。
さみしく流れるメリーゴーラウンドの音楽を聴きながら、私はベンチで一人、ソフトクリームを食べ終わった。
寒さに震えるわたしの隣に、係員のおじさんが座った。
「お母さんは? どこに行ったのかな?」
「わかんない」
「え?」
「ここでまってて、って」
「ここで、って……。え……。ええーっ……」
おじさんは立ち上がり、じっと地面を見つめるわたしの代わりに、辺りを見回してくれた。
別のおじさんも来て、しばらくしたら、お巡りさんもきた。
いやだ、連れて行かないで。
この場所から離れたら、お母さんが私を見つけられなくなっちゃう。
2/11「この場所で」
この場所で、あなたを待つ。
日が暮れても。夜が明けても。
雨が降っても。雪が降っても。
月が変わっても。季節が変わっても。
戦争が起きても。大陸が沈んでも。
人類が滅びても。すべての命が途絶えても。
千年の宇宙の旅に出たあなたを、私の半身を。
あなたの帰るべきこの場所で、あなたを待つ。
(所要時間:6分)
2/10「誰もがみんな」
「実に美しい」
「それだけではない、とても理知的だ」
誰もがみんな私を褒める。私を称える。そうしない者なんて存在しない。なぜなら私は最高の存在。
カーペットの敷かれた道を歩き、くるりと振り返る。人々が感嘆のため息をつく。ひざまずく者さえいた。
「どうだね、新開発の彼女は」
「ああ、素晴らしいね」
完璧に造られたアンドロイドは神となりえるか。そんな実験は、始まったばかりだ。
(所要時間:6分)
2/9「花束」
「本日は街角マジックショーにようこそお越しくださいました!」
コインが消えては現れる、切り刻んだはずのハートのエースが無傷で手の中にある、鳩が飛び出て手首に乗る。
ずいぶん本格的になってきた。にこにこと私は弟のマジックを見守る。
「ではここで、来ていただいた皆さんに、感謝を捧げたいと思います。皆さん、両手で器を作って前に出してください」
子どもたちもお父さんお母さんも、請われて私も。
「1、2、3!」
ぽん、と弟の手からいくつもの花が舞う。子どもたちは歓声を上げて手の器で受け取る。
そして、私は目を見開いた。私の手の中にだけ、小さな花束が現れたのだ。
「感謝を込めて」―――そんな紙が添えられて。
(所要時間:9分)