2/11「この場所で」
この場所で、あなたを待つ。
日が暮れても。夜が明けても。
雨が降っても。雪が降っても。
月が変わっても。季節が変わっても。
戦争が起きても。大陸が沈んでも。
人類が滅びても。すべての命が途絶えても。
千年の宇宙の旅に出たあなたを、私の半身を。
あなたの帰るべきこの場所で、あなたを待つ。
(所要時間:6分)
2/10「誰もがみんな」
「実に美しい」
「それだけではない、とても理知的だ」
誰もがみんな私を褒める。私を称える。そうしない者なんて存在しない。なぜなら私は最高の存在。
カーペットの敷かれた道を歩き、くるりと振り返る。人々が感嘆のため息をつく。ひざまずく者さえいた。
「どうだね、新開発の彼女は」
「ああ、素晴らしいね」
完璧に造られたアンドロイドは神となりえるか。そんな実験は、始まったばかりだ。
(所要時間:6分)
2/9「花束」
「本日は街角マジックショーにようこそお越しくださいました!」
コインが消えては現れる、切り刻んだはずのハートのエースが無傷で手の中にある、鳩が飛び出て手首に乗る。
ずいぶん本格的になってきた。にこにこと私は弟のマジックを見守る。
「ではここで、来ていただいた皆さんに、感謝を捧げたいと思います。皆さん、両手で器を作って前に出してください」
子どもたちもお父さんお母さんも、請われて私も。
「1、2、3!」
ぽん、と弟の手からいくつもの花が舞う。子どもたちは歓声を上げて手の器で受け取る。
そして、私は目を見開いた。私の手の中にだけ、小さな花束が現れたのだ。
「感謝を込めて」―――そんな紙が添えられて。
(所要時間:9分)
2/12/2024, 3:20:25 AM