「みて。ソフトクリーム、売ってるね」
毛玉の多いマフラーの中から、母がぽそりと呟いた。
屋上遊園地の古いワゴン。
お客さんはずっと誰もいなくて、特製ソフトクリームと書かれた細長い旗が風に震えている。
「うん……」
我ながら、この上もなく気のない返事をしたと思う。
「……食べたい?」
私は目を見開いて、母を見上げた。
うそ。だって、450円もするよ。
「まっててね」
まっててね、まっててね。
この場所で、まっててね。
さみしく流れるメリーゴーラウンドの音楽を聴きながら、私はベンチで一人、ソフトクリームを食べ終わった。
寒さに震えるわたしの隣に、係員のおじさんが座った。
「お母さんは? どこに行ったのかな?」
「わかんない」
「え?」
「ここでまってて、って」
「ここで、って……。え……。ええーっ……」
おじさんは立ち上がり、じっと地面を見つめるわたしの代わりに、辺りを見回してくれた。
別のおじさんも来て、しばらくしたら、お巡りさんもきた。
いやだ、連れて行かないで。
この場所から離れたら、お母さんが私を見つけられなくなっちゃう。
2/12/2024, 3:26:41 AM