Lilisa

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2/14/2024, 6:25:47 PM

地方都市にあるささやかな駅ビルに、ある気高き婦人の名を冠した世界的チョコレートブランドが出店している。

いつもなら、値札だけを横目に見て、「お高~い」と胸の内で苦笑しながら通り過ぎる場所だった。


しかしわたしは今日、初めて立ち止まり、
「これください」
迷わず大箱を指さして、一万数千円を差し出した。


大切な私へ、愛を込めて。

いつもありがとう、がんばっているね。
とびきりの感謝は、わかりやすく値段に乗せた。

家路をたどる足取りがはずむ。
ひとりでこっそり箱を開けて、戸惑いながら選び、えいやっと頬張って、小さな背徳と手をつなぎ、陽気に小躍りしてみたい。


明日からは、どんな気持ちであの店の前を通るだろう。

お得意様気取りかな。
「また来年が楽しみ」かな。
「たいして違いがわかんなかった」かもしれない。

どちらにしろ、今までとは違うはず。
わたしは今日、このチョコレートを食べて、ほんの少しだけ世界を変えるのだから。

2/13/2024, 5:34:38 PM

待っててねの距離とタイム

トイレ行くだけだから、待っててね ドア1枚38秒
買ってくるから、待っててね 5メートル1分
お仕事終わるまで、待っててね 4.3キロ9時間
もうすぐごはんできるよ、待っててね いい匂い5分

すぐ戻るから、待っててね
たぶん遠く 3月11日から4723日

2/12/2024, 3:26:41 AM

「みて。ソフトクリーム、売ってるね」

毛玉の多いマフラーの中から、母がぽそりと呟いた。
屋上遊園地の古いワゴン。
お客さんはずっと誰もいなくて、特製ソフトクリームと書かれた細長い旗が風に震えている。

「うん……」
我ながら、この上もなく気のない返事をしたと思う。

「……食べたい?」
私は目を見開いて、母を見上げた。
うそ。だって、450円もするよ。

「まっててね」

まっててね、まっててね。

この場所で、まっててね。


さみしく流れるメリーゴーラウンドの音楽を聴きながら、私はベンチで一人、ソフトクリームを食べ終わった。

寒さに震えるわたしの隣に、係員のおじさんが座った。
「お母さんは? どこに行ったのかな?」
「わかんない」
「え?」
「ここでまってて、って」
「ここで、って……。え……。ええーっ……」
おじさんは立ち上がり、じっと地面を見つめるわたしの代わりに、辺りを見回してくれた。

別のおじさんも来て、しばらくしたら、お巡りさんもきた。

いやだ、連れて行かないで。
この場所から離れたら、お母さんが私を見つけられなくなっちゃう。

2/10/2024, 11:34:24 PM

本当に伝えたいこと、伝えておかなければならないことほど、言葉にすることができないね。

好きだよ、ごめんね、ありがとう。

たったこれだけの言葉なのにね。

言えないまま、別れちゃう。
知らないまま、別れちゃう。
誰もが、みんなが別れちゃう。


分かってるんだけどやっぱり言えないから、信じよう。信じていてほしい。
「言葉にしなくても大丈夫、分かってるよ」

2/9/2024, 4:01:05 PM

「自分のお葬式に飾ってもらうなら、何の花がいいだろう?」

菊と百合の花にあふれた空間を後にして黒い服を脱ぎながら、ふと考えた。

とはいえ、自分が死んだ後のことだし、真剣に考えたところで仕方がない。
黒い服をハンガーにつるしおえながら、
「ま、別に何の花だっていいか。菊や百合で文句があるはずもなし」
の結論に至る。

はたして家族なのか自治体の方かは分からないけれど、後始末をしてくれるどなた様かに一任でございます。
花を添えて送り出してくれるだけで、十分すぎるというものよ。


──ああ、でも。

本当は、ほしい花束があるんだ。

私が一番好きな花は、シロツメクサ。
最後の時には、シロツメクサの花束を持たせてほしい。

昔、小さな手が集めて作って渡してくれた、シロツメクサの花束。
もし、あの甘い匂いを胸に抱いて眠ることができたなら、いつどんな形で人生を終えるのだとしても、
「本当に幸せな人生でした」
そう神様に報告できるような気がするから。

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