地方都市にあるささやかな駅ビルに、ある気高き婦人の名を冠した世界的チョコレートブランドが出店している。
いつもなら、値札だけを横目に見て、「お高~い」と胸の内で苦笑しながら通り過ぎる場所だった。
しかしわたしは今日、初めて立ち止まり、
「これください」
迷わず大箱を指さして、一万数千円を差し出した。
大切な私へ、愛を込めて。
いつもありがとう、がんばっているね。
とびきりの感謝は、わかりやすく値段に乗せた。
家路をたどる足取りがはずむ。
ひとりでこっそり箱を開けて、戸惑いながら選び、えいやっと頬張って、小さな背徳と手をつなぎ、陽気に小躍りしてみたい。
明日からは、どんな気持ちであの店の前を通るだろう。
お得意様気取りかな。
「また来年が楽しみ」かな。
「たいして違いがわかんなかった」かもしれない。
どちらにしろ、今までとは違うはず。
わたしは今日、このチョコレートを食べて、ほんの少しだけ世界を変えるのだから。
2/14/2024, 6:25:47 PM