またこの場所だ…
いい加減にしてくれ…
ジョウは目の前の光景にうんざりした。
いくらやってみても前に進まない状況に陥ってから、どれだけ経ったのだろう。
時間の概念すら通じない今、焦りばかりが先走る。
ジョウとコハルは月曜日の朝を何度も繰り返していた。
原因は分からない。
月曜日の朝、電車を降りたホームで顔見知りのコハルと会い、友達でもないので何を話すわけでもなく学校に向かう道の途中、横断歩道を渡るとなぜか二人はまた電車から降りるところに戻っているのだった。
何かに巻き込まれてるのか?
何で二人だけなんだ?訳が分からない。
ジョウは何とかコハルと通常の時間に戻るれるように学校までの道を変えてみたり走ってみたり、毎回パターンを変えて試してみたけど、ある一定の時間になると同じ場所に戻っている。
決まって7時30分に二人だけ戻るのだった。
「…一体何だってんだ」
二人は今度は学校には向かわず、駅のホームのベンチて座っていた。
でもやはり7時30分にこの場所に戻ってくる。
何をしても無駄かもしれない。
糸口は掴めないものの二人は何となく学校に向かって歩き出した。
これしか出来る術がなかった。
もう何度目かの道。
何とか戻れないかとトライアンドエラーを繰り返しながら二人は話し合ってきた。
今までお互いじっくり話した事はなかったけど、同じ中学出身だったこともあり、コハルの意外な一面を知ってつくづく一人じゃなくて良かったとジョウは思った。
コハルは周りの友達にはいない地味なタイプで、時々顔を赤らめたり、早口で一人で暴走する癖がある。
一人で忙しなくワタワタするコハルが、だんだん飼っていたウサギのように見えてくる。
思い出して和んでいたジョウがちょうど交差点を渡りきった頃、コハルが足を止めた。
「?」
「あのね…」
ジョウが振り返るとコハルは今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。
実はこうなったのは…と震える声で切り出していたが、交通量の多い道路だけあって、コハルの声はかき消されそうだ。
「私!この後、ここで…車に轢かれるの」
何を言っているんだと一瞬理解できなかったジョウだったが、今この状況も常識からかけ離れている。
原因が事故だったとしたらと思うと全身が総毛立った。
「…それでその時、最期にジョウくんといっぱい話したかったなぁって思ったら…あの時間と場所に…」
戻ったの、とコハルは続けた。
「こんなことになったのは私のせい…ごめんね」
歩行者信号が点滅して赤に変わった。
コハルはまだ横断歩道の途中にいる。
コハルの事故が原因だったとしたら、同じ時間に事故に遭わないとまたループするということか。
でもそうなるとコハルは…
ジョウは咄嗟にコハルに駆け寄り手を取って道路を渡ろうとした。
「ダメだよ!私が死なないと元の時間に戻れない!」
時間が迫っていた。
自動車用の信号が黄色から赤になる。
減速が間に合わず左折しようとしている車が一台。
横断歩道の途中で手を振り払おうとするコハルを無我夢中で抱き寄せ、二人は間一髪のところで歩道に倒れ込んだ。
その瞬間、腕の中にいたコハルはいなくなり、ジョウは駅のホームに立っていた。
見慣れた光景だ。
朝の通学時間だから人も多い。
ここにいると言うとはコハルは無事なはず…
心臓はまだ早鐘を打っている。
同じ車両の左側のドアからコハルが降りてきた姿を見て、ジョウは長い息をついた。
「またこの場所で会えた…」
ホッとして安堵するジョウを見てコハルは涙を流した。
2/12/2024, 4:32:19 AM