『この場所で』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
この場所で友人は死んだ。今日は友人の命日である。あの日から5年の月日が経った。その友人とは高校生の時に知り合った。気前の良いやつだった。俺は俗に言う陰キャと言われる種族の人間だったのでクラス替え後の休み時間は基本一人でスマホをいじってた。そんなときあいつは俺に話しかけに来てくれた。何度も何度も。最初は面倒なやつだと鬱陶しく思っていたが、いつの間にか話しかけられるのをワクワクして待っている自分がいた。それからプライベートでも合う関係になっていった。だが、半年後の事。その友人は学校の屋上で俺の視界からゆっくりと消えていった。その瞬間は俺にとってはあまりにも遅かった。あまりにも悲しかった。目が覚めると病院にいた。その場に来た先生の対応が早くギリギリ生き延びたようだ。あと一歩遅ければ死んでいた。俺は無事退院したあと、学校の屋上に友人を呼び出し殺した。警察に怪しまれはしたが証拠がなく捕まらなかった。俺はがっかりしたような、安心したような複雑な気持ちであった。あの時を思い出す。友人の背中を押したときの感触が今も残っている。しかし罪悪感はない。だってあいつが悪いんだ。俺が好きなことを分かってて奪ったんだから。俺は人殺した。そしてこれからもう一人殺さなくちゃならない。そいつはとんでもない極悪人だ。二人も人を殺したんだから。「一度は経験したことだ。恐れることはない。」すると彼は屋上から飛び降りた。
ここに行けば、また会えるかな。
待っていてくれるかな。
また、行けなかったな。
胸に手を当てて
深呼吸をして
いつもこの場所から始めよう
家(テーマ:この場所で)
1
昔、小さな町の小学校が火事で消失した。
小高い山に面した坂の上にあった学校で通学には辛かったが、周囲を山の木に囲まれていて近隣の民家が少ないため苦情も少なく、学校運営には利点もあった。
そして、町を見下ろせる景観が、生徒・教師の共通の自慢だった。
そんな小学校が火災に遭った。
当時の校舎は木造で、全焼してしまった。
このため、坂の上まで歩く利便性の低さがクローズアップされ、火事を機に、小学校は移転することになった。
学校跡地は分割で売りに出され、住宅地になった。
同時に、裏山にあった墓地がジワジワと広がり、しばらくすると、墓地に隣接した住宅地となった。
住宅地になってから数十年経ち、いくつかの家が建て替えられた。
この話は、その中の、特に珍しくもない一軒の家についての話だ。
桃太郎のような、胸のすくような話ではない。
人間の話ですらない。
読む方は、そういう話だと思って、読んでください。
2
一軒の家が建った。何の特徴もない木造建築だ。
そこは元々スロープ状になった土地で、かつては学校の講堂があった場所だ。
しかし、そのようなことを知っている人はもう殆どいない。
スロープの先は広がってきた墓地に面していたが、同時に坂道にも面しており南向きには高い建物はない。
墓地を気にしなければ、かつて小学校の生徒が見ていた町を見下ろす景観は、相変わらず楽しむことができた。
家主は、スロープ状の土地を土で埋めて石垣で囲うことで平地面積を増やし、それまでより広い2階建ての家を建てた。
在来軸組工法という、昔ながらの柱と梁による家の建築である。
枠組壁工法という安価で品質が均一な工法もあったが、南向きの窓を広く取ることでリビングから景観を楽しみたかった家主は、壁面を大きく取る必要があるその工法を選ばなかった。
また、スロープ状の土地を埋め立てたため地盤も頑丈とは言い難く、家の基礎もよく使われる「布基礎」ではなく、費用がかかる「ベタ基礎」となった。
余分に費用がかかったが、仕方がなかった。
その分、こだわり部分は譲らなかった。
決して広くない庭に、柿の木を植えた。
また、かつて学校が売却された際に残されたのか、土地にあった鉄棒も、庭に埋め直した。
完成した家は、木造二階建て。日が入る南側に1階は広いリビング、2階はこども部屋で、どちらも大きな窓から町を見下ろすことができた。
太陽熱温水器で日当たりの良さを風呂を沸かすガス代低減に活かしてみたりもした。
間取りの関係から決して広くない台所には、半地下の収納を追加することで漬物などもしやすくした。
台所はリビングと繋がっており、家族団らんをしながら料理ができることを狙っていた。
家の周囲は北と西には民家が、南は墓地と坂道から町を見下ろせ、東は山道と、山道の向こう側の山壁に根を張る大きな樹木に面していた。
柿の木は、山道側を通って墓参りや山登りをする人からリビングが見えないようになる目隠しの役目もあった。
3
家に住むのは家主夫婦と家主の両親夫婦、家主の子ども3人の3世帯7人だった。
これまでの家は部屋数が少なかったため、部屋数もリビングも広くなって家族全員がおおむね満足していた。
特に子どもたちは、墓地に面しているが、同時に街を見渡せる景観が良く、真新しく広い家を無邪気に喜んでいた。
夜は怖がっていたが、しばらくすると慣れ、むしろ持病になった小児喘息の発作の方におびえていた。
柿の木は数年すると毎年柿の実をつけるようになり、家族のデザートになった。
子どもには柿はいまひとつ受けが悪かったが、家主が柿の木の大振りな枝にロープを張ってブランコにしたときは、大喜びでよく遊んでいた。
柿の木の横にはプレハブの倉庫があり、大工道具と釣り道具が収められていた。
釣りは、家主と家主の父が趣味にしていた。家の側には魚の住むような川はなかったため、たびたび車で釣りに行っていた。
2階は子供部屋と、家主夫婦の寝室、そして書斎だった。寝室にはレコードが揃えてあり、海外のレコードが揃っていた。
子どもはおっかなびっくりレコードの使い方を覚え、特撮番組の曲が入ったソノシートを繰り返し聞いていた。
子どもは小学生になると、放課後の有り余る時間を使い、ある意味家主よりも家を探検した。家主としてはもっとスポーツに打ち込んだり、何なら裏山で飛び回ってもらうほうが安心だったかもしれない。
家主があまり子どもに見せたくない本も見つけたし、押入れから屋根裏に上がることができることも発見した。
気に入っていたこどもの日の鎧兜の模造刀を、最初は屋根裏に入れ、次に台所の半地下収納に隠した。
そして、隠したことも忘れてしまった。
しばらくして、半地下収納はほとんど開けられることがなくなり、上に段ボールや棚が置かれてしまった。
4
新築の家も、住んでいれば当然、古びてくる。
子どもの背が高くなる度に、一家は柱にマジックで線を書いた。
和室の障子は破れる度に柄のように切り貼りした。
子どもは3人になり、子供部屋は手狭になった。
外部だけではない。
埋め立て地盤をカバーするためのベタ基礎であったが、震災による耐震性などが見直される前の基準であった。
大きな地震によって家はわずかに傾き、リビングの床はビー玉が転がるようになった。
それでも、一家は、石垣が崩れたりしないだけマシだと思っていた。
太陽熱温水器は、長年の汚れからか、給湯すると黒いカスのようなものが出るようになった。
大きな窓は、そのまま内部の熱が逃げる最大の場所になった。
窓ガラスだけでなく、窓枠が伝熱性の良いアルミサッシであることも、要因の一つであったかもしれない。
しかし何より、建築した時とは日本の気候が変化し、地球温暖化によってか、夏はより一層暑くなり、冬はより一層寒くなった。
地震から数年経ち、家主の父が老衰で逝去した。
その日から数日は、家は葬儀屋の手によって白黒の幕が張られ、葬儀場となった。
まだ、今ほど葬儀場の葬儀が一般的でない、ギリギリの時代だった。
更に数年経ち、上の子どもが大学や社会人となり、3人の子どものうち2人が家を出た。
家の使い方は代わり、古びた部分も出てきたため、家主は度々リノベーションを行った。
バリアフリー化して床を平坦にして、トイレと風呂に手すりをつけた。
風呂も太陽熱温水器を外し、オール電化機器を導入してガスを止めた。
2階にもトイレを設置し、エアコンも追加した。
介護が必要になった家主の母のため、大きな音のなる呼び出しブザーなどもつけた。
そして、プレハブは取壊し、家に防音室を増築した。これは家主の趣味だった。
子どもたちは、家に帰省したときは新しくなった家の設備に喜んでいたが、3人が3人とも結婚も、子どもも設けなかったため、帰省時のみの賑わいにとどまっていた。
家の裏の山道については家の外であるため、増改築での対応は無理であった。
年々激化してきた豪雨などで度々土砂崩れしている箇所があり、道を挟んだ先の大きな樹木も家主の心配の種になっていたのだ。
何しろ大きな木だ。土砂崩れがおき、樹木が家に倒れてくれば、家は潰れてしまう。
役所に対応を依頼したが、民地らしく勝手に切ることはできないとの回答であった。
家主は、いざというときは柿の木がクッションになってくれることを願っていた。
築50年が過ぎ、心配が実現する前に家主が世を去った頃、相続した家主の妻と3人の子どもたちは話し合って、坂の上り下りが厳しいとして、不自由な立地から、結局、家を売ることにした。
5
売られた家は、まだ若い別の家族にすぐ買われた。
坂の上り下りが厳しいのは高齢者であり、若い家族は特に問題に思わなかったのだ。
新しい家主と家主の妻、そして小さな子ども。
家は、築半世紀を超えて、新しい住人を迎えた。
50年経っていたが、前の家主の増改築によって、そこまでの古さは感じさせなかった。
また、高度経済成長期に働いていた前の家主と比べ、新しい家族は不況が長期間続いている期間で働いているため経済状況は比較にならない。
新築など考えることもできなかった。
家にとって2番目の住人となる彼ら家族は、家を大事に使っているように思えた。
以前の家主一家が置いていった家具などもほとんどそのまま使い、使えないものだけを捨てていた。
そのため、冷蔵庫も棚も、置いていった食器も、そのまま使わせてもらっていた。
子どもは前の一家と同様に墓地に怯えていたが、やがて慣れた。
夫婦は、外気の冷気が入りやすいことや、山に近いために虫が出やすいことに悩んでいたが、やはりこれも慣れた。
家を十分以上に探検し、喜んでいたのはやはり子どもだった。
トイレが1階と2階の2つあることに驚き、子供部屋の広さに満足した。
しかし、台所の棚を動かすことはできなかったので、台所の半地下収納の中に隠された模造刀は発見できなかった。
というより、この一家はそもそも台所の下に収納があることに気がついていなかった。
築年数に比べて相当に住みやすい家であったが、同時に、建築時は7人で住んでいた家である。
夫婦3人で住むには広すぎたのだ。
夫婦はよく親戚を招待してパーティーなどを行って、空いている部屋を使用したが、やはり年間のほとんどの期間は空き部屋になる部屋がいくつもあった。
使わない部屋をルームシェアなどで活用してはどうかと夫婦で話すこともあったが、玄関や動線は一つであり、子どももいるので結局実現しなかった。
新しく出た掃除ロボットなどを活用して、キレイに保つようにしたくらいである。
2番目の住人の家族は、大事に家を使っていたが、10年以上経過し、子どもが大学で家を出てからは、より一層静かな家だと感じるようになった。
大学を卒業した子どもが東京で就職し、帰ってこないことがはっきりしてからは、夫婦は広すぎる家について考えるようになり、結局、売ってしまった。
6
家は、夫婦から不動産屋へ売却されたが、不動産屋はそれをどうするか悩んでいた。
築年数が相当経っているので解体して土地として売るか、再度建売をするか。
または、賃貸で住人を募集してみるか。
とりあえず、一番金のかからない、「家具つき物件」の賃貸で募集してみると、あっさりと応募が遭ったため、不動産屋は考えるのを辞めた。
次に住んだのは、高齢の老夫婦だった。
夫婦は最初から2階部分を使うことを諦め、バリアフリー化している1階部分だけを使用した。
買い物には不便であったが、この頃になると、スーパーが食材や食事を届けるサービスの対象地域になっており、あまり外出しない老夫婦には、静かな環境は快適だった。
また、夫はレコードがあることに喜び、防音室で懐かしい曲を聞いて楽しんでいた。
妻は、小さな庭に畑を作ってミニトマトを育てたりしていた。
この夫婦が住んでいる時、ここは、時間がゆっくり進む家となった。
老夫婦は、照明部分だけ工事を行った。
壁のスイッチをやめて、リモコンとセンサーによる照明に切り替えたのだ。
これで、老夫婦は生活に完全に満足していた。
この生活は、家が本格的に老朽化してくるまで10年続いた。
オール電化機器が壊れたことで風呂・台所がまともに使えなくなったころ、老夫婦も体が満足に動かなくなったため、老人ホームへ移った。
7
再び不動産屋はこの家をどうするか考えることになる。
オール電化機器が壊れたことが、この家の賃貸物件としての価値を激減させていた。
(しかし、この時点で解体しては赤字だ。)
不動産屋が家を購入した際の価格と、老夫婦の10年の家賃、解体のための費用が釣り合っていないのだ。
しかし、世の中の経済状況は少子高齢化から決定的に悪くなっており、家の周囲どころか、全国的には自治体自体が収縮・消滅傾向にあった。
全国各地に「廃村」「廃町」は珍しくなくなっていた。
悩んでいたところを、一人の作家が建物ごと不動産屋から購入した。
不動産屋は、頭の悩ませる物件から一つ開放されて喜んだ。
作家はあまり売れていなかったが、オール電化機器を取り付け直すと、ひたすら家に籠もった。
作家が気に入ったのは防音室だった。
周囲の生活音が気になる性質出会った彼は、執筆の際にはその部屋にこもった。
執筆が終わっても、用がある時以外は家から殆ど出ずに、前の老夫婦と同じように宅配サービスに頼った生活をしていた。
作家は5年間そこで暮らしたが、やがて本が当たり、大金を得た彼は東京へ引っ越して行った。
家を所有したまま。
8
5番目の住人は、複数の若い学生だった。
作家は、年の離れた甥が地方の大学に行くことになったと聞き、そういえば昔住んでいた家がそのままなので、と甥に住むように言ったのだ。
甥は、ワンルームでも最新家電が揃った部屋で生活したかったが、家賃がタダなので妥協した。
更に甥は、一人で住むには広すぎることをひと目で判断した。
寂しい大学生活が嫌だった彼は、サークルの人間を「家賃格安でルームシェアしないか」と次々誘い、完全に溜まり場にしてしまった。
周囲は墓地と、人が少なくなった住宅地。
文句も殆ど出なかった。
若さがあり余っているサークルの若者たちは、何十年も設置したままだった棚を動かし、冷蔵庫を入れ替え、自分たちの住みやすい基地に作り変えていった。
「うわ、なんだこれ。日本刀あった!!日本刀!!」
ついには台所の半地下収納から、最初の家族の子どもが隠したままの模造刀を見つけたりもしたが、模造刀だとわかると、棚に放り投げ、たまにサークルの人間がふざけて振り回すおもちゃになった。
しかし、その彼が卒業を控えた大学4年の時、事件が起きた。
人が少なくなったご時世。若い人間が毎晩集まって騒いでいるのを見て、金を持っていると勘違いしたのか。
強盗が入ったのである。
9
その強盗は、日本語が話せないようであった。
その日に家にいたサークル仲間は、作家の甥を含めて3人。
インターホンが鳴り、誰か別のサークル仲間が着たかと家主代理の作家の甥が不用意に玄関を開けると、目出し帽を被った強盗が立っていた。
強盗は一人だったが、刃物を持っていた。
「カネ、出せ」
作家の甥は腰が抜け、大声を出せなかったが、すぐ横にあった紐を引いた。彼はそれがなにか知っていた。最初の家主が、母の介護に使おうと家の各所に設置したブザーだ。
リビングに大きな音がなり、不審に思った残り二人が玄関を覗くと、そこには目出し帽と刃物。
2人は逃げた。
しかし、強盗は逃げる者から仕留めようと思ったのか、幸いにも腰を抜かした甥を放置して二人を追いかけることを優先した。
多少広いとはいえ、所詮は一軒家。ぐるぐる家の中を回るうちにすぐに追い詰められた。
「カネ!出せ!」
カタコトの日本語で繰り返す強盗に、作家の甥は相変わらず玄関で腰が抜けていたが、残り二人のうち一人は剣道経験者で肝が座っていた。
先程逃げ回りながら拾った模造刀を無言で抜いた後、「キィエエエイ!」と気合の声を出して渾身の小手を打ち、強盗の手から刃物を叩き落とした。
残ったもう一人は警察を呼び、強盗はあっけなく逮捕された。
10
強盗逮捕後は特に何もなかった。作家は、甥を助けてくれたサークル学生に感謝して、家は何年かサークルの持ち物として賑やかに使われた。
しかし、老朽化した建物に若い大学生が何人もいればどうなるか。
やがて壁が壊れ、床が抜けた段階で、さすがの作家も諦めて解体することにした。
幸い、それだけの蓄えはあった。
甥も卒業しているため、もうこの地に建物は不要だった。
実に建築から97年。
その家は取り壊された。
ついでに、崩れかかっていた石垣も崩し、もとのスロープ状に戻した。
しかし、一方で何も無くなるのは惜しいと思ったのか、あるいは墓地にすることで節税を狙ったのか。
作家はそこに自分の墓を建て、ついでに余った土地に墓参り用に小さな東屋を建てた。
電気も水道も、そこだけ生きている。
そこには看板がついている。
『墓参りの方、ご自由に水を使ってください。なお、よければ横のミニトマトと柿の木にも水をやってください。実がなっていればご自由にどうぞ。』
東屋には畑仕事用の道具と掃除道具もあり、墓地に墓参りに来た人は皆水を借りて、ある人は柿の木の葉っぱを掃除し、ある人はトマトに水をやり、季節が良ければ実をいただいた。
その場所に家はなくなったが、柿の木と、山道を挟んだ先の大きな樹木は健在であり、町を見下ろす景観は、今も墓参り客を楽しませている。
この場所で過ごした時間は
かけがえのない時間だ。
河川敷の橋の下そこは
彼女と僕が過ごした大事な場所
どうも彼女は明日から
違う場所に転校するらしい。
彼女が忘れても、
少しの間だと思っていても、
くだらないと思っていても、
僕にとってはかけがえのない大切な時間だ。
卓球の大会の後、高台の公園にある番地を目指していた
だが、僕が座ろうとしたベンチには先客がいた。
「この場所で待っていれば、来てくれると信じていたよ」
彼女は僕をまっすぐ見ながら言った。
「君、辛い事があったらいつもここに来るよね」
どうやら何もかもお見通しらしい。
僕は彼女の言葉に何も返さず、彼女の隣に座る。
「慰めてあげようか?」
「……いらない」
「そう言わずに」
彼女は僕の意思を無視して頭を撫でる。
「君は頑張ったよ」
「中途半端な慰めはいらない」
「ゴメンね。私、負けたことないから慰めかたが分からないや」
「嫌味か。じゃあ、やめろよ」
「それとこれとは別」
彼女の手は止まる気配がない。
「君の対戦相手、強かったね」
「そうだな」
「知ってる?君と当たった子、去年の大会で君に負けているんだよ」
「ああ」
「おや、知ってたんだ?」
「当然だ」
僕の答えに彼女の手が止まる。
そして数秒経って、また頭を撫でる手が動き始める。
「……君その時彼を完膚なきまでに負かしていたよね。
理由を聞いてもいい?」
「去年の試合の時、最後の瞬間、アイツに飲まれた。
気を抜けば負けると錯覚するほどに……
それが印象に残ってた」
「なるほど。だから君は去年から練習を増やしていたんだね」
納得しながらも、彼女は頭を撫でてくるが、最初ほどの繊細さは無い。
というか痛い。
「あと、いい加減頭を撫でるのをやめろ。
雑になってるぞ」
「ゴメン、止め時分かんなくって。
正直飽き始めてたんだよね」
「じゃあ、さっさと止めろよ!」
飽きたというのは本当のようで、彼女はすぐ頭から手をどけた。
それからお互い言葉は無く、正面に見える景色を眺める。
見慣れた街並みも、夕日に染まれば幻想的に映るのだから不思議である。
『嫌なことがあったらここに来る』。
彼女の言う通りだ。
この景色を見る時だけは、何もかもを忘れられる。
「しかしここからの景色、いいね」
彼女が突然口を開く。
「ああ、お前がいなければもっとよかったんだがな」
「可愛い女の子捕まえて、そういうこと言う?」
「なんだ、可愛いって言って欲しいのか?」
「……それはやめてくれ。君に可愛いって言われたら、死にたくなるかも」
彼女はここにきて初めて苦い顔をした。
「で、どうするつもり?」
だがそれも一瞬で、すぐに真面目な顔に切り変えた。
どうやらこれが本題らしい。
「決まってるだろ。リベンジだ」
「男の子だね」
「言ってろ」
俺はベンチから立ち上がり、そこから見える街並みを見下ろす。
「次は負けない」
僕は赤く染まるこの場所で、決意を新たにするのだった。
僕には、才能などない
周りの人々には、
「異能」
、と言う
「これは、オレとオマエの約束!!」
高校の屋上で、みんなの人気者である陽キャヤンキーにそう言われた。
根暗で引っ込み思案で泣き虫な僕に、彼はそう言った。
ぜってーに惚れさせてみせる、とか、僕っていつから女の子になったんだろう。
もう全てが謎だった。
僕のどこに惹かれたのか。
でも、僕も心の中ではどこかで――
「――分かったか!っておい、聞いてんのか?」
「……うん、聞いてる。聞こえてるよ」
マスクの下、彼にバレないように、薄らと笑った。
〜この場所で〜
『この場所で』 (ストリートファイター6)
わたしとしてはいつもの料理屋さんでいつものメニューを食べに来ているだけなのだけど、
「よお、まーたおんなじモン食ってるのか?」
野菜もちゃんと食えよななどと声をかけてくる人に会うようにもなってしまった。知り合うきっかけはけっこう前だけど、話すようになったのはつい最近。あの人はちょっと離れた席でいつもの!と元気よく注文している。野菜入ってるの?と少し気になってしまう。
だいたいいつもお酒の匂いを漂わせているあの人からはほんのりと姐姐が使ってるようなおしろいの香りがする。今度お化粧教えてって言ってみようかしら。約束をしなくても、この場所でならまた会えるだろう。
第十五話 その妃、登城す
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
規則正しきは玉響の音色か。
都の人々は皆、一様に足を止めた。
顔に布をかけた和装の男たちが抱えるのは、質素ながらも上品な輿。必要最低限な装飾にもかかわらず、気品で溢れている。
下ろされた御簾に隠された今度の姫はさて、どれほど美しいのだろう。もしや、今度こそ帝の寵妃なのではないか。
この噂は忽ち広がり、人々はその姿を一目見ようと挙って広間へと集まった。
外朝の大臣たちも、後宮の妃や侍女たちも、宮殿で働いている者たちも、皆がその手を足を止めた。
静かに、門の前で止まった輿が、ゆっくりと下ろされていく。御簾が上げられ、そこから現れた姫に一同、息を呑んだ。
街の安価な簪が一本と、白い生花が数輪。
そして、夕暮れ空に、まるで鮮血でも飛び散ったかのような貴妃服。
この都で【赤】とは、帝とその妃のみが用いることを許可された禁色。
白い肌と黒髪でよく映えてはいるが、国外の姫かと人々の視線からは忽ち興味が薄れ、そして。
「陛下へ御目通り願いたく参りました」
瞬く間に軽蔑へと変わる。
見た目だけの美しさだけで、教養は疎か礼儀もなっていない姫の前へ、気位の高い人間や仕事を全うしようとする武官たちが立ちはだかった。
そして槍の雨のように、姫への指摘が降りかかってくる。けれど姫は、ただ目元に微笑みを浮かべ、毅然な態度でこう答えた。
「何度ご連絡差し上げても訪れがないものですから、こうして此方から出向いたまでのこと」
そこで、その存在を知る者たちは、一度口を噤んだ。
この二連黒子の姫は、新たに召し上げられたのではなく、我々の存ぜぬ離宮にて幽閉されている、例の妃だと気がついたからだ。
しかし、それも数える程度のこと。加えて礼儀がなっていなければ、妃の立場を知らぬ非難の声はそう簡単には止まなかった。
「何事だ」
遅れてやってきたこの国の帝は、声を上げながら険しい顔で階下の妃を見下ろした。
「どの宮にも用はない。後宮など要らぬと、我は何度も言ったはずだが」
帝の圧力に、その場の誰もが顔を上げることが叶わなかった。たった一人を除いて。
「陛下の城を騒がしてしまったこと、深く謝罪致します」
「……そなたは」
「小鳥の名は『ホトトギス』。火急のため、陛下の広い御心でお許しください」
「……ああ、そなたか」
階段を降りた帝は、唯一顔を上げるその妃の手を、そっと取った。
「そなたの方からわざわざ我を訪れたのだ。余程のことなのだろう?」
その問いに対し、口元に笑みを浮かべながら「ええ」と答えた妃はゆっくりと立ち上がる。
「この場では到底口になど出せませんわ」
そして、未だ顔を上げることすら許されていないその場の全員を見下ろした。
「何も弁えない下品な者が群がる、このような場所では。同じ空気を吸っていると考えるだけで、気分が悪いですもの」
その返しに満足したのか。帝は「そうか」と笑いながら手を引いて、宮殿の中へと妃を迎えた。
その背後から、帝を止める声が降り注いだが、彼はそれを一切聞き入れはしなかった。
「立場を弁えなかった者の処遇については、追って処遇を言い渡す」
そして腕を組んで歩く二人の姿は、宮殿の中へ仲睦まじく消えていった。
#この場所で/和風ファンタジー/気まぐれ更新
「この場所で」
この場所でもう一度、と、随分甘ったるい約束をしたものだった。
この場所で
『待ち合わせ』
夜(よる)「明日待ち合わせどこにする?」
未衣(みい)「あの場所でいいんじゃない」
夜「おっけー、あの場所ね」
未衣「じゃあ、また明日ね」
夜「じゃあ、明日」
私の名前は未衣、花の女子高生。
学校が終わり帰り際に明日の休みに夜と遊ぶ約束をしていて待ち合わせの場所を決めた。
私達は仲良しだから『あの場所で』と言っただけでどこの場所かすぐに分かる。
これこそまさに親友だ。
次の日
未衣「遅い!もう1時間も過ぎてるんだけど」
私は待ち合わせの時間になっても来ない夜に電話した。
夜「それはこっちのセリフだよ!」
未衣「え?どこいんの?」
夜「『金魚の唇公園』だよ!」
未衣「どこそれ!?」
夜「覚えてないの?未衣が小学生相手に向きになって口喧嘩して負けて泣いたとこだよ」
未衣「そんな場所待ち合わせにするわけ無いでしょ!」
夜「そう言う未衣はどこいんのよ!」
未衣「『ひしゃげた自然薯公園』だよ!」
夜「どこよそれ!?」
未衣「覚えてないの?夜が立ちションしたとこだよ」
夜「そんなんしたことないし!女子だし!」
未衣「あぁこれは夢で見たんだった」
夜「もういいから、とりあえず中間地点のあの場所で待ち合わせね」
未衣「おっけー今度はちゃんと来てよ」
30分後
未衣「お待たせ〜」
夜「きたきた、やっと来たよ」
未衣「最初っからここに来ればよかったんだよ」
夜「この場所だもんね」
未衣「うん、この場所で初めて出会ったんだもんね」
この場所で君にあえて、君の優しさに触れられて、心踊る日々に、幸せを感じる。
『この場所で』(創作)
「夜はまだ寒いな。」
ネックウォーマーを引き上げながら、つぶやいた。
職場を出て足早に路地裏を抜ける。
誰にも会わないように人気のない道を選んだ。
目撃者はいないはずだ。
待ち合わせのビルの前に、あいつはもう来ていた。
「おまたせ。早いね。」
わたしはにこやかに手を振りながら近づいた。
隠し持ったナイフが妖しく光る。
あの人が命を断ったこの場所で、わたしも命をかける。
こいつだけは許さない。
この場所で
もう二度と戻れない過去を想う
この場所にあるのは
希望か絶望か
ゲニウス・ロキ
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【57】この場所で
この場所で出逢えた奇跡に感謝したい
あの日あなたを知らなければ今の私はいない
運命とは不思議なものね
偶然なのか必然なのかも分からない
いつかまたこの場所に来れたのなら
今度はあなたの隣に寄り添いたい
もし神様が許してくれるのならば
あなたと一緒に約束のあの場所へ
■テーマ:この場所で
あの日私たちはあの場所で出会った。
公園のそばの坂道。きっと他の人など目にも留まっていないであろうこの場所は、私たちにとっては大きな意味を持つのだ。
近所に住むあなたのとなり、いつも帰っていたあの場所。あの分かれ道。
毎日のようにおしゃべりしていたあの時。
今でも私は、思い出せるよ。
この場所でたくさんの人が死んでいった
だからこの場所が嫌いだ夢に出てくる程嫌いだ
大勢の人の叫び声が聞こえてくる。
この場所で
私があなたに初めて会ったのは…いいえ、正確には観たのはと言うほうが正しいのかな
とにかく初めて観たのはこの場所で…あなたはスポーツ選手だった
最初はルールも何も知らなくてどう観ればいいのかも全然分からなくて…でも…それでも楽しくてまた次も観に行こうって思えたんだよ
きっとあなたがいるって直感で分かったからかもしれない
この場所で出会ったあなたが今までも…これからも…ずっとずっと大好きだよ
補足…この場所というのはご想像にお任せします。