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 卓球の大会の後、高台の公園にある番地を目指していた
 だが、僕が座ろうとしたベンチには先客がいた。
「この場所で待っていれば、来てくれると信じていたよ」
 彼女は僕をまっすぐ見ながら言った。
「君、辛い事があったらいつもここに来るよね」
 どうやら何もかもお見通しらしい。

 僕は彼女の言葉に何も返さず、彼女の隣に座る。
「慰めてあげようか?」
「……いらない」
「そう言わずに」
 彼女は僕の意思を無視して頭を撫でる。

「君は頑張ったよ」
「中途半端な慰めはいらない」
「ゴメンね。私、負けたことないから慰めかたが分からないや」
「嫌味か。じゃあ、やめろよ」
「それとこれとは別」
 彼女の手は止まる気配がない。

「君の対戦相手、強かったね」
「そうだな」
「知ってる?君と当たった子、去年の大会で君に負けているんだよ」
「ああ」
「おや、知ってたんだ?」
「当然だ」
 僕の答えに彼女の手が止まる。
 そして数秒経って、また頭を撫でる手が動き始める。

「……君その時彼を完膚なきまでに負かしていたよね。
 理由を聞いてもいい?」
「去年の試合の時、最後の瞬間、アイツに飲まれた。
 気を抜けば負けると錯覚するほどに……
 それが印象に残ってた」
「なるほど。だから君は去年から練習を増やしていたんだね」
 納得しながらも、彼女は頭を撫でてくるが、最初ほどの繊細さは無い。
 というか痛い。

「あと、いい加減頭を撫でるのをやめろ。
 雑になってるぞ」
「ゴメン、止め時分かんなくって。
 正直飽き始めてたんだよね」
「じゃあ、さっさと止めろよ!」
 飽きたというのは本当のようで、彼女はすぐ頭から手をどけた。

 それからお互い言葉は無く、正面に見える景色を眺める。
 見慣れた街並みも、夕日に染まれば幻想的に映るのだから不思議である。
 『嫌なことがあったらここに来る』。
 彼女の言う通りだ。
 この景色を見る時だけは、何もかもを忘れられる。

「しかしここからの景色、いいね」
 彼女が突然口を開く。
「ああ、お前がいなければもっとよかったんだがな」
「可愛い女の子捕まえて、そういうこと言う?」
「なんだ、可愛いって言って欲しいのか?」
「……それはやめてくれ。君に可愛いって言われたら、死にたくなるかも」
 彼女はここにきて初めて苦い顔をした。

「で、どうするつもり?」
 だがそれも一瞬で、すぐに真面目な顔に切り変えた。
 どうやらこれが本題らしい。
「決まってるだろ。リベンジだ」
「男の子だね」
「言ってろ」
 俺はベンチから立ち上がり、そこから見える街並みを見下ろす。
「次は負けない」
 僕は赤く染まるこの場所で、決意を新たにするのだった。

2/12/2024, 9:55:59 AM