暮作

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3/11/2026, 12:51:12 PM

お題【平穏な日常】


ひとりごちた。


あさ、起きてふたたび、目を瞑る。
ことりの囀りが耳に入ってきて、ああ、またいち日が始まった、と絶望する。これが、何回か、いつからか、とうに忘れた。ただ、これが毎朝。

人間というものは、面倒くさくて、それでも自分もその一人で、所詮は面倒くさい人間だ。だって、こんなこと思いながら、人とは普通に笑って、話して、しかしまた、誰も自分なんて分かるはずないだろう 、と視線を流し、窓を見て、周りの笑い声が、水槽の外側の音みたいに聞こえた。
それすらも、そんな自分に、どこかで少し満足している自分がいるようで、反吐が出る。

「や、○○おはよう」

人は、会った途端、目が合った途端、名前を呼び、おはよう、と挨拶を交わす。あさは、声が出ないものだ。どうしても、掠れてしまうものだ。おはよ、とだけでも返して、あとは流れに心身(しんみ)を任せる。

昼、まど側で、先生の話を聞きながら、まるで聞いていない。
教室は西向きで、眩しい眩しい、暑いな、と言って閉めたカーテンの隙間から差し込む、おめでたい光が、机の左角から、置く右手の人さし指と中指にかけての皺やらささくれ、乾燥度合いを目立たせる。

左手は机の中。無造作に開いた教科書のページが白とぶ。もはや文字も見えない。そこにあるのは、白紙のページのようだった。

ふと、顔を上げた。そして、視線を右に向ける。教卓には国語の女教師が一人。
何を話しているのか、聞こえてはいるのだが、異国の言語を聞いているかのように、全くもって意味が分からかなった。

未来の自分だと思った。
過去の回想のように見えた。

これは、過去の回想。
いつか、思い出す。けれども、しかしそれは一瞬で終わり、後悔なんてしたくないから、すぐに忘れようと本でも読む。しかし、かえって忘れられないものとなる。

夜、もの思った。
この、今の自分にとっての、いつも、がいつか回想のように流れて、宝物のように感じるのかもしれない。あの光景は鮮明に覚えている、といえば嘘になるが、曖昧になりつつあるあの光景が、忘れられない。

つまらなくも、それでもおもしろい、と意地でも感じる人生を歩むんだと思った。自分は今を何となく過ごしていき、何となく笑い、何となく悲しみ、そして本当の最期になって、気づき、何となく後悔とか、それでも喜びを感じて死ぬような最期で人生を終えるのだと思っていた。

そして、そんなことを考えてる今が、自分には、帰するところ、いち番大切だったりするのであろうか。
気づけば、暗い部屋で微かに明るい一点を見ていて、寝台に横になり、次第に目を閉じ、伏せていく。

すごく、長くて、残酷みたいだけど、しかし、天国みたいにおめでたい、一瞬で、気づけないもの。
それが、いつもなんだと思う。

そして、また気づかないうちに天道さんが昇って、ことりの囀りが鳴り、伏せた目の先には丸まった手の、だいぶ伸びた爪を見て、溜息をつく。

ああ、爪、切らないと。