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5/15/2023, 3:54:09 PM







※BLです。苦手な方は飛ばしてください。









いつも思い出すのはあいつの笑った顔。太陽をいっぱい背負い込んで、大口を開けて笑う顔が、今も忘れられないまま胸の奥に居座っている。
「てめぇ、さっきからぐちぐちうぜぇんだよ!」
テーブルにくっついた耳にゴトリと鈍い音が響く。顔を上げることなく音を立てた方に視線を向けると、目が合った瞬間に結構デカめな舌打ちが返された。
「つめてぇなあ」
「あ?てめぇが飲むたびに毎度毎度同じことしか言わねえからだろうが!」
聞かされるこっちの身にもなりやがれ!とヤンキーよろしく睨んでくる。
「はいはいすみませんね」
でもしょうがねぇだろ。どうしたって忘れらんねーんだから。
「そんなになるくらいなら、いっそのことあいつに連絡すりゃいいだろうが!」
「それが出来てたらこんなことになってねぇよ」
俺だって連絡したい。声が聞きたい。またあの笑顔で笑いかけて欲しい。
でも、出来るわけねーじゃん。そんなカッコ悪いこと。
「そーかよ。ならそのままぐだぐたしてりゃあいい」
またひとつ俺に向かって舌打ちをして、新しくきたビールを美味そうに飲む。
「お前はいいよな。すぐに連絡できて」
「羨ましいか?」
ニヤリと意地悪そうに笑うと、俺に携帯画面を向けてくる。そこにはあいつから来たメッセージが映し出されていた。
「今日は地元の祭りに行ってるらしいぞ?」
ほら見てみろよ、とメッセージのあとに写真まで見せてくる。
「なんでお前には写真送ってくんだよ」
「俺が送れって言っといたから」
ふん、と鼻で笑って、これみよがしに携帯を揺らす。
「はぁ!?ふざけんな!俺には一切連絡ねぇのに!」
なんでお前にだけ。そんなに俺に連絡すんのが嫌なのかよ。
「じゃあ聞くけどよ、お前はあいつに一度でも連絡したことあんのか?」
その問いかけに、ぐうっと息を呑む。
「待ってたらあっちからくるなんて、クソ甘えこと考えてんじゃねぇだろうな?」
ますますなにも言い返せない。だって正しくその通りだ。俺が連絡しなかったら、あいつから連絡してくれると鷹を括っていた。
「後悔する前にやることやれや」
ピロン、とあいつが居なくなってからいままで一度も鳴らなかった俺の携帯が、軽やかにメッセージの着信を告げてくる。慌ててポケットから取り出して、確認すれば、待ち望んでいたあいつからのメッセージが映し出されていた。
『先輩は本当に素直じゃないっすね!』
そんな言葉と共に可愛らしい柴犬のスタンプが口を開けて笑っている。あいつによく似たスタンプは、俺があげたもの。目にしてすぐに、胸の奥からじわりと熱いものが込み上げてきた。
「な、なぁ!連絡、きた」
「だろうな」
何食わぬ顔でまたビールを飲みながら、あいつに宛てたメッセージを俺に見せてくる。そこにはテーブルにべったりと突っ伏す俺の写真と、『お前に会いたいって泣いててうぜぇからどうにかしろ』の一文があった。
「お前、これ、あいつに送ったの?」
嘘だろ。このだっせぇ写真を送ったのかよ。あいつには別に何日でもゆっくりしてきていいぞって、実家に帰る日に笑顔で伝えて快く送り出したのに。
こんなの、めちゃくちゃカッコ悪いじゃん。
「だから言ったろ?後悔する前にやれって」
さっきよりも楽しげに、それはもう悪い顔で笑う悪友の顔に、さっさと連絡しなかった自分を恨んですぐにメッセージを返す。
『お前がいないと無理。なるべく早く帰ってきて』

5/13/2023, 11:27:32 AM

 


※BLです。苦手な方は飛ばしてください。







 パタパタと朝から忙しなく動いている。洗濯物を干したり取り込んだり、掃除機をかけたり。
 今日の夕飯なにすっかなぁ、なんてまだお昼にもなっていないのに、冷蔵庫の中身を確認しながら唸ってる。
 俺は先輩が取り込んだ洗濯物を畳んで仕舞うだけ。休みの日くらいもっとゆっくりすれば良いのに、と思うけれど、休みだからこそやっておかなきゃだろ? と先輩は笑う。それはわかる。わかるんだけど。
「先輩!」
 まだ冷蔵庫の中身を確認している先輩の背中に声をかければ、んー?と振り向きもせず間延びした声が返ってくる。
「せーんーぱーい!」
 もう一度、さっきよりも大声で先輩の名前を呼ぶ。
「ん? どうした?」
 やぁっと振り向いた。
「あのですね、まだお昼前ですし、洗濯も仕舞い終わりました」
「え?ああ、そうだな?」
 俺の言いたいことがいまいちわからないのか、首を傾げながら俺の元までやって来る。
「だーかーらー!」
 はい! と両腕を先輩に伸ばす。でも先輩はもっと首を傾げるだけで、俺の言いたいことが伝わっていない。
「今日はオフですよね?」
「あー、まあ、オフだな」
「洗濯も掃除も終わりました。夕飯作りはあとで俺も手伝います」
「ああ、うん。ありがと?」
 じゃあ、わかりますよね? ともう一度腕を伸ばせば、漸く気がついたのか少し目を丸くしてから、すぐに目元を緩めて俺を抱きしめる。
「先輩、ちょっと働きすぎじゃないっすか?」
 折角ゆっくりできる日なのに。
 もっと俺のことも頼ってくれていいのに。
 先輩は全部自分でしようとするから。
「そんなつもりなかったんだけどなあ」
 肩口で苦笑しながら、俺の首筋に頭を擦り付けてくる。先輩だってゆっくりしたいはずなのに、俺のために頑張ってくれてるのはわかっている。だけど、少しくらいは先輩にもゆっくりのんびりして欲しい。
「俺で疲れが取れるわけじゃないと思いますけど、俺だって先輩のためになんかしたい」
 俺より大きな背中に伸ばした腕でぎゅうっと抱きしめ返すと、先輩の腕の力も強まってそのままソファーに倒される。
 ぐりぐりと甘えるようにくっつく先輩の背中を、ぽんぽん優しく叩く。さらさらの髪がくすぐったくて、くふふと笑えば、首筋にちゅうっと吸いつかれた。
「わはっ、くすぐってぇっすよ!」
 身動ぎしようとするけれど、がっしり抱き込まれて全然動けない。でもそれがなんだか嬉しくて、もっとぎゅうぎゅうに抱きついた。
「……癒してくれんだろ?」
 顔を上げた先輩の視線と絡み合って、トクリと心臓が跳ねる。榛色の瞳の奥は、さきほどとは違う熱をもって俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「お任せください!」
 いつもの先輩みたいに、にやりと口元を上げれば、同じように笑った先輩に優しく口を塞がれた。
 カーテンの隙間から覗く柔らかな日差しが、優しく俺たちを包み込む。
 ふたりきりのおうち時間は、これからだ。
 

5/8/2023, 6:13:30 PM

 





※BLです。苦手な方は飛ばしてください。









 ピンク色の花びらが風に乗ってふわりと空を舞う。柔らかな日差しを浴びながら、新たな門出を祝福するように、ひらひらと楽しそうに空を泳ぐ。
 もう、春がきちまったんだよなぁ。
 周りを見渡せば、泣いたり笑ったり、みんなそれぞれの想いを胸に別れを惜しんでいる。俺もお世話になった先輩たちに挨拶をして、もみくちゃにされたばかりだ。
 だけど、一番にお礼を伝えたい人がこの場にいなくて。式には出ていたから、どこかにはいるはずなのに、周りを見ても先輩方に聞いてもどこにも見当たらなかった。
 ジャリ、と地面を蹴ってみんなとは別の方へと足を踏み出す。
 たぶん、きっとあの場所にいる。確信はないけれど、そこ以外考えられない。
 いますぐ行かなくちゃ。じゃないと、あの人はなにも言わずにいなくなってしまうから。
 周りの景色をぐんぐん追い越して、もっと早くと全速力で走る。
 心臓がばくばくと悲鳴を上げて、息だってうまく吸えない。革靴が地面を蹴り上げるたびに、ぎゅうと肺が握られてるみたいに苦しくなる。
 だけど、止まることなんて出来なくて。はくはくと酸素を取り込みながら、がむしゃらに足を動かした。

 見慣れた土手の上。グラウンドを見渡せる場所に、その人はいた。深呼吸をして息を整える。
 まだ心臓はばくばくと音を立てるけれど、すぐそこに先輩がいるんだ。落ち着くのなんか待ってちゃいられない。
 一段一段確かめるように階段を登って、先輩と同じ高さに立つ。一歩足を踏み出すごとに、先輩との距離が縮まって、ドキドキと鼓動がはやる。
 俺にはまだ気づかない。真っ直ぐにグラウンドだけを見つめている。何度も通った場所。毎日、早朝から日が暮れるまで。暮れてからも一緒に汗を流した場所。
 明日からはもう、ここで先輩と過ごすことはない。先輩はとっくに引退しているけれど、本当の意味で今日が最後の日になる。
 俺よりも一年長く過ごしたグラウンドをじっと見つめる横顔は、ほんの少し寂しそうで、ここにはない別の場所を見ているようだった。
「先輩!」
 驚いたように振り向いてすぐ、少し困ったように眉を下げて俺を見る。
「なんだ、来ちゃったの?」
 来てほしくなかったような言い方に、チクリと心臓が痛む。だけど、そんなことで引き下がる俺じゃない。
「そうですよ! 誰かさんが勝手にどっか行くから、迷子になったかと思って探しにきてあげました!」
 腕を組んで、ふんっと鼻から息を吐く。アンタがいくら嫌がろうが、ひとりになんてさせてやらない。
 最後の日くらいちゃんとお別れして、ちゃんと寂しがってもらわないと。
「探しにきてくれんだ」
 そっかぁ、と眼鏡の奥の瞳を柔らかく緩めて、先輩が小さく笑う。
「ええ、そうですよ! アンタがどこに行こうと俺がちゃんと先輩のとこにいきますから、安心して迷子になっていいっすよ!」
 ドンと胸を叩いて、ニカッと笑ってみせる。
 先輩がいく先は、俺が目指す場所。いまの俺にはまだ遠くて、憧れでしかないけれど。それでも、絶対に行ってみせる。
「頼もしいな、俺の相棒は」
 ふ、と口元を緩め、目尻を下げて。少しだけ泣きそうにみえる先輩の代わりに、俺はいつも通り笑ってみせる。
「そうでしょう! そうでしょう! この先も先輩の相棒は俺だけっすからね!」
 どんなに距離が離れても、それだけは変わらない。変えてなんかやるもんか。
 先輩の革靴がジャリと音を立てて近づいた。ぎゅうっと先輩の匂いに包まれる。肩にじんわりと熱が染み込んできた。
 そろりと背中に腕を回せば、もっとぎゅうぎゅうに抱きしめてくる。お返しとばかりに俺も力いっぱい抱きついて、隙間なんかないくらいぴったりとくっついた。
「一年後……」
 肩に先輩の言葉が落とされる。
「うん」
 ぽんぽんと促すように背中を摩れば、またぎゅうと力が込められる。
「……待ってるから、早くきて」
 情けないほど小さくて、ともすれば聞き取りにくい声だったけれど、俺の耳にはしっかり届いた。
 先輩の言葉がじんわりと俺の胸に染み込んで、ぽかぽかと体温をあげてくる。
「お任せください!」
 先輩の元まで、全速力で走って行きます!
 ふは、と息をはく音がして、またぎゅうっと腕の力が強まった。

5/7/2023, 12:51:54 PM

 



※BLです。苦手な方は飛ばしてください。












 好きだと言ってきたのはあいつから。
「俺、先輩のことが好きです!」
 真っ赤な顔で、真っ直ぐ俺を瞳に映して叫ぶように告げられた。いつもだったら面倒くさいと思うことなのに、素直に嬉しいと思った。だけど、誰かと付き合うとかは、正直考えたこともなかった。
「あー、えっと……」
 どう返すのが正解か。いつもなら「ごめん」の一言で済んできた。でも相手は部活の後輩で大切な相棒だ。
 俺の返事ひとつで部活に支障が出たら困る。そしてなにより、ここで断りたくないと思ってしまった。
「いえ、返事は結構です!」
 俺の顔の前に手を突き出して、伝えたかっただけだと言う。
「そう、なの?」
 普通、好きなら付き合いたいと思うんじゃねぇの?
 それとも、付き合いたいと思うほど好きじゃねぇってこと?
 首を傾げた俺の様子に気づかずに「じゃあ、そういうことなんで!」と背中を向けて駆け出していった。
 ぽつんとひとり取り残されて、振られたみたいに立ち尽くす。
「え、どういうこと?」
 じわじわと腹の底から笑いが込み上げてくる。言ったもん勝ちじゃねぇか。「好き」なんて衝撃的な言葉を告げておいて、返事も聞かずにあっさり去っていく。
 なんだよあいつ。ほんと面白ぇ奴。そんな奴、この先絶対に忘れらんねぇだろうが。

「先輩っていつから俺のこと好きなんですか?」
 そういえば、と風呂上がりにソファにくつろいでいると、隣に座って俺の肩に頭を持たれさせながら聞いてきた。
「なんだよ急に」
 さらさらの髪の毛が頬をくすぐってくる。さっき俺が念入りに乾かしてやったから、手触りも抜群だ。
「んー、なんとなく?」
 なんとなくって。まあ、お前らしいなと、さらさらの髪をかき混ぜる。
「で、いつなんすか?」
 好奇心旺盛な瞳がじっと俺を見つめ、早く早くとせっついてくる。
「あー、いつからだっけなあ」
 誤魔化すように肩からの視線を避けて、反対側を見る。いつから、なんて決まってる。お前が俺に一方的な告白をしてきた日。あの時からお前に恋をして、俺をもっと欲しがるように仕向けてきた。
 まあ、我慢出来ずにお前を欲しがったのは、俺の方だったけれど。
「えー、わかんないんすか? 初恋の日!」
「なにそれ」
 初恋の日ってなんだよ、と視線を戻せば、きょとんとした顔をしながら体を起こす。
「だって、先輩の初恋って俺でしょ?」
 そう自信満々に言われると、なんとなく否定したくなる。でも、初恋、と言われればそうなんだろう。こんなにも好きになったのも、心から欲しいと思ったのもこいつが初めてだ。
 俺が気持ちに気づいたのは、こいつが俺に告白してきた日で、初めて付き合ったのもキスもそれ以上も。全部の初めては、お前から貰ったってことになる。
 あの日が俺の初恋の日か。
「あー……」
 気がついて唐突に恥ずかしくなった。両手で顔を覆って俯けば、隣からくふくふと嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。
「ちなみに俺の初恋の日はですね、」
 赤くなっているであろう俺の耳に、こそりと甘く声を流し込んでくる。ますます赤くなった俺をけらけら笑いながら楽しそうに見つめる瞳は、俺の大好きな色を輝かせていた。
 ああ、くそ!かっこ悪いなあ。
 だけど、それ以上に嬉しくて。恥ずかしさなんて放り投げて、隣で笑うかわいい恋人をぎゅうぎゅうに抱きしめた。

5/6/2023, 4:08:55 PM

 






※BLです。苦手な方は飛ばしてください。











 昨夜から降り出した雨はいつのまにか止み、空には大きな虹がかかっている。澄み渡る青空と灼熱の太陽が、昨日の雨が嘘だったかのように綺麗に塗り替えていた。
「今日はいい天気だな」
 両手を空に掲げ、ぐいっと伸びをする。今日は一日オフだ。昨日はいつもより寝るのが遅くなったが、あいつもそろそろ起きてくる頃だろう。
 今日の朝ごはんはなににしようか。気分的には和食だけれど、やっぱり今日はあいつの好きなものにしよう。
 キッチンに戻り、エプロンをつける。腕を捲って手を洗い、冷蔵庫を開けたところで後ろから扉の開く音がした。
 眠そうに目を擦り、ふわぁっと欠伸をする姿に笑みが溢れる。ぴょこぴょこと寝癖を揺らしながら、キッチンに近づき、俺を視界に入れるとふわりと微笑んだ。
「おはよー、ございます」
「おはよ。いま飯作るから先に顔洗ってこいよ」
 俺の言葉にこくりと頷くと寝癖も一緒にぴょこんと揺れた。それに気づかないまま、ぺたぺたと洗面所へと向かう背中に声を掛ける。
「寝癖もちゃんと直してこいよー」
 すぐに跳ねた髪を手で押さえ、少し小走りになった姿を笑ってから、朝食の準備に取り掛かった。

「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。あ、洗濯するから汚れた服だしとけよ」
 皿を片付けながら、洗濯の次は掃除して、と考えていると、きょとんとした瞳がこちらを向いていた。
「ん? どうした?」
「いや、洗濯するんだなって」
 そりゃするだろ。久々の休みで随分洗濯物も溜まっているはず。掃除もここのところモップをかける程度で、手を抜いていたから今日はしっかりと掃除機もかけるつもりだ。
「……あー、洗濯と掃除が終わったら、どっか行くか?」
 家のことが終われば、あとの予定はない。少しだけ残念そうな表情が気になって、声をかけてみる。
「行く!行きます!」
 食いつくような返事のあとに、ぱっと嬉しそうな笑顔に変わる。そんなに喜ぶとは思っていなかったが、聞いてみて良かったと胸を撫で下ろした。
 そういえばふたりでゆっくり出掛けるなんて、いつぶりだろうか。一ヶ月、いや二ヶ月以上前か。
 休みがあっても、どこへも出掛けず家でゆっくり過ごすことの方が多かった。こんなにも喜ぶのなら、もっと前から色々なところへ出掛けておけば良かったと、少しばかり後悔した。
「どこ行きたい?」
 折角ふたりで出掛けられる数少ないオフの日だ。行きたいところがあるのならそこへ行こう。
「んー、そうですねぇ」
 腕を組んで、うんうんと悩む仕草が可愛くて、もし遠い場所だとしても、出来るだけ叶えてやりたいと思った。
「先輩とならどこへでも!」
 先輩と一緒ならどんな場所でも嬉しいからと、照れ隠しみたいに、にししと子供みたいに笑ってキッチンへと皿を片付けに行く。
 ああ、もう敵わねぇなあ。
 遠ざかる後ろ姿を眺めながら、緩む頬を手で押える。だけど、なかなか戻りそうにもなくて、熱を逃すためにひっそりと息を吐いた。

『先輩とならどこへでも』

 俺もお前とならどこへでも、どんな場所へだって行ってやる。明日世界がなくなるとしても、お前が最期の時まで一緒にいてくれるのなら、なにも怖くはない。
 お前に怖い思いもさせないし、なにがあっても絶対に離れず傍にいる。
 そして願わくば、いつの日か新たな生を受けた時、またお前と一緒になりたい。
「せんぱーい!早く掃除と洗濯終わらせちゃいましょ!」
 明るい声に笑顔で返し、すぐに動き出す。最後の一瞬まで、いつもと変わらないふたりで過ごすために。

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