Open App

 






※BLです。苦手な方は飛ばしてください。











 昨夜から降り出した雨はいつのまにか止み、空には大きな虹がかかっている。澄み渡る青空と灼熱の太陽が、昨日の雨が嘘だったかのように綺麗に塗り替えていた。
「今日はいい天気だな」
 両手を空に掲げ、ぐいっと伸びをする。今日は一日オフだ。昨日はいつもより寝るのが遅くなったが、あいつもそろそろ起きてくる頃だろう。
 今日の朝ごはんはなににしようか。気分的には和食だけれど、やっぱり今日はあいつの好きなものにしよう。
 キッチンに戻り、エプロンをつける。腕を捲って手を洗い、冷蔵庫を開けたところで後ろから扉の開く音がした。
 眠そうに目を擦り、ふわぁっと欠伸をする姿に笑みが溢れる。ぴょこぴょこと寝癖を揺らしながら、キッチンに近づき、俺を視界に入れるとふわりと微笑んだ。
「おはよー、ございます」
「おはよ。いま飯作るから先に顔洗ってこいよ」
 俺の言葉にこくりと頷くと寝癖も一緒にぴょこんと揺れた。それに気づかないまま、ぺたぺたと洗面所へと向かう背中に声を掛ける。
「寝癖もちゃんと直してこいよー」
 すぐに跳ねた髪を手で押さえ、少し小走りになった姿を笑ってから、朝食の準備に取り掛かった。

「ごちそうさまでした!」
「お粗末さまでした。あ、洗濯するから汚れた服だしとけよ」
 皿を片付けながら、洗濯の次は掃除して、と考えていると、きょとんとした瞳がこちらを向いていた。
「ん? どうした?」
「いや、洗濯するんだなって」
 そりゃするだろ。久々の休みで随分洗濯物も溜まっているはず。掃除もここのところモップをかける程度で、手を抜いていたから今日はしっかりと掃除機もかけるつもりだ。
「……あー、洗濯と掃除が終わったら、どっか行くか?」
 家のことが終われば、あとの予定はない。少しだけ残念そうな表情が気になって、声をかけてみる。
「行く!行きます!」
 食いつくような返事のあとに、ぱっと嬉しそうな笑顔に変わる。そんなに喜ぶとは思っていなかったが、聞いてみて良かったと胸を撫で下ろした。
 そういえばふたりでゆっくり出掛けるなんて、いつぶりだろうか。一ヶ月、いや二ヶ月以上前か。
 休みがあっても、どこへも出掛けず家でゆっくり過ごすことの方が多かった。こんなにも喜ぶのなら、もっと前から色々なところへ出掛けておけば良かったと、少しばかり後悔した。
「どこ行きたい?」
 折角ふたりで出掛けられる数少ないオフの日だ。行きたいところがあるのならそこへ行こう。
「んー、そうですねぇ」
 腕を組んで、うんうんと悩む仕草が可愛くて、もし遠い場所だとしても、出来るだけ叶えてやりたいと思った。
「先輩とならどこへでも!」
 先輩と一緒ならどんな場所でも嬉しいからと、照れ隠しみたいに、にししと子供みたいに笑ってキッチンへと皿を片付けに行く。
 ああ、もう敵わねぇなあ。
 遠ざかる後ろ姿を眺めながら、緩む頬を手で押える。だけど、なかなか戻りそうにもなくて、熱を逃すためにひっそりと息を吐いた。

『先輩とならどこへでも』

 俺もお前とならどこへでも、どんな場所へだって行ってやる。明日世界がなくなるとしても、お前が最期の時まで一緒にいてくれるのなら、なにも怖くはない。
 お前に怖い思いもさせないし、なにがあっても絶対に離れず傍にいる。
 そして願わくば、いつの日か新たな生を受けた時、またお前と一緒になりたい。
「せんぱーい!早く掃除と洗濯終わらせちゃいましょ!」
 明るい声に笑顔で返し、すぐに動き出す。最後の一瞬まで、いつもと変わらないふたりで過ごすために。

5/6/2023, 4:08:55 PM