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5/5/2023, 1:09:44 PM

 






※BLです。苦手な方は飛ばしてください。












 恋とか愛とか、そんなもの俺の人生には必要ないと思ってた。そんなものがなくても自分の好きなことはできている。だから、なくても生きていけると本気で思ってたんだ。思ってたんだけどなぁ。
「先輩!朝ですよ!ほら、起きて起きて」
 カーテンの開く音と、朝から元気な声で目が覚める。眩しい朝の気配に、目を擦りながら体を起こすと、太陽の光を背にして嬉しそうに笑う姿が目に入ってきた。
「今日もいい天気っすよ!」
 ほら、見て見て!と窓を指す姿が子供みたいに可愛くて、無意識に口元が緩む。
 朝起きて好きな奴の笑顔を見ることが、こんなにも嬉しいなんて。
 毎日、好きな奴とおはようと言い合って一日が始まることが、こんなにも幸せだなんて。
 お前に出逢ってから恋をして、愛を知って。一分一秒、好きが増えていく。
 もう手離せねぇな。
 失いたくない弱さも同時に知ったけれど、手離すつもりなどさらさらない。
 以前の俺はどんなだったか、もう思い出せないほど一緒に過ごした日々は色濃く俺の胸に焼き付いて。幸せにしたいと想う気持ちがとめどなく溢れ出す。
 周りの奴らにも驚かれるほど、こいつと一緒にいる時の俺は表情が柔らかいらしい。気を許している、といえばそうなんだろう。かっこ悪いところも弱いところも、全部見せてきた。そんな俺でも好きだと言ってお前は笑ってくれる。でも、きっとお前が俺を想う気持ちよりも俺の方が大きいはずだ。
「……こんなに好きになるなんてな」
「え? なんか言いました?」
 いつのまにか俺の隣に腰掛け、顔を覗き込んでくる。
「んー? お前のことすげぇ好きだなって」
 いつもは言わない言葉もするりと口から飛び出した。驚いたように固まって、すぐにじわじわ頬を染めていく様子がかわいくて、ますます好きが溢れ出す。
「なぁ、お前は?」
 俺と出逢って、俺と一緒に過ごして、出逢う前よりも幸せだと思ってくれてる?
「っ……わかってますよね!?」
 赤らめた頬をぷくりと膨らませる姿に満足して、逃さないよう腕を回して抱き寄せた。

5/4/2023, 1:35:15 PM







※BLです。苦手な方は飛ばしてください。













水色の空がわたあめみたいな雲を浮かべている。ふわふわで甘そうで、なんだかお腹も空いてきた。
隣で寝転ぶ先輩に目を向けると、同じように流れる雲を眺めている。
こんなに穏やかに過ごす日も久しぶりだ。
遠くで子供たちがキャッチボールをしている声が聞こえてくる。
楽しそうな笑い声に、なんだかこちらまで楽しくなってきた。ワクワクしてそわそわして。
「ねぇ、先輩」
「……してぇの?」
まだなにも言っていないのに、なんで!?と驚きに起き上がると、先輩は寝転んだままニヤリと口元を緩めた。
「キャッチボール、してぇんだろ?」
「なんでわかったんすか!?」
目を丸くして見つめれば、先輩はふはっと息を吐き出した。
「お前の考えてることくらいわかるよ」
何年一緒にいると思ってんの?と呆れた視線を向けてくる。
「じゃあ!」
「いや、今日はボールもグローブも持ってきてねぇし」
あ、そうだった。買い物帰りにたまたま公園を見つけてふらりと寄っただけだ。
「あーあ、したかったなあ」
またゴロリと芝生に寝転ぶ。
「また来ればいいじゃん」
代わりに先輩が起き上がる。
「いつだって来れんだろ?」
不貞腐れて寝転ぶ俺の頭をゆったりと撫でながら、宥めるように優しく声をかけてくる。
「え、また一緒に来てくれるんすか?」
がばりと起き上がって先輩の顔を真正面から覗き込む。
「あたりまえだろ」
なに言ってんの?とばかりに優しく微笑むから、胸の奥がじわりと温かくなった。
そっか、先輩の中ではあたりまえなんだ。
そっか、そっかぁ。
「なぁに、すげぇ嬉しそうじゃん」
「そりゃあ、嬉しいっすよ!」
だって先輩とまたこうして一緒に出かけられるんだから。
ふへへ、と笑うと今度はさっきよりも強めに頭を撫でてきた。あれ、もしかしてこれって。
「ねぇ先輩、もしかして、」
「うるせ、こっち見んな」
先輩の腕はまだ俺の頭の上にあって顔がよく見えないけれど、ちらりと見えた頬は微かに赤く染まっているようにも見える。
「ふーん、へぇ」
「なんだよ」
「いやぁ、別にぃ」
俺だって先輩のことならなんでもわかるんですからね。何年一緒にいると思ってるんですか。
くふくふと耐えきれない笑みが勝手に口から溢れてしまう。先輩は居た堪れなくなったのか、俺から視線を外してまた空を見上げていた。
空にはまだふわふわの雲が浮かんでいて、やっぱりわたあめみたいに美味しそうに見えて。
「先輩、お腹空きません?」
早く帰って先輩の作る美味しいご飯が食べたくなった。
「じゃあ、帰るか」
ふたり一緒に立ち上がり、うーんと空に向かって手を伸ばす。雲に届かなかった手は、先輩の手のひらの中へと吸い込まれる。
「また来ましょうね!」
ぶん、と大きく繋いだ手を振って、ふたり一緒に歩き出した。

5/3/2023, 11:25:03 PM







※BLです。苦手な方は飛ばしてください。













伝えられなかった言葉はたくさんある。
好きだとか、愛してるだとか。それ以外にも。
いつも思っているのに君を前にすると照れくさくてなかなか言えやしない。
そんな俺の代わりに、君は何度でも気持ちを伝えてくれる。その度に「知ってる」と俺は笑うだけ。
「俺も好きだよ」なんて言葉、たぶん一生言えないかもしれない。
我ながら情けないと思う。
心の声が形にできるのなら、きっと君への想いでいまごろ部屋中が埋まっているはずだ。
朝起きて、隣で眠る姿がかわいい。
おはようと少し恥ずかしそうに笑う姿がかわいい。
俺の用意したご飯を美味しそうに頬張る姿がかわいい。
朝も昼も夜も、毎分毎秒、かわいいと好きが溢れて止まらなくて、俺のものになってくれたことが嬉しくて。それなのに短い愛の言葉すら囁けない。
『先輩が言えない分、俺がいっぱい伝えますね!』
素直じゃない俺を咎めることもなく、君はいつも笑ってくれる。
「好きだよ。ずっと前から俺にはお前だけ」
寝顔に向かってこっそり囁いてみる。
「出逢ってくれて、俺を選んでくれてありがとう」
面と向かってはまだ言えないけれど、いつか必ず伝えるから。いまはこれで許して。
心地良さそうに眠る君をそっと胸に抱き寄せて、その温もりを感じながらゆっくり瞼を閉じた。

5/3/2023, 7:21:22 AM








※BLです。苦手な方は飛ばしてください。












目の前にいるのに遠い背中。
手を伸ばせば届く距離なのに、伸ばした手は空を切る。この人の瞳に映りたくて、ここまでがむしゃらに頑張ってきた。
笑う顔も、真剣な眼差しも、全部俺だけのものになればいいのに。俺だけを見て、俺だけに笑いかけてくれたならどんなに嬉しいか。
そんなこと言えやしないけれど、本当はいつも思ってる。俺だけが好きで、俺だけがいつもアンタの事ばかり考えて、頭の中は毎日アンタで埋め尽くされてるんだ。

先輩がここから旅立つ最後の日、涙でぐちゃぐちゃになった俺の頭を先輩は殊更優しく撫でてきた。
いつもならそんな俺を揶揄うくせに。
なぁに、もしかして泣いてんの?なんて笑いながらぐちゃぐちゃと髪をかき混ぜるくせに。
最後なら優しくしないで。
俺のことが好きじゃないのなら、期待なんかさせないで。いつもみたいにバカだなって笑ってよ。
「なぁ、来るんだろ?来年」
頭を撫でていた手が、ゆっくりと下がりそのまま俺の頬に添えられる。
「待ってるから」
早く俺のところまで来いよ、と言いたげな視線にますます目頭が熱くなった。親指で優しく涙を拭われて、恥ずかしさに顔を背けてしまいたくなる。だけど俺ばかり意識しているのが悔しくて、眉間に力を入れて見つめ返した。
「あったりまえでしょうが!すぐに追いついてみせますよ!」
フンスッと鼻から息を吐く。来年、俺が来るのをひとりで待っていればいいんだ。
「そっか」
安堵したようにくしゃりと目元を緩めて笑う姿に、どうしようもなく心が揺さぶられる。
俺のことなんか好きじゃないくせに。
俺のことなんてただの後輩としか思っていないくせに。
なんでそんな顔するんだよ。
本当に先輩はずるい人だ。でも悔しいけれど、好きで好きで、どうしようもないくらい大好きなんだ。
どんなに願っても叶わないこともあるとわかっている。だけど、このまま後輩のままで終わらせたくない。
先輩の胸ぐらを掴んで引き寄せて、間にあった距離を無理矢理取っ払ってやる。
いつも俺を揶揄う瞳が至近距離でまあるく開かれた。
見たこともないくらい間の抜けた顔に満足する。
「ざまーみろ!」
次会うときまで、俺のことで頭がいっぱいになってしまえと、先輩の唇を奪ってやった。
「おっまえなぁ」
先輩は怒ることもなく、ただ呆れた声を出す。
「すんません!」
涙を拭ってわはっと笑顔を向けると、しょうがねぇなあと笑い返してくれた。きっと俺の気持ちに気づいただろう。気づいてなお、いつも通り笑ってくれる。
だから俺も、これ以上はなにも言わない。
来年、また同じ場所に立てたなら、その時は——

遠くで仲間たちが俺たちの名前を呼ぶ。
「行きましょうか」
先に歩き出した俺の背中に、優しく俺の名を呼ぶ先輩の声が届いた。
「来年までよそ見すんなよ」
振り向いて、今度は俺の瞳が丸く開かれる。
トクリと高鳴る心臓に手を当てながら、とびきり優しく微笑む先輩を目に焼き付けた。

5/1/2023, 12:05:20 PM






※BLです。苦手な方は飛ばしてください。









ぶわりと一気に色が弾けた。
いつも見ていた校舎も、いつも練習するグラウンドも。
何もかもが色鮮やかにキラキラと輝いて見える。
歩調だって今日は軽い。ぴょんぴょんと地面を蹴って、飛んでいきたくなる。
「機嫌いいじゃん」
ふはっ、と笑う声に振り向くと、また色が弾けた。
ピンクと赤と黄色が花びらみたいに舞い落ちる。ドキドキするようなワクワクするような。くすぐったい気持ちに、ぴょんと心臓も跳ねた。
「そういう先輩は?」
いつもより笑顔が多いのを知っている。
いつもより口数が多いのも知っている。
ねぇ、先輩の見える景色も俺と同じようにカラフルなんでしょ?
返事の代わりにとびきり優しい笑顔が返ってきた。

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