※BLです。苦手な方は飛ばしてください。
水色の空がわたあめみたいな雲を浮かべている。ふわふわで甘そうで、なんだかお腹も空いてきた。
隣で寝転ぶ先輩に目を向けると、同じように流れる雲を眺めている。
こんなに穏やかに過ごす日も久しぶりだ。
遠くで子供たちがキャッチボールをしている声が聞こえてくる。
楽しそうな笑い声に、なんだかこちらまで楽しくなってきた。ワクワクしてそわそわして。
「ねぇ、先輩」
「……してぇの?」
まだなにも言っていないのに、なんで!?と驚きに起き上がると、先輩は寝転んだままニヤリと口元を緩めた。
「キャッチボール、してぇんだろ?」
「なんでわかったんすか!?」
目を丸くして見つめれば、先輩はふはっと息を吐き出した。
「お前の考えてることくらいわかるよ」
何年一緒にいると思ってんの?と呆れた視線を向けてくる。
「じゃあ!」
「いや、今日はボールもグローブも持ってきてねぇし」
あ、そうだった。買い物帰りにたまたま公園を見つけてふらりと寄っただけだ。
「あーあ、したかったなあ」
またゴロリと芝生に寝転ぶ。
「また来ればいいじゃん」
代わりに先輩が起き上がる。
「いつだって来れんだろ?」
不貞腐れて寝転ぶ俺の頭をゆったりと撫でながら、宥めるように優しく声をかけてくる。
「え、また一緒に来てくれるんすか?」
がばりと起き上がって先輩の顔を真正面から覗き込む。
「あたりまえだろ」
なに言ってんの?とばかりに優しく微笑むから、胸の奥がじわりと温かくなった。
そっか、先輩の中ではあたりまえなんだ。
そっか、そっかぁ。
「なぁに、すげぇ嬉しそうじゃん」
「そりゃあ、嬉しいっすよ!」
だって先輩とまたこうして一緒に出かけられるんだから。
ふへへ、と笑うと今度はさっきよりも強めに頭を撫でてきた。あれ、もしかしてこれって。
「ねぇ先輩、もしかして、」
「うるせ、こっち見んな」
先輩の腕はまだ俺の頭の上にあって顔がよく見えないけれど、ちらりと見えた頬は微かに赤く染まっているようにも見える。
「ふーん、へぇ」
「なんだよ」
「いやぁ、別にぃ」
俺だって先輩のことならなんでもわかるんですからね。何年一緒にいると思ってるんですか。
くふくふと耐えきれない笑みが勝手に口から溢れてしまう。先輩は居た堪れなくなったのか、俺から視線を外してまた空を見上げていた。
空にはまだふわふわの雲が浮かんでいて、やっぱりわたあめみたいに美味しそうに見えて。
「先輩、お腹空きません?」
早く帰って先輩の作る美味しいご飯が食べたくなった。
「じゃあ、帰るか」
ふたり一緒に立ち上がり、うーんと空に向かって手を伸ばす。雲に届かなかった手は、先輩の手のひらの中へと吸い込まれる。
「また来ましょうね!」
ぶん、と大きく繋いだ手を振って、ふたり一緒に歩き出した。
5/4/2023, 1:35:15 PM