※BLです。苦手な方は飛ばしてください。
パタパタと朝から忙しなく動いている。洗濯物を干したり取り込んだり、掃除機をかけたり。
今日の夕飯なにすっかなぁ、なんてまだお昼にもなっていないのに、冷蔵庫の中身を確認しながら唸ってる。
俺は先輩が取り込んだ洗濯物を畳んで仕舞うだけ。休みの日くらいもっとゆっくりすれば良いのに、と思うけれど、休みだからこそやっておかなきゃだろ? と先輩は笑う。それはわかる。わかるんだけど。
「先輩!」
まだ冷蔵庫の中身を確認している先輩の背中に声をかければ、んー?と振り向きもせず間延びした声が返ってくる。
「せーんーぱーい!」
もう一度、さっきよりも大声で先輩の名前を呼ぶ。
「ん? どうした?」
やぁっと振り向いた。
「あのですね、まだお昼前ですし、洗濯も仕舞い終わりました」
「え?ああ、そうだな?」
俺の言いたいことがいまいちわからないのか、首を傾げながら俺の元までやって来る。
「だーかーらー!」
はい! と両腕を先輩に伸ばす。でも先輩はもっと首を傾げるだけで、俺の言いたいことが伝わっていない。
「今日はオフですよね?」
「あー、まあ、オフだな」
「洗濯も掃除も終わりました。夕飯作りはあとで俺も手伝います」
「ああ、うん。ありがと?」
じゃあ、わかりますよね? ともう一度腕を伸ばせば、漸く気がついたのか少し目を丸くしてから、すぐに目元を緩めて俺を抱きしめる。
「先輩、ちょっと働きすぎじゃないっすか?」
折角ゆっくりできる日なのに。
もっと俺のことも頼ってくれていいのに。
先輩は全部自分でしようとするから。
「そんなつもりなかったんだけどなあ」
肩口で苦笑しながら、俺の首筋に頭を擦り付けてくる。先輩だってゆっくりしたいはずなのに、俺のために頑張ってくれてるのはわかっている。だけど、少しくらいは先輩にもゆっくりのんびりして欲しい。
「俺で疲れが取れるわけじゃないと思いますけど、俺だって先輩のためになんかしたい」
俺より大きな背中に伸ばした腕でぎゅうっと抱きしめ返すと、先輩の腕の力も強まってそのままソファーに倒される。
ぐりぐりと甘えるようにくっつく先輩の背中を、ぽんぽん優しく叩く。さらさらの髪がくすぐったくて、くふふと笑えば、首筋にちゅうっと吸いつかれた。
「わはっ、くすぐってぇっすよ!」
身動ぎしようとするけれど、がっしり抱き込まれて全然動けない。でもそれがなんだか嬉しくて、もっとぎゅうぎゅうに抱きついた。
「……癒してくれんだろ?」
顔を上げた先輩の視線と絡み合って、トクリと心臓が跳ねる。榛色の瞳の奥は、さきほどとは違う熱をもって俺を真っ直ぐに見つめてくる。
「お任せください!」
いつもの先輩みたいに、にやりと口元を上げれば、同じように笑った先輩に優しく口を塞がれた。
カーテンの隙間から覗く柔らかな日差しが、優しく俺たちを包み込む。
ふたりきりのおうち時間は、これからだ。
5/13/2023, 11:27:32 AM