海月は泣いた。

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3/21/2024, 11:39:05 AM

二人ぼっち


世界に取り残されて、貴方と正真正銘の二人ぼっちになってしまいたい。火星に行く人々を見送って、滅亡寸前の地球で貴方とキスを交わしたい。何にも無くなって平たくなった地球でいっちばん背の高い桜の木を探したり、真っ暗な球体にLEDを縫い付けてとびっきりのイルミネーションを見せたりもしようか。
そして、最後の日には二人だけで水平線を独占する。僕らは幸せいっぱいの瞳を煌めかせながら笑うだろう。間違いなく銀河一の幸せ者だって今までで一番綺麗な景色に向かって叫ぶんだ。太陽が迫ってきたって僕らは手を繋いでいよう。僕らだけはずっと、指先を絡めて離さないでいよう。僕らは地球最後の人類で最高の恋人だったって教科書に載るかもしれないから、生き様は美しくなくちゃダメだよ。二つの名前は隣に並ぶんだからね。僕らの愛を、素敵だねっていつかの誰かが囁いてくれるだろう。あのね、僕は生まれ変わってもまた貴方に出会うんだって確信しているよ。だってピッタリくっつけ合った心臓の鼓動がこんなにも心地が良いから。僕は生まれ変わっても、また星が一つ終わる頃がいいなあ。貴方と寿命いっぱいを楽しむのもいいんだろうけど、貴方を残してはいけないし貴方を見送るのも嫌だから。貴方の笑顔を焼き付けて手を繋ぎながら終われるならこれ以上の幸せは無いんだ。

ああ、もうすぐかな。太陽の光が眩しいね。最後になるけど言いたいことはある?どうしたのその顔。不貞腐れてる?…ああ、そうだった。最後じゃなかったね、来世で会うんだから。

じゃあ、また。愛しているよ。

1/23/2024, 10:34:23 AM

こんな夢を見た


ふわふわの雲の上
あなたとわたし、ふたりだけのピンクの世界
流れ星がずうっと流れているから
わたしはずうっとこの時間が続きますように
って願っていたんだけれど
流れ星って、じつは願いを叶えてくれないみたい
もうすぐあなたのそばを離れなくちゃいけないんだ
そうわたしがいうと、あなたは泣いて
いかないでいかないでってぽろぽろしてた。
わたしもいやだよって、泣いたら
落っこちた涙がこんぺいとうになった
あなたはそれを食べて、また泣いた
あなたの涙はこんぺいとうにならないのね
わたしがそう言うと
嬉しそうに笑った
わたしは、ずっとここにいるからねって、嬉しそう
いいなあ
と私の声はぺろぺろキャンディになった
とどかない、わたしのこえは、ここでもとどかないのね
そうしてまた泣いた
涙はこんどは、宝石になった
ばいばいって手を振るのに
あなたはこっちを見ないのね
ばいばいまたね
そう叫んだら
あなたはこっちを見た
あなたのかみのけが白から青になっていたのは、
どうしてだろう
もう来ちゃダメよ、って声が聞こえた
なんで。なんで。なんで。
わたしはまだ、





暗転。


目が覚める。

1/4/2024, 1:35:51 PM

幸せとは


予定がない午後。窓から射す昼下がりの白い光。電気を付けなくても明るい昼間の部屋。猫と一緒にする昼寝。家の窓から見る小さな花火の音。冬の朝の匂い。病み上がりのスーパーカップ。車窓から見える海。計画性のない旅行の予定。部活帰りの夜道。貴方の楽しそうな顔。貴方を愛す声。貴方が愛されている世界。貴方が見せてくれる景色。貴方が見ている世界を、ほんのちょっと見せてくれること。
…ああ、やっぱりだめだ。気づいたら僕はいつも貴方のことばかりになってしまう。どんなに日常の眩しさを切り取ったって、貴方を想う切なく苦しい程の愛には負けてしまう。僕の幸せは、貴方の幸せだよ。何だか在り来りな言葉だけど、それだけが全てで、それ以外にぴったりと当てはまる言葉を僕は知らない。世界は貴方を思ったより愛してるってこと知らないでしょう。貴方はいつも不幸そうにしてる。柔い肌に優しい睫毛の影を落として、すらりと華奢な肩を小さく丸めて、自信なさげに歩幅を狭め窮屈そうに歩き、綺麗な鈴のような声を泣きそうに揺らす。世界はこんなにも貴方を包む光たちで溢れているのに、貴方はそれが見えていない。そんな弱くて脆い貴方が笑えたらこれ以上ないって確信してるんだ。だから、僕は今日も貴方への愛を叫ぶんだよ。聞こえなくたって届かなくってそれでいい。いつか貴方が気まぐれに見た満天の空のたった一つの星でいいんだよ。太陽みたいに貴方を照らすことができなくても、月みたいに貴方が見る唯一じゃなくてもいいんだよ。ほんの少し、ほんの少しだけ貴方の感情のきっかけになればいいんだ。星だって、一個じゃ気づけないかもしれないけど、たくさん集まれば壮大な景色となるから。だからね。つまり、何が言いたいかというと。貴方が何より大好きだって、話!

1/3/2024, 4:32:05 PM

日の出


彼の横顔がオレンジ色に染まっている。整った完璧なEラインを日の光が縁取っていて、それがあんまりに美しかったから日の出なんかそっちのけでずっと彼に見蕩れていた。僕の熱烈な視線を誤魔化せなくて、彼は居心地が悪そうに目を泳がす。いつもはあまり動かない表情筋がぐにゃぐにゃ動いて、名前もつかないような絶妙な表情をさせた。その顔をさせたのが僕なんだと思うと胸が焼けるように熱くなる。
「…あんま見んなよ」
「だってすごく綺麗だから」
日の光のせいで彼が照れてるのか照れてないのか分からない。照れた彼の頬の赤が見れなくてもどかしい。もっとよく見せてもっと僕を見て、と欲張る気持ちが抑えられなくなって頬に伸びる手を抓って我慢するのに必死でいよいよ僕は日の出の存在を忘れていた。
「俺より、日の出見ろよ」
彼は僕に見つめられるのに慣れたのか飽きたのか、またさっきみたいに前を向き直して光を見ていた。僕はというとずっと横顔に魅了されていた。彼の顔は確かに人間らしいのに、どこか無機質でひやりとさせられる。欠点が見つからない整った顔立ちと何を考えているのか分かりずらい表情が混じりあって、その全てが絶妙なバランスで、言葉で形容できない魅力がある。それは神様が完璧な調合で作り上げた姿のような、天才的な発明家が理想を尽くして作り上げたロボットのような…。そんな、奇妙なほどの美しさと少し危うい繊細さの結晶だ。自分なんかが近づいてはいけないのだと思わせてしまう強烈な美しさに誰もが打ち震える。彼の放つ鮮烈な青の麗しさには誰もが惹き込まれ、花も蝶も息を飲むのに、なぜだか彼の周りはいつも静かだった。一人で凛と背筋を伸ばし悠々と歩く姿を初めて見た時は、僕は衝撃で目の前の景色を疑った。こんなに美しい人を誰一人追いかけないのはなぜだ。僕がもしこの場に百人いたら彼を囲って逃げられないようにして、どんなに嫌な顔をされても、もう一度出会えるようにして離さないだろうと思った。そして、実際にそうした。残念なことに僕はたった一人だけだったが、彼を必死に追いかけ汗をみっともなくダラダラと流しながら、周りをうろつき、問い詰めた。
名前を教えてください。何歳ですか。どこの大学ですか。今日は何をしに来たんですか。これからどこへ行くんですか。そう早口で叫び続ける僕を彼は心の底から不審そうに見て嫌そうに顔を歪めた。この変なやつを振り切ろうと彼は走りだしたけど、生憎僕は足が結構早い方であったから、簡単に追いついてしまって、二人息を切らしながら真昼の東京で追いかけっこをした。(彼からすればただ不審者に追いかけられただけであり、通報されてもおかしくなかった。通報されなくてよかった。)そうしている内に、息も絶え絶えになって二人して路地裏の地面に寝っ転がる。寝っ転がった姿で咳き込みながら、僕が彼に名前を何度も尋ねるから、いよいよ彼は諦めて、顔に見合った綺麗なテノールを揺らしながら綺麗な名前を口にした。綺麗ですね、顔も姿も名前も声も。と言った僕を見た真っ直ぐな瞳が今でも忘れられない。それは、彼の瞳の中がトロトロと蕩け出しそうな位に甘い色をしていたから。何て返したら良いか分からずに震える唇も、僕の顔を見れずに定位置を失った黒目も、じんわりと内側から染まっていく頬も、全てが僕が想像した反応の真逆だったから、びっくりして言葉を失う。僕は言われ慣れてるだろうと信じて疑わなかったのに、まるで初めて言われたみたいな初々しい反応をされたから、驚いた。本当に、彼は初めて綺麗だ、と美しい、と言われたのだ。彼があんまりに美しかったから、誰もがそんな陳腐な言葉言われ飽きただろうと思って言わなかったのだ。だから、信じられないことだけど、彼のその美しさを真正面に言葉にしたのは僕が初めてだった。そう付き合い出した頃に、彼に言われた。
強そうに見える彼は実は誰よりも弱く脆く寂しがり屋で、それを誰も見破ろうとしなかった。彼の瞳の奥のドロドロとした熱と押し込んだ感情を見ようともしなかった。寂しさなんて知らないと言い張った爪先を僕だけが見逃さなかった。
「ねえ」
「はい」
「何考えてるの?」
僕は微笑む。僕が彼の隣に当たり前みたいにいれるのが嬉しくって幸せで仕方がないんだ。
「貴方のことだよ」
僕はいつも貴方のことばっかりだよ。止まることを知らない思考が僕の頭の中を貴方への愛で満たして、僕はいっつも心臓が痛くて痛くてしょうがないんだ。貴方への愛に押し潰されそうな勢いなんだよ。彼に出会ってから僕は寿命がほんの少し短くなったかもって思うくらい。
そんなことを言ったら彼は怒るだろうけど、でも、僕はその位貴方のことがこんなに切なくて苦しいくらいに好きですって心臓をくっつけて伝えるよ。
「好きだよ」
…ほら、その照れた顔が緩んだ口角と優しい瞳が、僕をおかしくさせる。来年もここに来ようね。来年もこうして日の出を見つめる貴方の横顔を見て、貴方と同じ会話をして、デジャブだねって笑い合って、好きだと伝えて、照れた瞳に見蕩れていたい。ううん、やっぱ来年だけじゃなくて、この先ずっとずっとそうして貴方の隣にいたい。
柔らかく微笑んだまま俺も、って囁かれて今度は僕が耳を赤くした。眩しいオレンジの光を背にして、僕らはこっそり手を繋ぐ。貴方の存在全てが、どんな眩しい光よりどんなめでたい景色より僕を虜にしてやまない。

12/26/2023, 5:02:29 PM

変わらないものはない


僕らは寂しさを埋め合わすようにそばに居た。悲しみに押しつぶされそうな夜は貴方が隣で光を教えてくれた。貴方が部屋の隅で膝を抱え涙を流している時は僕が見つけ出して手を差し伸べた。持ちつ持たれつ、とはこの事で、僕らは助け助けられ支え合ってきたのだ。と、そう言えば聞こえがいいけど実際はお互いに依存し合うことで、僕らは何とか人の形を保っていたのだ。不幸だね、って、僕らが一番不幸だね、って。でも貴方がいるから幸せだな、って。そうやって同じ会話を飽きずにずっと繰り返していた。このままじゃダメだって頭のどこかで分かっていたけど、貴方だけの僕、僕だけの貴方、という誰にも侵せない認識が、貴方の唯一の隣が、酷く心地よくて、どうしてもその生温さに浸っていたかった。

でも、貴方は変わった。如法暗夜の瞳には煌めく光たちを宿して、不健康な肌の白には桜色をじんわり滲ませ、大きな体躯を窮屈そうに丸めていた背中は真っ直ぐに、じとじととした足取りは悠々と自信に溢れたものに、そうやって少しずつ強く美しく変わった。あんなに悲しくって辛くって仕方がないと泣いていたあの頃の暗い表情はもう見当たらない。白い歯を垣間見せ花も蝶も照れてしまうような笑顔で、楽しそうにテノールを揺らす。昔の彼を知らない人が見たら別の人だと信じて疑わないだろうと思うほどに、彼は変わったのだ。
いつぶりか分からない二人きりの帰路は、会話がなくて何だか居心地が悪かった。彼の隣はいつだって温かくて、例え言葉を交わさなくたってお互いの温もりを感じるだけで、それだけで良かったのに。いつからこんなになってしまったのだろう。彼は美しくなったから、こんな僕が隣にいることがおかしく思えてしまう。当たり前に隣にいたのに、今ではそれに違和感まで覚えてしまうことが悲しい。くだらない噂も他愛もない話も浮かばなくて、僕はただ真っ黒な夜空に輪郭が溶けて、星でも浮かんでしまいそうな黒髪を数えていた。そうしていたらいつの間にかいつも通りの分かれ道に来てしまって彼が反対に行こうとしている姿を見て僕は慌てた。前は暗いから、夜は怖いからと断ってもしつこく家まで送ってくれたのに、そんなこと無かったみたいに自分の家に真っ直ぐ向かう姿がなんだか信じられなくて、思わず口をついてでた。
「ねえ、行かないでよ」
声は震えた。訳も分からず泣きそうになって、涙が溢れないように必死だった。声の震えを気にする隙間なんてちっぽけな僕にはなくて、当然泣いてしまいそうなのが彼にバレる。彼は驚いて心配そうな顔を一瞬だけして、すぐに暗い顔をして目を伏せた。重たそうに口が動くのを僕はただただ呆然と見つめることしかできない。次に続く言葉を聞くのが怖くてしかたがなかった。
「俺とお前は、一緒に居たら、きっとダメなんだ」
頭を殴られたみたいな衝撃だった。ずっと心の奥に押し込んで見ないようにしていたことを今一番大切な人に言われたのだ。僕は、どの言葉も間違っている気がして、結局返す言葉が見つからず黙った。黒目を忙しなく泳がせるしか出来なくて、そんな僕の情けない様子を彼は黙って見ていて恥ずかしかった。
「ぼく、は貴方がいないとだめです、だめなんです」
ぼろぼろっと涙が溢れ落ちる。何よりの本心だった。
「…そんなことないよ」
すぐに否定されて僕の心は心底傷ついた。何か言ってやろうとまで思ったけど、彼の瞳が真っ直ぐで強くてその眼差し一つで僕は何も言えなくなってしまった。
「お前は俺といるといつも不幸そうだ」
「ちが、僕は、貴方がいればそれだけで…」
もう涙を止めることなんてとうに諦めた。大粒の涙が僕らの間に落ちてアスファルトを濡らす。あんなにピッタリとくっついて一つになってしまうくらいに寄りかかっていたのに、今の二人の間には先の見えない深い溝があるみたいだ。
「お前は変わったよ」
変わったのは貴方の方なのに、という言葉は音にはならずに僕の心の中に落っこちた。
「お前は、幸せになるべき存在だ。愛されるべき存在なんだ。…だから、俺なんかと一緒に居たらだめだよ」
「…僕の大切な人を、そんな風に言わないで」
「…うん、ごめんね」
悲しくって仕方がないのは僕の方なはずなのに、彼は泣きそうに顔を歪めるから僕はやっぱり何も言えなくなって、彼の震える細い睫毛を見ていた。暗闇に落とされたみたいな気分で、心の中は絶望に染っていた。
「お前は幸せになっていいんだよ」
言葉とは裏腹に彼は酷い顔をしていた。まるで、幸せになるなって反対のことを言われているみたいな。そんな引力じみた強さに目を逸らせない。
「ずっと、お前のこと縛り付けてた。分かっててずっと…ごめん、ごめんね」
二人きりで無ければ聞こえなかったんじゃないかというくらいの小さな声で彼は言って、僕を置いて歩き出した。僕に背を向けて、一度も振り返らなかった。ごめん、ごめんねって彼の弱々しい声がずっとずっと僕の頭を揺らしていた。それは、あの頃みたいな脆さだった。彼の大きな背を現実味がなく見つめていると、彼が涙を拭う素振りを見せたから、それで僕はようやく現実だと気づいて、わんわん子供みたいに泣いた。彼が振り返って、嘘だよごめんって優しい顔をして走って来てくれるんじゃないか、という淡い期待は叶うはずもなかった。
互いの泣き声だけが陳腐な夜空に響いて月だけが僕らを見ていた。

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