星に手を伸ばす。
キラキラ光る空の宝石、
いつかこの手が届いたら…なんて。
誰かの言葉をなぞって、宙をつかむ。
眠りゆく世界を照らす、曖昧な光。
ぼくらの世界は、この光に支えられ、
幾千億の時を刻んできた。
それでも───。
いずれ、星は消えていく。
青い尾を引いて、新たなる始まりを目指して。
それは、ぼくらには止められない世界の流転。
いずれ訪れる世界の救済だ。
ぼくらは、その刹那を生きている。
ぼくらは、流れる刹那の欠片だ。
ならボクは今日も祈ろう。
親愛なる隣人に、
その一瞬を生きる眩しい星に。
ひとりで消えることのない様に───。
流れ星には願いを込めるものなのだから。
よっす、彼女〜!
こんなとこでどしたん?
話聞こか…?
はぇー、彼氏さん待ってんの?
ほな。ワイはお邪魔かぁ…
え?
ちょっとなら相手してくれるって?!
やりぃ!
ほんなら、あっちのベンチ行こうや!
〜
それがこんなデカいパンケーキでできててなぁ──!
…っと、流石に長居しすぎたなぁ、
もう日が暮れてまうやん…
ん?そういや、彼氏さんどないしたん?
え、今日来れなくなってしもたん?
先言ってくれや〜
この先に行きつけの喫茶店があるんや、ご飯奢るで?
ん?泊まるところもないん?
そら、あかんわ…ウチ泊まってき?
悪いって?
ええよええよ気にせんといて。
その代わり、一つメールしといて欲しいねん。
そうそう、彼氏さんに。
『ガラかわすんなら、ルールくらい守れ』ってな。
ん?あぁ、そうやねん、実は友達でなぁ。
昨日ゲーム中にルール違反しよったねんアイツ。
垢BANくらってな?
しゃあないから、文句の一つぐらい、言ってやらんとやってられんのですわー。
お?お姉ちゃんもFPSやるんか?
ほな、今夜は勝ち越すまで遊ぶで───!
たまには、僕自身について語るとしよう。
とはいえ、自己紹介はしない。
ただ、僕の心のカケラを置いていくだけだ。
それでも良ければ、読んでいってほしい。
僕は話すのが苦手で、けれど不思議を探すのが好きな子だった。
祖母の語ってくれた物語をなぞって、小さな人を探したり。
読んだ物語を元に、考えた設定を話しながら兄と共に学び屋へ向かった。
きっとそれは楽しかったのだろう。
瞳は輝いていたに違いない。
少し背が伸びてからも、僕は不思議を追っていた。
物語を、そして、それを明らかにする手段として、科学を。
けど、ある時だ、僕は軽い事故にあってしまった。
信号のライトは赤で、身体は思ったより簡単に、歩道へと転がっていった。
まぁ、大した怪我じゃない、少し頭を打っただけだ。
けれど───。
次の日、僕が最初に感じたのは罪悪感だった。
まるで、誰かの人生を奪ってしまったかの様な、違和感。
確かに目の前の景色は自分のものなのに、フィルムを通したかの様な感覚は、僕から自分というものの感じ方を奪ってしまった。
でも、確かに僕は僕なのだ。
家族の顔もわかるし、親友の名前も覚えている。
だけど、どうやら、僕は長いこと不思議に浸りすぎていたらしい。
クラスメイトの顔がわからない、動作の節々に不自然な間が生まれる。
まるで、自分という人物をその場で演じているかの様な日々はいつの間にか、当たり前になっていた。
…まったく、くだらない話しだ。
自分は自分でしかない。
記憶に残っている以上、僕は僕でしかないのに。
誰かであったかもしれない…という違和感を拭い斬る事ができない。
今でも僕は、罪ですらないものを償いたいと思っている。
ここまでいくと、性分というやつなんだろう…
お目汚しを失礼したね、心を探したらこんなものしか見つからなかったんだ。
大丈夫、僕はしっかり現実に生きているから。
今日だって…目の前を舞っていた黒地に翠の蝶の珍しさに、ふっと笑みが浮かんだよ。
君もどうか穏やかに、いい一日を!
『今日の心模様』
「ねー、センセー!」
社会科準備室、統一感の無い文明の書庫を整理していた僕の背中を。
逆向きに椅子に座った生徒が、爪先で突いて声をかけてくる。
「人生って選択の連続だって、センセー言ってたじゃん?」
「…言ったね」
とりあえず言葉は返す。
座り方は…どうせ注意しても嬉しそうにするだけだから、今日はいいか…
「あれって、みんなそうなの?」
「そうだよ、君の好きなゲームに例えるなら…。ルートがたくさんあって、そのルートをたくさん選ぶと、いい事が起きるよ。って話かな…?」
「ふーん?」
言葉を聞いて足をぷらぷらさせる生徒。
仕方ないので椅子にもたれかかる形で、椅子が倒れるのを防いでやれば、「あっ!」と何かに気づいたようで、生徒はニヤニヤとしながら言葉を紡ぐ。
「てことは…センセー、私のルートを選んだんだ?」
「君が僕を選んだのかもよ?」
「私は親に言われてここ来ただけだもん」
「なら、僕は選択を間違えたのかもしれないね…」
「ひどーい!」
こんな他愛もない会話も、あとどれくらいだろうか。
いずれ、生徒は卒業する。
そして、選択肢が溢れる社会に出ていく事になるんだ。
なら、僕は彼女がそれを選べるように、育ててあげなきゃいけない。
上手に生きる見本を、見せてあげなくてはいけない。
「ね、センセーそのルート、クリアできそう?」
「どうかな、意外と難しいかもしれない」
「えー簡単だよ?」
最後に選べる選択肢が、たとえ間違いだったとしても。
ぴちゃん、ぴちゃん。と、
雫が、水を打つ音が響いている。
暗い部屋、開けっぱなしの浴槽から、
湿った空気が流れ込み。
男は何をするでも無く、瓶を煽っていた。
背後にはガラス張りの棚。
輝くバッヂ、年季の入った帽子に並んで、湿気を吸って丸まった賞状が、気づかれないまま転がっている。
いったいいくつ、月はのぼったのだろう。
空になった瓶は、これで何本目だろう。
そんな風に考えながら。
窓から覗く上弦に、重ねるように煮干しの腹を並べ、そのまま喰っては瓶を煽る。
つまんねぇな───。
まとまらない思考を押し退けて、
無意識にソレを口にした瞬間。
衝動に任せて瓶が宙を舞った。
割れる破片、散らばるガラス。
頭が冷え、立ち上がった男の頭に、
帽子が落ちてくる。
足元に転がる賞状に、一滴。
血の雫が染み込むのを見て、慌てて姿勢を正し腰に手をやる。
期待した感覚は無い、代わりにあったのはツマミに用意した袋の潰れた感覚だけ。
呆然とソレを見て、その手のひらに雫が落ちた。
あぁ、ちくしょう…
切り傷ってのは、こんなに痛ぇのか───。