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昨日、茶髪が掃いて捨てるほどいると言ったけれど、訂正しよう。

もしかしたら、希少だったかもしれない───。

見渡す限り、赤、青、白、黄。
魔力の色を強く受け継いだ、カラフルな髪色。

この場所では、
間違いなく僕の茶髪は浮いていた。

はぁ───。

深く、ため息を吐く。

ここはこの学園の植物園。
本来なら、正統な血筋を持たない者は踏み入れられない。貴族の庭園だ。

「あら、怖気付いた?
なら、わたしの物になりなさい?」

僕がそんな場所にいる理由は、この少女。
学園一の天才とも呼ばれる彼女は、
何を期待しているのか、
宝石の様な、金の瞳をキラキラと輝かしている。

スッと拳を上げる。

「まぁ、待ちたまえ。
強いのは君のいい所だが、
短気は間違いなく君の弱点だ。」

そんなことを言いながら、やんわりと拳を掴んだのは銀髪の大魔法師。

貴族の流儀は理解していると。
ひと足先に奥に向かっていた彼は、
この数日で見違えるほど上達した身体強化を駆使して、いつの間にか戻って来ていたらしい。

「今日あなたを呼んだのは───。」
「きゃあああ!?」

言葉は続かなかった。
響く悲鳴、色鮮やかな魔法が浮かぶカラフルな温室。

その中心部に、それは居た。

黒い翼に、角。
爬虫類を思わせる瞳に、裂けた笑み。

間違いない…魔族、いや、悪魔か?

人類の敵は、数多の魔法を前にしながら、
しかし、余裕そうに笑っている。

「姫様!」

それに対峙する剣士が、声を荒げている。
人質か……だとしても理解できない。
アレは人類の敵だ。
人質もろとも撃つのが正道だろうに。

「卑怯な手を…」

隣の銀髪が呟いている。
この数日で理解した、
彼ならきっとあの程度の敵なら葬れる。

しかし、それをしていない───?

あぁ、そうか。
彼らは、手が出せないのか…。

貴族と言う立場、姫と言う象徴。
そして悪魔という飼い慣らせる外敵。
この場での行動するということは、
すなわち、貴族としての発言と同意だ。

彼女がどこの国から来たかは知らないが、
場合によっては、国同士の戦争になる。

ならばこそ…

杖を引き抜く。
そのままグンと腕を引き絞り、
撃ち放つ。

パァン!と風船の割れる様な音。
悪魔の翼膜を突き破り、
温室のガラスに突き刺さった杖に視線が集まった瞬間。

力を込めて走り出す。

魔族の爪が、人質に食い込む。
薄く血が流れ……しかし、ソレが光を放つのを見て笑みを浮かべる。

いい生存本能だ……。

爪がそこで止まる。
薄い即席の魔法障壁。
しかし、ソレで今は十分だった。

僕の拳が悪魔を打ち上げる。

空には無数の魔法陣。
迷いながらも、絶えることのなかった正義の心は、
いま、この瞬間。
しがらみから解き放たれ───。

温室に、カラフルな花火を打ち上げた。

5/1/2026, 12:26:25 PM