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叫んで伝えるなんて、ガラじゃない。
そんなプライドに負けて、
君を見送ったあの日。

少し寂しそうな君は、
何を思っていたんだろう───。

20××年五月
海を越えて、ようやく君が帰ってくる。

戻ってきたら何を話そうか…
きっと君は変わらず美人で───。
そんな当たり前の事すら、
考えるだけで落ち着かなくなる。

ロビーは人の声で満ちていた。
再会を喜ぶ、なみだ声。
期待混じりの、笑い声。
それらは遠い波のようで。
耳に届くのは、自分の心臓の音ばかり。

そんな僕の視線の先で、ゲートが開いた。
決して少なくない人の波。
その中にはっきりと、落ち着く色を見つけた。

少し伸びた黒髪。
前より大人びた表情。
落ち着いた和服に身を包むのは───。

「かおり───!」

声が出た。
驚いた君が口に手を当て、
隠しきれない笑顔を浮かべると、
袖を揺らして、飛び込んできた。

華奢な身体、
懐かしい椿の香り。
確かな体温。

本当に、帰ってきたんだ。

夢じゃない。

「会いたかった」

絞り出した声は、
自分でもわかるくらい揺れていた。

「私も」

君の肩も小さく揺れる。
笑っているのか、泣いているのか。
僕にはわからない。

それでも…

「愛してる」

言葉が流れ出た。

「ずっと、ずっと愛してた」

嘘偽りのない言葉。
つまらないプライドが、
ついに抑えることができなくなった、
心の底から溢れた思い。

「僕と、一緒に生きてほしい。」
「……ばか」

涙混じりの声で、君が笑う。
あぁ、そうか───。

「待たせすぎ、なんだから」

僕らの心は、
あの日からずっと
変わらず愛を叫んでいたんだ。



5/12/2026, 8:42:01 AM