Unknown

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12/29/2025, 4:49:18 PM

「静かな終わり」

物事が終わる時というのはいつだって静かだ。気がついた時には終わっていて、ここでお終いなんて誰も教えてはくれない。本を読んでいる時みたいに、残りはあと何ページかなんて分からないし、めでたしめでたしも存在しない。夜空を彩る花火が、空に溶けて消えていくみたいに、曖昧に終わるばかりだ。

あの人との終わりもそうだった。ドラマの中みたいにキッパリと決別するなんてことはなくて、気がつけば疎遠になっていて、いつの間にか連絡先も分からなくなっていた。後悔先に立たずとはよく言ったもので、本当に、終わったことに気がついてからでは遅いのだ。そんなことすら、終わってから気がついたのだから救いようもない。

あの時ああしていれば、ああしなければ、なんて後から後から思うばかりで、いつになっても私は結局成長なんて出来ていやしないのだろう。そんな苦い過去すら、もはや思い出として語れるようになっていて、それでまた、何かが終わっていたことに気がついた。

いつだって、何かが静かな終わりを迎えようとしているのかもしれない。春になると綺麗な花を咲かせる桜は、そろそろ寿命を迎えるらしい。次に咲くのが最後かもしれない。子供の頃によく遊びに言った公園は、今はもうマンションになっているかもしれない。終わりはいつも見えるところで起こるわけではなくて、むしろ見えないところでこそ起こっているのだと、気がついたのは最近だ。

何かが終わる時、それを終わりだと知っているのは終わらせる側だけだ。終わりを終わりだと知って、惜しむことが出来るのは特別なことなのかもしれない。この世界に不変のものなどなく、全てはいつか終わるものだ。私に出来ることといえば、いつかの終わりを少しでも遠くにすることや、終わりの後に後悔することのないように行動することくらいで、終わりを阻止するなんてことは不可能だ。

いつかの終わりを想定しながら生きるなんて、あまりにも悲観的で、刹那的だ。それでも私は、いつかの後悔を減らしたいから、いつだってこれで終わりかもしれないと思いながら生きていく。

12/28/2025, 4:43:43 PM

「心の旅路」

この世界って良いところばかりじゃない。むしろ嫌なところの方が多いかもしれない。毎日、どうにか生きていくのに必死で、楽しそうに生きている人を見ると苦しくなることもある。あの人と私は何が違うのだろうか。どうして私はこんなにも息苦しいのだろうか。どうして私はみんなみたいに頑張れないのだろうか。どうして、どうして、どうして。

どうして、って心に聞き続けていると、心がどこかに飛んでいってしまうことがある。自分の心のはずなのに、何にもわからなくなって、形すらも見失ってしまうことが。

逃げていった心を追いかけるには、心の旅路を追うしかない。嫌な現実から逃げて、どこかにいった心の痕跡を辿る。向かい風に負けて、草原を風に乗って流された。旋風に飲まれて雲の上に飛んでいった。雲から落ちて海に沈んだ。水面に煌めく太陽が眩しくて深海に潜った。

心の表面を撫でて、ささくれだった苛立ちを宥める。心の上部に入り込んで、沸き立った言葉を掬い上げる。心の深部に潜って、沈めてた本音を手に取る。

ずっと溜め込んでいた苛立ち。口に出せずに飲み込んだ言葉。胸の奥にあったモヤモヤ。心の中にずっとあって、それなのに見ないフリしていたあれこれと、向き合って、受け止める。

飛んでいった心を捕まえて、抱きしめて、抱えて。そうしてやっと、私は明日もなんとか生きていくことが出来る。自分の心を無視していたら、またどこか遠くにいってしまうから、これからはちゃんと、しっかり両手で大切に抱えていかなくちゃいけない。腕の中の心が、少し温かくなった気がした。

12/27/2025, 3:47:20 PM

「凍てつく鏡」

あの日の、君の瞳が、いつまでも脳裏から離れない。毎晩毎晩夢に見て飛び起きる日々だ。

この世の全てに絶望したような、私に心底失望したような、何にも映さない冷め切った伽藍堂の瞳。凍てつく鏡のような、温度を失ったあの眼差しがこびりついて離れない。

あの日、私と会う前に何があったのかは知らない。あの日も知らなかったし、今になっても知らないままだ。でも分かっていることがある。あの日、君は何かに深く傷ついていて、心が折れかかっていて、それにとどめを刺したのが私だということだ。

君の瞳ばかりが記憶に残っていて、何を言ってしまったのかは覚えていない。きっと私は間違えた。傷付いたばかりの心を抉って、塩を塗り込むような、そんな何かをしてしまったんだろう。喧嘩にすらならなかった。泣きそうだった表情が消えて、瞳の温度が消えて、何にも言わないまま振り返ってどこかに行ってしまったから。

次の日にあった君は、それまで通りに見えた。それでもその瞳の奥には深い闇が広がっているばかりで、まるで元通りになんてなっているはずもなかった。何にもなかったフリをしている君に、とどめを刺してしまった私が、何かを尋ねることが出来るわけもない。ついぞ今日に至るまで、何もなかったように、何も知らないように、それまで通りをなぞることしか出来ていない。

例えば、君が私を避けるようならば、喧嘩でもしたことにしてそっと離れることもできた。でも君が、次の日に当たり前のようにいつものような顔で声をかけてくるものだから、私もやっぱり、いつも通りをするほかなかったのだ。そうすることが、傷つけた私の、追いかけることができなかった私の、罰だとも思った。

だから、最近知り合ったあの子が、君に興味を持って、あれこれ構っていることを心配しつつも喜んでいる。純粋で明るいあの子は、きっと君の凍てついて濁った鏡を、解かして透き通らせてくれる。あの日、間違えた私には出来ないことを、あの子なら出来る。そう、信じている。

あの日、君に何があったのか、私は知らない。想像もつかない。あの暖かで優しかった君が冷たく凍ってしまうような出来事なんて、能天気な私に分かるはずもない。気にならないわけじゃない。それでも、踏み込むことで傷つけてしまう可能性があるなら、知らないままでいいと思った。

どれだけ変わってしまっても、君は君で私にとって大切な存在であることに変わりはない。これ以上傷つけないで済むなら、私の興味なんてどうでもいい。あの日、去っていく君を追いかけることができなかったことを、ずっと後悔している。あの日の罪を背負って、幾らでも何にも知らないフリをしよう。それでも、いつか、君がもう一度暖かな世界で笑えるようになることを願っている。もう一度、世界に希望を感じられる日が来ることを祈っている。たとえその世界に私がいないとしても。

12/26/2025, 4:02:38 PM

「雪明かりの夜」

先週までは十年に一度の暖かさ、なんて言って二十度近くになるような過ごしやすい気温だったのが、嘘のように急に冷え込んだ。寝室に入ると冷たい空気が身体を覆って、キンと刺すように冷たい。すぐに布団に入るとはいえ、この寒さでは寝られない。慌てて暖房のボタンを押した。部屋が温まるまでは仕方ないから毛布を被って耐えるしかないか。

最近のエアコンは性能が良い。あっという間に部屋は暖まって快適な温度になる。暖房を付けたまま寝ると、乾燥で朝の喉が酷いことになるので一度消して、朝方にもう一度付くように設定した。これで明日の朝に布団のぬくもり負けずに済むだろう。

照明を落として、布団に潜る。枕元のカーテンの隙間から薄ぼんやりと光が漏れているのが、やけに目についた。外の明るさの原因が気になって、電気は消したまま、身体を起こしてカーテンを捲る。外には真っ白な雪が積もっていて、街灯の明かりを反射してうっすらと輝いていた。誰にも踏み荒らされていない綺麗な雪は眩しくて、なるほど雪明かりの夜の読書はそれは高尚な楽しみだったのかもしれない。月明かりよりは文字もよく見えそうだ。

外の寒さを受け止めた窓はひどく冷えていた。一度部屋が温まったことで結露した窓に触れると、冷たい水が指先についた。寒い。カーテンを戻して布団に潜る。キンキンに冷えた窓からの冷気をカーテンが押し留めてくれる。暖房を消したせいで再び冷え始めた部屋の空気が、布団の中に入り込んだ。こんな寒さの中で読書なんて、出来たものじゃないな。

12/25/2025, 4:18:48 PM

「祈りを捧げて」

私、よくいる宗教ちゃんぽんジャパニーズ。自称無宗教。仏教もキリスト教も神道も信仰している訳じゃない。神様の存在は信じているけど、祈れば救われる、なんて思わない。イベントの美味しいところだけ楽しむ。今どきの日本人の典型だと自認している。

そんな私も、ごく稀に祈りを捧げることがある。電車の中で突然の腹痛に見舞われた時とか。電車に限らず、トイレにすぐに行けない状況に限って酷い痛みになるのはどうしてなんだろう。何度尊厳の危機に陥ったことか。

そんな切実だけど、しょうもないようなこと以外で、真剣に祈りを捧げるようなことってあるだろうかって考えた。一般的日本人の私の脳で思いつくのは自然災害とか、殺人鬼とか。命の危機ってやつ。どうか助けて、なんて心の底から願えるのはやっぱり命とか尊厳とか、本当に大事なものを守りたいときだ。

そこまで考えて分かったことがある。電車の中での腹痛くらいでしか祈る必要が無かった私は本当に幸運だったってこと。これからも祈る必要がないようになるべく徳は積んでおこうかなってこと。それから、こんな結論に至るような私は、やっぱり宗教ちゃんぽんジャパニーズだってこと。

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