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「凍てつく鏡」

あの日の、君の瞳が、いつまでも脳裏から離れない。毎晩毎晩夢に見て飛び起きる日々だ。

この世の全てに絶望したような、私に心底失望したような、何にも映さない冷め切った伽藍堂の瞳。凍てつく鏡のような、温度を失ったあの眼差しがこびりついて離れない。

あの日、私と会う前に何があったのかは知らない。あの日も知らなかったし、今になっても知らないままだ。でも分かっていることがある。あの日、君は何かに深く傷ついていて、心が折れかかっていて、それにとどめを刺したのが私だということだ。

君の瞳ばかりが記憶に残っていて、何を言ってしまったのかは覚えていない。きっと私は間違えた。傷付いたばかりの心を抉って、塩を塗り込むような、そんな何かをしてしまったんだろう。喧嘩にすらならなかった。泣きそうだった表情が消えて、瞳の温度が消えて、何にも言わないまま振り返ってどこかに行ってしまったから。

次の日にあった君は、それまで通りに見えた。それでもその瞳の奥には深い闇が広がっているばかりで、まるで元通りになんてなっているはずもなかった。何にもなかったフリをしている君に、とどめを刺してしまった私が、何かを尋ねることが出来るわけもない。ついぞ今日に至るまで、何もなかったように、何も知らないように、それまで通りをなぞることしか出来ていない。

例えば、君が私を避けるようならば、喧嘩でもしたことにしてそっと離れることもできた。でも君が、次の日に当たり前のようにいつものような顔で声をかけてくるものだから、私もやっぱり、いつも通りをするほかなかったのだ。そうすることが、傷つけた私の、追いかけることができなかった私の、罰だとも思った。

だから、最近知り合ったあの子が、君に興味を持って、あれこれ構っていることを心配しつつも喜んでいる。純粋で明るいあの子は、きっと君の凍てついて濁った鏡を、解かして透き通らせてくれる。あの日、間違えた私には出来ないことを、あの子なら出来る。そう、信じている。

あの日、君に何があったのか、私は知らない。想像もつかない。あの暖かで優しかった君が冷たく凍ってしまうような出来事なんて、能天気な私に分かるはずもない。気にならないわけじゃない。それでも、踏み込むことで傷つけてしまう可能性があるなら、知らないままでいいと思った。

どれだけ変わってしまっても、君は君で私にとって大切な存在であることに変わりはない。これ以上傷つけないで済むなら、私の興味なんてどうでもいい。あの日、去っていく君を追いかけることができなかったことを、ずっと後悔している。あの日の罪を背負って、幾らでも何にも知らないフリをしよう。それでも、いつか、君がもう一度暖かな世界で笑えるようになることを願っている。もう一度、世界に希望を感じられる日が来ることを祈っている。たとえその世界に私がいないとしても。

12/27/2025, 3:47:20 PM