華音

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9/3/2023, 9:13:45 AM

心の灯火

私には、人がどれだけ将来に対して励んでいるか、目視することが出来る。
上手く伝えることはできないけど、相手の胸のあたりをじっと見つめると、だんだんロウソクみたいな炎が見える。
最初見えた時はその人が後どれだけ生きられるのか。みたいなのかなと思ったが、話をしていくうちに、段々違うことがわかった。将来なりたいものがハッキリしていて、努力している人は炎の勢いが強くて、大きい。逆に将来に対して、夢は決まっているけど不安を持っている人達は、勢いが弱くて小さい。
クラスの子と進路の事を話している時に、この能力が理解できた。
……でも、私は、炎があるだけいいと思う。
小さくても、大きくても、どちらにせよその人達は夢を持てている人。
私には、将来なりたいものなんて考えていない。
何がしたいのか、何を目的とするか。そんな事が全く思いつかない。
そんな私の心の中は伽藍堂。炎なんて以ての外。生み出される不安も、何も無い。
どうすれば、いいんだろう。これといって趣味も無いし、特技もないから何も思いつかない。心の中が何も無い現状を、鏡の中の私が無情に映し出した。小さく項垂れた。

進路が決まっていない。そう親に相談した。もしかしたら文句を言われるかもしれないが、この現状を少しでも変えたい。それに私より長く生きている親なら何か分かるかもしれない。そんな僅かな思いと共に悩みを打ち明けた。
すると、色々な事に全力で挑戦してみたらどうだ。と言われた。そこで興味の持ったものを、将来なりたいものとすればいいのではないかと。そういえば、私は何かに全力で取り組んだ事あったっけ……。過去の私を少し恨んだ。もし全力で取り組んでいたら、今ごろ決まっていたかもしれないのに。
いや、もう後悔したってしょうがない。この街にはいろいろ産業が発達している。
色々な体験に、望んでみよう。
最初に体験したのは、料理。専門学校の料理体験へ行ってきた。そこの学校はホテルで出るようなメニューもあって、私はコースを一通り作ってみた。
結果、初めてにしては中々上手に出来たし、ご飯も美味しかった。でも、それを毎回作るとなると大変できっと疲れるだろうと思った。
次に、服飾関係の事。服を縫ってみたり、その人にあった衣装を選んだり、ウェディングドレスや着物を着させたりする体験をした。
結果、少しガタガタしているが、服は一応着れるまでにはできたし、アドバイス通りにおすすめすると、思った通りその人に似合っていた。
でも、これは慣れもあるけど持ち前のセンスも必要なんだな、と実感した。ウェディングドレスや着物はまず着たことがあまりないから大変で、凄く手こずった。
そのあと、医療関係にも頑張ってみた。
患者さんと向き合うのはとても緊張したし、頭が真っ白になった。薬の分量も誤差は許されない。そう思うと手が震えた。
建築やエンジニアは、高いところは苦手だし、設計書の記号を理解するだけで頭が回る。
芸能関係も、自信を持って舞台に立つことができなかったし。
学校の先生も、伝えたい事が上手く言語化できなくてひとつの事を理解してもらうのに、時間がかかった。
他にも色々手を出してみたが、どれも違う。そりゃ時間と回数重ねれば楽しくなると思うが。どれも私にはピンと来なかった。このままじゃ、私は何にもなれない。焦りと不安が頭を占めた。
疲れきった私が鏡に映る。何も灯されていない。やつれた私が。しかし、私は胸のあたりを見て驚いた。
炎はついていた。
それは、小さく、ゆらゆらと揺れていた。
どうして、私はまだ夢なんて決まってないのに。ぐるぐると頭を捻る。
やがて、私はとある予想がよぎった。
今の私の夢は、「夢を見つけること」なのでは無いか。
私は夢を見つけるために、こうして、色々な体験をしている。
それも、夢を見つけるための努力だ。
そうか、人とは違うけど、私には確かに、夢はあったんだ。
そして、いつか私の本当の夢が決まったら。
それに向けて、また同じように積み重ねていけばいい。
胸に手を当てる。ポカポカと、心の灯火が照らしてくれている気がした。

9/1/2023, 2:58:50 PM

開けないLINE

「好きです。付き合ってください。」
君がいつしか言っていた。告白されるなら文面がいい。
僕は君のことがずっと好きだった。優しい声色。笑うと子供っぽくなるところも。いつも優しいところ。
そんな数え切れない程の想いを文に乗せて、送信のボタンを押す。
すぐには既読が付かないから、返信が来るまでの時間が、永遠に感じた。
何分?いや何時間?経って、着信音が来た。
僕は読み上げられた手札をとる如く、スマホを開いた。
案の定。君からのLINEだ。
急いでスマホにパスワードを入れるーーが、途中でピタりと手が止まってしまった。
もし、自分が望む結果じゃなかったら、立ち直ることができるのか。僕はもう何年も彼女に好意を寄せている。そんな積み重なった思いが、この一瞬で崩れ去る恐怖。
そんなことを感じていた。
しかし、きっとここで見なければ、結果は分からないし、それに彼女も勇気を出して返信してくれたはずだ。すー、と深呼吸をして目を軽く閉じる。気持ちを落ち着かせると、僕はパスワードをもう一度入れ直した。最後の決定ボタンヲタ押す手が、すごく震えていた。
すると、僕は目を疑うようなものを見た。
なんと、返信が削除されているのだ。
どうしよう。やっぱり僕から告白されるのは嫌だったか。いや、誤字をしただけで、もう一回来る。そんな思考がぐるぐると頭を占める。
さあっと、体が冷えていく気がする。
が。
突然、大きな着信音が耳に通る。かけてきた人は……君だった。
僕は震えを抑えること知らず、すぐに電話した。スマホを片手にとる。
すると、電話口から衝撃のことを言われた。
「公園で、待ってる。」
そう恥じらいのある声でそれだけ言って、電話を切られた。
……これは、期待してもいいか?
僕は、確かあの時「告白されるなら面と向かって」だと言った。しかも、今回の電話で「一人で来て」と言われている。
そしてあのトーン。ごめん。捨てられた子猫のような声で言われると、勘違いしてしまいそうだ。
僕は、服を着こなして、胸を張って外へ出た。
いま、こんないい展開を逃す訳には行かない。
これ以上開けない距離。
1歩近づく関係。
小さな一線、ラインの距離が開けない。
僕は、友達という一線を超えた関係になるために、1歩踏み出した。

8/31/2023, 2:42:41 PM

「不完全な僕」

腕に付けられたマーク。光が灯されていない目。
日焼けのない薄く白く細い肌。
これが僕。先生の元で暮らしている。
僕は先生といる時が1番いい。
食べ物は先生が作ってくれるコロッケ。先生が笑いながら食べているのを見ると、胸の当たりが温かくなっていく。
好きな事は先生とピクニックへ行くこと。太陽が程よく照らしていて、いやすい。
先生は白衣を着ていらっしゃる。僕のお世話をしてくれて、僕は、先生の近くにいると、胸の鼓動が落ち着く。
先生は、それを「大好きなんだ」と教えてくれた。
でも、僕には足りないものがあるらしい。「気持ち」と前に言ってくれた。
うれしい、こわい、たのしい、つらい。そんな言葉がこの世にはあるらしい。
でも、僕にはそれが分からない。胸の辺りの違和感を覚える事があっても、それが、くるしい、とかうれしいとか、そう思うことは無い。
どうすれば、それを明確に分かるんだろう。
むしろ、どうしていれば分かったのかな。先生に聞くと、先生は眉をぐっと寄せて、僕のことを見た。
そんなに、言いづらい事なのかな。僕、なにか昔取り返しのつかない事しちゃったのかな。
そう僕が思っていると、先生は、口をゆっくり開いて「愛情。それがあれば気持ちは生まれる」と言われた。
前に見た本でも、愛がなんたらと書かれていた気がする。
愛とは、なんですかと僕が聞くと、先生は「人によって違うけど、私は温かいものだと思う。」と笑いながら僕の頭を撫でた。
愛。温かい。先生がコロッケを食べている時と同じような胸の温かさが、愛というのだろうか。
もし、気持ちが生まれるほどの愛を僕が受け取ったら、そのあとも僕に愛は貰えるのだろうか。
もう、先生がコロッケを食べているところを見ても、温かいと思うことは無くなっちゃうんだろうか。
それは、何となく胸が締め付けられるみたいだ。だとしたら、僕は。
先生、僕は、気持ちが欲しいです。
でも、愛情の方が、たくさん欲しい。だって、先生と一緒にいると、胸が温かくなるから。
もし、気持ちが生まれて、そこから愛情を貰えなくなるのなら。
僕は、ずっと未完成のまま、不完全なままでいたいです。


先生side

私は、とある機械を専門にしている博士だ。つい最近まで、人間の形をしてAIを埋め込んだロボットを作ろうとしていた。
研究の最中、私は小さい子供を見つけた。
腕に付けられた火傷跡。絶望して光のない瞳。家から出られない。またはろくに食べさせられていないのか、薄く白く細い肌を持つ人。
そう、彼を見つけたのだ。
彼は、まるでロボットのようで。同じ人だとは思えなかった。顔の表情などから、考えている事を読み取る私にとっては、中々大変だった記憶がある。
それが彼が親に捨てられたということだった。私は無理やり私の所へ引き取った。
最初は、ロボットより何をするか分からない人間の研究にもなる。と思っていたが……
今は、彼が安心する居場所になりたい。そう思えた。
もちろん。生まれがあまりにも不遇だった。ということもあるが……それ以上に一緒にいて、もっと、彼に私の思う幸せを共有したいと思ったから。私の幸せと、彼の幸せは、きっと違うだろう。
でも美味しいご飯を食べて、他愛もない話をして。温かい風呂に入って。ふかふかの布団でぐっすり寝て。
そんな、何気ない日常に安心感を持たせたかった。
彼も、引き取る前は、こんな日常は、ありえない事だと思っていただろう。
だからこそ、私はまだ不完全な君に、色々な事を教えたいんだ。
君が、私の事を不要だと思う日まで、私はここにいるからね。

8/30/2023, 2:22:00 PM

香水

ネオン街に照らされる真っ黒な空。浮かぶアイスのような月が、窓に照らされている。その光景を、おれは小さな部屋の中で、ぼんやりと見ていた。
俺は、今日彼女と部屋で1日過ごす、いわばお泊まりデートをしていた。
俺の家に彼女が行きたいと言った時、少しびっくりした。
何せ、彼女のようにオシャレなものは何一つ置いてないし、なんなら生活に使うための最低限のものしかないから。それでも、俺の家で泊まりたいとお願いされ続け、最終的にこっちが折れることとなった。
せめて俺の思うオシャレなものを置きたい、と思ってホテルにあるような間接照明を買ったのは内緒。
まあ、そんな訳で今俺らは寝室にいる。彼女が今風呂に入っているから、俺はここで待ってるということだ。
やがて、彼女が寝間着姿で部屋に入ってくる。風呂上がりで熱いんだろうか。寝間着が少し薄い。温かかったよ。とメイクをしたキリッとした顔じゃなく、ふんわりとした笑顔で言った。
喉の奥が、こくりと鳴る。
やがて、彼女は俺の隣に座ると、すこし恥じらいを持ちながら言った。
いい香水はないか、と。俺は香水の専門店で働いてるから、いいのがないか聞いてきたんだろう。
俺は部屋から香水の雑誌を取りだし、説明をし始める。
でも、おれはこのままの匂いも好きなんだよなぁ。
シャンプーもボディーソープも、使っているものは一緒のはずなのに、何故かすごくいい匂いがする。
ふんわりしているというか、なんというか。
そんな匂いのまま近づかれて、長い髪を耳にかけようとすれば、俺はもうキャパオーバーな訳で。
しかし、そんなことは一切悟られたくない。俺は隠して説明を続ける。一通り説明し終えると、俺はどうしてそんなことを聞くんだ。と言った。
すると、彼女は余計に顔を赤らめ、下を向き始めた。
そんなに聞きづらい事なのか、と俺は彼女の方をじっと向く。やがて、蚊の鳴くような声で彼女は言った。
「いい香りがすれば、俺が余計に夢中になってくれると思ったから。」と。
勘弁してくれ、と俺ははぁと頭を抱えてため息をついた。
そんな事しなくても、俺はもうお前に夢中だっての。
そんな思いを込めて、彼女を後ろからぎゅっと抱きしめる。可愛いとかではなく、もはや愛おしいレベルまである。やがて俺は身体をはなすと、彼女の左手を持ち、自分の普段使っている香水をその細く白い手にシュッとかけた。その手に鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅ぐ。
不思議だ。シャンプーもボディーソープも使っているものは同じなのに、こんなにふわふわといい香りがするのに。
香水だけは、匂いが一緒で。彼女の手から俺と同じ匂いがするのだと分かった時は、優越感が占めていた。
握った手が、ひどく熱く火照っている。
これは、風呂上がりのせいか。
──それとも、俺のせいか。

8/29/2023, 2:44:23 PM

言葉はいらない、ただ……

どうして、どうしてこんな上手くいかないんだろう。
学校ではたくさんの小さなミスをして、自分の事で手一杯で、私を支えてくれる家族に、何一つ恩も返せていない。それどころか、むしろ迷惑をかけている気がする。
本当、何をしているんだろうか。私はひとつため息をつく。息を吐くのと同時に、目が熱くなって、視界が揺らぐ。 しかし、こんな事で泣いてどうする。私は込み上げてくるものをぐっとおさえた。そうだ、私はまだ大丈夫。
気を紛らわせるために、私はスマホを取り出す。このモヤりとした気持ちを感じなくする為には、スマホでそういう時の名言を調べてみる。
何か、ピンとくるものがあるかもしれない。
そう思ったが、期待とはうらはらにのっているのは、山を乗り越えて来たひとたちの経験だった。
中には、私と同じような経験をして、それを乗り越えたという人もいる。
でも、そうじゃない。
確かに、この苦しみを乗り越えた先、後から思い返せば「あぁ、私頑張ったんだな」とか「乗り越えた今が楽しいから、あの苦しみはちっぽけなものだ」とか。そう思う日も来るのだろう。
でも、私が求めているのは、そうじゃない。
ただ、「今」を受け止めて欲しい。認めて欲しい。
「未来」を考える力なんて、今の私にはないんだ。
……なんて、そんな事を、ぽつり、ぽつりと、誰もいない──いや、ご先祖さまの前で話し始めた。
私は、生まれつきご先祖さまというか、私の親族限定で、亡くなっている人達が見える。でも、見えるだけで声は聞こえない。
私の家にあるのは、ひいおじいちゃんのお仏壇。
今日、私が帰ってきた時、心配そうな顔をしているのが見えたんだ。
だから、心配かけないように、この事を話してしまった。
もう死んじゃっている人だからか、両親よりかは話しやすかった。
ひいおじいちゃんはうん、うんと私の拙い言葉を聞き逃さないように頷き、そして、話終わるとにっこり笑った。
すると、私の近くに来て、肩を抱き、背中をとん、とんと優しく叩き始めた。
「泣いていいんだよ。」そう言われているような気がして。
私は、ついに抑えきれず、目から涙が溢れ出した。声も、同時に口から出ていく。
久しぶりに、声を上げて泣いた気がした。でも、そんな私をひいおじいちゃんは嫌がりもせず、私が落ち着くまでそばにいてくれた。
言葉なんて、必要ない。ただ、私は認めて欲しかった。
不甲斐ない私を許してほしかった。
ただ、そばにいて欲しかった。
そんな思いが涙となって溢れてくる私を、ひいおじいちゃんは何も話さず、横で寄り添ってくれた。
感じることは無いのに、背中にある手がひどく温かった。

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