華音

Open App

言葉はいらない、ただ……

どうして、どうしてこんな上手くいかないんだろう。
学校ではたくさんの小さなミスをして、自分の事で手一杯で、私を支えてくれる家族に、何一つ恩も返せていない。それどころか、むしろ迷惑をかけている気がする。
本当、何をしているんだろうか。私はひとつため息をつく。息を吐くのと同時に、目が熱くなって、視界が揺らぐ。 しかし、こんな事で泣いてどうする。私は込み上げてくるものをぐっとおさえた。そうだ、私はまだ大丈夫。
気を紛らわせるために、私はスマホを取り出す。このモヤりとした気持ちを感じなくする為には、スマホでそういう時の名言を調べてみる。
何か、ピンとくるものがあるかもしれない。
そう思ったが、期待とはうらはらにのっているのは、山を乗り越えて来たひとたちの経験だった。
中には、私と同じような経験をして、それを乗り越えたという人もいる。
でも、そうじゃない。
確かに、この苦しみを乗り越えた先、後から思い返せば「あぁ、私頑張ったんだな」とか「乗り越えた今が楽しいから、あの苦しみはちっぽけなものだ」とか。そう思う日も来るのだろう。
でも、私が求めているのは、そうじゃない。
ただ、「今」を受け止めて欲しい。認めて欲しい。
「未来」を考える力なんて、今の私にはないんだ。
……なんて、そんな事を、ぽつり、ぽつりと、誰もいない──いや、ご先祖さまの前で話し始めた。
私は、生まれつきご先祖さまというか、私の親族限定で、亡くなっている人達が見える。でも、見えるだけで声は聞こえない。
私の家にあるのは、ひいおじいちゃんのお仏壇。
今日、私が帰ってきた時、心配そうな顔をしているのが見えたんだ。
だから、心配かけないように、この事を話してしまった。
もう死んじゃっている人だからか、両親よりかは話しやすかった。
ひいおじいちゃんはうん、うんと私の拙い言葉を聞き逃さないように頷き、そして、話終わるとにっこり笑った。
すると、私の近くに来て、肩を抱き、背中をとん、とんと優しく叩き始めた。
「泣いていいんだよ。」そう言われているような気がして。
私は、ついに抑えきれず、目から涙が溢れ出した。声も、同時に口から出ていく。
久しぶりに、声を上げて泣いた気がした。でも、そんな私をひいおじいちゃんは嫌がりもせず、私が落ち着くまでそばにいてくれた。
言葉なんて、必要ない。ただ、私は認めて欲しかった。
不甲斐ない私を許してほしかった。
ただ、そばにいて欲しかった。
そんな思いが涙となって溢れてくる私を、ひいおじいちゃんは何も話さず、横で寄り添ってくれた。
感じることは無いのに、背中にある手がひどく温かった。

8/29/2023, 2:44:23 PM