華音

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香水

ネオン街に照らされる真っ黒な空。浮かぶアイスのような月が、窓に照らされている。その光景を、おれは小さな部屋の中で、ぼんやりと見ていた。
俺は、今日彼女と部屋で1日過ごす、いわばお泊まりデートをしていた。
俺の家に彼女が行きたいと言った時、少しびっくりした。
何せ、彼女のようにオシャレなものは何一つ置いてないし、なんなら生活に使うための最低限のものしかないから。それでも、俺の家で泊まりたいとお願いされ続け、最終的にこっちが折れることとなった。
せめて俺の思うオシャレなものを置きたい、と思ってホテルにあるような間接照明を買ったのは内緒。
まあ、そんな訳で今俺らは寝室にいる。彼女が今風呂に入っているから、俺はここで待ってるということだ。
やがて、彼女が寝間着姿で部屋に入ってくる。風呂上がりで熱いんだろうか。寝間着が少し薄い。温かかったよ。とメイクをしたキリッとした顔じゃなく、ふんわりとした笑顔で言った。
喉の奥が、こくりと鳴る。
やがて、彼女は俺の隣に座ると、すこし恥じらいを持ちながら言った。
いい香水はないか、と。俺は香水の専門店で働いてるから、いいのがないか聞いてきたんだろう。
俺は部屋から香水の雑誌を取りだし、説明をし始める。
でも、おれはこのままの匂いも好きなんだよなぁ。
シャンプーもボディーソープも、使っているものは一緒のはずなのに、何故かすごくいい匂いがする。
ふんわりしているというか、なんというか。
そんな匂いのまま近づかれて、長い髪を耳にかけようとすれば、俺はもうキャパオーバーな訳で。
しかし、そんなことは一切悟られたくない。俺は隠して説明を続ける。一通り説明し終えると、俺はどうしてそんなことを聞くんだ。と言った。
すると、彼女は余計に顔を赤らめ、下を向き始めた。
そんなに聞きづらい事なのか、と俺は彼女の方をじっと向く。やがて、蚊の鳴くような声で彼女は言った。
「いい香りがすれば、俺が余計に夢中になってくれると思ったから。」と。
勘弁してくれ、と俺ははぁと頭を抱えてため息をついた。
そんな事しなくても、俺はもうお前に夢中だっての。
そんな思いを込めて、彼女を後ろからぎゅっと抱きしめる。可愛いとかではなく、もはや愛おしいレベルまである。やがて俺は身体をはなすと、彼女の左手を持ち、自分の普段使っている香水をその細く白い手にシュッとかけた。その手に鼻を近づけ、すんすんと匂いを嗅ぐ。
不思議だ。シャンプーもボディーソープも使っているものは同じなのに、こんなにふわふわといい香りがするのに。
香水だけは、匂いが一緒で。彼女の手から俺と同じ匂いがするのだと分かった時は、優越感が占めていた。
握った手が、ひどく熱く火照っている。
これは、風呂上がりのせいか。
──それとも、俺のせいか。

8/30/2023, 2:22:00 PM