華音

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心の灯火

私には、人がどれだけ将来に対して励んでいるか、目視することが出来る。
上手く伝えることはできないけど、相手の胸のあたりをじっと見つめると、だんだんロウソクみたいな炎が見える。
最初見えた時はその人が後どれだけ生きられるのか。みたいなのかなと思ったが、話をしていくうちに、段々違うことがわかった。将来なりたいものがハッキリしていて、努力している人は炎の勢いが強くて、大きい。逆に将来に対して、夢は決まっているけど不安を持っている人達は、勢いが弱くて小さい。
クラスの子と進路の事を話している時に、この能力が理解できた。
……でも、私は、炎があるだけいいと思う。
小さくても、大きくても、どちらにせよその人達は夢を持てている人。
私には、将来なりたいものなんて考えていない。
何がしたいのか、何を目的とするか。そんな事が全く思いつかない。
そんな私の心の中は伽藍堂。炎なんて以ての外。生み出される不安も、何も無い。
どうすれば、いいんだろう。これといって趣味も無いし、特技もないから何も思いつかない。心の中が何も無い現状を、鏡の中の私が無情に映し出した。小さく項垂れた。

進路が決まっていない。そう親に相談した。もしかしたら文句を言われるかもしれないが、この現状を少しでも変えたい。それに私より長く生きている親なら何か分かるかもしれない。そんな僅かな思いと共に悩みを打ち明けた。
すると、色々な事に全力で挑戦してみたらどうだ。と言われた。そこで興味の持ったものを、将来なりたいものとすればいいのではないかと。そういえば、私は何かに全力で取り組んだ事あったっけ……。過去の私を少し恨んだ。もし全力で取り組んでいたら、今ごろ決まっていたかもしれないのに。
いや、もう後悔したってしょうがない。この街にはいろいろ産業が発達している。
色々な体験に、望んでみよう。
最初に体験したのは、料理。専門学校の料理体験へ行ってきた。そこの学校はホテルで出るようなメニューもあって、私はコースを一通り作ってみた。
結果、初めてにしては中々上手に出来たし、ご飯も美味しかった。でも、それを毎回作るとなると大変できっと疲れるだろうと思った。
次に、服飾関係の事。服を縫ってみたり、その人にあった衣装を選んだり、ウェディングドレスや着物を着させたりする体験をした。
結果、少しガタガタしているが、服は一応着れるまでにはできたし、アドバイス通りにおすすめすると、思った通りその人に似合っていた。
でも、これは慣れもあるけど持ち前のセンスも必要なんだな、と実感した。ウェディングドレスや着物はまず着たことがあまりないから大変で、凄く手こずった。
そのあと、医療関係にも頑張ってみた。
患者さんと向き合うのはとても緊張したし、頭が真っ白になった。薬の分量も誤差は許されない。そう思うと手が震えた。
建築やエンジニアは、高いところは苦手だし、設計書の記号を理解するだけで頭が回る。
芸能関係も、自信を持って舞台に立つことができなかったし。
学校の先生も、伝えたい事が上手く言語化できなくてひとつの事を理解してもらうのに、時間がかかった。
他にも色々手を出してみたが、どれも違う。そりゃ時間と回数重ねれば楽しくなると思うが。どれも私にはピンと来なかった。このままじゃ、私は何にもなれない。焦りと不安が頭を占めた。
疲れきった私が鏡に映る。何も灯されていない。やつれた私が。しかし、私は胸のあたりを見て驚いた。
炎はついていた。
それは、小さく、ゆらゆらと揺れていた。
どうして、私はまだ夢なんて決まってないのに。ぐるぐると頭を捻る。
やがて、私はとある予想がよぎった。
今の私の夢は、「夢を見つけること」なのでは無いか。
私は夢を見つけるために、こうして、色々な体験をしている。
それも、夢を見つけるための努力だ。
そうか、人とは違うけど、私には確かに、夢はあったんだ。
そして、いつか私の本当の夢が決まったら。
それに向けて、また同じように積み重ねていけばいい。
胸に手を当てる。ポカポカと、心の灯火が照らしてくれている気がした。

9/3/2023, 9:13:45 AM