【もう一つの物語】
忘れたくても忘れられない。
〝なんでこんなことするの!?〟
〝るなちゃん狂ってるよ!〟
〝るなちゃんと関わったら動物さんたちみんなが……〟
わたしが小学校低学年の話。
わたしは、クラスのみんながなりたがっていた飼育係にどうしてもなりたくて、普段手をあげないけど…頑張ってあげて、くじ引きをして、飼育係になった。
うさぎとかモルモットとか色々いた。
可愛かった。
愛した。
でも……
「どうして、みんな元気ないの…?」
わたしは、いじめられてたみたい。
わたしが、うさぎたちに、あげたご飯の中にダメなものを入れて、わたしがしたって先生に言ってた。
掃除も綺麗にしたのに、ちゃんとごみ捨てをしたのに、全部散らかってた。
わたしは、毎日毎日、泣きながら帰ってた。
その度に、お姉ちゃんは優しく抱きしめてくれて、助けてくれた。
……先生に、お金を渡して。
元気がない動物たちは、有名な動物病院の先生に来てもらって、ちゃんとみんな元気になった。
わたしが通る道全てに防犯カメラ設置して、監視してた。
いじめっ子たちは、それぞれ別々の場所に飛ばしたってお父さんから聞いた。
わたしの周りには、その日から、人が来なくなった。
〝るなちゃんと関わると飛ばされる。〟
〝先生に何を言っても、全部るなちゃんの味方をするから言っても意味無い。〟
〝るなちゃんの家族は怖い人が出入りしてるみたい。〟
たくさん、言われた。
そして、言った人は、消えた。
12歳になった頃には、誰もわたしのことに触れなかった。
教室で、孤独になった。寂しかった。辛かった。
わたしは、お姉ちゃんに「友だちがほしい」って言った。
お姉ちゃんは、いつもの優しい笑顔で『わかったよ。』って言った。
次の週、学校サボって連れてこられたのは、図書館。
『ねえ、あの子はどうかな?毎日毎日図書館で本読んでるの。それに可愛いでしょ?』
わたしは、こっそりと物陰からお姉ちゃんが言う〝あの子〟を見てみた。
可愛かった。
日焼け止めしっかりしてるから、肌が白くて、服も靴も可愛い。
読んでる本も絵本?みたい。
『今度、声かけてみよう。お姉ちゃんがサポートしてあげる。』
そう言って、次の日、あの子が座ってた席に座って、適当に選んだ本を読みながら待ってた。
その次の日も次の日も……
そしてやっと会えた。
赤茶色っぽい髪の毛がふわっと舞って、初めてあの子と目が合って、ドキドキした…
もしかして、好きになっちゃった…??
好きが分からないけど…ドキドキすることが、好きっていう意味なんだよね?
そういえば、この前読んだ本に、同性婚もできるところがあるって書いてたから、そこに行ったら結婚出来るよね。
ね、一緒に行こうね?
そうだった、名前聞かないと。
紙に書くのに必要だもんね。
そのあとの事は本当にキラキラした思い出だったの。
声かけた時も、一緒に遊んでる時も、
公園の水飲んでる姿見たときも
……ずっとドキドキしてた。
だから、離れたくない。離したくない。
誰かのものになって欲しくない。
わたしだけ…るなの事だけ見てて?
邪魔する人は、バイバイ出来るよ?
安心してね?
るなのくるみちゃん。
『るなとくるみちゃんは、ずっとずっと一生一緒だよ。』
【忘れたくても忘れられない】
また…いじめられた。
大人しいからって、バカにして…ムカつく。
でも、何も出来ない。
何も…してくれない大人たち。
〝いつでも相談してくださいね。〟
嘘つき。
〝あの子、また来たのよね〜。保健室をなんだと思ってるのかしら。〟
裏でいじめっ子たちと他の先生たちと一緒にバカにしやがって。
私は、いつからか、学校に行かなくなった。
どうせ、義務教育だし…退学も何も無い。
私は、学校に行かないようになってから、公園で遊ぶようになった。
暑い日は、図書館で本を読むようになった。
ある暑い日の夏。
公園で遊びたかったけど、暑すぎて、私は、図書館に行った。
いつもの席で、本を読もうと思った。
けど、女の子が座っていた。
………知らない子。
クリーム色のロングヘアのふわふわしてる髪。
ちらっと私の方を見て、女の子が読んでいた絵本を持って、こっちに駆け寄ってきた。
年下なのか分からないけど…身長、低い子だった。
『おねーちゃん、いつもここにいるよね?』
そう言ってきた。
「そう…だけど、だれ?」
『私、るな!12歳!中学生だよ!』
周りの人たちの目線が一気に集まる。
職員さんが来て
〝お嬢ちゃん、静かにね。〟
と言われた。
……なんで、怒られないといけないの。
結局、私たちは外に出た。
暑い。無理…
『おねーちゃん、ごめんね。』
「るな…私、11だから、お姉さんじゃないから…あなたがお姉さんなの。」
るなは、あっ…そっかそっか。って言って。
『おねーちゃん…じゃなくて、えっと……』
「くるみ。」
『うん…そうだっけ。』
不思議な子。変な子。
そんな感じ。
『くるみちゃん、遊ぼ!』
そう言って元気よく公園まで走っていった。
元気な子。
……私と大違い。
それから、たくさん遊んだ。
日焼け止めしっかり塗ればよかった。
ちょっとだけ、日焼けしたかも。
ねーねー!くるみちゃん!って大きな声で呼ばれた。
「どうしたの?」
『学校、行かないの?』
…なんで、知ってるの?
あー、そういえば、いつもここにいるって言ってたし…知ってるのは、当たり前……あれ?
「るなは、学校行ってるの?」
『えっと…うん!行ってる!』
「ふーん。私、行かないよ。いじめられるから。」
『…そっか。夏休み終わったら、行ってみてよ!新しく来る先生がちゃんとしてくれて、いじめっ子たち、みーんな転校するから!』
……何言ってるの?
『あ!もうこんな時間!くるみちゃん!』
そう言ってぎゅーって私を抱きしめた。
『――――――――――』
『じゃあね!また、必ず会えるよ!』
そう言って、帰った。
嘘つき。
そう思いたかったけど…。
本当に、いなくなるの?
最後の言葉、あれはどういう意味?
夏休みが終わって、何が何だか分からないまま、教室の扉を2年ぶりにあけた。
不思議な顔してる人、無視して会話をしてる人…
そして、なぜか、怯えてる人たち。
あの人たちは、いじめっ子たち。
私を見て、すぐに走って私の方へ来て、こう言った。
〝くるみちゃん!許して!〟
〝髪が変な色してるってバカにしてごめんなさい!〟
〝目つき悪いとか言ってごめんなさい!〟
それぞれ色んなことを一気に言われた。
なにこれ。何が起こってるの?
ガラッと扉がひらいた。
知らない先生…るなが言ってた新しい先生?
〝あなたたち、もう決まったことだから、大人しくしなさい。親に連絡しましたので。引越し、頑張ってね。〟
……なんで?
本当に…何がおこってるの?
分からないけど…本当に、怖かった。
困惑していると、新しい先生がこっちに来た。
クリーム色のセミロングのクセ毛の先生。
あれ?…どこかで見た色の髪。
〝るなから聞いてた通りね。ごめんなさい。もう大丈夫。この子たちは、バラバラに転校させます。先生が費用出すから。〟
「まって……なにこれ。わかんない。何が起こってるの?」
『あ、くるみちゃん!私の家ね、お金いっぱいだから、すぐに、えいってして、転校出来るの。1番治安悪い学校送りにするからね!』
そう言って笑う。るなが怖い。
私は、カバンを持って、すぐに学校から逃げた。
「るな…怖がるようなこと言ったらダメでしょう?」
『だってー。いじめっ子たちを消したら、るなのこと大好きになって、結婚してくれるかなって思ったんだもん。』
「もう、お姉ちゃんが出来ることには限界があるからね?」
『はーーい。』
「じゃあ、とりあえず、あの子の家の近くに住むことになったし、手土産を持って、引越しの挨拶をしましょうか?」
『うん!』
あの日、公園での、最後の言葉
『るなとくるみちゃんは、ずっとずっと一生一緒だよ。』
この言葉が、忘れたくても忘れられない…
だって、大人になっても……
『あ!くるみ〜!待った?変な人に声かけられたらいつでも言ってね!』
いつもの怖い上目遣い。
「ううん…全然。」
『よかった〜!今日は何食べる?くるみの作る料理好き〜!もちろん、るなも手伝うからね!』
「うん。」
『寝るときはいつもみたいに、一緒に寝ようね。』
一生、一緒。
【踊りませんか?】
私は、小さなサーカスに所属してる見習い。
〝マリちゃんさぁ…ここの掃除まだなの?〟
「あ…ごめんなさい。」
〝マリちゃん、ジャグリングのテストまた失敗したの?〟
「ごめんなさい……」
〝マリ、お前は雑用係だな。ショーには一生出れないな〟
私も、そう、思う。
簡単なことも出来ない。
みんなが出来ることが出来ない。
なにも…出来ない。
このまま、生きてていいのかなって思った。
毎晩毎晩、お祈りをする。
明日が来なければいいのにって。
でも、何度も何度も祈ったけど神さまは、いないのね。
朝日が嫌い。
来たことがない、ちょっとだけ都会な街に来た。
だから、ショーの準備は午後からにしようってことになった。
私は1人で残って、少しだけ今回のショーで使う道具の準備をしてから、街に出かけた。
この街は、レンガの建物がたくさん並んでいて、花がたくさん咲いていて…本当に、とても綺麗な場所だった。
〝おねーちゃん!かんこーきゃくさん?おはなどーぞ!〟
と小さな女の子から綺麗な白いユリをもらった。
「ありがとうございます。大切にしますね。」
そういうと、女の子は、ぺこりとお辞儀をして歩いてどこかに行ってしまった。
せっかくもらったお花だけど…私が持っててもいいのかなって思った。私みたいな汚い人が出来損ないが……そう思いながら、白ユリを見ていると、男の人がきた。
『あ、白いユリをもらったのですね!ここの街の人たちは、観光のお客さんにお花をプレゼントするんですよ。とてもお似合いですよ。』
「あ…ありがとうございます。」
男の人は少し悩んで、私の顔をみて、そうだ!といいながら、白ユリを上手に私の髪に付けてくれた。
『やっぱり似合うと思った!』
と笑顔で言ってくれた。
「本当に……?あの…私、似合わないですよ。」
『そうかな?うーん…じゃあ、これはどうかな?』
そう言って、手を引いて、ベンチに私を座らせて、歌を歌いながら、後ろにひとつの三つ編みをしていた。
……なんだか、ソワソワする。
5分ぐらい経ったのかな…わからないけど、出来た!っていう声が聞こえた。
いつの間にか、さっきの女の子も近くに来ていた。
〝おねーちゃん、きれー!ミナトおにーちゃんすごいね!〟
……ミナト?
聞いたことあるような…気の所為かな。
『えっへん!サラちゃんが綺麗なお花をプレゼントしてくれたからだよ。ありがとね。』
〝うん!じゃーね!〟
「あ、あの…ミナト?」
『んー??どうしました?』
……ミナトって、なんだろう。
白い花を持ったミナトを見ると、心が苦しくなった。
どこかで、あった?
『えっと…どこかで会いましたっけ?』
「あ…何もないです。多分。」
『実は、僕も君に会ったことあった気がして…なんだろね!前世で何かあったのかな?』
「わからないです…」
『うーん…じゃあ、君の名前は何かな?』
「私、孤児で、小さなサーカス団に引き取られて、そこではマリって言われてます。」
『孤児か…多いよね。本当の名前は何かな?覚えてる?』
「えっと…アカリです。」
『アカリ…ちゃん。あ』
そう言って、ミナトは、ポロポロと泣きはじめた。
『なんだろ…えへへ……ごめんね。うん!アカリちゃん!僕が街案内してあげるね!』
そう言って、早歩きをした。
商店街で食べ歩きをしてる時、占い師のおばあさんに呼び止められた。
〝そこのお二人さん……やっと逢えたのね。よかった。〟
逢えた?よかった?
『あの…どういうことですか?』
〝あなたたち、同じ病気になって、同じ病室にいて、貴方が白い花で先に亡くなって、それから数年経って、貴女が赤い花で亡くなったのよ。〟
私たちは目を合わせて、考えた。
そのあと、公園のイスに座って、おばあさんの言葉を考えていた。
そんなこと…って思うけど、やっぱり、どこかで会ったことがあって…じゃあ、本当に?
『アカリちゃん。』
ミナトが、真剣な顔をする。
『あのね…おばあさんのおかげで全部、思い出せた。本当に……先に逝って、ごめんね。ずっとずっと後悔してた。また逢えたらたくさん遊ぶって決めてたんだよ?声も、聞けて嬉しい。肌も、綺麗。よかった…。あ、オーロラを見ようって言ってたの覚えてる?あとは……虹!一緒に見ようよ!』
ミナトは、生き生きと話す。
でも、私は、少ししか思い出せない。
確かに病室にいて、花もツタも嫌いだった。
『あ…ごめんね。嘘っぽいよね。』
「違うの。急だったから。頭の中、整理中。」
『そっか…ゆっくり思い出してね。』
そう言って、ミナトは、私の頭を撫でた。
あ…そうだ。絵本に書いた。
虹が出ている時、2人で踊って、楽しかったねって言って、2人の家に一緒に帰る話。
「ミナト……虹、見たい。」
『えっ?うーん…今、晴れてるから……うーん。』
頭を抱えて、悩んでるミナトを見ると、なんとなく、ずっと隣に居たような気がする。
……これは、気の所為だよね。
『あ!あるよ!虹見れるとこ!近くの大きな噴水ならいつでも虹見れるよ!行こう、アカリちゃん!』
噴水の近くは、あまり人がいなかった。
けど、虹がキラキラしてて綺麗だった。
『あ…アカリちゃん!』
「?」
『………』
緊張してるの?どうして?
『……アカリちゃん、踊りませんか?』
「…覚えてたの?」
『もちろん!僕はもうボロボロだったけど、あのお話は2人の大切な秘密のお話だから。』
すごく嬉しかった。
あの時のミナトは、本当に、意識があることが不思議なぐらいボロボロで、見ているこっちも涙が出てくるぐらい。
『あの…アカリちゃん?』
「もちろん、私、ミナトとしか踊らないよ。」
『よかった…本当に……うん、踊ろう!踊って楽しい思い出つくろ!』
私たちは、不格好な踊りを噴水の近くで踊って、たくさん笑った。
周りの人なんて、気にならなかった。
【不完全な僕】
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
【ひとつだけ】と物語が繋がってるのでおさらいです。
少女>>>ルウ
(一人称 私)
(幼い頃に両親他界。その後親戚や施設をたらい回しにされて、絶望しかけた時にリクが助けてくれた。ツンデレだけど、リクには感謝している。)
男性>>>リク
(一人称 僕)
(ルウの保護者(仮)。血は繋がってないけど、本当の娘のように接している。手先が器用なのは、色んな職業やボランティア活動をしてるから。)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
僕は、今、幸せだ。
すぅすぅと寝息を立てて、ルウは寝ていた。
今日は、お祭りがあったから疲れちゃったかなぁって思ってた。
ルウの頭を撫でる。
起きてたら、きっと叩かれて色々と言われるんだろうなって思った。
昔の僕は、不完全な人間だ。
いつもいつもゴミ屋敷にひとりぼっちで両親の帰りを待っていて。
帰ってきたと思ったら、お金を雑に置いて、また夜の街へと歩いていく。
学校に行ったことがなくて、友だちも居なくて、家族も…居ない。
人のぬくもりも、愛情も、何もかもない。
少し経ってから、家出をした。
僕がどこかに行っても大丈夫。両親は、心配しない。
路上生活は、つらかった。夏は暑いし、冬はしもやけが酷かった。ゴミ漁っては、明日を何とかして、生きる。
……そんな、生活。
ある日、じいちゃんが隣にきて、公園で炊き出しボランティアっていうものがあるよって教えてくれた。
そこで、はじめて、ボランティア活動を知った。
僕は、毎日のように通って、ボランティアの人の手伝いをした。
ボランティアの人たちが〝ありがとうねぇ〟って言ってくれるだけで嬉しかった。
そんな日々を過ごしていて、ある日、ボランティアのおばちゃんが〝ボランティアしてみないかい?私の家で住んでもいいよからね。〟って言ってもらえた。
その日から、おばちゃんの家に住んで、炊き出しボランティアの為の買い出しとか料理とか…おばちゃんが住みやすいようにって思って、掃除や洗濯、ご飯作ったりした。
その度に、おばちゃんは〝坊やは優しいねぇ。〟って言ってもらえて、おばちゃんからは、両親から貰えなかった、たくさんの愛情をもらった。
僕に名前が無いって言ったら〝リク〟っていう名前もくれた。
おばちゃんは、僕が20になったすぐに亡くなった。
その後、僕は、色んな場所で色んなアルバイトやボランティア活動をした。
30過ぎた頃、ルウに会った。
病院の七夕イベントのボランティア活動中に、5歳ぐらいの小さな子どもが居た。
ひとりでぽつんとキッズルームで絵本を読んでいた。
「きみ、どうしたのかな?あっちで面白いことをするよ。」
すると女の子は
『行かない。』
と、ひとこと言って何処かへと行ってしまった。
すれ違いで看護師さんが来て
〝あ!リクさん、こんにちは。〟
「こんにちは、お世話になっております!えっと…実は女の子に嫌われちゃったみたいで…」
そういうと、少し困ったような悲しい顔をして
〝あの子ね、お母さんが入院中で、もうダメみたい…お父さんもつい最近亡くなって…親戚が居るみたいだけどね。引き取り手が居ないみたいで…このままだと、児童保護施設かな。〟
と言って〝では、お仕事行ってきますね。〟とナースステーションに行った。
そう、なんだ…あの子大丈夫かな。
イベント終了後の片付け中もあの子が気になっていた。
もし、誰も引き取ってもらえなくて、愛情無かったら…僕と同じになる。そう、思った。
ある日の昼間、仕事もボランティア活動も休みの日に、看護師さんから連絡があった。
〝ルウちゃんが…!人手がほしいので、お願いします!助けてください!〟
僕は、急いで準備して家を出た。ボランティア仲間にも連絡して探してもらうようにした。
日が暮れて、夜になった。
あの子…ルウちゃんの情報は何もない。
僕は、街の隅々まで見たはず…もしかして、電車乗って遠くへ行った…?
色んなことが頭に流れてきて、考えないようにしてたのに…だめだな……
そう思いながら、名前を呼びながら走っていると、ある看板があった。
「星祭…?そんなのあるんだ……」
子どもだから、祭りの会場に行ったかもしれないと思って、さっそく行った…けど
〝招待状をお持ちでない方は入場出来ないのですよ。〟
と言われた。
「じゃあ、あの、子ども…女の子見ませんでした?」
〝女の子……あぁ、いました!隣のテントに居るはずですよ。〟
「助かりました!ありがとうございます!」
そう言って、急いでテントに入った。
「いた……よかった…。」
ルウは、しくしくと泣いていた。
『私、いない方がいいんだ…!!おじさんもおばさんも…!お母さんとお父さんの遺産目当て!!クズばっかり!!!』
泣きながら怒るその姿は、子どもとは思えないくらいに……悲しい姿だった。
「お嬢ちゃん、僕と暮らそう。色んな手続きが必要だから、時間かかる――」
『いいよ』
「―――へ?」
『いいよ。先に私を見つけた人と暮らすって決めてたの。』
えっと…ルウちゃん、いいのかな……?
イベントで1回だけ会った人ですけど…?
僕、自分で言っててなんだけど、怪しい人ですよ?
『これ、お母さんとお父さんのお手紙』
そう言って渡されたのは、遺産相続の遺言書みたいなものだった。
読むと、遺産は全てルウちゃんにあげる。ルウちゃんを引き取ってもらう育ての親にも相続させる。
そんな感じで書いてた。
『お兄さん名前は?』
「あ…えっと、リク。」
『私は知ってるよね。名前呼んでたの知ってるから…』
「うん。とりあえず今日は、病院に戻ろうか。看護師さんが心配してるからね。ルウちゃんが元気だよって教えてあげようね。」
『うん…』
「大丈夫。僕が居るよ。」
そのあとは本当に大変だった。
養子って…手続きって、大変だ。もう腱鞘炎になりそうだった。
けど、ルウちゃんの為って思ってたら、頑張れた。
『ここが、リクの家?』
「そう。古い民家だけどね、リフォームしてるから中はすごく綺麗だよ。」
『リク、ちゃん付けやめて。恥ずかしいから…』
「うん。わかったよ。」
気付いたら、僕も寝てたみたいだ。
朝ごはんの支度をして、ルウを起こさないと。
「ほんと、色んなことがあったな…」
そんなことを思っていると、ルウが起きた。
『ん……寝てたわ。』
「おはよ。よく寝てたな。」
『ソファで寝るなんて…疲れてたのね。』
「顔洗ってこいよ。ご飯の準備するから。」
『わかったわ。』
過去に色んなことがあったけど…本当に、今は、幸せだ。
不完全な僕は、おばちゃんに出会って、ボランティアで色んな人達の〝ありがとう〟を聞いて…
おばちゃん、僕は、少しだけでも、普通の人間になれたかな?
『なにニヤニヤしてんの?キモ。』
……ルウの反抗期は、いつになったら終わるかな。
【香水】
私は、目がみえない。
生まれつきらしい。
だから、においで誰かがわかるようになった。
お母さんは、洗濯物や料理のにおい。
お父さんは、お酒やタバコのにおい。
〝貴方もちゃんとしてよ!いつもいつも私ばかり!〟
〝うるせえな!お前がちゃんとした子ども産まないからこんなことになるんだ!〟
……また、喧嘩。
近くなのか遠くなのか…わからないけど、大きな声。
最近、多い。
イヤになった。
私は、家出することにした。
両親に見つからない。
なるべく遠くへ行きたかった。
タイミングは、お母さんが居ない買い物の時。
こっそりと家を出た。
荷物はどこに何があるのかわからなかったから、玄関にいつもの所にある棒を持って…服はお母さんが着せてくれたもの。
1人の外出は、初めてだったから、ドキドキしながら歩いた。
色んな人の声がする。私は、早歩きをした。怖かった。
どこをどう曲がって、歩いたのかわからないから、本当に帰り道がわからない。
でも、両親は、私のこと、いらないんだ。
私が居たら、ストレスなんだ。
そう思っていたら、涙が出てきた。
『ねえ、キミ。』
ふわっと、いいにおいがした。
あまい香り…
「りんご…?」
声に出してた。恥ずかしい。
泣いてるところも見られて、声に出して…穴があったら入りたいってこんな感じなのかなって思った。
男の人?は、笑ってた。
『あぁ、ごめんね!キミ、僕のお店の前で泣いてたから気になって気になって…』
お店の前だったんだ…
「ごめんなさい…迷惑おかけしました。では……」
『あっ!あぶな……』
そう言い終わる前に、コケてしまった。
今日は、だめな日だな…
『大丈夫…じゃないね。血が出てるよ。ちょっとごめんね。』
そう言って、ふわっと身体が浮いた。
……だっこ??
「あ…あの!大丈夫!だから!」
『あわわっ!危ないからね!』
どうしようどうしよう!
誘拐だったら…!!
カランカランと音が聞こえたと思ったら、今度は色んなにおいがした。
『僕のお店ね、香水屋さんなの。ハンドクリームもあるけどね。』
『お兄ちゃーん!!お店手伝ってよー…って、その子どうしたの?!怪我してるよ…あたし、救急箱持ってくる!』
バタバタと女の人はどこかに行った。
『あー。あの子はね、血は繋がってないけど、妹の――』
『ななみだよ!よろしくー!はい、救急箱!』
「血、繋がってない…?」
『うん。僕の母親が小さい頃に亡くなって、再婚相手との間に産まれた子が、ななみ。』
『ややこしいよねー。クラスメイトに説明するのも大変だよー』
と言って笑ってた。
複雑な環境なのに、こんなに愛されてるんだ…いいな。
そう思うと、涙が出てきそうになった。
『よしよし。これでおわり!大丈夫だよ!』
「ななみさん、ありがとうございます。」
『大丈夫!お兄ちゃんに任せたら大変だから。』
『僕、傷の手当ぐらい出来るもん』
と言ってる声は、弱々しくて、どっちが年上かわからなくなる。
『そういえば、白い杖ってキミの?道に落ちてたよ?』
「あ…そうです。」
しばらくの静寂。
口を開いたのは男の人。
『ねえ、もしかして…どこかに行こうとしてた?僕、案内しようか?』
私は、横に首を振った。
「私、家出なんです…家の場所もわからないから、どっちみち、帰れない。」
『お姉さん家出かぁ…じゃあ、家族が来るまでここに居てよ!お兄ちゃん、いいよね?』
『そうだね。家の場所わからないなら、どちらにしても家まで送ってあげれないし…うん、じゃあ、ここに座って待ってて。お茶もってくるね。』
そう言って、男の人は、スタスタと音をたててどこかへ行った。
『お兄ちゃんね、人助けが趣味みたいな感じなの。そこがカッコいいところ!でも、顔もカッコいいから、勘違い女がいっぱいいるんだよねー。そういう時は、お兄ちゃんに頼まれててね。私が彼女のフリするの。』
『ななみ。もう少し、楽しい話してよ。ごめんね。はい、お茶だよ。僕の名前は、なおっていうからね。何かあったら言ってね。』
そう言って、2人は遠くへ行った。
お茶のいいにおい。
お店の色んないいにおい。
お客さん居ないのかな…?
声しない。
スタスタという音が聞こえてきた。
「なおさん?」
『すごい!そうですよ!足音でわかった?』
「はい。お茶、ありがとうございます。」
『いいえー。あっそうだった。ななみが、よかったら香水をつくってみない?って言ってたんだけど…どうかな?』
「いいのですか…?」
『うん!店内ずっと気になってたでしょ?だから、自分専用の香水つくってつけてほしいなぁって思って。』
香水は気になる…けど……
「私、お金ないです。」
そう。私の荷物は、この杖だけ。
でも、なおさんは、
『大丈夫大丈夫!』
と言って、また、私を持ち上げて、どこかへ連れていってくれた。
『あ!お姉さん来たね!待ってたよー!どんな香りが好き?容器は――』
『ななみ。女の子困ってるでしょ?』
と言って、なおさんとななみさんは、声を揃えて
『『そういえば、名前は?』』
と言った。
「私は、ちさと。」
『ちさとちゃん!じゃあとりあえず…少しづつ、香りを嗅いでみて、その中から選ぼうか!』
カチャカチャと音をたててる。準備中みたい。
数十分後。
『はい!これが、ちさとちゃんの香水!容器小さめだけど…香りを楽しむだけでも癒されるからね!』
と言って、ポケットサイズの香水をもらった。
『でもでも、お兄ちゃんと同じような香水になったね!』
『そうだね。この香りは、いい香りだよね。』
りんごみたいな…ふんわりとした香り。
好きなにおいになった。
数時間後にお母さんが来た。
来ないでほしかった…このままここに居たかった。
けど…迷惑になるから、お礼を言って、帰った。
〝たなかさーん!ヘルパーですー!〟
私は、大人になって、ひとり暮らしをしていた。
ヘルパー付きだけど…普通の生活ができてる。
〝あら。今日も、りんごの香水つけてるのですね。いいにおいですねー。どこで買ったのですか?〟
「ヘルパーさんも、今度一緒に行きましょ。お友達がしてるお店なんです。」
あの日のことは、この香水をつけると思い出す。
私は、家出をしてよかったって思ってる。
そうしなかったら、この香水と会えなかったから。
〝あらら、こんにちは。なおさん。〟
『はい、こんにちは。』
スタスタという音が近くなって、私の近くで、とまった。
『ちさとちゃんも、こんにちは。』
「うん。こんにちは。なおさん。」