小鳥遊 桜

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【不完全な僕】

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【ひとつだけ】と物語が繋がってるのでおさらいです。

少女>>>ルウ
(一人称 私)
(幼い頃に両親他界。その後親戚や施設をたらい回しにされて、絶望しかけた時にリクが助けてくれた。ツンデレだけど、リクには感謝している。)

男性>>>リク
(一人称 僕)
(ルウの保護者(仮)。血は繋がってないけど、本当の娘のように接している。手先が器用なのは、色んな職業やボランティア活動をしてるから。)


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僕は、今、幸せだ。
すぅすぅと寝息を立てて、ルウは寝ていた。

今日は、お祭りがあったから疲れちゃったかなぁって思ってた。

ルウの頭を撫でる。
起きてたら、きっと叩かれて色々と言われるんだろうなって思った。




昔の僕は、不完全な人間だ。
いつもいつもゴミ屋敷にひとりぼっちで両親の帰りを待っていて。
帰ってきたと思ったら、お金を雑に置いて、また夜の街へと歩いていく。
学校に行ったことがなくて、友だちも居なくて、家族も…居ない。
人のぬくもりも、愛情も、何もかもない。


少し経ってから、家出をした。
僕がどこかに行っても大丈夫。両親は、心配しない。
路上生活は、つらかった。夏は暑いし、冬はしもやけが酷かった。ゴミ漁っては、明日を何とかして、生きる。
……そんな、生活。

ある日、じいちゃんが隣にきて、公園で炊き出しボランティアっていうものがあるよって教えてくれた。
そこで、はじめて、ボランティア活動を知った。
僕は、毎日のように通って、ボランティアの人の手伝いをした。
ボランティアの人たちが〝ありがとうねぇ〟って言ってくれるだけで嬉しかった。

そんな日々を過ごしていて、ある日、ボランティアのおばちゃんが〝ボランティアしてみないかい?私の家で住んでもいいよからね。〟って言ってもらえた。
その日から、おばちゃんの家に住んで、炊き出しボランティアの為の買い出しとか料理とか…おばちゃんが住みやすいようにって思って、掃除や洗濯、ご飯作ったりした。
その度に、おばちゃんは〝坊やは優しいねぇ。〟って言ってもらえて、おばちゃんからは、両親から貰えなかった、たくさんの愛情をもらった。
僕に名前が無いって言ったら〝リク〟っていう名前もくれた。

おばちゃんは、僕が20になったすぐに亡くなった。

その後、僕は、色んな場所で色んなアルバイトやボランティア活動をした。

30過ぎた頃、ルウに会った。
病院の七夕イベントのボランティア活動中に、5歳ぐらいの小さな子どもが居た。
ひとりでぽつんとキッズルームで絵本を読んでいた。

「きみ、どうしたのかな?あっちで面白いことをするよ。」

すると女の子は

『行かない。』

と、ひとこと言って何処かへと行ってしまった。
すれ違いで看護師さんが来て

〝あ!リクさん、こんにちは。〟
「こんにちは、お世話になっております!えっと…実は女の子に嫌われちゃったみたいで…」
そういうと、少し困ったような悲しい顔をして
〝あの子ね、お母さんが入院中で、もうダメみたい…お父さんもつい最近亡くなって…親戚が居るみたいだけどね。引き取り手が居ないみたいで…このままだと、児童保護施設かな。〟
と言って〝では、お仕事行ってきますね。〟とナースステーションに行った。

そう、なんだ…あの子大丈夫かな。


イベント終了後の片付け中もあの子が気になっていた。
もし、誰も引き取ってもらえなくて、愛情無かったら…僕と同じになる。そう、思った。



ある日の昼間、仕事もボランティア活動も休みの日に、看護師さんから連絡があった。
〝ルウちゃんが…!人手がほしいので、お願いします!助けてください!〟
僕は、急いで準備して家を出た。ボランティア仲間にも連絡して探してもらうようにした。



日が暮れて、夜になった。
あの子…ルウちゃんの情報は何もない。
僕は、街の隅々まで見たはず…もしかして、電車乗って遠くへ行った…?
色んなことが頭に流れてきて、考えないようにしてたのに…だめだな……

そう思いながら、名前を呼びながら走っていると、ある看板があった。

「星祭…?そんなのあるんだ……」

子どもだから、祭りの会場に行ったかもしれないと思って、さっそく行った…けど

〝招待状をお持ちでない方は入場出来ないのですよ。〟

と言われた。

「じゃあ、あの、子ども…女の子見ませんでした?」
〝女の子……あぁ、いました!隣のテントに居るはずですよ。〟
「助かりました!ありがとうございます!」
そう言って、急いでテントに入った。

「いた……よかった…。」

ルウは、しくしくと泣いていた。

『私、いない方がいいんだ…!!おじさんもおばさんも…!お母さんとお父さんの遺産目当て!!クズばっかり!!!』

泣きながら怒るその姿は、子どもとは思えないくらいに……悲しい姿だった。

「お嬢ちゃん、僕と暮らそう。色んな手続きが必要だから、時間かかる――」
『いいよ』
「―――へ?」
『いいよ。先に私を見つけた人と暮らすって決めてたの。』

えっと…ルウちゃん、いいのかな……?
イベントで1回だけ会った人ですけど…?
僕、自分で言っててなんだけど、怪しい人ですよ?

『これ、お母さんとお父さんのお手紙』
そう言って渡されたのは、遺産相続の遺言書みたいなものだった。
読むと、遺産は全てルウちゃんにあげる。ルウちゃんを引き取ってもらう育ての親にも相続させる。
そんな感じで書いてた。

『お兄さん名前は?』
「あ…えっと、リク。」
『私は知ってるよね。名前呼んでたの知ってるから…』
「うん。とりあえず今日は、病院に戻ろうか。看護師さんが心配してるからね。ルウちゃんが元気だよって教えてあげようね。」
『うん…』
「大丈夫。僕が居るよ。」



そのあとは本当に大変だった。
養子って…手続きって、大変だ。もう腱鞘炎になりそうだった。
けど、ルウちゃんの為って思ってたら、頑張れた。


『ここが、リクの家?』
「そう。古い民家だけどね、リフォームしてるから中はすごく綺麗だよ。」
『リク、ちゃん付けやめて。恥ずかしいから…』
「うん。わかったよ。」







気付いたら、僕も寝てたみたいだ。
朝ごはんの支度をして、ルウを起こさないと。

「ほんと、色んなことがあったな…」

そんなことを思っていると、ルウが起きた。

『ん……寝てたわ。』
「おはよ。よく寝てたな。」
『ソファで寝るなんて…疲れてたのね。』
「顔洗ってこいよ。ご飯の準備するから。」
『わかったわ。』

過去に色んなことがあったけど…本当に、今は、幸せだ。
不完全な僕は、おばちゃんに出会って、ボランティアで色んな人達の〝ありがとう〟を聞いて…

おばちゃん、僕は、少しだけでも、普通の人間になれたかな?


『なにニヤニヤしてんの?キモ。』


……ルウの反抗期は、いつになったら終わるかな。

8/31/2023, 2:01:22 PM