小鳥遊 桜

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8/29/2023, 1:57:11 PM

【言葉はいらない、ただ・・・】

僕は、突然、奇病になった。

ニュースで最近よく見ていた。
身体にたくさんのツタや花が生えてきて、最終的には植物人間……言葉通りの意味になるって。

世界中で少しづつだけど増えてきてて、大問題になっていた。
戦争をしていた国も休戦するぐらい。

花には種類があった。
綺麗な無害な花から毒々しい花まで。

僕のは、毒の花だった。
真っ白な毒の花。
花びらを触るとピリピリした。
花粉は、なぜか飛ばなかったし指で触っても何もなかった。
短いツタは、毎日少しづつ伸びて、そのたびに、ビリビリと電気が走るぐらい痛い。

家族全員で僕の看病をしてくれた。
兄ちゃん姉ちゃんも身の回りをしてくれた。
でも、僕は、家族がだんだんと疲れてきてる家族を見るのが、辛かった。


ある日、テレビをぼーっと見ていたら、奇病を治す薬が出来たかもしれない。ってニュースで流れた。
でも、問題があって、その薬を使うためには治験をして安全だってわかってからじゃないと厳しいみたい。
もちろん、治験対象者は奇病患者。
もし…もし、治験が上手くいったら、家族全員喜んでくれるかなって思った。

さっそく、治験に参加しますっていうメールを兄ちゃんに送ってもらった。
両親に、病院へ行って入院手続きをしてもらった。
姉ちゃんに入院生活に必要な物を買ってきてもらった。

……本当に、僕は、何も出来ないなって思った。


入院当日、僕の花は増えて、ツタも伸びてて…歩くだけでビリビリと痛い。でも、こんな症状でも、薬で治ったらみんな救われる。

遠くからの視線に気になった。
でも、僕が見ると嫌な顔するだろうなって思って、聞き耳立ててみた。

〝見て。奇病よ。〟
〝男の子なのね。でも、毒の花みたいよ。〟
〝実験は、あの子だけど…治験はあの子なのよね?〟

実験?治験じゃなくて?

〝薬、間違えないようにしないと。〟
〝そうね。私も気をつけるわ。〟

そう言って、どこかに行ってしまったみたい。

実験って……ここ、なに?

色々と考えてる間に、病室の扉が開いた。

真っ赤な花……毒あるのかな?
あってもなくても、率直な感想で綺麗だなって思った。



〝入って。今日からここが貴方の部屋です。〟


そう言って、力強くバタンと扉が閉まった。
乱暴だなって思った。

しばらくの沈黙。
僕は、

『……君も奇病患者さん?』

…なに、当たり前なことを言ったんだろう。花が身体から生えてるなんて、奇病患者さんしかないのに。

女の子の方を、ゆっくりと顔をあげて見る。
やっぱり、綺麗な花。

『ぁ、ごめんなさい。嫌だよね。黙るから。』

そう言うと、女の子は、慌ててメモに何かを書く
「大丈夫です。声出ないだけです。」
と書いた。

初対面で嫌われたかと思った僕は、ホッとした。

『僕は、ミナトっていいます。突然、こんな感じになって…すごくびっくりしたんだ。』

僕は、誰かと話すのは久しぶりで、嬉しくなっちゃって、色々と話した。

『僕ね、高校2年の終わりに突然なって。家族全員、心配してくれた。けど…さっきの…最後に見た家族ね、疲れた顔して、安心したような…そんな顔してた。僕、本当はいらないんだなって思った。』

言い終わったあと、家族の顔が思い浮かんだ。本当に、申し訳ないな…。
その話を聞いて、女の子も、メモに書き始めた。

「私は、家族に捨てられた。最初は…産まれた時は、つぼみのような感じだった。5歳頃には、もう真っ赤な花が咲いていた。その頃には、声も出なくなった。養分とられてるのかなって思う。けど…もう、いいや。生きるの疲れた。」

この子は…生まれつきなんだ。
家族に捨てられて、この病室でひとりぼっちだったんだ…
そう思うと、僕は、涙がとまらなかった。

少しづつ、少しづつ、落ち着いて…

『ごめんなさい…つらかったよね。さっき、看護師さんや先生が言っていたのは、君なんだね。』

「悪口?」

女の子は、即答した。
僕は、また泣きそうになりながら

『そう…なのかな…。あのね、もうひとつ、聞こえたことがあって…僕、昔から耳がよくて……君、実験されるって本当?』

「初耳です。でも、あなたが助かるなら、実験されてもいい。誰かの役に立てるならそれでいい。」

『そんな…僕の方が年上だよ。君には、もっともっと生きてほしい。』

これは、本音だった。
この子には、少しでも長く、生きてほしい。
そう思って、気になったことを聞いてみた。

『君は…君の花は、毒があるの?』

「無い。」

『じゃあ、僕の方が実験に向いてるよ。僕の花は毒があって、進行も早い。だから…』

あ……失礼なこと言ったよね。
ごめんね。ごめんなさい…





はやく治験始まらないかなって思っていた夜中。
ツタが動いた。

『うぅぅぅ……はぁ…はぁ………』

ビリビリする…痛い。苦し……

シャッと隣のカーテンが動いた。
あ…怖がらせて、ごめんね。
見ないで…ゆっくり……寝て…

そんなことを思っていたら、女の子は、慌ててナースコールというものをとって、マイクの部分に指をあてて、2-5-2とコツコツと叩いた。
2-5-2って……たしか、SOS?
いい子だな…声出ないのに、ちゃんと助けを呼んでくれてる。

すぐに看護師さんが来てくれた……と思ったら、叫び声をあげて逃げた。
当たり前だよ。
これは、僕でも、びっくりする。


女の子が心配そうな顔でこっちに来たから、慌てて声を絞り出した。

『来ないで………はぁ…はぁ…あと…看護師さん呼んでくれて、ありがとう……これは、もう少しで…終わるから……迷惑…ごめんなさい…』

そう言って気絶をした。

奇病じゃなかったら…奇病が無かったら、僕と女の子は、友だちになれたかな。


夢を見た。
あの子に花がなくて、幼いけれど、ちゃんと声が出てて…僕と一緒に遊ぶ夢。
「ミナト、一緒に遊びたい。」
『うん。遊ぼう。』




翌日、僕の声は出なかった。
でも、
『君とお揃いだね。』
と笑顔で紙を見せた。

僕の身体は、ツタが多くなっていて、ツタにいくつか蕾がついていた。
たくさん養分取るのかなって思った。

女の子が悲しそうな顔をする。
だから僕は、何もないよって言いたくて
『心配しないで。僕は、大丈夫。』
って書いた紙を女の子顔の前に見せた。
そして、また、笑った。

その後、女の子と仲良くなった。
女の子の名前は、無いって言われたから、僕と女の子で女の子の名前を考えた。

外に出たことがないって言ったから、外の世界を教えた。虹は見たことあるみたいだけど、オーロラを知らなかったみたい。今度写真でもいいから見せよう。

海を教えた。
「飲めない水なんて…そこで遊んでるなんて、変なの。」
と言って、2人で笑った。

少しづつ

少しづつ…

たくさんの思い出を作った。
絵を描いた。
お手製の絵本を作って2人で笑った。


そして3年後、僕は、動くことが出来なくなった。

治験、結局、ダメだった。

花やツタは動き回っていて、僕の養分をとっているみたいだった。
僕は、動ける片目でちらっと見て、泣きそうになる顔をよしよしできなくて、ごめんねって思ってた。


その1ヶ月後、僕は、ただの草花になった。

言葉はいらない、いらないから…ただ、アカリの声が手のひらのぬくもりが笑顔が、恋しい。

8/2/2023, 10:42:02 AM

【病室】



いつものように看護師さんが、紙皿に乗ったご飯を持ってきてくれた。
「いただきます。」
声は相変わらず出なかったけれど、ちゃんと言おう。

ご飯を食べて、いつもの日課の窓の外を眺める。
鳥が空を自由に飛んでいて、私はいつ出れるのかなって思ってた。


また、看護師さんたちの噂話。
〝あの子、気味が悪いわ。〟〝そんな事言わないの。国から援助が来なくなるわ。〟〝そうだけど……〟

あの子、は、私のことね。

私は、奇病患者らしい。生まれつきこの身体だから、周りに言われるまでわからなかった。
……というのは嘘ね。目から真っ赤な花が咲いてるなんて…私だけよ。
でも、毒がなくて綺麗な花だった。なんだろうって調べたけどわからなかった。病院の図書室の本なんて、娯楽程度のものしかないから、わからない。

両親は、私をここに置いて新しい人生を始めたらしい。
〝あなたは今日から…いいえ、今から私の子どもではないので、関わらないでくださいね。〟
それが最後の言葉。



ガラッと音をたてて、扉が開いた。
検査の日でもなんでもないのに、そう思って扉を見つめると看護師さんが慌ただしくベッドを私の隣に用意して布団と枕と色んな準備をしていた。

その後ろに年上の男性が下を向いて立っていた。

〝入って。今日からここが貴方の部屋です。〟
そう言って男性を部屋に入れて、バタンと扉が閉まった。
『……君も奇病患者さん?』
そう言ってゆっくりと顔をあげると、私と同じような花が咲いていた。
私と違うのは、真っ白の花。ツタのようなものがあること。だった。

『ぁ、ごめんなさい。嫌だよね。黙るから。』
私は、慌ててメモに
「大丈夫です。声出ないだけです。」
と書いた。

男性は、ミナトというらしい。
ミナトは、突然変異でこうなってしまって、びっくりした事を私に伝えた。

『僕ね、高校2年の終わりに突然なって。家族全員、心配してくれた。けど…さっきの…最後に見た家族ね、疲れた顔して、安心したような…そんな顔してた。僕、本当はいらないんだなって思った。』

ミナトは悲しそうに下を向いた。
「私は、家族に捨てられた。最初は…産まれた時は、つぼみのような感じだった。5歳頃には、もう真っ赤な花が咲いていた。その頃には、声も出なくなった。養分とられてるのかなって思う。けど…もう、いいや。生きるの疲れた。」
その紙を見せたら、ミナトは、ボロボロと泣いてしまった。

『ごめんなさい…つらかったよね。さっき、看護師さんや先生が言っていたのは、君なんだね。』

「悪口?」

『そう…なのかな…。あのね、もうひとつ、聞こえたことがあって…僕、昔から耳がよくて……君、実験されるって本当?』

「初耳です。でも、あなたが助かるなら、実験されてもいい。誰かの役に立てるならそれでいい。」

『そんな…僕の方が年上だよ。君には、もっともっと生きてほしい。』

生きるなんて…興味無い。って言ったら怒るのかな。怒るんだろうな…それかさっきみたいに、泣くのかな。

『君は…君の花は、毒があるの?』

「無い。」

『じゃあ、僕の方が実験に向いてるよ。僕の花は毒があって、進行も早い。だから…』

勢いよくカーテンを閉めた。
そんなの…知らない。実験は、私。明日の朝の診察でわかる。




もう、夜の22時になっていた。
寝ないと。


『うぅぅぅ……はぁ…はぁ………』
ミナト?
私はゆっくりとカーテンをあける。

その光景は…なんて言ったら……ミナトの目の花が…ツタが…ウネウネと動いていた。

私は、慌ててナースコールというものをとって、マイクの部分に指をあてて、2-5-2とコツコツと叩いた。
もしものSOS。本を読んでいてよかった。

看護師さんもわかったみたいで、きてくれた。そして、叫び声をあげて逃げた。
当たり前よね。これは、びっくりする。
私は、慌ててミナトに近付くと

『来ないで………はぁ…はぁ…あと…看護師さん呼んでくれて、ありがとう……これは、もう少しで…終わるから……迷惑…ごめんなさい…』

そう言って気絶をした。


翌日、ミナトの声は出なかった。
『君とお揃いだね。』
と紙を見せた。
ミナトの身体は、ツタが多くなっていて、ツタからも花が咲きそうになっていた。

ミナトは……ダメなのかな。
『心配しないで。僕は、大丈夫。』
顔の前に紙を見せてきた。

その後、ミナトと私は仲良くなった。
外の世界を教えてくれた。虹は見たことあるけど、おーろら?なんて知らない。
海を教えてくれた。飲めない水なんて…そこで遊んでるなんて、変なの。


それから3年後、ミナトは動けなくなった。
花やツタは動き回っていて、ミナトの養分をとっているみたいだった。
ミナトは、もうひとつの目でこっちを見ては、申し訳なさそうな目をしてくる。


その1ヶ月後、ミナトは居なくなった。
ミナトの身体はあるのに、ミナトが居ない。
草花が生き生きと咲いていて、ミナトは、居なくなった。
その頃には、ツタも花も動かなくなった。


ミナトのお見送り会。
参加者は、私だけ。
ミナトの家族は、連絡取れなくなったらしい。

静かに箱に手を当てて
「すぐ、行くから。待ってて。」
そう、伝えた。




5/29/2023, 11:05:19 AM

【「ごめんね」】



友だちと喧嘩した。
悪いのは、あの子だ。

自分勝手で、わがまま言って…
そのくせ臆病で、勘違いしては周りと距離置いて。

いつもの通学路だって、いつもずっと一緒だったのに、彼氏が急に出来たら『あー、ごめん私今日から彼ピと一緒に学校行くから行くから。適当にその辺の人と登校してて』って。
そう言って早歩きで登校して。
……そして、彼氏と別れたら『アイツと別れた!ねー愚痴っていい?ムカつく!』って。

何言ってんだか。
こっちの方がムカつく。
…そう思いながら「そうなんだね」って言いながら、笑顔で話を聞く。

他にも、家族からの愛情や家族と温泉が有名な県に行ったり、懸賞で当たったからって言って家族全員で大きなテーマパークに行ったり……それを『本当は行きたくないんだよねー』とか『また懸賞当たったー。誰か行く?もう飽きたんだよねー』とかわざわざネットや学校で言う。



これが、あの子。
私は、懸賞なんて当たった事ないし、家族旅行なんて行ったことない。愛情も無い。
いつも罵られて、蹴られて殴られての毎日。
それを聞いたあの子は、『かわいそー。何かあったらいつでも言ってよ?友だちなんだからー何も言わなかったら絶交だよ?』って言ってくる。
ウザい。ムカつく。近寄んな。可哀想な子だからってこっち来んな。
…そう思いながら、「ありがとう」って言ってた。



ずっと耐えてきた。
約12年間ずっとずっと謎のマウントやら私病んでるから助けなさいよアピールやら彼氏が公務員とか同業者とか変なアピールしてきても、ずっとずっと我慢してきた。
ネットの人たちの集まりなのに、普通に私のこと本名で呼んでくるのもムカついた。私はあの子のことちゃんとネットネームで呼んでたのに。って思いながら。



喧嘩した理由は、我慢出来なくなってしまって、私がブチ切れてしまったことからの始まりだった。
「そうやって、ずっとずっと学生の頃から思ってたけどウザいんだよ。友だちだからなんでも言えると思うな!可哀想だからって近寄ってくんな!バカにしてんの!?大人ぶるなよ!お前も私と同い年のくせに!!」
って。
そしたら
『あーあー。そうですかー。じゃあさ、ネットで私が悪いってみんなに言えば?お前の味方してくれる人なんていないけど。私、人気者だし。あとさ、大人ぶるなってさぁ…なに?え、もしかして心配してたこと?私は心の底から心配してたのに…ひどい。まあ、逃げない方も悪いよねー笑んじゃあ、ネットでもリアルでも孤立しててくださいね笑』
って言われた。

本当に最後の最後までムカつく人。




あれから何ヶ月かした。

私は、精神病になった。眠っても夢の中で出てくる。

あの子は、喧嘩した後すぐにネットで『私が全部悪いの。』って言って周りの人たちが心配してた。



私は、小さく誰に言うわけでもなく、

「ごめんね。」

と言った。

5/24/2023, 10:19:56 AM

【あの頃の不安だった私へ】

【遠くの街へ】を読むと面白いかもしれないです。



私は、はな。
はなが好きだったお母さんが付けてくれた名前です。
お父さんは夜遅くにならないと帰ってきません。

私は、お父さんとお母さんの喧嘩の声が嫌いです。
どうして喧嘩してるのか、わかりません。

結婚って幸せじゃないの?
一緒に暮らすって幸せじゃないの?
わかりません。


今日のお父さんとお母さんは、色んな物を投げてます。
…ぁ、私のおもちゃ……投げちゃった。
あとで、ごめんなさいしないと。

「お前、酒買ってこい!!」
「何言ってんのよ!!はなに買えるわけないでしょ!?」
「うるせえ黙れ!!早く行けよ!!殴るぞ!」
『私……行ってくる。』
「ちょっと、はな!」

ばたんとドアを閉めて、カバンを持って出かける。
お酒があったら、お父さんとお母さん喧嘩やめるかも。
頑張って買わないと…


どのぐらい歩いたのかな…そういえば、お酒ってどこで買うの?
そう思っていたら、倒れて動けなくなっちゃった。

ごめんなさい。お父さんお母さんお酒買えなかった。


「お…………あっ……か?」

誰だろう。お父さんかな。
謝らないと。買えなくてごめんなさいって。

『ご…なさ……』

誰かは、大声出して私に何かを掛けてくれて、どこかに行った。



『う……?上着?誰の…?』

暖かい。誰のか分からないけど、使わせてもらおうかな。

しばらくすると、携帯を持った男の人が走ってきた。
息切らしてる。この人の上着?

「お前、起きたんだな。大丈夫か?倒れてたから心配した。」
『あ。ありがとう、ございます…』

とにかく、ありがとうって言わないと。
ぁ…もしかして、お父さんお母さんに言うのかな…それは、嫌。

『あと、その…親に言わないでください。倒れてたの。私が悪いから。親は、悪くないの。だから』
「わかったわかった!一気に喋るな。」

男の人は、困った顔をして

「でさ、家に帰らなくていいわけ?もう夜の11時になるけど。」

どうしよう。なんて言おう。お酒買ってこいなんて…お父さんお母さんを困らせるから…だめ。
ちょっとだけ、嘘つく?

たくさん考えてから、頭の中でなんとなく整理整頓して、男の人に伝えた。

『帰ってくるなって言われました。もう顔も見たくないって言われました。帰ってきたらなぐるって言ってました…。』

変な感じになっちゃった。
でも、はやく、この人から離れてお酒買って帰ったらいいよね。

「なんだそれ。なあ、児童保護施設っていうのがあるんだけど、そこに相談した?お前みたいな小さい子どもは、すぐ動いてくれると思うけど。」
『親は悪くないから。私が悪いから。』

即答した。
だって悪いの私だもん。
おつかいもできない、私が…悪いの。

そう思えば思うほど、何故かガタガタと震え出した。
おかしいな…暖かいのに。
はやく、どこかに行かないと。


『あの。私、公園行くから大丈夫です。ありがとうございました。』
「いやいや!全然大丈夫じゃないから。とりあえずさ、俺も公園行くから。俺、家族居ないし門限とかないし…とにかく心配だから、ついてくわ。」
『うん…わかった。』

そう言って、男の人はついてきた。
心配そうな…困った顔。
なんで?分からない。


大きな公園。
小さい頃は、お父さんお母さんと遊んでた。
どうして喧嘩するのかな…。

『ここの公園です。』

そう、ぽつりと呟いた。
そして、男の人にお願いした。

『あの。公園、一緒に遊んで。』

急だったかな…迷惑かな。
男の人は、慌ててこう言った。

「いや、あのさ!えっと…先に、大人の人に電話しようかなって思ったんだけど…だめ?」

迷惑かけちゃった。

『大人の人…?そう、ですよね。わかりました。座って、待ってます。』


お父さんお母さんに怒られる。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。




しばらくして、電話から男の人が帰ってきた。

「なあ、施設の人、すぐ来るってさ。近くにいるみたいで。」
『うん。わかった…迷惑かけて、ごめんなさい。』
「あのな、子どもは迷惑かけていいから。……そうだな。少しの間だけど。遊ぶか?」

……え?

『いいの?遊びたい!』

夜だけど、1番大きな声出た。
すごく嬉しい。
何しようかな。何しようかな。

『ブランコして鉄棒して…それから、それから!』


たくさん遊んだ!
こんなに楽しいの久しぶり。
嬉しい。疲れてるお兄さんに

『お兄さん、最初は、ヤンキー?かと思ったけど、優しい人で良かった。』
「あ?…まぁ、よく言われるわ。バイト中もおばちゃんに怖がられるし、何もしてないのに目つき悪いって怒られるし。」

悪いこと言っちゃったかな…?

『あ…そうなんだ。』
「まぁ、気にしてねえよ。」

そう、お兄さんは言った。

お兄さんとの会話は楽しかった。
バイト?のこと、学校のこと、色んな人たちのこと…



でも、施設の人たちが来ちゃった。
前からずっと通報?されてたみたい。
だから保護?されるみたい。
難しいから、分からない。

お兄さんは、施設の人たちとお話してる。
私は、車の中でジュースもらってる。

「怖くなかった?」

お姉さんがそう言ってきた。

『お兄さんは、お父さんお母さんより優しいよ。』

私は、即答した。

「そっかそっか。お兄さんが優しくしてくれてよかったね。最後に、お礼言う?」
『うん。』


車から出て、お兄さんの所へ行った。

『えっと…』

そういえば、名前知らない。
それがわかったみたいで、お兄さんは

「かずまっていうんだよ。俺の名前。」
『私は、はな。かずまお兄さん、私と遊んでくれてありがとう。元気でね。』
「おう。はなちゃんもしっかり休んで元気に過ごせよ。」

そう言って、別れた。





大学の授業中、ふと思い出した。
あのアザだらけの身体は綺麗になって、体重も平均ぐらいになった。

「今日はここまで。質問がある生徒は放課後来るように。」

そう言って、先生は出ていった。

「はーなー!帰ろー!近くにカフェが出来たから行こーよー!」
『うん。わかった。』


街の交差点で信号待ち。
いつもの帰り道。

カフェに着いて、カフェラテ頼んで、近くのあの大きな公園に来た。

「ここさ、ほんと大きいよねー。小さい頃から広いって思ってたけど、はしからはしまで歩くだけでも痩せそう」
「わかるー!!でも、今はしないけどー」

ここに来ると無意識に探してしまう。
もう、会えるわけないのに。




「あ!ヤバ、今日バイトだわ!」
「あたしも!はな!ごめん、また今度埋め合わせする!」
『気にしないで、気をつけてね!』

バタバタと2人は去っていった。
広い公園に1人。

あの頃の……小さい頃の私。
たくさんの恐怖と不安が沢山あった私。
かずまさんのおかげで毎日毎日夢のように楽しいよ。
施設の人もたくさん優しくしてくれた。
友達もたくさん出来たよ。
何がきっかけで、幸せになるのか分からないけど、今はすごく幸せです。



4/20/2023, 11:44:50 AM

【何もいらない】

今日も、兄さんのために家事をする。
まずはセールで買ったものを使ってご飯作らないと!

あ!こんにちは!久しぶりだね!元気??

はじめましての人もいるのかな?
じゃあ、あらためてちょっとだけ自己紹介!
僕、家庭環境最悪過ぎて…大人だし思い切って家出しようって思って、橋の下生活をしてたの。
まあでも、すぐにバイトなんて見つからないし、金欠すぎて食べ物なくて倒れる手間になったの。
そんな時に、兄さん…血は繋がってないから……兄さん(仮)?に出会って、今は兄さんと生活中。

あきらさんっていうんだけどね。
それに、すごく優しいの。


そうこうしてる間に、もう19時。
そろそろ兄さんが帰ってくる。

『おい。帰ったぞ…また夕飯作ってくれたのか?めんどくさいだろ。』
「えっへん!どーぞ、食べて食べて!僕の自信作!それに…僕、居候だし。兄さんのために出来ることは、なんでもするよ!」
『りお、兄さん言うな。全く…はやく食べて寝るぞ。』
「はーい!」


兄さんは、ツンデレなんだよね。
言葉遣い悪いかもしれないし、表情分かりにくいけど、今日はいいことあったみたい。良かった〜。



ご飯とお風呂終わってのんびりして…その後は、兄さんが中古で買ってきた2段ベッドで寝る。
あ、ちなみに、僕は下の段で兄さんが上の段。
朝ごはん作りがあるから、上の段だとちょっと大変なんだよね…だから兄さんに無理言って上の段で寝てもらってるの。
兄さんは『飯なんていらねえから。ゆっくり休んでろ。』って言ってくれるの!
ツンデレ兄さん好き!


『何ニヤニヤしてんだよ。はやく寝るぞ。』
「はーい!おやすみ、兄さん。」
『ん。』


今日も、終わる。
この生活があれば、何もいらない。


部屋…くらいなあ……
元々の生活に、戻りたくない。
夢に、出てこないで。怖い。
お願い。
おねがい……


『なあ。起きてるか?』
「えっ…う、うん!どうしたの?」
『明日、魚、食べたい。無理ならいい』
「うん!兄さんからのリクエスト嬉しいなあ!頑張って作るね!」
『……おやすみ。』
「うん。兄さん、おやすみなさい。」


明日が楽しみになった。
さっき考えてたことも、全部忘れちゃった。
兄さんは、やっぱり、すごいな…

よし!
明日は、頑張って魚料理作ろう!





┈┈┈┈┈┈┈┈

『むにゃむにゃ……』
「むにゃむにゃってなんだよ。変なやつ。」

俺は、小声で文句言って、そっと起きて部屋を出る。
そして、小さな鍵を使って鍵付きの引き出しに隠していたタバコを持って、外に出る。

こいつは…りおは、タバコが嫌いみたいだから。コンビニに捨てに行く。

最初は、ベランダでタバコを吸ってたんだけど、吸い終わって部屋に戻ると、りおはタバコの匂いで何かを思い出したかのように、小刻みに震えてた。
…無理して、笑ってた。
短い期間だろうけど、同居人が嫌な思い出を思い出すなら、禁煙してタバコは捨てる。

「嫌な思い出は、そう簡単に消えない。」

そう言って、ゴミ箱に捨てて急いで帰る。起きてたら、めんどくさいからな。

この日常が、いつか終わることはわかってる。
けど、りおと生活した思い出は、忘れたくない。

この思い出があれば、何もいらない。

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