小鳥遊 桜

Open App

【病室】



いつものように看護師さんが、紙皿に乗ったご飯を持ってきてくれた。
「いただきます。」
声は相変わらず出なかったけれど、ちゃんと言おう。

ご飯を食べて、いつもの日課の窓の外を眺める。
鳥が空を自由に飛んでいて、私はいつ出れるのかなって思ってた。


また、看護師さんたちの噂話。
〝あの子、気味が悪いわ。〟〝そんな事言わないの。国から援助が来なくなるわ。〟〝そうだけど……〟

あの子、は、私のことね。

私は、奇病患者らしい。生まれつきこの身体だから、周りに言われるまでわからなかった。
……というのは嘘ね。目から真っ赤な花が咲いてるなんて…私だけよ。
でも、毒がなくて綺麗な花だった。なんだろうって調べたけどわからなかった。病院の図書室の本なんて、娯楽程度のものしかないから、わからない。

両親は、私をここに置いて新しい人生を始めたらしい。
〝あなたは今日から…いいえ、今から私の子どもではないので、関わらないでくださいね。〟
それが最後の言葉。



ガラッと音をたてて、扉が開いた。
検査の日でもなんでもないのに、そう思って扉を見つめると看護師さんが慌ただしくベッドを私の隣に用意して布団と枕と色んな準備をしていた。

その後ろに年上の男性が下を向いて立っていた。

〝入って。今日からここが貴方の部屋です。〟
そう言って男性を部屋に入れて、バタンと扉が閉まった。
『……君も奇病患者さん?』
そう言ってゆっくりと顔をあげると、私と同じような花が咲いていた。
私と違うのは、真っ白の花。ツタのようなものがあること。だった。

『ぁ、ごめんなさい。嫌だよね。黙るから。』
私は、慌ててメモに
「大丈夫です。声出ないだけです。」
と書いた。

男性は、ミナトというらしい。
ミナトは、突然変異でこうなってしまって、びっくりした事を私に伝えた。

『僕ね、高校2年の終わりに突然なって。家族全員、心配してくれた。けど…さっきの…最後に見た家族ね、疲れた顔して、安心したような…そんな顔してた。僕、本当はいらないんだなって思った。』

ミナトは悲しそうに下を向いた。
「私は、家族に捨てられた。最初は…産まれた時は、つぼみのような感じだった。5歳頃には、もう真っ赤な花が咲いていた。その頃には、声も出なくなった。養分とられてるのかなって思う。けど…もう、いいや。生きるの疲れた。」
その紙を見せたら、ミナトは、ボロボロと泣いてしまった。

『ごめんなさい…つらかったよね。さっき、看護師さんや先生が言っていたのは、君なんだね。』

「悪口?」

『そう…なのかな…。あのね、もうひとつ、聞こえたことがあって…僕、昔から耳がよくて……君、実験されるって本当?』

「初耳です。でも、あなたが助かるなら、実験されてもいい。誰かの役に立てるならそれでいい。」

『そんな…僕の方が年上だよ。君には、もっともっと生きてほしい。』

生きるなんて…興味無い。って言ったら怒るのかな。怒るんだろうな…それかさっきみたいに、泣くのかな。

『君は…君の花は、毒があるの?』

「無い。」

『じゃあ、僕の方が実験に向いてるよ。僕の花は毒があって、進行も早い。だから…』

勢いよくカーテンを閉めた。
そんなの…知らない。実験は、私。明日の朝の診察でわかる。




もう、夜の22時になっていた。
寝ないと。


『うぅぅぅ……はぁ…はぁ………』
ミナト?
私はゆっくりとカーテンをあける。

その光景は…なんて言ったら……ミナトの目の花が…ツタが…ウネウネと動いていた。

私は、慌ててナースコールというものをとって、マイクの部分に指をあてて、2-5-2とコツコツと叩いた。
もしものSOS。本を読んでいてよかった。

看護師さんもわかったみたいで、きてくれた。そして、叫び声をあげて逃げた。
当たり前よね。これは、びっくりする。
私は、慌ててミナトに近付くと

『来ないで………はぁ…はぁ…あと…看護師さん呼んでくれて、ありがとう……これは、もう少しで…終わるから……迷惑…ごめんなさい…』

そう言って気絶をした。


翌日、ミナトの声は出なかった。
『君とお揃いだね。』
と紙を見せた。
ミナトの身体は、ツタが多くなっていて、ツタからも花が咲きそうになっていた。

ミナトは……ダメなのかな。
『心配しないで。僕は、大丈夫。』
顔の前に紙を見せてきた。

その後、ミナトと私は仲良くなった。
外の世界を教えてくれた。虹は見たことあるけど、おーろら?なんて知らない。
海を教えてくれた。飲めない水なんて…そこで遊んでるなんて、変なの。


それから3年後、ミナトは動けなくなった。
花やツタは動き回っていて、ミナトの養分をとっているみたいだった。
ミナトは、もうひとつの目でこっちを見ては、申し訳なさそうな目をしてくる。


その1ヶ月後、ミナトは居なくなった。
ミナトの身体はあるのに、ミナトが居ない。
草花が生き生きと咲いていて、ミナトは、居なくなった。
その頃には、ツタも花も動かなくなった。


ミナトのお見送り会。
参加者は、私だけ。
ミナトの家族は、連絡取れなくなったらしい。

静かに箱に手を当てて
「すぐ、行くから。待ってて。」
そう、伝えた。




8/2/2023, 10:42:02 AM