【あの頃の不安だった私へ】
【遠くの街へ】を読むと面白いかもしれないです。
私は、はな。
はなが好きだったお母さんが付けてくれた名前です。
お父さんは夜遅くにならないと帰ってきません。
私は、お父さんとお母さんの喧嘩の声が嫌いです。
どうして喧嘩してるのか、わかりません。
結婚って幸せじゃないの?
一緒に暮らすって幸せじゃないの?
わかりません。
今日のお父さんとお母さんは、色んな物を投げてます。
…ぁ、私のおもちゃ……投げちゃった。
あとで、ごめんなさいしないと。
「お前、酒買ってこい!!」
「何言ってんのよ!!はなに買えるわけないでしょ!?」
「うるせえ黙れ!!早く行けよ!!殴るぞ!」
『私……行ってくる。』
「ちょっと、はな!」
ばたんとドアを閉めて、カバンを持って出かける。
お酒があったら、お父さんとお母さん喧嘩やめるかも。
頑張って買わないと…
どのぐらい歩いたのかな…そういえば、お酒ってどこで買うの?
そう思っていたら、倒れて動けなくなっちゃった。
ごめんなさい。お父さんお母さんお酒買えなかった。
「お…………あっ……か?」
誰だろう。お父さんかな。
謝らないと。買えなくてごめんなさいって。
『ご…なさ……』
誰かは、大声出して私に何かを掛けてくれて、どこかに行った。
『う……?上着?誰の…?』
暖かい。誰のか分からないけど、使わせてもらおうかな。
しばらくすると、携帯を持った男の人が走ってきた。
息切らしてる。この人の上着?
「お前、起きたんだな。大丈夫か?倒れてたから心配した。」
『あ。ありがとう、ございます…』
とにかく、ありがとうって言わないと。
ぁ…もしかして、お父さんお母さんに言うのかな…それは、嫌。
『あと、その…親に言わないでください。倒れてたの。私が悪いから。親は、悪くないの。だから』
「わかったわかった!一気に喋るな。」
男の人は、困った顔をして
「でさ、家に帰らなくていいわけ?もう夜の11時になるけど。」
どうしよう。なんて言おう。お酒買ってこいなんて…お父さんお母さんを困らせるから…だめ。
ちょっとだけ、嘘つく?
たくさん考えてから、頭の中でなんとなく整理整頓して、男の人に伝えた。
『帰ってくるなって言われました。もう顔も見たくないって言われました。帰ってきたらなぐるって言ってました…。』
変な感じになっちゃった。
でも、はやく、この人から離れてお酒買って帰ったらいいよね。
「なんだそれ。なあ、児童保護施設っていうのがあるんだけど、そこに相談した?お前みたいな小さい子どもは、すぐ動いてくれると思うけど。」
『親は悪くないから。私が悪いから。』
即答した。
だって悪いの私だもん。
おつかいもできない、私が…悪いの。
そう思えば思うほど、何故かガタガタと震え出した。
おかしいな…暖かいのに。
はやく、どこかに行かないと。
『あの。私、公園行くから大丈夫です。ありがとうございました。』
「いやいや!全然大丈夫じゃないから。とりあえずさ、俺も公園行くから。俺、家族居ないし門限とかないし…とにかく心配だから、ついてくわ。」
『うん…わかった。』
そう言って、男の人はついてきた。
心配そうな…困った顔。
なんで?分からない。
大きな公園。
小さい頃は、お父さんお母さんと遊んでた。
どうして喧嘩するのかな…。
『ここの公園です。』
そう、ぽつりと呟いた。
そして、男の人にお願いした。
『あの。公園、一緒に遊んで。』
急だったかな…迷惑かな。
男の人は、慌ててこう言った。
「いや、あのさ!えっと…先に、大人の人に電話しようかなって思ったんだけど…だめ?」
迷惑かけちゃった。
『大人の人…?そう、ですよね。わかりました。座って、待ってます。』
お父さんお母さんに怒られる。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
しばらくして、電話から男の人が帰ってきた。
「なあ、施設の人、すぐ来るってさ。近くにいるみたいで。」
『うん。わかった…迷惑かけて、ごめんなさい。』
「あのな、子どもは迷惑かけていいから。……そうだな。少しの間だけど。遊ぶか?」
……え?
『いいの?遊びたい!』
夜だけど、1番大きな声出た。
すごく嬉しい。
何しようかな。何しようかな。
『ブランコして鉄棒して…それから、それから!』
たくさん遊んだ!
こんなに楽しいの久しぶり。
嬉しい。疲れてるお兄さんに
『お兄さん、最初は、ヤンキー?かと思ったけど、優しい人で良かった。』
「あ?…まぁ、よく言われるわ。バイト中もおばちゃんに怖がられるし、何もしてないのに目つき悪いって怒られるし。」
悪いこと言っちゃったかな…?
『あ…そうなんだ。』
「まぁ、気にしてねえよ。」
そう、お兄さんは言った。
お兄さんとの会話は楽しかった。
バイト?のこと、学校のこと、色んな人たちのこと…
でも、施設の人たちが来ちゃった。
前からずっと通報?されてたみたい。
だから保護?されるみたい。
難しいから、分からない。
お兄さんは、施設の人たちとお話してる。
私は、車の中でジュースもらってる。
「怖くなかった?」
お姉さんがそう言ってきた。
『お兄さんは、お父さんお母さんより優しいよ。』
私は、即答した。
「そっかそっか。お兄さんが優しくしてくれてよかったね。最後に、お礼言う?」
『うん。』
車から出て、お兄さんの所へ行った。
『えっと…』
そういえば、名前知らない。
それがわかったみたいで、お兄さんは
「かずまっていうんだよ。俺の名前。」
『私は、はな。かずまお兄さん、私と遊んでくれてありがとう。元気でね。』
「おう。はなちゃんもしっかり休んで元気に過ごせよ。」
そう言って、別れた。
大学の授業中、ふと思い出した。
あのアザだらけの身体は綺麗になって、体重も平均ぐらいになった。
「今日はここまで。質問がある生徒は放課後来るように。」
そう言って、先生は出ていった。
「はーなー!帰ろー!近くにカフェが出来たから行こーよー!」
『うん。わかった。』
街の交差点で信号待ち。
いつもの帰り道。
カフェに着いて、カフェラテ頼んで、近くのあの大きな公園に来た。
「ここさ、ほんと大きいよねー。小さい頃から広いって思ってたけど、はしからはしまで歩くだけでも痩せそう」
「わかるー!!でも、今はしないけどー」
ここに来ると無意識に探してしまう。
もう、会えるわけないのに。
「あ!ヤバ、今日バイトだわ!」
「あたしも!はな!ごめん、また今度埋め合わせする!」
『気にしないで、気をつけてね!』
バタバタと2人は去っていった。
広い公園に1人。
あの頃の……小さい頃の私。
たくさんの恐怖と不安が沢山あった私。
かずまさんのおかげで毎日毎日夢のように楽しいよ。
施設の人もたくさん優しくしてくれた。
友達もたくさん出来たよ。
何がきっかけで、幸せになるのか分からないけど、今はすごく幸せです。
5/24/2023, 10:19:56 AM