小鳥遊 桜

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【言葉はいらない、ただ・・・】

僕は、突然、奇病になった。

ニュースで最近よく見ていた。
身体にたくさんのツタや花が生えてきて、最終的には植物人間……言葉通りの意味になるって。

世界中で少しづつだけど増えてきてて、大問題になっていた。
戦争をしていた国も休戦するぐらい。

花には種類があった。
綺麗な無害な花から毒々しい花まで。

僕のは、毒の花だった。
真っ白な毒の花。
花びらを触るとピリピリした。
花粉は、なぜか飛ばなかったし指で触っても何もなかった。
短いツタは、毎日少しづつ伸びて、そのたびに、ビリビリと電気が走るぐらい痛い。

家族全員で僕の看病をしてくれた。
兄ちゃん姉ちゃんも身の回りをしてくれた。
でも、僕は、家族がだんだんと疲れてきてる家族を見るのが、辛かった。


ある日、テレビをぼーっと見ていたら、奇病を治す薬が出来たかもしれない。ってニュースで流れた。
でも、問題があって、その薬を使うためには治験をして安全だってわかってからじゃないと厳しいみたい。
もちろん、治験対象者は奇病患者。
もし…もし、治験が上手くいったら、家族全員喜んでくれるかなって思った。

さっそく、治験に参加しますっていうメールを兄ちゃんに送ってもらった。
両親に、病院へ行って入院手続きをしてもらった。
姉ちゃんに入院生活に必要な物を買ってきてもらった。

……本当に、僕は、何も出来ないなって思った。


入院当日、僕の花は増えて、ツタも伸びてて…歩くだけでビリビリと痛い。でも、こんな症状でも、薬で治ったらみんな救われる。

遠くからの視線に気になった。
でも、僕が見ると嫌な顔するだろうなって思って、聞き耳立ててみた。

〝見て。奇病よ。〟
〝男の子なのね。でも、毒の花みたいよ。〟
〝実験は、あの子だけど…治験はあの子なのよね?〟

実験?治験じゃなくて?

〝薬、間違えないようにしないと。〟
〝そうね。私も気をつけるわ。〟

そう言って、どこかに行ってしまったみたい。

実験って……ここ、なに?

色々と考えてる間に、病室の扉が開いた。

真っ赤な花……毒あるのかな?
あってもなくても、率直な感想で綺麗だなって思った。



〝入って。今日からここが貴方の部屋です。〟


そう言って、力強くバタンと扉が閉まった。
乱暴だなって思った。

しばらくの沈黙。
僕は、

『……君も奇病患者さん?』

…なに、当たり前なことを言ったんだろう。花が身体から生えてるなんて、奇病患者さんしかないのに。

女の子の方を、ゆっくりと顔をあげて見る。
やっぱり、綺麗な花。

『ぁ、ごめんなさい。嫌だよね。黙るから。』

そう言うと、女の子は、慌ててメモに何かを書く
「大丈夫です。声出ないだけです。」
と書いた。

初対面で嫌われたかと思った僕は、ホッとした。

『僕は、ミナトっていいます。突然、こんな感じになって…すごくびっくりしたんだ。』

僕は、誰かと話すのは久しぶりで、嬉しくなっちゃって、色々と話した。

『僕ね、高校2年の終わりに突然なって。家族全員、心配してくれた。けど…さっきの…最後に見た家族ね、疲れた顔して、安心したような…そんな顔してた。僕、本当はいらないんだなって思った。』

言い終わったあと、家族の顔が思い浮かんだ。本当に、申し訳ないな…。
その話を聞いて、女の子も、メモに書き始めた。

「私は、家族に捨てられた。最初は…産まれた時は、つぼみのような感じだった。5歳頃には、もう真っ赤な花が咲いていた。その頃には、声も出なくなった。養分とられてるのかなって思う。けど…もう、いいや。生きるの疲れた。」

この子は…生まれつきなんだ。
家族に捨てられて、この病室でひとりぼっちだったんだ…
そう思うと、僕は、涙がとまらなかった。

少しづつ、少しづつ、落ち着いて…

『ごめんなさい…つらかったよね。さっき、看護師さんや先生が言っていたのは、君なんだね。』

「悪口?」

女の子は、即答した。
僕は、また泣きそうになりながら

『そう…なのかな…。あのね、もうひとつ、聞こえたことがあって…僕、昔から耳がよくて……君、実験されるって本当?』

「初耳です。でも、あなたが助かるなら、実験されてもいい。誰かの役に立てるならそれでいい。」

『そんな…僕の方が年上だよ。君には、もっともっと生きてほしい。』

これは、本音だった。
この子には、少しでも長く、生きてほしい。
そう思って、気になったことを聞いてみた。

『君は…君の花は、毒があるの?』

「無い。」

『じゃあ、僕の方が実験に向いてるよ。僕の花は毒があって、進行も早い。だから…』

あ……失礼なこと言ったよね。
ごめんね。ごめんなさい…





はやく治験始まらないかなって思っていた夜中。
ツタが動いた。

『うぅぅぅ……はぁ…はぁ………』

ビリビリする…痛い。苦し……

シャッと隣のカーテンが動いた。
あ…怖がらせて、ごめんね。
見ないで…ゆっくり……寝て…

そんなことを思っていたら、女の子は、慌ててナースコールというものをとって、マイクの部分に指をあてて、2-5-2とコツコツと叩いた。
2-5-2って……たしか、SOS?
いい子だな…声出ないのに、ちゃんと助けを呼んでくれてる。

すぐに看護師さんが来てくれた……と思ったら、叫び声をあげて逃げた。
当たり前だよ。
これは、僕でも、びっくりする。


女の子が心配そうな顔でこっちに来たから、慌てて声を絞り出した。

『来ないで………はぁ…はぁ…あと…看護師さん呼んでくれて、ありがとう……これは、もう少しで…終わるから……迷惑…ごめんなさい…』

そう言って気絶をした。

奇病じゃなかったら…奇病が無かったら、僕と女の子は、友だちになれたかな。


夢を見た。
あの子に花がなくて、幼いけれど、ちゃんと声が出てて…僕と一緒に遊ぶ夢。
「ミナト、一緒に遊びたい。」
『うん。遊ぼう。』




翌日、僕の声は出なかった。
でも、
『君とお揃いだね。』
と笑顔で紙を見せた。

僕の身体は、ツタが多くなっていて、ツタにいくつか蕾がついていた。
たくさん養分取るのかなって思った。

女の子が悲しそうな顔をする。
だから僕は、何もないよって言いたくて
『心配しないで。僕は、大丈夫。』
って書いた紙を女の子顔の前に見せた。
そして、また、笑った。

その後、女の子と仲良くなった。
女の子の名前は、無いって言われたから、僕と女の子で女の子の名前を考えた。

外に出たことがないって言ったから、外の世界を教えた。虹は見たことあるみたいだけど、オーロラを知らなかったみたい。今度写真でもいいから見せよう。

海を教えた。
「飲めない水なんて…そこで遊んでるなんて、変なの。」
と言って、2人で笑った。

少しづつ

少しづつ…

たくさんの思い出を作った。
絵を描いた。
お手製の絵本を作って2人で笑った。


そして3年後、僕は、動くことが出来なくなった。

治験、結局、ダメだった。

花やツタは動き回っていて、僕の養分をとっているみたいだった。
僕は、動ける片目でちらっと見て、泣きそうになる顔をよしよしできなくて、ごめんねって思ってた。


その1ヶ月後、僕は、ただの草花になった。

言葉はいらない、いらないから…ただ、アカリの声が手のひらのぬくもりが笑顔が、恋しい。

8/29/2023, 1:57:11 PM