小鳥遊 桜

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【踊りませんか?】


私は、小さなサーカスに所属してる見習い。

〝マリちゃんさぁ…ここの掃除まだなの?〟
「あ…ごめんなさい。」

〝マリちゃん、ジャグリングのテストまた失敗したの?〟
「ごめんなさい……」

〝マリ、お前は雑用係だな。ショーには一生出れないな〟

私も、そう、思う。
簡単なことも出来ない。
みんなが出来ることが出来ない。
なにも…出来ない。


このまま、生きてていいのかなって思った。
毎晩毎晩、お祈りをする。
明日が来なければいいのにって。
でも、何度も何度も祈ったけど神さまは、いないのね。
朝日が嫌い。



来たことがない、ちょっとだけ都会な街に来た。
だから、ショーの準備は午後からにしようってことになった。
私は1人で残って、少しだけ今回のショーで使う道具の準備をしてから、街に出かけた。

この街は、レンガの建物がたくさん並んでいて、花がたくさん咲いていて…本当に、とても綺麗な場所だった。

〝おねーちゃん!かんこーきゃくさん?おはなどーぞ!〟

と小さな女の子から綺麗な白いユリをもらった。

「ありがとうございます。大切にしますね。」

そういうと、女の子は、ぺこりとお辞儀をして歩いてどこかに行ってしまった。

せっかくもらったお花だけど…私が持っててもいいのかなって思った。私みたいな汚い人が出来損ないが……そう思いながら、白ユリを見ていると、男の人がきた。

『あ、白いユリをもらったのですね!ここの街の人たちは、観光のお客さんにお花をプレゼントするんですよ。とてもお似合いですよ。』
「あ…ありがとうございます。」

男の人は少し悩んで、私の顔をみて、そうだ!といいながら、白ユリを上手に私の髪に付けてくれた。

『やっぱり似合うと思った!』

と笑顔で言ってくれた。

「本当に……?あの…私、似合わないですよ。」
『そうかな?うーん…じゃあ、これはどうかな?』

そう言って、手を引いて、ベンチに私を座らせて、歌を歌いながら、後ろにひとつの三つ編みをしていた。
……なんだか、ソワソワする。


5分ぐらい経ったのかな…わからないけど、出来た!っていう声が聞こえた。

いつの間にか、さっきの女の子も近くに来ていた。
〝おねーちゃん、きれー!ミナトおにーちゃんすごいね!〟


……ミナト?
聞いたことあるような…気の所為かな。

『えっへん!サラちゃんが綺麗なお花をプレゼントしてくれたからだよ。ありがとね。』
〝うん!じゃーね!〟

「あ、あの…ミナト?」
『んー??どうしました?』

……ミナトって、なんだろう。
白い花を持ったミナトを見ると、心が苦しくなった。
どこかで、あった?

『えっと…どこかで会いましたっけ?』
「あ…何もないです。多分。」
『実は、僕も君に会ったことあった気がして…なんだろね!前世で何かあったのかな?』
「わからないです…」
『うーん…じゃあ、君の名前は何かな?』
「私、孤児で、小さなサーカス団に引き取られて、そこではマリって言われてます。」
『孤児か…多いよね。本当の名前は何かな?覚えてる?』
「えっと…アカリです。」
『アカリ…ちゃん。あ』

そう言って、ミナトは、ポロポロと泣きはじめた。

『なんだろ…えへへ……ごめんね。うん!アカリちゃん!僕が街案内してあげるね!』

そう言って、早歩きをした。



商店街で食べ歩きをしてる時、占い師のおばあさんに呼び止められた。

〝そこのお二人さん……やっと逢えたのね。よかった。〟

逢えた?よかった?

『あの…どういうことですか?』

〝あなたたち、同じ病気になって、同じ病室にいて、貴方が白い花で先に亡くなって、それから数年経って、貴女が赤い花で亡くなったのよ。〟

私たちは目を合わせて、考えた。

そのあと、公園のイスに座って、おばあさんの言葉を考えていた。
そんなこと…って思うけど、やっぱり、どこかで会ったことがあって…じゃあ、本当に?

『アカリちゃん。』

ミナトが、真剣な顔をする。

『あのね…おばあさんのおかげで全部、思い出せた。本当に……先に逝って、ごめんね。ずっとずっと後悔してた。また逢えたらたくさん遊ぶって決めてたんだよ?声も、聞けて嬉しい。肌も、綺麗。よかった…。あ、オーロラを見ようって言ってたの覚えてる?あとは……虹!一緒に見ようよ!』

ミナトは、生き生きと話す。
でも、私は、少ししか思い出せない。
確かに病室にいて、花もツタも嫌いだった。

『あ…ごめんね。嘘っぽいよね。』
「違うの。急だったから。頭の中、整理中。」
『そっか…ゆっくり思い出してね。』

そう言って、ミナトは、私の頭を撫でた。

あ…そうだ。絵本に書いた。
虹が出ている時、2人で踊って、楽しかったねって言って、2人の家に一緒に帰る話。

「ミナト……虹、見たい。」
『えっ?うーん…今、晴れてるから……うーん。』

頭を抱えて、悩んでるミナトを見ると、なんとなく、ずっと隣に居たような気がする。
……これは、気の所為だよね。

『あ!あるよ!虹見れるとこ!近くの大きな噴水ならいつでも虹見れるよ!行こう、アカリちゃん!』


噴水の近くは、あまり人がいなかった。
けど、虹がキラキラしてて綺麗だった。

『あ…アカリちゃん!』
「?」
『………』

緊張してるの?どうして?

『……アカリちゃん、踊りませんか?』
「…覚えてたの?」
『もちろん!僕はもうボロボロだったけど、あのお話は2人の大切な秘密のお話だから。』

すごく嬉しかった。
あの時のミナトは、本当に、意識があることが不思議なぐらいボロボロで、見ているこっちも涙が出てくるぐらい。

『あの…アカリちゃん?』
「もちろん、私、ミナトとしか踊らないよ。」
『よかった…本当に……うん、踊ろう!踊って楽しい思い出つくろ!』


私たちは、不格好な踊りを噴水の近くで踊って、たくさん笑った。
周りの人なんて、気にならなかった。

10/4/2023, 3:30:08 PM