お題『逆さま』
夏季補習二日め萌香は朝早くに教室に来ていた。
昨日の課題が終わったのは深夜1時頃、それから今日の準備をしていたら寝る時間が深夜2時になってしまった。補習で遅刻するわけにもいかず1時限が始まるまで寝ようと思ったのだ。
しばらく寝ていると、チャイムの音が聞こえて来る。
萌香は寝ぼけたまま鞄から携帯を取り出し時刻を確認してみると、液晶画面に9時50分と表示され、1時限目はとうに終わっている。寝過ごしたことに気づいていたない萌香に隣の席にいる大神が小声で話しかけた。
大神「おはようさん。2時限目始まったで」
大神の声が耳に入り、運命の人から声を掛けてもらい萌香は嬉しさのあまり大きな声で大神に挨拶をしてしまった。
萌香「お、おはよう!!早いねっ」
すると同じ教室に居た生徒が一斉に萌香に注目した。大神は目を逸らしくすくすと笑を堪えている。
大神「ちゃう、ちゃう。早ないって((笑))。自分起きるん遅すぎやわ」
萌香の目の前に樺本(かばもと)がやって来た。
樺本「お早う。輪通(わづつ)さん。随分気持ちよさそうに寝ていたわね。昨晩は何をしていたのかしら?」
樺本は笑顔を見せているが、目が笑っていないので萌香の目には不気味に映っている。それが怖くて樺本から目を逸らし答えた。
萌香「き、昨日の課題の残りをしていました」
樺本「そう。終わっているの?」
萌香「は、はい」
樺本は萌香から課題を受け取ると本日の課題だと言って萌香に手渡した。
樺本「次からは1時限目始まる前にアラームをかけなさい。明日も同じことしたら賄賂……いえ。ペナルティーだから」
萌香「は、はい」
萌香は、鞄から教科書を手に取り本日の課題プリントを進めていく。さっきからプリントの文字が逆さまに印刷されていることに気づきいた。これは誤字だろうか?萌香は大神に自分のプリントを見せて確かめてもらうことにした。
萌香「あの、えっと大神君。あたしの世界史の課題だけかな?文字が逆さまなんだけど……」
大神「ちゃう、ちゃう。輪通(自分)だけじゃないで俺も今、それやってるけど同(おんな)じやから」
萌香「そうなんだ。あたしてっきり樺本先生の嫌がらせかと思っちゃった」
大神「どうやろうな……あの先生(せんこう)性格曲がっとるからやりかねんわ」
樺本「大神君、輪通さん。二人とも静かにしなさい。次話たらペナルティーで課題増やすわよ」
大神と輪通は互いにごめんとアイコンタクトと手で交わし、課題に集中することにしたのだった。
End
お題『眠れないほど』
萌香は昼食を食べ終えてリビングから私服に着替える為2階にある自室へ向かった。
着替え終えるとベットの上に転がり––––。
萌香「少しだけ休憩したら……課題の残りしよう……」
1日目の補習で出された課題が終わらなくて、宿題になってしまったのだ。
ドアをノックする音と共に母親が御飯ができたわよと呼びに来てくれた。萌香はそれに答え、眠い目を擦りながら1階へ降りてリビングで夕食を食べている。
萌香の父親「萌香。随分眠そうだな」
萌香「……うん。あれ?今日パパ休みだっけ?」
萌香の父親「やだなぁ。パパ朝から居ただろう。見えてなかったのかい?」
萌香「えっ??えぇ……っと」
朝は、仕事に行くマミィと朝食を食べて、それから……最寄りの駅まで車で送ってくれて、その時パパはまだ……仕事で会社に、ん?家に居た?萌香は、朝の出来事を思い出しながらパパの存在を探したが会っていない。萌香の頭の中はパニックでオーバーヒート状態だ。母親は混乱しきっている萌香の様子を見て困った顔で萌香の父親を諌めた。
萌香の母親「パパ、冗談はその辺にしてあげて」
萌香の父親「悪かったよ。久しぶりに帰って来れて、一緒に食事することなかったからつい。萌香、ごめん。本当はパパさっき帰ってきたばかりなんだ」
萌香「もぅ!!パパァ〜!?」
父親の話が嘘だと知った萌香は幼い子供のように頬を膨らませた。小さい頃から父親は冗談ばかり言って困っている萌香の姿を見るのを楽しんでいた。
萌香の父親「お詫びに、面白い話をしてあげよう」
萌香「なになに?どんな話?」
萌香の父親「パパが中学生の時電車のホームにある公衆電話で実際に起きた話を……って萌香どこに行くんだ!?」
萌香は手を合わせてご馳走様と言って食べ終わった食器をキッチンの流し台へ持っていきリビングから出ようとしていた。
萌香「その話、前に聞いた。怖いお話でしょ!萌香、自分の部屋に帰る」
萌香の父親「ありゃぁ。怒らせちゃった。もぅ高校生だから平気だと思ったんだけどなぁ」
萌香の母親「無理よ。萌香、お化けや怪談話すっごく苦手なまま変わらないわ。旦那(あなた)の所為で」
萌香の父親は都市伝説や怪談話が好きで会社の人や友人、時には家族にも話ていた。そのせいで萌香は父親が苦手である。幼い頃に聞かされた怪談話で布団に入ってもなかな眠れないほど怯えたことがある。
萌香「パパの怪談話本当にヤダ。ちょっと思い出しっちゃたよぉ。明日も学校あるのに今日眠れるかな。……ん?学校!?あぁぁーーーっ!忘れてた〜!?」
萌香は課題の宿題を思い出しベットから慌てて起き上がり机に向かい、必死に宿題をするのだった。
End
お題『夢と現実』
夏期補習1日めが終わって、家に帰ってきた萌香。
自室に向かわずリビングに置いてある、ソファベットの上で横になり夏の暑い日差しにやられた体を冷房で冷やしていた。
萌香「あつ〜い、お腹空いた〜」
と言ってもお手伝いさんや、執事がいるわけでもましてや未来の猫型ロボットなんて現実にはいるわけがないのですぐに美味しい食事がテーブルの上に用意されることはない。それでも、冷蔵庫には母親が作ってくれたお弁当がある。萌香は気だる体を起こしてそれを取りに向かい、電子レンジという素晴らし家電製品に感謝しつつ温めボタンを押した。萌香はレンジの中央でクルクルと回るお弁当箱を眺めながら呟く。
萌香「電子レンジって人の夢と希望が現実になった機械だよね。これを最初に発明した人は偉大だなぁ」
萌香の言ったことは電子レンジに限ったことではない。この場に真珠星(すぴか)や委員長が居たらきっと
こういうのかも知れない。
『いや、それ以外にももっとあるだろう!?』
End
お題『さよならは言わないで』
幼い頃から父親の仕事の都合で何度も引越しや転校が多かった。私(わたし)はそれが嫌だった。友達ができて仲良くなっても1年、早ければ3ヶ月でその友達と別れることになるんだ。
小学校2年生の春、母親が嬉しそうに私達兄妹(きょうだい)に言った。
母親「お父さんの仕事、今度は長期滞在かも知れないわ」
真珠星(すぴか)「本当に?」
源星(りげる)「信用ならねぇな」
母親「本当よ。お父さんを信じてあげて」
源星「そう言って、何度も俺らを裏切って来たじゃねぇか!?あのクソ親父は!!」
走って玄関に源星は向かう。母親の引き止める声も聞かずドアを開け、そのまま外へ出て行った。真珠星はその場で泣き崩れる母親を横目に兄(源星)の後を追いかけ外に出た。源星はすぐに見つかった。アパートの目の前にある。砂場とブランコしかない小さな公園のブランコに座っていた。真珠星はそっと隣に立って源星の顔を覗き込むようにして声を掛けた。
真珠星「お兄ちゃん、み〜つけた!」
真珠星の満面の笑顔を見た源星は、心の中でずっと押さえていた気持ちが溢れ、言葉にならない声を押し殺して泣いてしまったのだ。
源星「……うぅっ」
兄の泣き顔を初めて見た真珠星は、後ろに回りぎゅっと抱きしめ優しい声で話す。
真珠星「次、転校する時は『さよならは言わないで、また会おう』ってクラスの皆んな言って別れよう」
泣いて気持ちが落ち着いたのか、鼻水をずるずると啜りながら
源星「あ“あ“……そうだな」
真珠星は源星が元気を取り戻したと理解して、勢いよくブランコを後ろから押した。そして––––
真珠星「家(アパートの部屋)まで競争〜」
と言って家に向かって走り出した。負けるまいとブランコから降りた源星は真珠星を追いかけて行った。
End
お題『光と闇の間で』
「世の中(現代社会)には光と闇がある。人々(私達)ははその間(はざま)で生きている。
学校生活においてもそれは当てはまるだろう。
仮りに【光】を司る生徒会とするならその逆を司る【闇】は風紀委員会だろうか。
ではその間(はざま)は一般生徒なのかそれとも我々教師なのか」
とブツブツ独り言を言いながらピ◯ソに似た教師が自分の席に座り頭を抱えながら悩んでいた。そこへ夏目◯石に似た男性教師、鷲崎(わしざき)が声を掛けた。
鷲崎「また悩み事ですか?八分儀(はちぶんぎ)先生」
ピ◯ソに似た教師こと八分儀は些細な事でも深く悩んでしまうのだ。
八分儀「はい。先ほど私も鷲崎先生と同様に1年の夏期補習生徒、補習クラスB組の監督をしてまして、その時補習に来ていた生徒が私に「光と闇の間」は何かと問われまして……」
鷲崎「なるほど、して先生の答えは?」
八分儀「それが……すぐには何も答えられませんでした」
鷲崎「まぁ、難しい質問ですからね」
八分儀「はい。その生徒私の答えがあまりにも遅いので、他の生徒に同じ質問をしていました」
鷲崎「他の生徒は何か答えましたか?」
八分儀「はい。光と闇は【政治】その間は【お金】だと答えていました」
鷲崎「なるほど。いろんな考えありますね」
八分儀「そうですね」
鷲崎「その内容、夏休み明けの職員会議に出してみますか?」
八分儀「え!?それはやめませんか。私、今以上に悩みそうです」
八分儀と鷲崎は鞄から弁当を取り出して昼食を食べ始めるのだった。
End