よつば666

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お題『さよならは言わないで』

 幼い頃から父親の仕事の都合で何度も引越しや転校が多かった。私(わたし)はそれが嫌だった。友達ができて仲良くなっても1年、早ければ3ヶ月でその友達と別れることになるんだ。

小学校2年生の春、母親が嬉しそうに私達兄妹(きょうだい)に言った。

母親「お父さんの仕事、今度は長期滞在かも知れないわ」

真珠星(すぴか)「本当に?」

源星(りげる)「信用ならねぇな」

母親「本当よ。お父さんを信じてあげて」

源星「そう言って、何度も俺らを裏切って来たじゃねぇか!?あのクソ親父は!!」

走って玄関に源星は向かう。母親の引き止める声も聞かずドアを開け、そのまま外へ出て行った。真珠星はその場で泣き崩れる母親を横目に兄(源星)の後を追いかけ外に出た。源星はすぐに見つかった。アパートの目の前にある。砂場とブランコしかない小さな公園のブランコに座っていた。真珠星はそっと隣に立って源星の顔を覗き込むようにして声を掛けた。

真珠星「お兄ちゃん、み〜つけた!」

真珠星の満面の笑顔を見た源星は、心の中でずっと押さえていた気持ちが溢れ、言葉にならない声を押し殺して泣いてしまったのだ。

源星「……うぅっ」

兄の泣き顔を初めて見た真珠星は、後ろに回りぎゅっと抱きしめ優しい声で話す。

真珠星「次、転校する時は『さよならは言わないで、また会おう』ってクラスの皆んな言って別れよう」

泣いて気持ちが落ち着いたのか、鼻水をずるずると啜りながら

源星「あ“あ“……そうだな」

真珠星は源星が元気を取り戻したと理解して、勢いよくブランコを後ろから押した。そして––––

真珠星「家(アパートの部屋)まで競争〜」

と言って家に向かって走り出した。負けるまいとブランコから降りた源星は真珠星を追いかけて行った。

End    

12/4/2024, 2:50:10 PM