のねむ

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3/6/2024, 1:11:03 PM

「絆、なんて実在すると思うかい」

恐ろしく平坦な声。まるで、何の感情も灯っていないみたいだ。目の前の男は優しく、春風駘蕩といった様子で周りの者からも「先生」などと慕われているが、現実この男の内側は人を小馬鹿にした溶けて固まった歪な感情が支配していることだろう。
その事を知っているのは俺だけだろうし、この先他の誰かに教えるつもりも、ましてやこの男が他の誰かに気取られる様なヘマはしないだろう。

「存在するってその口で言ってる癖に、まさか存在しないって言うのか?」
「はは、言うねえ。絆とは断とうにも断ち切れない人の結びつきだと。ふふ、あるわけないだろう?そんなもの」

いつも教卓の前にまるで神だと言うように佇んで楽園へと導く男の口からは、普段とは真逆のことを吐き出している。

絆は必ずある。そして今ここにいる君達と、僕。そして神にも必ずあるものだ。だからこそ、祈ろうじゃないか。誓おうじゃないか。そうしたら、きっと彼らは救ってくれるだろう、と。

ただの男は、心地好い声を使い、話し方を使い、無害そうな顔を使い、行き場を無くした人や大切な人を亡くした人。はたまた何でもいいから縋りたかった人の前でそんな言葉をつらつらと重ねる。
何かを失った人間、というのは大変脆いものだ。
薄っぺらく胡散臭く、どこか怪しい違和感を漂わせていても欲しかった言葉を掛けられてしまえば、縋ってしまうのだから。
神とは、縋る相手である。
そして、自身の不運なことを擦り付ける相手でもある。


──がたんごとん。
列車が揺れる。どうやら、この男は全てを捨てるらしい。
そして何故だか、俺もそこへと連れられていく。

──がたんごとん。
地獄とは、どういうところだろうか。
男は神や神の住まう世界を語ることはしても、地獄という場所については語ることは無かったから。

──ざぶん、ざぶん。
海の音が聞こえる。水の音を心地好いと思うのは母の体内で聞いた羊水の音に似ているからだろうか。
そういえば、この男の声はどこか水のようだった。


「人間関係とは、どちらかの中で疑いが生じた時点で終わってしまうんだよ」

ふわふわと夢と現実の狭間を彷徨っていると声が聞こえた。俺を夢へと誘う水。ちゃぷちゃぷと、浅瀬を歩いてるようだ。

「お前は、僕を疑ってはいない。疑ってはいけない。そうだろう?断ち切ろう、だなんて思わずずっと共にある。そうだろう」


誰かを縋らせる様な声は、俺の前だけでは縋るような声になる。それが俺により深い優越感を味わせる。
何かを失った人間は、脆いのだ。
そうだろう。お前は縋られる人を無くした。神はもうお前の中にはいないしお前の中に神を見てくれる人ももう居ない。

「絆なんて存在しないなら、俺たちは何なんだろうなぁ」

ぽつり、零れた音を水で受け止める。
水紋が出来て、次第に収まる頃水面がまた揺れ動く。

穏やかでいて、それでいて荒れ狂うのを抑えてるかのような静けさで。男は語る。




「因果だよ」

───いやそれ仏教だろ!







──────────
何を書きたかったのだろうか〜🥲



私に良くしてくれる先輩の気持ちを一度疑ってしまうともう二度と純粋な気持ちで受け取れないと気付きました。
人の前で簡単に他人の悪口を言う人は、どこか別の他人にも私の悪口を言っている、ということでしょうから。
目の前に見える人をそのまま受け取る。それから受け取った言葉の裏を考えようとはしない、その事が酷く難しくなってしまうほど私は大人になってしまったのでしょうか。
私の前で笑顔を見せてる人の心の中は、どれほど荒れ狂っているのでしょう。


絆なんて無いと思います。
一生を誓い合った仲でさえ、断ち切れてしまう。

前世の悪い行いのせいで、現世の不幸がある。だとしたら、私に良くしてくれる先輩に嬉しくも苦しめられるのは因果その物でしょう。けれどその不幸を、嫌だとは思えない。

例え、私のことを嫌いだとしても私は好きだと思う。それから、私同様に苦しめてしまいたいと。
だからこそ、思います。私の居ない場所で幸せになって欲しいとも。

2/21/2024, 4:42:16 PM

(グロ表現、また他にも気持ちの悪い表現があります。
無理だと思った瞬間に読むのを辞めるのをおすすめします。)





男性の犯罪者の一握りの数。それも凶悪犯と言われた者達の中で、何となくの共通点として母親への異常なほどの執着が見えた。

「聖なる母の為」「母のお腹の中へ戻りたい」「私の真の理解者は母しか居ない」と、分かりたくもない、けれど何となく分かるような気がする言葉をつらつらと吐いて、まるで自慰行為が終わったあとの様に恍惚とした表情をする眼前の男の中に、母の姿を探す。
男のどこか冷静で、だけど興奮した双眸でこちらを見つめて話す姿は、まるで神の前で祈りを唱えるかの様で気味が悪い。

「母のお腹の中へ戻りたい、というのは比喩か?」
「まさか。母のあの美しい白雪のような柔い腹を裂いて、邪魔な臓器を取り除き、赤く温い海の中に潜って眠りにつきたいのですよ」

遂に胸の前で手を握り合わせた。祈りのポーズだ。
この男には、まるで神が、いや、母が目の前に見えているのだろうか。そう思えるほどに、男の双眸には私が写っていない。

「気持ちが悪いな」

そう零した私に、鼻で笑う男。その目には少しだけ私がうつっていた。

「みんなそう言うのさ。最初はな。だけど生きていく内に、世間に蔑まれる内に気付くのさ。嗚呼、俺の真の理解者は母だって、なぁ」
「ふぅん。なんか、お前さぁ。母で童貞捨てましたみたいなこと言いそうだな」

気色が悪い、と思っていることを隠しもせずに声色にのせると、それを受け取った男は嬉しそうに双眸を煌めかせた。

「そう! そうなんだよ。俺は、受け入れてもらったんだ!これこそ、愛だろう? 」

胃から何かせり上がってくる。その衝動を抑えるために目の前の男を殴ろうと拳に力を込めようと握りしめたその瞬間、男を呼ぶ声が聞こえた。

「ははっ。もう時間か。お前のお迎えは何時なんだろうなぁ?」
「もう何年も来てないが、そろそろだろうな」

軽口を叩く男は、これから首に縄を掛けられるとは思えないように軽い足取りで扉へ向かう。

「そうかぃ。まっ、後悔ないようになぁ?」


そう言った男の背中を見ながら、私は丸まって目を瞑った。







女とは、0なのだと思う。
0が無ければ1は生まれず、しかし0は何にだって形を変える。

それは母であったし子供でもあった。愛でもあり、憎しみでもあり、それでいて神でもある。
対して男は、1のまま。結局大人になれど、母の前では幾つになっても子供なのだ。無償の愛を受け取って、愛というベールに覆われて安心を得る。柔い腹を裂いて己を受け入れて欲しいと許しを乞うのだ。
全員とは言わない。が、やはり凶悪犯にはそういう者が多い。
私の母、私だけの母。その中の人間性など、微塵も興味がなく『母』という存在だけを求める。
凶悪な自分を抱きしめて、許して、愛してくれる。

母の腹へ、というのは何度も聞いたが、父の陰茎、いや精子に戻りたいと言ったものは一人もいなかった。
可笑しい事だろう。腹を痛めてくれた者と、ただスッキリしただけの男、という違いだろうか。
分かりたくもない。

母を愛して、その中にある自分への愛を恋慕と錯覚でもしたのだろうか。強き母の中に、弱い女を見つけて興奮でもしたのだろう。嗚呼、気持ちが悪い。
違うだろう。母とは、そうではないのだ。ただ純粋に愛をくれる人間なのだ。純粋無垢で、美しく、私のような者が汚してはいけない。





この一生出られぬ檻の中で年月をかけ入れ替わり立ち代り入ってくる男達と話して、やはりと、私は確信を持つ。







母とは愛そのものなのだ、と。
そして、その事に気付いてるのは、私だけ。







─────────


私が死ねないのは、母が悲しむから。

腕を裂くのは簡単。五年前の私よりも大人になった私ならば、もっと深く切れる。けれど、しないのは母が悲しむから。
首を吊るのも簡単。縄の結び方なんて調べればどこにだって簡単に載っているし。けれど、しないのは母が悲しむから。

誰かに殺されたいと願うのは、母の悲しみや憎しみや後悔を向ける相手が出来るから。
逃げ、だと思います。
死への恐怖は無い。遺書を書けば後悔なく直ぐに死ねる。


母への感情というのは、難しいと思うのです。

母の腹へ戻りたいなんてことは思わない。
けれど、母の苦しみは出来るだけ取り除いてあげたいとは思う。

ただの母だ。
私に対して「嫌い」の一言も言えず(言わず)、その癖お前が死んだら三番目に悲しいと言う。
弱く脆く、強い母だ。


そう願う、私がいる。

───

0からの『愛』

2/3/2024, 5:01:20 PM

スマホの光に寄ってきた小さな、小さな虫を、ゴミだと思って無意識に指で押し潰してスライドした後に、虫だったと知るあの瞬間、ああ人間ってなんて気持ち悪いんだろう、と思った。

それは、罪悪感からでもあったし、潰した虫の嫌悪感もあったし、その二つの感情を殺した側が持ってしまう人間の機能に対してでもあった。


無意識の殺しを、あとから知った時。それは自分の中で意識した殺しになってしまう、と気付いたのは何時だっただろうか。
この光に寄ってきた哀れな虫も、きっと、一生懸命に生きてた筈だ。眩しいくらい、クラクラする光に近寄って、それから抗えもしないような大きな脅威に襲われた時、この虫はなんと思っただろうか。
騙された、罠だった、だなんて思わないで欲しい。

あぁ、ほら、またこんな小さな虫にも言い訳をしてしまう。
きっと私は気持ち悪い。


ゲームセンターで、他のぬいぐるみよりも少し顔や形が不格好なものを獲得した人の「この子不細工だから、あの子の方が良かった」っていう言葉を聞いた時、あぁ。人間は恐ろしい生き物だ、と思った。

相手が感情を表に出せる生き物ならば、こんな言葉は言わないだろうに、それが喋りもしない動きもしないぬいぐるみになったら、容赦なく言葉の槍で突き刺していく。
本当に、このぬいぐるみ達には心がないんだろうか。昔の日本では、道端の石にも神様が宿っている、と考えたそうだ。
ならば、心はなくともそれに準ずる何かは宿っているんじゃないだろうか。
ぬいぐるみの目に縫われた黒い黒いボタンと目が合った気がした。その黒が、どこか悲しそうだったから、心の底で「どうか。君が幸せになれますように」と呟いた。


私も結構、全てを見下しているのかも知れない。


人間は、大変身勝手な生き物だ。
この地球の頂点は私達だ、と言うように無様に威張っている。
全ての悪魔はここにいるとは、よく言ったものだ。全くもってその通りなのだから!

それに因果応報、この言葉があるように、沢山の命を奪った人間はいつか同じ目に合う日が来るのだろう。
私はそれを受け入れたい。


この世に人間と同じように生まれ、無意識に殺しの対象にされ虐げられた生き物たち。

その存在を私は、1000年先も、忘れないと誓おう。
この地獄の中で。









───────
命は平等、の中に人間や愛玩動物以外の存在は含まれて居ないんでしょうね。
虫一匹でも殺せば、地獄行きだと教わりました。私は、きっと地獄に行くでしょう。もし、天から蜘蛛の糸が見えたとしてもそれを掴みはしない。


小さな虫程度、と思っている時点で、私たちは命は平等だなんて思っていないんだろうなと思います。
人のその地位によって、お金によって、何かによってやはり変わるんです。
私の命はきっと軽い。それは、小さな虫を自分で潰した時からずっと。

2/2/2024, 3:24:42 PM

勿忘草。花言葉は、「真実の愛」「誠の愛」
それから「私を忘れないで」だ。

初めて見た時、えらく控えめな花の癖に重たい愛を望んでいるなぁと思った。人は忘れゆく生き物だ。懐かしい、と思う程深く遠くで忘れてしまう。いつかの旅出を共にして、どこかの海辺へ流して一人立ち直り、新しく出会い生きた者と進み行く。
それなのに、忘れないでだなんて、大層な重い思いなことで。

俺は、人に執着しない。嫉妬も勿論しない。
人は変わりゆく生き物だからだ。
幾ら俺が望んでも、人は変わっていく。
呆気なく、手のひらで掬った砂のようにサラサラと隙間から零れていくように、俺がどれだけ囲っても、縋っても変わるものは変わる。
嫉妬も執着もしない。できない、が正しいのだろうか。
でもまあ寧ろ、俺以外と幸せになってくれるなら、大満足だ。
俺なんかじゃ、幸せに出来ないってことは最初から分かってたから。





「幸せになりたいよ」

そう零すお前は、相も変わらず薄っぺらい身体をしていた。
白く細長い手には何本もの管が繋がっているのが見えて、俺はただ座ってお前の手を撫でる。
何も出来ないのだ。俺には、何も。

「お前の、幸せって何」
酷い言葉かもしれない。けれど、本当に俺には分からないのだ。


「あはは、酷いなぁ。何度も言っているじゃないか。君に、愛されることだよ」
「またそれか」
「またそれかっていうか、これだけしかないっていうか」

はぁ。
俺の溜息に、ピクリと肩を揺らしたのが見える。細い指が、俺に触れようとするから、思わず「止めてくれ」と呟いた。

「ごめん……」
「……俺は、恋愛感情が分からないんだ」
「うん。知ってるよ。恋愛に関する感情や記憶が無くなる病気でしょう」
「あぁ。まだ、治療方法が見つかってないんだ。だから、見つかるまで、待ってくれないか」
「はは、私の肺炎がこれ以上酷くなる前にお願いするね」



態とらしくコホコホ、と軽い咳をしてみせて微笑んだ。
それが、最期に見たお前の、笑みだった。




今、俺の手の中にあるのは、多分お前が吐いた花。
肺炎で苦しい中花吐き病にかかれば、体への負担は相当あったハズなのに、気付かなかった俺が許せない。
「勿忘草」だなんて、重い思いを置いていきやがって、って文句を言ってやりたくなった。
けど、もう、お前は居ない。
こんな小さな花を置いて、どっか行っちまった。

あぁ、いや。俺が、殺したんだろうか。
お前の幸せになれなかったから、お前を幸せに出来なかったから。


ゴホッ……
いきなり体が地面に引き寄せられたように重くなった。と、同時にとてつもない吐き気に襲われる。
胃から迫り上がる何か。
喉に近づくにつれ、形になっていくのが分かった。

あ、吐く。
我慢する余裕すらなく、喉を通り、口を抜け、床にボトボトと、何かが落ちていく。
それを見て、目を見開いた。


「なぁんだ……。俺も大概、お前が好きだったってか」


俺が吐いたのが、お前と同じ名前を持つ「紫苑」だなんて、皮肉なもんだな、全く。






───────
恋愛感情消失病(適当〜な創作奇病)の唯一の治療方法は、別の奇病にかかること。
花吐き病は、吐かれた花に接触して感染する。
片思いを拗らせると発症する訳で、お前は俺のことが好き。で、俺も実はお前が好き。
俺は恋愛感情に関連するものが無くなるから、気付かないのよ。でも、最後、お前の最期の花に触れて感染。

無事に恋愛感情消失病は治るのね〜Happy〜!
はは、でも好きな御相手はもうこの世には居ないよ。

恋をして花を吐き、実らなければ死に至る病。
存在すれば美しくも残酷でしょうね。きっと。


私は、花を吐くことはないと思いますが、吐くのなら美しい花を吐きたいものですねぇ。

1/30/2024, 3:12:46 PM

書いては消していたものを消化するだけ。
だから、何を言いたいのか分からないものが並んでる。






『世界』

子供とは愚かさで、大人とは醜さだ。
無知は恥だ。無知故の差別や純粋な軽蔑。子供とは、そういうものだと思う。仕方がないのだと言われれば「そうだね」を笑い声と共に吐き出すしかないのだ。
乾いた笑い声が喉の奥に引っ付いて出てこなくとも、笑うしかないのだ。
大人とは、それが何たるかを知りながらも、見て見ぬふりをする。もしくは、わざと相手を高く高く持ち上げて、キラキラと光り輝く舞台へと放り込む。
そしたら、客席に戻って腕を組み、足を組み、薄ら笑いを浮かべながら物語を楽しもうとするのだから、全くもって大人とは卑しく、浅ましく、醜い生き物だと思う。

だけど。一体何処からが大人なのだろう。気付けば勝手に大人とカテゴリー分けされて、勝手に期待して勝手に失望される。
身勝手な人間に身勝手に消費されて、でも貴方は大人でしょう? とそんな馬鹿げた言葉で終わらせて。

はは、本当に嫌な世界だ。
けれどだからこそ、とても美しい。醜い大人の中で、自分を保ち心を軸にしっかり生きている奴がいる。他人に異常に優しく、慈しむ。愛を詰めたような瞳でこちらを見て、それから、優しい陽だまりの様な笑顔で包み込む。
だからこそ、死にきれない。
世界全てが愚かで醜いのならば、あっさりと死ねただろうに。
本当に本当に、残念だ。






『生』


何が楽しいかって聞かれれば、何かが楽しいのだろうと思う。
きっと何かが楽しいから生きているのだと思う。けれど、それを確かな言葉にしろと言われれば、私は口を閉ざすだろう。
何かを楽しいとは思っているが、それが何かは分からないのだ。可笑しい事だとは思うかもしれないがそれが私の現実なの
だ。
こんな私を見て、「それを生きていると言えるのだろうか」と笑う君を思い出してしまった。とても、虚しい気持ちになって冷たい床を見つめる。
生きている、心臓が動いているのだから、きっと生きているのだろう。多分、きっと、そんな曖味な言葉ばかりを好むのは、私自身が曖昧な存在で沢山の矛盾を抱えているから、明確で正確な言葉を探し出せないのだ。
生きていると言うのは、結構難しいのだ。
心臓が動いていて、息をしていれば生きているのでは無いのかと思うのだが、社会的視点からでは、1人でお金を稼ぎ生きていける、その状態からが生きていると見なす人もいるそうで。
生も死も、見る人によればその基準が大きくズレる。




しっかりとした言葉で何かを表すのが嫌いだった。
決断を下すのが嫌いだった。
責任が持てないから、責任を持つための記憶力が私には存在しないから。
優順不断、とはまた少し違う。
自分を理解した故の、手段なのだ。
バカにしないで欲しい、見下さないでほしい。そんな気持ちはもう、存在しない。


けれど、私を嫌っている大好きな君の中から、馬鹿で嫌な私が消えてくれるのを、今でも願っている。





『愛とか好きとか何とやら』


愛情って一体何者なんだろう。
足が勝手に生えて、とてとてと可愛らしい足音を鳴らし沢山の人の所へ走り、身をすり減らして相手に愛をあげるのだろう
か。
そうじゃなければ、私は、私の愛が存在するのかすら分からないのだから。
愛は、この世で一番身勝手なものだと思う。
愛のために人を殺せたり、愛のためにお金を注ぎ込んだり、愛のために全てを捨てたりするのだから、愛というのは大層自由でいて美しく醜い。
押し付けというのは、行き過ぎると迷惑な行為にしかならないのだが、愛だとそこの境目が曖昧になる。当人同士も、周りの目も。
“愛があればいいと思う"そんな言葉で終わりを迎える結末すらも存在する。
粘土みたいに自由に曲げて捏ねて縮めて伸ばして、人型に合わせてくり抜いたパネルの中に形を変えた愛を詰め込む。
これが私の愛だ、と言わんばかりに遠慮もなしに詰め込んで、また詰め込んで、パネルが壊れるのも関係なしに、また詰め込
む。
世の中では一途と持て囃されて、悲劇の愛だなんて言われて。本当にバカバカしい。





バイト先の大好きな先輩に言い寄ろうとした社員の男がいた。「元カノの事があってから、人を好きになれなかった俺がやっと好きになれた人」だなんて言ってたから、嗚呼おめでたいね。って。
でも先輩は心の底から嫌がって、一時は精神的に不安定になってた。
その状態も、先輩がその状態になっても気付かず言い寄る男に嫌気がさしたんだ、と言えばいいんだろうか。

何となく、いつもより距離を近めにして話をした。大袈裟に笑って驚いて、少し幼めな喋り方で男に接する。動画で見た女性のモテる男性への接し方、みたいな馬鹿みたいなものを参考にして。
やっと好きになれた先輩がいるのに、私みたいなものになびく訳ないよね? って、少し期待したのに、呆気なく男の矢印はこっちに向いた。
はは、本当に、好きってなんだろう。
そんなに呆気なく、変わるのならば、ならば人の好きとは何て軽いんだろう。


先輩の精神が安定するなら、まあ良いかと思ってその状態を放っておいたら、何だか最近は別の社員さんにまで何となく匂わせをされるようになった。
良い雰囲気だ、とでも言われたんだろうか。
自分で蒔いた種なのだから仕方がないか。もうどうなっても構わない。自分がどうなろうと、興味が無い。




私が、誰かを好きになることはない。

好きになられれば、嫌いになられるという選択肢が生まれてしまう。
それなら好きなんて要らないのだ。






『』




あなたに届けたい言葉がある。
それはきっと私が伝えても届かない様な言葉だけれど。

毎日同じことの繰り返しで、何のために生きてるか分からない現状に飽き飽きしているかもしれない。
好きな物も好きな人も見つけられず、ただ一時胸を熱くさせるような事に囚われて、一瞬の命綱を何本も作って何とか生きてるのかもしれない。

だけど、それでもこれからも生きていて欲しい。
何の確証もない、曖昧な私の言葉だけど、貴方が生きていてくれたら、私はとても嬉しいなと思う。
死は救済だと思って生きている。生きているから、死にたいと思う。なら、死んでしまえば終わる苦しみだということも、理解している。

道端に咲いた花が綺麗に見える時がある。
いつもと同じ青空がいつもより、鮮明に綺麗に見える時がある。
冷たい風が耳を冷やす感覚に、何となく好きだなって思う時がある。
そんな、小さな優しい美しさに、生かされている。

きっと、幸せになれる。なんて言葉は好きじゃない。
幸せになれないかもしれない、これからの人生不幸まみれで影の中を生きるしかないかもしれない。
それでも、その中で時折見える何かの為に、私は仕方がないから生きていく。

あなたも、そうであると嬉しい。






───────
訳分からないものの詰め合わせ。
貴方が生きて、いつか私となにかの縁で会えたなら、好きな花を教えて欲しい。
そうしたら、私が死ぬその瞬間まで貴方を忘れてあげないから。
因みに、私は蓮の花が好きです。
友人が、私みたいと言ってくれたから。




そういえば、縁の切れたあいつと、仲直りしました。
ある程度知った仲の信頼ってのは厄介ですね。どうでもいいと思っていた感情が、「あいつの性格なら、どうせ仲直りする」っていう信頼があった故、だなんて知りたくはなかった。


本当に、神様どうかお願いします。
来世は人間なんかに産んでくれるなよ


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