のねむ

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10/5/2023, 4:32:57 PM

昔の人の目印だったというそれは、建物で覆われ行きがう光達のせいで姿すらも見えなくなってしまった。キラキラと光り輝くたった一つのそれは、どこか寂しそうにただ浮かんでいる。


私は、あまり空を見上げるのは好きでは無い。
身長が小さいから、上を見上げると首が痛いとかそういうちょっとした理由もあるけれど、見上げた時に目に入り込むあの空の広さが苦手だった。途方もなく、どこが終わりなのかすら分からない。もしかしたら、目の前のここが終わりで、そのちょっと横が始まりなのかも、なんてそんなことを考える。

空の始まりと終わりは一体どこにあるのだろう。
空を見ていると人間は、とてつもなく小さいんだろう。その人間が作り上げた国も、私たちからすれば大きくは見えるけど、やはり空から見ればまだまだ小さいのだ。
私たち、人間には終わりがある。それを私は理解しているから、終わりのない空のことを気味悪く思う。終わりがなければ、一体全体どうやって日々の突然に湧き出てくる虚無感や、得体の知れないものに体を蝕まれる違和感に、耐えられるのだろうか。
終わりとは、そこで一切合切を断ち切って、無に帰るものなのではないだろうか。もし空に終わりがないだとしたら、それは何と恐ろしいことなんだろう。
空はいつだって何も言わずにただ美しい色だけを描き、私たちを飲み込んでいた。



その日は、いつもと同じように、空から夜が降ってきた。
冬に近付いたからか日の光が隠れるのが早くなったと感じる。まるで、夜から逃げるように。もしかしたら、夜が逃げているのかもしれないけど、なんて、そんな事を考えながら、すれ違う人たちの顔を見て歩いた。
疲労、怒り、喜び、無、様々な事情を抱えた顔で人々は歩く。誰一人として空なんかを見ずに、ただ早足で、この人混みの中を抜けたいと逃げるように歩くから、何となくまた逃げる日の光を思い出した。きっと人間もみんな、いつも何かから逃げている。
逃げて焦って必死にもがいている。
インスタから流れてくる、元同級生達の旅行に恋に勉強にと、キラキラした日常を見てから、ただ只管に仕事に明け暮れる毎日を過ごす自分と比べて。それから、自分より上手く生きれる後輩を見て。毎日意味も分からず頭を下げ続け、自分の頭皮を相手に見せつけるだけの。そんな、子供の頃に描いていた大人とはかけ離れた自分を見つける度、人間はみな逃げ惑う。
そんな私たちを、決して逃がさないようにと、空がこの世界丸ごと閉じ込める。
みんな、自分が檻の中にいるってことに気付いてはいない。空はずっと広くただそれだけのものだと思っている。始まりもなければ、終わりもないような、そんなものが、ただ広いだけなんて、そんな面白くもないことは絶対に有り得ないのだ。


私は、空を見る。
好きでは無い空を、けれど、嫌いでもないこの空を。

暗く、何も映さない空の中に1つ、ぽつんと光が見えた。それが星だと気付いたのは、数分後の事だった。光り輝く街の光はいつも空の中の光をかき消す。私は、星を見たことがなかった。この地上の光だけに包まれ、空を見ることもあまりせず、興味もなかったから、名前は知っていても姿を見たのは本やテレビで載っていたものだけ。
それだから、最初は飛行機かなにかだと思っていた。けれどいつまで経ってその場所から少しも動かないから、やっとこさその時に星だと気づいたのである。



その星に、どこか大層惹かれた自分が居た。
その正体が何かを知りたくて、初めてプラネタリウムとやらに行ってみた。そこには、私の知らない世界が沢山広がっていた。まるで、空に穴が空いたみたいに沢山の星がキラキラと光り輝いていた。空の始まりがあるとしたら、あの1番光り輝く星なのかもしれないな、なんて沢山の光の粒を見ながら思った。
夏の大三角形、とやらを教えてもらった。この地上に沢山の光がある場所では絶対に見えないその星座が、酷く目にこびりついた。



空は、私たちを閉じ込めているのではなくて、私たちに引き止められているんだろうか。
空も星も実は、大きな布で出来ていて、星を描いたその色の変わる布はいつも地球を包んで、抱えている。だから、きっと逃げ出すと、地球を包んでいた布は抱えることを止め、その結果私たちは落下していき、そして、何時しか割れてしまうんだろう。
もしかしたら、あの星の輝きは綻んだ布の間から見えた外の世界の光かもしれない。
点と点を繋いで作ったあの星座とやらは、私たちとこの空を繋ぐ唯一のものなのかもしれない。
私たちが、自分を見失わない為の、生きるための目印。
そして、空が地球を落とさないように、必死に耐えて生まれた綻び。

空の外にある世界に、行きたくならないように、空を私たちの中に引き止めるために、地上に光を灯し、空の外からの何かを消したような、そんな気がした。
心の中に適当な点と点を繋いで自分だけの星座を作ってみた。
これは、私だけの今日の終わりだろうか。これがここにくれば、私の今日は終わる。そうした目印になる。
生きるための、そして空を私たちの手元にずっと置いておくための、目印に。
私は少しだけ、空が好きになった。







────────
空がテーマみたいになってしまいました。
しかし、空がないと星は生まれませんからね。良しにしませんか?




そういえば、この前道端に放置された犬のうんちが、バイト先に行く途中、見る度に地球の肥料になって行くのを見て、あぁ、生きてるなぁって思いました。
乾燥して、色が変わり、綻んで崩れていく。人間の心みたいと思いました。
そう考えると、いや、うんちからどう繋がったは謎ですが、人間の心はどこか空のようですね。
沢山の色に移り変わり、決して終わりの見せぬその広さ。キラキラを灯したかと思えば、直ぐに他者からの光に負けて見えなくなる。

10/3/2023, 5:18:06 PM

(暗めの話だと思います。そして精神的にも、重たいかもしれません。語り人が。)









拝啓、貴方へ。
私、来世でも、貴方とまた巡り会いたいと思います。それはきっと、必然であり、運命なのだと思います。



巡り会いとは、長い間会わなかった者同士が会うこと、らしい。
私は、長い間あっていない貴方のことを思い出した。
教室の隅、廊下側の1番後ろ端に座る私の真反対、つまり窓側の1番後ろに座り、本を読む姿を。細く美しい健康的な指でペラペラとページをめくり、本に落としていた目は稍々伏し目がちだった。時々、そちらに目と意識をやり盗み見ていて気付いたのだが、目にかかった髪の毛の奥の顔立ちは童顔さが滲み出ていた。低く耳奥に木霊するような低い声からは、あまり想像の付きにくい顔立ちだったのでよく憶えている。
友人達とお話している時は、その低い声で赤ちゃんのように笑う(今で言うバブみのある笑い方というのでしょうか。)ので、そちらのギャップへの心の対応も、少々大変なものだったのも覚えている。
私は、貴方に恋していたようにも思います。
もしくは、ただの興味だったのかも知れません。しかし、そんな過ぎ去った感情の名前を探しても、もうその面影は懐かしさにしかならないのだから、どうしようも無い。



貴方は、よく図書室に居た。だから私は、貴方の後を追ってよく分からぬ本達を適当に表紙や題名で選び、貴方を眺められる席へ座り、適当に選んだ本達をペラペラとめくっていた。
たまに、ちらりと姿を盗み見ては、前髪や睫毛に隠された黒く暗く美しい瞳を恋しく思った。

或る日の事だった。
いつもの様に本を適当に表紙や題名で選んでいた私の後ろから、盗み聞きしていた声が聞こえてきた。

「お前、最近よくここに居るな。」

驚き、困惑、焦り、悲鳴、全てが混じって、この世のものと思えぬ声が出てしまう。遠くの方で、作業をしていた図書委員の人がチラッとこっちを見て、また瞬時に興味を失ったようで作業に戻っていった。

「あ、あの、私別に不審者とかじゃありませんから。」
「知ってるよ。それよりも、お前の持ってるその本。」
「本?」

手に持った私の隠れ城となる本を見た。特に何の変哲もない、他の本と何ら変わらぬ本だ。これが、どうしたと言うのだろう。

「それ、俺が一番好きな本。めっちゃ面白いから、ちゃんと読んでみろ。」
「いや、私、本とか読めないんで、」
「じゃあ何でいつも大量に本選んでんだよ。」

じとり、と視線を向けられる。いつも大量の本を持っていってたのバレてたのか。と少し恥ずかしくなり頬に熱が集まった。
しかし、私は本当に本が苦手なのだ。読む意味を感じない、といえば攻撃力の高い言葉になってしまうが、読んでも私の体から汗のように、呼吸のように抜け落ちて言ってしまうのだ。


「う、いや、眺めるのが好きで、」
「ふぅん?勿体ねぇな。本ってのは、他人の人生を覗き見るチャンスなんだから、読めるだけ読んどいた方が、得じゃねぇ?」
「いや、だって、結局私、覚えられないので」
「じゃあ、俺が教えてやるよ。覚えられるまで。」


へ、と空気に近い声が出たのはあの時が初めてだった気がする。現実の貴方は、盗み見ていただけの貴方よりも、少々強引な男なのだと思った。けれど、そこも嫌いではなかった。

教えてやるよ。覚えられるまで。
その言葉通り、私は次の日から貴方の好きな本を一緒に読むようになった。ページをめくるのが遅い私にも、何も言わずただ横に座りじっと本を見て、時折、窓の方へ視線を投げて居たようにも思える。どこか、悲しそうな顔をしていた。
私が漢字に苦戦していると、横からスっと読み方を教えてくれたりもした。
例えば、「吐露」。私が、「は、はくろ?はろ?」と唸っていると、横から「とろ」と。私は思わず「何故急にマグロ?」と言ってしまった。そしたら、「急にマグロの話する訳ないだろ。読み方だよ。」と、童顔を更に幼くさせる笑顔で言うから、思わず胸が高鳴ってしまった。


そんな日々を何週間か続け、やっとの事で私は1冊を読み終えた。分からない言葉も、読めない漢字も多かったが、アシスタント機能性能抜群の人間が横にいたので、何とか読み進められた。
初めてだった。1冊を読み終えたのは。
初めてだった。本を面白いと思ったのは。

人の人生を覗き見る、と言った貴方の言葉がやっと理解出来た気がした。自分の知りえない知識、生き様、人間との関わり方、キラキラした世界を、一気に得た気分だ。人と出会い、話す以外での、自分を知り他人を知る機会なのだろう。
本はただ、並べられた文字を読み、「面白かったな」で締めるだけのものでは無いのだと、恥ずかしながら私は初めてその時に知ったのだ。
もうすぐ、夏休みが始まる、7月下旬の事だった。


貴方はよく言っていた。
「この世界は、あまりにも面白くなさすぎる。」と。
「本の中で見たこの世界は、キラキラと光り輝いていた。けど、やっぱ、それは誰かの目から見た、盗み見た人生だったからなんだよ。」
耳に木霊するような、低い声がなんだか震えていたような気がして、少し胸騒ぎがした。
そんなことないよ、世界はきっともっとキラキラしているんだよ。貴方は素敵だ。なんて言うには、あまりにも私は世界を知らなすぎるから、言葉を呑んだ。




貴方が死んだ。本の積み上がった自室で首を吊ったらしい。
それを聞いたのは、夏休みが終わった8月末。

いつもにこやかな先生が、緊張を含んだ顔つきで語る事実たちは、容赦なく私を地の底へと落とした。そっと、いつも貴方が座っていた席へ目をやる。
そこには、いつもと変わらぬ席が佇んでいた。ただ、貴方がそこに居ないだけ。

その後からは、悲しんでいた皆が嘘かのようにいつもの日常が戻っていた。緊張を含んでた先生の顔は、またいつもと変わらぬにこやかな顔に戻っていた。だから、貴方が居ないのは、たはだの風邪何じゃないかって錯覚してしまう。期待してしまう。
けれど、そんな期待も虚しく、残酷にも季節は過ぎ去り私達は卒業を迎えた。
やはり、そこにも貴方は居なかった。





私、未だに貴方がオススメしてくれた本を読んでいるの。
貴方が読んでいた本も、覚えてる限りを読んだ。読めない漢字も、貴方の代わりにスマホや辞書に教えて貰って読んだ。

キラキラとした世界は、現実のどこにもありませんでした。
それは、貴方が居なかったからかも知れません。
色の無い、面白味も無い現実を、貴方が居ないまま過ごす事を考えるだけで、私は吐き気がするのです。
だから、貴方と同じ方法で終わりを選ぶことに致しました。


死ぬる理由も死因も、同じ人間が行き着く未来はきっと同じだと思うんです。必然でもあり、運命だと、思います。

だから、私来世でも、いいえ。来世がなくても、貴方とまた巡り会いたいと思っております。巡り会うと思っております。
そこが例え、地獄の果てでも。
嗚呼、でも地獄はもぬけの殻で、全ての悪魔は地上にいるとどこかに書いてあったので、きっとそこでは私と貴方、2人きりかも知れませんね。


そしたら、またあの図書室での日々のように、2人でキラキラとした世界を、除き見でもしましょうか。








─────────

この中の貴方は、何を見て何を思い、何をしたかったのか、また別の機会にかけたら、良いなと思います。もっと、しっかりと、身の丈に合う言葉を使って、分かりやすく。

本にのめり込んでいました。
本の中の世界は、キラキラです。いつでも。重たい話の中でさえ、著者の感性で、キラキラメラメラと。何でもない日でも、一際違って見える。それが羨ましい。私には、その才能もその感性もないのだから。

これは、きっと、この中の貴方も思っていたのかも知れません。

9/30/2023, 8:58:11 PM

何気ない日常が、ぼんやりと好きだと思う。

私は、口癖のように口から死にたいと言う言葉が出る。
死にたい気持ちが常にある訳では無く、自分って本当はこの瞬間、実はここには存在してないんじゃないか。とか、失敗した後にちょっと隠してしまったり、そんな自分の嫌な所に気付いてしまったり。
そういう疎外感とか劣等感とか嫌悪感に襲われた時に、死にたいなって思う時もあれば、ただただ、天気がいいから今日に死にたいとか、雨があまりにも降り続けるから今日に死にたいとか、そんな時にも思うのだから、結局は気分なのだろう。

死について、私は一日の半分くらいを使って考える。
どうやって死のうか、今この瞬間強盗が入ってきたらこう死ねるだろうか。そんな事ばかりを考える。
私はきっと生を問われ続けるばかりに、死に取り憑かれてしまったのだ。嗚呼、つまらない人生だと思う。



だから、今日は逆に生について考えたいと思った。
生きていて良かったと思う時、好きだなと思う時、それはどんな時だっただろうか、と。
そうだな。生きていて良かったことと言えば、



書こうとしても思いつかなかったので、飛ばして書こうと思う。いつか、この部分を書けたのなら私は多分、今の私とまた一味違った私になるのだろう。その時には、きっと桜の似合う彼の事も、自分の中で終結を迎えているだろうか。そうだと良いなと、思う反面、そうじゃなければいいとも思う。
人間の心は厄介だ。

好きだな、と思うこと。これは書ける。
冒頭に言った通り、何気ない日常が本当に好きなのだ。
例えば、深夜や朝方に見る音の小さなテレビ。夕方にその音量で聞くと全く聞こえないのに、深夜や朝方に聞くと聞こえる。
あれは、世界の音が小さくなったからなんだろうか。
あの時間だけは、他のどんな人もどんな植物も、動物も、何もかも寝ているのかもしれないし、私の耳が爆速で良くなっただけかもしれない。
祖母の家で、うたた寝している時に私に遠慮して小さな音でテレビを見ている祖母を思い出すからだろうか。あの時間が、とても好きだ。

後は、そうだな。
季節の変わり目に、半袖半ズボンだったパジャマを下だけ長ズボンに変えた時とか、何か良いなと思った。
半袖半ズボンだと寒いけれど、長袖長ズボンだと暑すぎる。そんな中途半端なこの季節が愛おしい。
長らく履いていなかったズボンを履くと、どこか違和感というかムズムズソワソワとしてしまうし、匂いを嗅ぐとタンスの中に入ってたからか、古着の匂いがする。それが堪らなく好きだ。

そんな、何気ない日常が好きだな、とぼんやり思うのだ。
生きることは、嫌じゃない。
生きているからこそ、何かを思い、妬み嫌い、そして好きになれる。だからこそ、面倒くさいとも感じる。
死が怖い訳では無い。死を救済とすら思っているのだから。勿論、多少の怖さはあるけれど、それは死そのもの、と言うよりも死ぬる時の感覚、また遺した人たちへの心配とかそんな不確定な未知に対して怖さがあるのだ。

そんな事ばかりをずっと、一貫して考える。
生きながら、死にたいと贅沢な願いを口にする。


きっと明日も、私は生きるのだろうか。
死と生と、並んで歩きながらどちらに傾く事もせず、ただ先の見えない不安定な道を歩き続けるのだと思う。
生きたいから、死にたいから、ではなく生きているから。死んでいないから、そうするのだ。
それでも、いいと思った。何かに囚われて生きるのは酷く不自由だと思うから。
自分らしく、なあなあに。





────────

ここで書くことは唯一貴方を忘れない為にしていることの一つ。



人間が怖いんです。
地獄は人間がいてこそ完成すると、私は思っているので、この地球上ではきっと地獄の作り放題ですね。

書きながら寝落ちしてました。
夢の中で兄が、またネッ友にお金を取られる(しかも今回は銀行から勝手に5万抜かれる)夢と、街とか商店街の中の所々にあるゲーセンの補充に回る夢です。広いから走り回ってました。本当は社員さんしか入れない場所に無理やり入って行こうとしてインカムで止められました。その後店長に、低身長弄りされてました。常連さんがスヌーピーの水筒の形状を見たいって言ってました。あまり好きじゃない常連さんでした、
駄菓子屋補充にも行ったら、粗品さんが居ました。
寝ます。

9/28/2023, 1:40:10 PM

別れ際に、花を、置いて行こうとしたのは、昔読んだ小説の中で出会った『別れる男に花の名前を一つ教えておきなさい。 花は必ず毎年咲きます』という文章に酷く惹かれたからだ。
君は、花の名前をそれほど知らなかった。花に興味を持つような人生を歩んでた訳ではないし、花と触れ合うような性格でも無かったからだろう。私も似たような感じだった。そりゃあ、私は公園や道端に控えめに咲いている花の名前は流石に知っているけれど、君は公園にも行かなければ、道端に控えめに咲いている花など目もくれないだろうから、教えたって無駄だと思っている。
だから、ブライダルベール、その花を選んだのは、何となく君の目に入っても蹴飛ばされるだけだと思ったから。仮に手に取ってじっくりと見たとしても、君には何の花か分からないと確信していたから。


私は君と、別れる道を選んだ。
例えば、並行世界の私がいたとしても、同じ道を選んだと思う。そんなことを思案したところで私が私として生きているのはこの世界の私だけなのだから、意味が無い事だけれど、それでもそんなことを考える事でしか気を紛らわせる方法が無かったのだから、仕方がない。
君は何時も何の屈託もない様な笑顔で私の隣を歩いていた。私はそれが出来なかったのだ。人の目を瞞着し続けるのが苦しくなったと言えば、軽く聞こえてしまうのが少々厄介だなと思う。分かるだろうか、堂々と手を繋ぐ事が出来ない辛さが。分かるだろうか。大切な人の、大切な人達に対して常にまことしやかに嘘をつく、その苦しさが。
信頼を寄せた相手に伝えた真実が、恫喝の道具として使われる度に生きている事さえ嫌だと叫ぶ心を、脳みそを、そのまま割って貴方に直接見せてあげたいと思うほど、私は苦しさに押し潰されてしまっていた。
人間は皆、醜く自分勝手な生き物だ。




「人間を十把一絡げに見てはいけないと思うけど。」

いつもと変わらない声で、君はそう言った。聞き慣れない難しい言葉に、私の頭は一瞬だけ思考を止めた。

「ジッパーに一唐揚げ?」
「十把一絡げ、色んな種類のものを、一纏めにして扱う、ということ。正に今の君に与えるべき言葉だ。」
「うわ、何それ〜」

酷い!と言いつつも確かに私に与えられるべき言葉だと、暗くなる思考の中で思った。
君の言う通り、人間全てが醜く自分勝手な生き物と言う訳ではなかったかもしれない。他人を思う余り、自己犠牲の塊となってしまった人間もいた事が、頭の片隅にぼんやりと浮かんできたが、直ぐに消えてしまった。あれは、誰だっただろうか。
考える事すら面倒くさくなった私は、隣に座っている君にもたれかかった。重たい、と言われたけれど聞こえないフリをしてもっと体重をかけてやった。


幸せと不幸の境目は何処なのだろうか。
幸せは、いつだって不幸を伴って歩く。幸せを知ってしまえば、不幸を知ってしまう。逆もまた然り。
一生を連れ添って歩く、互いの揺るぎない愛だけを信じている夫婦のように、切っても切れぬ何かが幸せと不幸にはあったように感じてしまうのだ。
何処だと思う?と君に聞くと、笑って「境目は、一人一人の心の中にしかないと思うけれど。君はどうなのさ」逆に問われる。

問われたから考えてみた。私の心の中に、境目は無いとその時初めて知った。幸せは必ず不幸を連れ添って歩いてきた。どれだけ拒もうとも、頑なに離れず共に来た。幸せを知らなければ、不幸も知らずにいられたから、多分きっと何時かの時に記憶から消したのかもしれない。何も知らなかった純粋無垢な自分を、取り戻したのかもしれない。分からない事が沢山で、考えることが苦痛になったから目を瞑って眠った。



私は自分を雲のような曖昧模糊とした存在だと思っている。風が吹くだけで、姿形を変えてしまう雲のように、流れに身を任せているだけだから、今を生きている実感が全くもって湧かない。だから、君が別の誰かと結婚すると聞いた時、教えてくれた君の友達(多分)に「早く別れろ」と言われたから、別れる決意をした。
結婚するという話が本当かは分からなかった。けれど、結婚も、もっと言うと子すら望めない、手に入るものと言えば、世間からの好奇心旺盛なキラキラと輝く刃のような瞳と、風に揺れた木々のざわめきの様な人の声しかない私が相手では、きっと君を不幸にしてしまうと思ったのだ。互いの愛という、不確かな幸せは手に入ってもそれと同時に、そんな大きな不幸を君に背負わせてしまう。ならば、別れるのが正解だと思った。


花を置いていったとしても、君はきっと何か分からないだろう。ただ、誰かがゴミを家の前に捨てたと思うだろう。それでいいと思った。

いつも通り、君の家に行き何事もないように過ごした。「別れよう」その言葉は、言えそうになかった。
どうやら、また少し幸せを知ってしまったらしい。それと同時に、不幸もまた、やってきた。
そろそろ良い時間だから帰ると言えば、君は見送りに玄関まで着いてきた。これも、もう最後になるのかと思ったら泣きそうになったけれど、何とか耐えて「ばいばい」と口にした。
ドアを閉めた時の音は、いつもより冷たく感じたから、早くどこかに行ってしまいたいと、慌ててカバンから花を取り出した。花嫁のベールに似た、この花を選ぶとは皮肉なことだと自分を非難して、そっと玄関の前に置いた。
君に見つかるのは、明日の朝だろうか。その時までに、風で飛ばないといいけれど。







ひとり寂しく歩く私の心には、大きな穴が空いたようだった。その穴を容赦なく風が吹き通るから、我慢していた涙が、止めどなく溢れてくる。
さよなら、と告げる私の後ろから、声が聞こえた。


「全く、君は何だってそんなに自分を犠牲にするんだ。」と。

驚いて振り向くと君がいた。
走って来たのか、少し汗を滲ませた、だけどいつも通り綺麗な屈託のない顔をしていた。

「何で、」
「君が、「ばいばい」って言ったから、嫌な予感がした。別れ際に次も何事もなく会えるようにって、「またね」って言う君が、二度と会えないさよならを滲ましたから、不安になって追いかけようとしたんだ。」

そしたら、この花が。
そういう君の手には、さっき私が別れの言葉の代わりに置いてきた、ブライダルベールがあった。
君の目には、ただの葉っぱにしか見えなかったであろう花が、君に蹴飛ばされると思っていた花がそこにあった。


「私が置いていったのか、分からないのに」
「いいや、君しかいないさ。こんな臆病なやり方で、私に思いを告げるのは。」
「花なんて、興味無いんじゃ、」
「私の、外見では花が好きだなんて、似合わないだろう。だから、嘘をついていたんだ。」


驚きと困惑、疑問と、色々な感情が渦巻いて、止まりかけていた涙がまた溢れ出てきた。
君は、眉を下げて笑って、私の涙を拭い始めた。


「君が聞いてきた、幸せと不幸の境目。あの事だけれど、私の幸せと不幸の境目は、君がいるか、いないか。
君がいれば、私は幸せだし、君がいなければ、私は不幸。それだけなんだよ。」

泣いて上手く声を出せないことを気遣うかのように、未だに私の涙を拭いながら更に言葉を続けた。

「私の幸せを願い続けたいのなら、君がそばに居なくちゃ駄目なんだ。君が、幸せを怖いと思うのならそれでも構わない。私の幸せの為だけに、そばに居てほしい。」


私は頷いた。
幸せが、全てを手放すのが、怖かっただけの私は、勝手につくった君の不幸を言い訳にして別れようとした。臆病なやり方で。
そんな臆病者の私が居なければ、幸せになれないと君が言うのなら、私もまたそうなんだろうと心の中で思った。
私も結局は君が居なければ、幸せを感じられず、不幸も見つけられなくなるのだろうか。
考えることが苦手な私は、やはり最後まで思考を深くすることは無かったけれど、ぼんやりと雲のような感覚の中で思った。君から与えられる不幸なら、喜んで受け入れよう、と。



抱きしめあった2人の周りをいっそう強く風が通り抜けていった。
その風は、君の持っていたブライダルベールをどこかへと運んでしまったけれど、そんな事にも気付かぬ様子で2人はずっと抱きしめあっていた。











────────


長く書くと、何を書きたいのかが、上手く思い出せなくなるので、今度からはノートに大体のあらすじを書いてから書こうと思います。

今見返したら長すぎてビックリしました。
十把一絡げ、最近覚えた言葉です。使い方あってるか分かりませんが、言葉だけを覚える時に「ジッパーに一唐揚げ」と紐付けると簡単に覚えられました。

因みに、三浦しをんさんの、「天国旅行」を読みました。(そこで十把一絡げを知りました。)
中でも、遺言と炎が凄く好きでした。私も酷く、心中しても良いと思えるくらいの恋を体験した気分です。

人の愛とは身勝手なものですね。
愛も死も自己完結だけで、終わらせてしまえる所があるからこそ、天国旅行の中の作品はもやもやと、はっきりとした輪郭を浮かばせないのかなと。夢の中で見た物語のように、続きが見たくても見れない、そんな感じでした。

何となく、押し付けられる愛とか、幸せのことを書きたかったんですが、難しいですね。


ぜひ、暇があれば、読んで見てほしいです。
心中をテーマにしているので、重く薄暗いので、そこだけは、ご注意を。

9/27/2023, 3:37:29 PM

通り雨に襲われた。
普段の私は、特に雨が嫌いな方では無かった。寧ろ、好きな方だったと思う。けれど、今日はダメだった。許せなかった。好きになれなかった。

何故今日は許せないのか、と問われれば、上手く言い表せる言葉が無くて、口を閉ざしてしまうけれど、けれどダメなのだ。簡単な言葉で表せるようなものでは無いのだ。単純に私の中にある言葉が少なすぎるから、ピッタリとハマるパズルのピースの様な言葉が見つからないだけかもしれないが。拙い言葉で表す度に、これも違う、これも違う、と気持ちの悪い違和感に襲われる。だから口を閉ざすしか無かった。
ただ譫言の様に、ダメなんだ、とそれだけを発した口は、もう最早喋るという機能を失ったようにも思えた。
だけど、そんなこと私には関係無かった。今更、自分がどうなろうとも、どうでもいいと思えたから。興味すら無いのだ。自分の体に、心に。


私は、今日ここで秋を受け入れるつもりだった。
夏に別れを告げて、秋に挨拶をして握手をして、ハグをして。そして私も秋になろうと思っていたのに、通り雨が襲いかかってきた。私騒がせな奇襲だな、と思う私の目には雨が沢山の槍や弓の矢のように見えたから、少し恐ろしくなったのか、寒さも相まって、私の体はブルブルと子犬のように震えてしまった。
雨は、周囲の音を全て飲み込んでしまう。空気も匂いも全て何もかも、飲み込んで自分色に染め上げる、支配欲の強い男みたいだと思った。その押し付けが、今日はとても迷惑だった。いつもは好きだと思える男のようなその性質は、今日は好きにはなれそうにない。今日で無ければ、私が今日秋を受け入れるつもりじゃなければ、きっと喜んでその支配欲を身に受けていただろう。槍や、弓の矢のような雨も身一つで受け入れていただろう。


「全く、タイミングの悪い雨だ。」

そう呟く私に、心の中の悪い私が「本当はホッとしている癖に」と囁いてきた。それは、そうかもしれない。私、本当は秋を受け入れたくは無いのだ。けれど、生きているからには、生きていくからには受け入れなければいけない。人間として、四季を彩る性質を持つこの日の丸の元に生まれたからには、そうしなければいけないのだ。
誰かに決められた訳では無いけれど、きっと私達はそういう性質を持って生まれたのだ。育てられたのだ。その季節の食べ物を食べ、色を纏い、花を見て、それぞれの四季に染まる。だから、仕方がない事なのだと思う。
秋‎が嫌いという訳では無い。紅葉はとても綺麗だし栗は美味しいから、好きなのだ。秋はずっと、赤やオレンジ、黄色などの暖色を纏えている気がして、心地がいいのだ。
けれど、秋は春から1番離れているから、私は寂しく思ってしまう。たったそれだけの理由で、私は上手く秋を受け入れられなかった。
馬鹿だろう、間抜けだろう。そんな事で、と思うだろう、思えばいいさ。私がどれだけ上手く物事を話しても、相手の思った感想だけで、私の価値や本心というものを決めつけられてしまうのだ。人間とはそういうものだ。
第三者が何かを思うだけで、結局私はその何かになってしまう。私を可哀想にするのも、悪い奴にするのも、良い奴にするのも、全て私では無い誰かなのだ。相手がそう思うことによって、私はそれに成りうるのだ。

話が逸れてしまった。けれども、人間とはそういうものなのだ。きっと、大なり小なりはあるのかもしれないが、そういうものなのだ。
だから、私も私が秋を受け入れられないと言ったら、そういうものだと思って欲しい。貴方がそう思えば、そういう事になるのだから。

秋を受け入れる日が、何故、今日だったのか。
それは本当に何となく、ただただ夏が終わった匂いがしたから。夏の空が秋の空に変わった気がしたから。何となく、秋を受け入れなければ、きっと春さえも受け入れられないと思ったから。だから、本当に何となく今日だったのだ。
だけれど、その今日、通り雨に襲われてしまった。
何故、今日だったのか、明確な理由が無いから、言い表せる言葉が見つからないから、許せない理由さえも上手く見つけられなくて、ただずっと雨が通り過ぎるのを待つしか無かった。

けれども、雨が通り過ぎた後は、いつも雨がそこかしこを支配しているから、秋を感じることすら出来なくて、結局私は秋を受け入れられなかった。
明日や、明後日。もしくは1週間後、私はまた秋を受け入れようとするのだろうか。今の私には何も分からないから、ただただ、秋を受けいれて、春を待てる私でありますように。そうでないと、私は季節の概念を探し続けてしまうだろうから。と、願い、思うしか無かった。







──────────

何が書きたいのか途中から眠気で分からなくなりました。

四季がある国は、日本だけとよく言われますよね。
実際は、四季(二、三個の季節)がある所は他にも一応あるそうですが、四季を彩る行事や食べ物、植物等で、季節が変わったとはっきり分かるのは日本だけ、らしいです。
心の底から、慈しみ楽しませようとする日本人の心が現れているようで私は好きです。当たり前のようにしているけれど、案外古くから残る伝統は、近くにあるんですよね。形変われど、本質変わらず、でしょうか。
人の心はそう簡単には、変わらないんです。いい意味でも悪い意味でも。変わったように見えてもそれは、演技が上手くなっただけ、だとも思います。

私は秋を受け入れたいです。けれど、春から1番遠いから、少し躊躇してしまう。春夏秋冬(以下ループ)と、文字に起こしてみると分かりやすいのですが。夏と冬は春と隣同士なので、春の面影を探しやすいんですが、秋は、夏と冬を感じさせる。だから、受け入れられないのです。春を忘れてしまいそうだから、春を諦めてしまいそうだから。桜を、綺麗と思わなくなっていたら、彼を、忘れるかも知れない。だから、とても怖いのです。
ですが、きっと私も形変われど本質変わらず、なので今年も秋を受け入れられると思います🍁
勿論、春の桜もきっとずっと綺麗に映ると思います。季節は巡るからこそ、美しいのです。永遠とは、退屈そのもの。四季わ彩り続ける日本人からしたら、代わり映えのしない季節は、何時しか面白くも美しくもなくなると、そう思います。

なので、沢山、モンブランを食べます。

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