のねむ

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9/5/2023, 4:08:55 PM

夜の海で貝殻を拾った。くるくると巻かれた貝殻を。
耳を近づけて見ると、さわさわと春のような優しい風の音がした。何故だか嬉しくなってそのまま貝殻を耳に当てたまま、ぐるぐると体を回して踊ってみた。肌寒い夜の海なのに、春の穏やかな空気を感じれた気がした。

そのまま回っているとまたひとつ、貝殻を拾った。またくるくると巻かれた貝殻だった。
今度は音はしなかった。その代わりに、貝殻の入口からキラキラと何かが光った気がした私は、春を耳から受け入れながらもうひとつ拾った貝殻の入口を目に当ててみた。
そうしたら、今度は広い空に煌めきを放つ星が沢山広がっていたから、思わず可笑しくなってころころと砂浜に転がってしまった。
随分と、ヘンテコな貝殻だこと。なんてそんなことを思いながらももう耳も目も貝殻を離してはやれないので、転がったままずっと肌寒い夜の海の中、春を感じ星を眺めていた。


「貝殻は沢山のことを覚えていてくれるんだね。」




私はこの広い海の一部。
それ以外の何物でもない。ただの広い海の一部である。この残酷な美しい世界は、海を何処へも出してはくれない。それは何処か私にも似ていた。だから、海を私と重ね合わせた。

しかし、私は海の一部であって全てではない。というと一部と全てでは何が違うのかと聞かれそうな気がするが。
それに対する私の答えは何時だって決まって「一部と全てでは天と地ほどの差があるから。」だ。

一部、というのは全ての中の半分よりも少ない部分。
全て、というのはみな全部ひっくるめて、という事なのだ。苺のショートケーキで言うならば、私は苺のあのツブツブの中の一つであり、全てというのは苺のショートケーキ全部という、そんな感じなのだ。
分からないのであれば、それは苺のショートケーキへの愛が足りないということだ。…冗談だよ。
まぁ、けれど、大体はそういう事なのだ、
一部と全てでは天と地ほどの差がある。私は海の一部に過ぎない。海の全てを知らず、ただほんの一部、それもショートケーキの苺のツブツブよりもうんと小さいような、ただほんの一部だけを知った気になっている私は、どれだけ生きても海の一部にしかなれない。


海は何処へも逃げ出せはしない。最後にはまたここに戻ってくるしかない。その愚かさが私に似ていた。
海は広いのに、何処か息苦しさを感じた。その矛盾が私に似ていた。
海は穏やかな日もあれば、荒れ狂う日もあった。その滑稽な情緒不安定さが私に似ていた。
だから、私と重ねた。海をよく知らぬ私と、人間の事をよく知らぬ海。お似合いだと、そう簡単に口にする私はやはり愚鈍だったようで、コンビニにふらっとよる感覚で海に来てしまった。
海の全てを知りたくて、呑み込まれようと思ったのだろうか。私のこの思考回路だけは面白いと評価してもいいのかもしれないが、弱い決意にはBAD評価を付けたいね。


肌寒い海を、黒く渦巻く海を見て、少し恐れを抱いた。
この海の一部と馬鹿げた事を言っていたのだろうか、と己を嘲笑ってしまうくらいには海に恐れを抱いていた。
私が思うよりも遥かに海は沢山のものを抱えていた。そこに勿論人間も。海の中の生物も街も森も何もかも含まれていた。力強く、それでいて優しく私達が生きる為の力を授けていた。
あまりにも大きな事実に恐縮してしまって、目線を下げた。
だから、思わず砂浜に落ちていた貝殻を見つけてしまったし、それを拾ってしまったのだった。



耳も目も、未だ貝殻を離してはやれない。
離してしまえば愚かな自分を海が見つめている事を認めてしまうから。それでも良いのだけれど、少し恥ずかしいのだ。私は海の一部なんかでは無かったし、海も私を一部と思っていなかった。ただ、抱える場所に偶然生まれ落ちたから、抱えているだけに過ぎない。

恥ずかしいのだ。私は自分を大それた存在だと思っていたのだろうか。自意識過剰でいて、愚鈍愚劣最悪最低な人間。海は私とは違う。哀れだな、と笑ってからやっと耳も目も貝殻を離してやった。

もう春も星も感じなくなった貝殻に、私はそっと口付けた。



「愚かな人間がいたことも、ちゃんと覚えていてね。」


これも、結構恥ずかしい人間か…!






────────
咳と鼻水が止まらないです。こんばんは。最後に自我を出す方見ないので、私は随分と自我を出しすぎてるのだな、と思いましたがここで私を振り返るのがとても好きなので続けます。すみません。


私は、自分のことを特別でいたい、普通の一般人ということを認めたくないのです。誰かの特別でいたい、だけではなく皆から特別に思われたい、大それた存在と思われたいのです。厨二病に近い感情ですね。
本当は何処にでもいる一般人というのは、認めたくないです。
私が消えても、みんなの記憶からただの一般人の記憶なんて簡単に消えてしまうから。
誰かの人生になりたい、なんて大きい事を言うと笑われるかもしれませんが生きていた証を誰かの人生に刻みたい。

昔から、諦めと忘れるのが得意な私は寝ると大体の感情をリセットできるんです。誰にとっても都合のいい、楽な生き方を探してたら辿り付いた、逃げ道です。
でも、そんな私がずっと忘れられない桜の似合う彼への感情が、自分を少しずつ変えていくから、そんな思いが生まれたんだと思います。
こんなに情緒を不安定にさせる程の存在に、なりたいと思ってしまうのです。


貝殻は、きっと沢山の人やものを覚えて保管しているのだと思います。そしてそれを気まぐれで誰かに魅せてやるのです。夢のように。そして、それを見た誰かの事も覚えていくのです。

私は愚かなので、覚えられる側で…痛いですね。

9/3/2023, 4:37:05 PM

「些細なことでも構いません。」

横目ですらも私を見ずに過ぎ去っていく人達。
動き行く人達の中で、ただ1人立ち止まり声を上げる。

「どなたか、桜を咲かせる方法を教えてください。」

そう言葉を発すると何人かが足を止めてこちらを見て、鼻で笑った。「桜なんか、とうの昔に散り去ったのに、何故今更」とくすくす。ざわざわ。ハエの羽音の様に。
嗚呼、うざったいな。桜を過去のものにしようとしてるのはお前たちなんだ。お前たちが、忘れ去ったから過去のものになるのだ。
笑われたって馬鹿にされたって構わない。桜がまたこの人々の上で舞っているのを見れるのなら。


「おや。桜を咲かせる方法ならば知ってますよ。勿論、些細なことですが。」

耳障りのいい、柔らかい風鈴のような声が聞こえてきた。そっと、声の方向へ顔を向けると、美しい顔をした男性が立っていた。薄茶色の髪の毛がふわりと風に遊ばれているのを、アメジスト色の瞳で見ていた。
私を見ていないのに、まるで全てを見透かされているような気がした。

「桜を、咲かせるには、どうすればいいのでしょうか。」

くすくす、と。馬鹿にした笑いではなく、何も中身がない空っぽの笑い。形のいい唇から、見える八重歯が人間っぽさを滲み出していて、少し安心した。人間らしさはあるのに、人間だという確証が得られなかったから。


「桜を咲かせるならば、貴方がなればいいのです。」
「わたしが。」
「そう。貴方が。桜に」
「さくらに、、」


私が、桜になる。
そこで初めて馬鹿にされたのだと気付いた。
人が、桜になるなんて、

「出来るわけないじゃないか。」

くすくす、と。今度は馬と鹿を含んだ笑い方。

「そう。本当に出来ないと思うかい?」

肩まである髪を、指に巻き付けながら私を見た。初めて目が合った。キラキラと瞳の中の宝石が私を見つめていた。あまりの美しさに手を伸ばしそうになる。
いや、そんなことよりも、だ。
人が桜になる、というのは可能なのだろうか?分からない、そんな話を聞いたことが無かったから。

「桜の花が美しく咲くのは、その木の下に死体が埋まっていて養分を吸っているから、という小説の一節を知っているかい?」
「梶井基次郎の、」
「そう。『桜の樹の下には。』。桜を思い出して見ると、確かにどこか血の気が通っているようにも思える。」
「それは、そういう花なんじゃ。」
「愚か、ですね。そんな言葉で桜を完結させるなんて。」
「え、すみません。」

反射的に謝ってしまったが、今何故私が謝ることになったのか理解が出来なかった。桜はそういう花、という認識しか無いのだ。仕方がないのでは?
というか、桜の樹の下には死体が埋まっているのは迷信で、本当の話じゃないはず。

「桜は人を喰らうのは本当さ。昔はここに桜が生い茂って居ただろう?しかし今はその面影もない。何故だと思う?」
「環境が変わった、からじゃ無いんですか。」
「うーん、まあそれもあるだろうね。しかしね、しかしだよ。桜が散り去った時期、人々が桜から離れただろう?」

そう言われ、思い当たる記憶があったなと考え込んだ。そうだ。あの時だ。「桜の下で行方不明者多数」と新聞に大々的に書かれたあの時だ。人々は、桜から自然と足を遠ざけた。その時期からだ。桜が散り始めたのは。

「桜の下に人が居なくなったから、なんですよ。」
「桜は、人を喰らい命を伸ばしていた、という事ですか。」
「ピンポーン!大正解です。」

間抜けな声で、笑う目の前の美しい男性に、初めて恐れを抱いた。少し前に感じた人間っぽさは、今はもう欠片も感じなかった。この人は、私を喰らうつもりだ。



「桜を咲かせる方法なら知っていますよ。些細なことです。それは貴方が桜になるという事です。そう、桜の血液に。ね?些細なことでしょう」





───────

いつもより、長くなってしまいました。しかし、やはり記憶力が無いので物語の一貫性、起承転結がよわよわですね。
語彙力もないですね。

私は今すぐにでも桜を見たいです。貴方に会いたいから。

私は20歳を迎える前に、貴方を探しに永遠の夢を見に行こうと心の中で薄らと思ってはいるのですが、桜を見るとその気が無くなるんです。弱い決意ですね。きっと笑われてしまうでしょうか。
いっその事本当に、桜の樹の下には、死体が埋まっていてくれたらいいのに。そしてその死体が、私であればもっと良い。

9/2/2023, 1:20:27 PM

私の心の灯火は、多分きっと君が息を吹きかければ直ぐに消えるものなんだと思う。

君が私の隣から消えてから、結構な時間が経つ。
と、いうか君の心の灯火は多分、私が消した。
別にどうだってことは無いけれど、居れば何やかんや良いなみたいな存在だったから、少し損をした気分になった。
人間相手に損とかいうと誰かに怒られそうだけれど、もうどうだっていい。
許しを乞うとか、そういうことはしない。だって、惨めにはなりたくないから。今更罪悪感に塗れたって仕方がない。

私は実の親から、あんたはこの家系の中で一番性格が悪く、頭が悪く、顔も悪いと言われた。多分根っからの屑なのだろう。
君の心の灯火は私が消した。だから、私の心の灯火は君に消して欲しい。

「君が、私の灯火を消して欲しい」

君のお墓の前で手を合わせる。
蝋燭と線香に火をつけて、それを眺めていた。

「私、本当はあの時君が手を伸ばしたの、知ってたよ。」

屋上から飛び降りる君の綺麗な細い手を、ただ見つめていた。
手を伸ばせば届きそうだったのかは、今では思い出せないけれどただ見つめていた。

「君が飛び降りた時、多分きっと助けられた。」

けれどね、心と体は一緒じゃないんだ。
心では理解しても体が動くわけじゃない。心と体は別人なんだ。それを君は分かってない。
動かない私を見て君は裏切られたって思ったんだろう。きっとその時に君の心の灯火は消えた。私が消した。

だから、君があの時私に困った顔を見せるのではなくて、
「裏切り者」って言ってくれれば、私の心の灯火はきっと消えていた。

だから私は君のお墓の前でずっと、心の灯火を消してくれるのを待っている。心が死ねば、体は動かなくなるから。





───────
熱が出て、頭が動いていないのですが流石に何か投稿をと思ったんですが、こんな文ならずっと寝てた方がましだったかもしへないですね、

実の親から言われた言葉は、私が実際に言われた言葉です。
母の口癖は「ブスとバカは愛嬌で何とかしろ。」でした。確かに愛嬌があれば、何とか生きられますが、どんだけ辛くても話しかけられたら笑顔が張り付いてしまうようになりました。
難しいですね。人生は。

性格が悪い、冷たい性格だと言われます。人に興味がなく愛情があまり湧かない、人間じゃないみたいと言われました。実際はただの人見知りです。愛情はそんなに無いですが、興味はあります。記憶力がないだけで。

普通に生きるのは、難しいですね。心が死ねば、体は機能しなくなる。なのに、心は弱い。すぐに燃え尽きそうになる。
でも、まあ、それでも生きてみましょうか。
今日が上手く行かなくても、心の灯火が消えてしまっても明日つけ直してみましょうか。
明日はきっと、今日よりは良い日かもしれません。

8/29/2023, 5:23:41 AM

突然の君の訪問に、私はなんとも言い難い感情を体の中に留めることが出来なくて吐きそうになった。

「会いたくなかったのだけれど、あいにきてしまったよ。」

そう、以前と何ら変わらない美しい顔で笑う彼に、
「私だって会いたくは無かったよ。」と、笑顔で吐き出した。



「それで、何故今更会いに来たの。」
うーん、と悩む素振りをする彼の動きに合わせて、さらさらと流れる胡桃色の髪の毛をただただ眺めている私は肩まである髪の毛は前と変わってないんだね、なんてそんなことを思っていた。

「夢から醒める時がきたって感じかな。」

彼の目が私を見る。
瞳の色が、少し変わっているような気がした。やっぱり恋とか愛とかいう情はやはり厄介なフィルターがかかるみたい。

「夢から醒める時が、ねぇ。私は醒めたい訳では無いのだけれど。」
「ふぅん。それはどうして?」
「夢は私に幸せを見せてくれるから。」

彼の目をしっかりと見て伝える。美しさに恐れをなして、逸らした以前の私はもう居ない。きっと、この美しさは蜃気楼なのだから。

「そう。だけども、夢は夢だから何時かは醒める。」
「そうだね、でもそれは今じゃない。」
「全く君は。以前と変わらず頑固者だねぇ」
「そういう私が好きだった癖に」

そりゃあ、と頬を少し赤らめる少しだけ胸が高鳴る。
あぁ、もう。こんな情は捨てたいのに!


「ねぇ。今でも私の事好き?」

彼の冷たい手に私の手を重ねる。
びくっと体を跳ねさせた彼に合わせて髪の毛も動く。ふわふわ、さらさらと。私が猫だったら君の髪を猫じゃらし代わりにするなぁ、なんて思ってみたり。なんてね。

「そりゃあ、好きだよ。」
「じゃあ、」
「だけどね。だけど、それはもう終わりなんだ。」

言い聞かせるかのような終わり、という言葉に喉が閉まる。
息が上手く出来なくなるような感覚がする。嫌いだ、この感覚は。ずっと前にも感じたことがあるから。

「終わりなんだよ。僕達は。」
「…ふふ。あーあ、やっぱり君も私と同じくらい頑固者だなぁ。」
「でもそんな僕が好きだったでしょう?」
「うん。好き、だったよ。」



本当は、今でも好きだけれど、だけどもそれじゃあきっと私たちは前には進めない。2人で見つめて笑い合う。それが合図になる。私たちは昔の頃のように、おでこを合わせあった。

「おはよう。僕の愛した人。」

彼の美しい目がキラキラと光る。その中にきっと私の好きも入っているけれど、見えないふりをした。

「うん。おやすみ。私の愛した人。」



夢から醒めた私は、久しぶりに感じる体の重さに少しのだるさを感じながら目を開けた。
真っ白な空間に、私の生きている証を刻む音。

私を起こす為に来た彼はきっともう目を醒さない。二度と会うことも無いかもしれない。けれど、それでも、辛くても泣きたくても生きるから、何時か会えたその時は君の「おやすみ」を聞かせてね。

8/28/2023, 7:51:31 AM

雨に佇む君を見ていた。
雨の力強さに負けて道端に落ちていく桜をずっと見ながら、傘もささずに佇む君を。
桜は風に乗って散れば美しく見えるが、そこに雨が混じると美しいとは言い難い姿になってしまう。それでも君が、雨に濡れながらその桜を「美しい」と零すから何だか申し訳なくなった。


君は消えた私をずっと探している。
毎年咲く桜を見ては、苦しんでいる。その姿を私は毎年この桜から見ていた。
別れる時に、好きな花を教えなさい。花は毎年咲くのだから、という言葉を思い出していた。私は君に好きな花を教えたことは無かったけれど、桜と共に消えてしまったから私と桜を結びつけてしまったんだろう。
少し、愚かだなと思った。忘れられず、受け入れられもせず、ただただ毎年桜と共に私を待っている。君に聞こえる声で何かを伝えられたなら、どれだけ良かったのだろうか。声も出せず、ただ毎年桜を見に来る君を拒めない私も、きっと君と同じくらい愚かなんだろう。

出来ることならば、君に姿を見せてあげたい。前とは少し変わってしまったけれど、新しい私も君に受け入れて欲しいと思ったから。
だけど、まだ私はここから動けずにいる。
やまない雨はない、と言うけれど、きっと君はずっと雨を望んでいる。薄暗い空から流れる涙に紛れて、自分の涙を流せるから。雨が降り続ければ、永遠に桜は咲かないから。だけども、残酷なことに雨は何時かやんでしまうし、桜は毎年咲く。
君が私を忘れることは出来ないだろう。愚かで愛い人間さん。


そう心で思い薄笑いを浮かべながら、私は雨に佇む君を何時までもずぅっと見ていた。



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薄暗い話がとても好きです。
桜が似合う貴方のことを忘れるには、よりもっと残酷で暗い出来事がないと無理だと思うのです。だけどもその事実がとても心地よいのです。

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