のねむ

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雨に佇む君を見ていた。
雨の力強さに負けて道端に落ちていく桜をずっと見ながら、傘もささずに佇む君を。
桜は風に乗って散れば美しく見えるが、そこに雨が混じると美しいとは言い難い姿になってしまう。それでも君が、雨に濡れながらその桜を「美しい」と零すから何だか申し訳なくなった。


君は消えた私をずっと探している。
毎年咲く桜を見ては、苦しんでいる。その姿を私は毎年この桜から見ていた。
別れる時に、好きな花を教えなさい。花は毎年咲くのだから、という言葉を思い出していた。私は君に好きな花を教えたことは無かったけれど、桜と共に消えてしまったから私と桜を結びつけてしまったんだろう。
少し、愚かだなと思った。忘れられず、受け入れられもせず、ただただ毎年桜と共に私を待っている。君に聞こえる声で何かを伝えられたなら、どれだけ良かったのだろうか。声も出せず、ただ毎年桜を見に来る君を拒めない私も、きっと君と同じくらい愚かなんだろう。

出来ることならば、君に姿を見せてあげたい。前とは少し変わってしまったけれど、新しい私も君に受け入れて欲しいと思ったから。
だけど、まだ私はここから動けずにいる。
やまない雨はない、と言うけれど、きっと君はずっと雨を望んでいる。薄暗い空から流れる涙に紛れて、自分の涙を流せるから。雨が降り続ければ、永遠に桜は咲かないから。だけども、残酷なことに雨は何時かやんでしまうし、桜は毎年咲く。
君が私を忘れることは出来ないだろう。愚かで愛い人間さん。


そう心で思い薄笑いを浮かべながら、私は雨に佇む君を何時までもずぅっと見ていた。



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薄暗い話がとても好きです。
桜が似合う貴方のことを忘れるには、よりもっと残酷で暗い出来事がないと無理だと思うのです。だけどもその事実がとても心地よいのです。

8/28/2023, 7:51:31 AM