私は死の顔を知っている。
常に死と向かい合わせだからだ、と言えば貴方は笑うだろうか。
私は何も無い空間でただ、目の前にいる死の顔をずぅっと見ているのだ。
死の顔を見たことはあるだろうか。
私はある。いや、厳密には無いのだが、何となくこういうものだ、という確かな考えがあるのだ。
死の顔、というのは人によっては違うものだと思う。そして、その顔というのは、自分の居なくなった大切な人だったり、ペットだったり、そして嫌な事柄だったりと様々なのだが、その全てに一貫して言えるのが、見える顔は全て『美しい』という事だ。
簡単には、手に入れられない美しさがそこにはあるのだ。
ただただこちらを見つめる眼に、そっと手を伸ばしてしまうような、気付いたら崖の1歩手前なんてことは日常茶飯事なのだ。
美しい、楽しそう、とかそういう感情っていうのは、人を引き寄せるのはとても簡単で。
私はその死の顔を常に、見つめていた。
私の見た死の顔は、貴方だった。
とても美しくそして、最期の時と何ら変わらない眼をした貴方だった。
私は、何度も貴方に手を伸ばそうとしたけれど、毎回思い直し貴方と向かい合わせに立つ。
私が貴方と行ってしまえば、もう二度とこの美しさは見られないのだから。だから、私は今日も時々変わるけれど、美しい死の顔を見つめながら息をする。
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死というのは、簡単に見えて簡単では無い。禁断の果実のような存在。手を伸ばしても、掴めない。そして、美しいな、と私は思います。
死は救いであり、後悔でもあるんじゃないですかね。分からないですけど。私は死ぬのは怖くないです。死ぬ時は結局決まってる事だろうし、貴方の美しい顔が笑みを浮かべるから。だからこそ、その光景をずっと見ていたいのです。
ほんの些細なことだとは思います。
直しても直してもズレていく時計と並んで、私の時間もズレていくことも、卵パックで指を切ってしまったことも、毎朝見てたメダカが死んじゃったことも、何時もより天気が良くてあまりにも眩しいから家の鍵を閉めるのを忘れたことも。
全て些細なことだと思うんです。
だけど、その誰のせいでもない些細なやるせない気持ちっていうのはただただ積もっていくだけで、この先永遠に付きまとうものだと理解はしているのだ。
しかし理解と受け入れられるかどうかというのは、全くもって別のもので、頭では理解をしていても心では理解した上で否定することも少なくはなく。
私は、死ぬなら今しかない。という衝動に襲われることが多々ある。そして、生きるという道の最後の綱を握っているのはいつもこの誰のせいでもない些細なやるせない気分なのだ。
ほんの些細なことだとは、理解しているつもりで
そんなことで、と言われることも理解はしているつもりで
だけども、体は言うことを聞かないのだ。
死にたい時の、不幸の面積はとてつもなく大きい。
足の小指程度の不幸でも、人間を呑み込めてしまう位に。
幸せを知るということは、不幸を知ること。
だけども、幸せを糧に生きるものにとっては、共に不幸も得るということ。
皮肉なものだね。
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バイトに行く前に書いていたので、ちょっと纏まりないがないですすみません。
「君が天草四郎の生まれ変わりって本当?」
風が運んできた噂で知った、私の友人の事。何となく、聞いてみた。本当はどうでもよかったけれど。無言の時間が苦痛じゃなければ相性がいいと思う私にしては珍しく、無言の時間を埋めようと出した話題だった。
彼と私は、結構相性がいいと思う。だって無言でも、落ち着けるから。だけど、今日は本当になんとなく埋めてみたくなっただけ。
だから、彼が笑ってそんなの有り得ないよって言うのだと思ってた。けれど彼の口から溢れ出た言葉は、
「じゃあ、確かめに海へ行こうか。」だった。
ざぶんざぶん、ごぅごぅ。
海と風の音。潮の匂いが私の鼻の奥をくすぐる。海へ来たのなんて何時ぶりだろうか。
「何故、私を海へ連れてきたの?」
「君は、僕が天草四郎の生まれ変わりって本当か聞いたね。」
「それはまぁ、風が運んできたからさ、」
「やれやれ、耳が良いのは感心するが受け付ける噂は選んだ方がいいよ。」
「そんなこと言ったってさぁ。仕方がないじゃないか。」
私は、目が見えないのだから。
「嗚呼、理解しているさ。君は目が見えない。だから耳と鼻が他の人よりも良いってことは。だからこそだよ。」
「だからこそ?」
彼が私の手を引きながら、海へと近付く。
どんどんと、近付いていく。此処はもう、海の上じゃないか。
あれ、だけど、
「ひとつ。天草四郎は、海の上を歩けた。」
体も。服も。どこもかしこも濡れては居なかった。
彼がどんどんと奥へと歩く。足元は不安定だった。必死に彼の手を掴みながら着いていく。
「ひとつ。天草四郎は、盲目の少女の目を治した。」
彼の手が私の顔を覆う。
それが何だか恐ろしくて、だけど拒めなかった。
「目を開けてご覧。」
「さぁ。噂は本物だったかい?」
初めて見た夕焼けという景色を背に、美しい顔をした少年は笑っていた。
「私。貴方のこと嫌いだ。だから、貴方のことを忘れようとおう。」
ずっと、貴方の事を考えていた。貴方を思い浮かべる曲を聴いて、貴方が残した小説を読み、貴方の面影を探して、貴方に再会出来るのを今か今かと待ち続ける。
少しそれが苦しくなってきていたのは、何となく気付いて居たけれど、認めてしまえばきっと、辞めてしまうと思ったから。
貴方を忘れてしまうと思ったから、目を逸らしていた。
でも、何処に居るのかも分からない貴方を待ち続けて、期待し続けて何になるのだろうか。
そう思うと、何だか、胸が締め付けられて、首を内側から締め付けられた様な、気持ちの悪い感覚で体が満たされていった。
「私、幸せにさせた途端消えるような貴方は嫌いだ。」
心の中の貴方が、言う。
「そうだね。きっと私は最低だ。」と。
きっと、貴方は困ったような笑顔で、こちらを見ると思う。それは私の願望だと、思うけれど、仕方がないじゃないか。
今の貴方はどんな表情で、どんな動きで、どんな言葉を紡ぐのだろうか。貴方が居なければ、何も分からないのだから。
これが恋とか愛とかそんな言葉で表せる情ならどれだけ良かったのだろう。
私は貴方の事を、信仰している。
踏み絵すらも出来ないくらい貴方の全てを、絶対と信じて止まない。
これは、きっと貴方が居なくなってから、だと思う。思い出は美化されるし、居ないのなら最悪が増えることはない。ただ、キラキラと綺麗な思い出が降り積もるだけ。
日々日々、変わっていく貴方を。
私の中で変えられていく貴方に耐えられなくなった。
「私、貴方のこと嫌いだ。だから、貴方のことを忘れようと思う。」
言うつもりのない言葉が零れる。
それはきっと私の本音だ。私が裏の裏にまで隠した本当の音が、変わっていった貴方に引き摺られて出てきてしまった。
裏を返して、全てを見せようとする。
私を変えるのは、やっぱり何時でも貴方なんだね。
あのね。私、貴方を忘れようとしてる。
嫌いだと思ったから、私を変えていく貴方が。だけど、忘れるってことはずっと覚えてるってことなんだね。
結局さ、貴方のことずっと考えてしまってた。暑いな、体調は大丈夫かな、元気かななんて。
結局、裏返った私も貴方のことを大好きなんて、笑っちゃうよ。
まぁでも、裏が表になっても表は裏になるだけだから、ね。
てか私の心はリバーシブルですから!!
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長々と、なんかよく分からないのを書いてました。すみません。
まぁでも、本当に無理に忘れようとすると、かえって心に残るんですよ。
カサブタを無理やり剥がしたら跡が残るように、人の心も同じなんだと思います。
だから、忘れようと思うなら寧ろ自分の中で育てまくってしまった方がいいのかもしれません。
忘れよう、だけど、覚えてた。
嫌い、だけど、大好き。
裏返してても結局人の本質は変わらないと思います。リバーシブルの衣服のように。
僕が偽物の鳥のように、動かないことが出来たなら、どれだけ良かっただろうか。
彼が来てから、僕の人生は一気に変わってしまった。
彼が来るまでの僕は、何度か姿形が変わってしまった様だった。その事に僕はあまり興味がなかったから、どうでもよかったんだけども。
今の僕は、美しい白色をしている。まるで、夏の日の入道雲のように、キラキラもくもく、ふわふわと。
前の主によく似た僕は、新しく来た主には好みではなかった、というよりも前の主よりも自分の好みの方が大事だったようで、常に見えてた青い空はいつしか黒く染まり、前の主によって築き上げた鳥籠の中は、いつの間にか制限だらけになってしまっていた。
嗚呼、ここはこんな場所ではなかったのに。
ごめんなさい、主の場所を守れなくて。みんなの場所を守れなくて。何十年も一緒に居たのに、別れはこんなにも呆気なく儚いのか。悔しい。僕が鳥じゃなければ。自由の象徴じゃなければ、もっとここにいられたのかな。
だけど、今は悔やんでも仕方がないからさ、今だけは飛び立ってあげるよ。自由の象徴だって分からせてあげる。僕のこの美しい白い羽を見せつけて、手放さなければって思わせるから。
この鳥籠は、自由だから良かったのだ。だからもっと、美しく強くなってやるから。
だから、みんなは僕を捨てずに待ってて。きっと、またここに帰ってくるよ。
あんな、ばってんになんか負けないんだから!!
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待つことには慣れてるので、いつまでも青い空の中で入道雲のように美しく自由な白い鳥が飛んでいる、あのアイコンが帰ってくるのを待ち続けてます𓇢𓅮