24

Open App
3/9/2025, 9:41:00 AM

▶126.「秘密の場所」
125.「ラララ」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
フランタ国の知り合いたちに帰国の挨拶を終えた人形とナナホシは、博士が生きていた頃の家が建っていた場所へ向かっていた。

「博士ト‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノ家、モウスグ?」
「ああ。家自体は解体したから、もうないが」

何十年も旅をして回っていたため、ナナホシのナビゲーションシステムも使わずに、人形が積み重ねてきたデータだけで進むことができている。

さらに道すがら薬草の採取や配達をこなし、食費のかからない一行は順調に財布を太らせることができた。


「ソレデモ、タノシミ」





たどり着いたのは、人里離れた森の奥。
そこは周りより草が多く、木も若いものだけ。その群集は、心なしか円を描いているように見える。それは、その場所が以前に整地されたことを示していた。


「ココニ、家ガアッタノ?」
「そうだ」
「ウン…?」

ナナホシは疑問を呈するように触覚を傾げている。

「元々博士には、自分の死後は家ごと処分するよう頼まれていた。大部分は、ここに建っていた家のように不可逆的な方法で処分したのだが、一部は梱包して埋没処分したのだ。その場所は、ここから行く道しか記憶していない。こっちだ」

いつか博士と人形が歩いた道。

目の前にあるものが、求めていたものと違ったとき、
人間は必ずといっていいほど、落胆の表情を見せる。

(博士が求めていたものは何だったのだろうか)

博士ですら、ユズと呼んだ木が、そうではないと分かった時、
表情が変わった。すぐに戻ったが。

(あの人は、巧みに表情を隠すから)

いや、今思えば、表情を出すことに抵抗を感じていたような。
感情がないわけじゃない。生来は感情表現が豊かだったのだろうか。

過去に、何があったのだろうか。

(分からない、何もかも)

他人からパターンは収集できても、
それを使って定義づけをするには何もかもが足りない。

知りたいのなら、もっと集める必要がある。

そのためには。



人形は深く沈みそうになる思考を振り切り、目的地を指し示した。

「ここだ。この木の根元に埋めてある」

誰にも見つかることなく、博士と暮らした秘密の場所。
そこから持ち出した、博士にも伝えていない秘密の場所。

背負い袋からスコップを取り出して、土を掘り始める。

「処分シテモ取リ戻セル、ソレッテ本当ニ処分ナノ?」
「…博士に方法は任された。嘘はつけないが、言い訳程度はできる」

やがて、カツンと固いものに当たり、そこを中心として土を退けていく。

取り出した箱を開けると、中には厳重に梱包された冊子が出てきた。

「ソレハ?」
「私の最終設計図だ。これと施設の資料を照らし合わせながら、ナナホシの修復方法を探ってみようと考えている」

3/8/2025, 9:47:19 AM

▶125.「ラララ」
124.「風が運ぶもの」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「どこに飾ろうかしら?あまり日の当たらない場所の方が色持ちがいいわよね。ラララ♪ラン、ラン♪ここもいいわねえ、迷っちゃうわ」

「おう、クロア。ここにいたか」
「きゃっ!もう、驚かさないで」

クロアが突然のことに驚いて振り返ると、寝室のドアから顔を覗かせているシブの姿があった。絵を持って壁に当てていた手を一旦下ろして、そちらへ向かう。

「へぇへぇ。あいつはもう帰ったぞ」
「あら、私ったら挨拶もしないで。呼んでくれたらいいのに」
「あいつはそう言うやつじゃないから気にすんな。それより、飾る場所は決まったのか?」
「迷ってしまって、決まらないの」
「お前の仕事場でもいいじゃないか」
「ああ!そうね!あそこなら日も入りにくいわ」

すすっと部屋を出てシブの隣に並んで腕に触れれば、意図を汲んでシブはエスコートの姿勢を取った。
「さ、行きましょ」
「分かったよ。絵も持ってやるか?」
「ううん、軽いし自分で持ちたいわ、ありがとう」
「おう」

そのまま敷地内にあるクロアの仕事場、仕立て屋に向かう。
「あー、クロア。今日来た‪✕‬‪✕‬‪✕‬なんだがな」
「ええ、どうかしたの?」
「あいつとは長い付き合いになりそうだ。それでな」

シブが言いにくそうにしているのを、クロアはじっと見ている。

「あいつは変なやつだから、変なことが起きても気にしないでやってくれ」
「まぁ!シブったら失礼ね!あんなに礼儀正しい方に!」
「ああ、違う。そうじゃねえ、そうじゃねえんだが…」

クロアの手に伝わる、きゅっと力の籠った腕に、それがシブにとって本当に言い難いことなのだと察することができた。

「わかった、わかったわ。何か起きても気にしない。気にしないから誰にも話さない。これでいい?」
「ああ…俺は良い妻を持ったな。あんがとよ」
「あら、今頃気づいたの?でも気分がいいから許してあげるわ。歌も歌ってあげる」
「それはありがてぇこったな。じゃんじゃん歌ってくれ」

「うふふ、さぁ午後のお客さんが来る前に飾りましょう」
「おうよ」

ラララ、ラン、ラン

客のいない仕立て屋の中で、春の陽気を謳う声がしばらくの間響いていた。

3/7/2025, 9:37:21 AM

▶124.「風が運ぶもの」
123.「question」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
イレフスト国ナトミ村にて

この村では、オリャンという果樹が多数植えられている。一面のオリャン畑は圧巻であり、観光客が訪れることも多い。
酸味が強すぎて生食用には適さないが、洗濯の補助剤としてイレフスト国内では広く使われている。
村人は熟した実をジャムに加工し食べている。また、観光客向けに瓶詰めとして販売している所もある。

オリャンは柑橘類で天候の変動に強く、一年中花が咲き、また結実する。
洗濯に熟し具合は関係ないため、日持ちがするよう若い実を収穫し、これを国内各地に出荷している。


ここ、ナトミ村で風が運ぶものといえば、もちろんオリャンの香りだ。
爽やかな香りが村全体を包んでいる。

そんな場所に、ある噂話が届いた。

「『シルバーブロンドの男に気をつけろ?』おめ本気で言ってんのか」
「だぁって出荷で行くとこ行くとこ持ち切りなんだもんよ」

話を持ちかけた方はタジタジになりつつも、自分の得た情報を必死に伝えている。

「だからっておめーよォ。シルバーブロンドつったら、前に村来た旅人さんだろ?出処はどこなんだ出処は」
「それがどうも軍が流してるらしんだ」
「それじゃ軍がクロに決まってら。長んとこ行くか」


「また軍か」
「どうします?やっちまいます?」
「おめは何でそう血の気が多いんだっ」
「いてっ!なんだよー血の気が多いのは長だろー!」

「茶番は置いといて、だ。風は我らにとって良いものを運ぶが、時に良くないものも運ぶ。人の業だな」
「茶番で人を叩くなよ」
「とはいえ、とはいえだ」
「聞けよ長」

ナトミ村はオリャンの生産によって規模を大きくしてきた。
国からは町に昇格して高い税金を納めろと言われているが、
何の利益も見い出せないため断り続けている。

(のどかな村だからこそ良いオリャンを作り続けられるというに)

「ま、日頃の鬱憤を晴らすくらいなら」
「長?」
「ちょっとだけだぞ。オリャンの実は作り続けねばならんのだから」
「よしきた、みんなを集めてくるぜ」

3/6/2025, 9:20:36 AM

▶123.「question」
122.「約束」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「残ってるとこには残ってるもんなんだな」

過去の遺物ってやつがよ。
いや、こいつらにとっては過去じゃねぇんだな。

過去と現在との連続性の不思議に思いを馳せながら、
シブは、今聞いたばかりの話を噛み砕いて考えていた。



花街の女、子猫のところから出発した人形たちは、請け負った配達をこなしつつ、仕入れ屋シブのいる町まで来た。
シブはまだ仕事始めをせずに家で過ごしていたため、簡単に会うことができたのだった。

人形としては、自分の不注意で発生した怪我の修復に付き合わせた上、正体を周りには秘密にするという重荷を背負わせてしまったので、まだ蟠りがあるかもしれないとも考えていたが、

当のシブ本人は、
「おう、久しいな。入れよ」

軽く迎え入れてくれた。


‪✕‬‪✕‬‪✕‬が土産であるサボウム国で購入した香辛料をシブに渡すと、
さらにイレフスト国のナトミ村で購入したオリャンの花びらで作られた押し花の作品を取り出した。
「これは、シブの奥方に。長期保存が可能なため『永遠の花束』という記念品として購入されるらしい」
「あら!まぁ小さくて白い花びらがなんて可憐な花束なんでしょう!私にまで、わざわざありがとうございます」


少々旅の話に花を咲かせたあと。

「クロア、悪いが2人で話したいから外してくれ」
シブが自分の妻に香辛料を渡しながら頼むと、

「ええ、ごゆっくりなさってください。お酒は飲まれますか?」
という質問が返ってきた。
チラッと人形を見たシブは「いや、要らない」と答え、
クロアは、部屋から出ていった。

そして、人形は子猫の時と同じようにナナホシを紹介しつつ、これまでの旅について説明したのであった。

それに対するシブの第一声が冒頭の言葉である。

ちなみにナナホシはシブから要求がなかったため、机の上を自由に歩いている。フチを歩くのがお気に入りらしい。

「お前んとこの博士が、どうしてイレフストんとこの指紋を知っていたのか、生きてたらquestion、質問してみたかったな」
「そうだな。私はあまりにも自分自身のことを知らな過ぎた。とはいえ今更疑問を持ったところで…」

意味はない。本当にそうだろうか?

「そういえば、ナナホシと私は動力に互換性があったのだ」
「動力?ごかんせい?」
「人間で言えば同じ食事を食べていたということだ」
「ああ、なるほどな。じゃあ案外作った人間が同じだったのかもな」
「つまり、博士が?」

人形がハッとしたようにナナホシの方を見る。ナナホシは机からずり落ちそうになっていたので、そっと戻してやった。

「そりゃま、俺の知るところじゃねえがな。偶然にしちゃ出来すぎてるってことだ」

「ナナホシのいた施設は破壊措置を取ったが、資料はデータとしてナナホシと私の中にある。ただ、取り込み中に、ナナホシに関する記述は見つからなかったが」
「そうなんだな。何にしろ、イレフスト国には行かにゃならんのだろ?」
「ああ」

「冬がキツいだけなら、ウチに入れてやっても良かったんだがなぁ。まぁクロアが何と言うか分からんが」
「いや、夫婦だろう?気持ちだけで充分だ」

「まぁなんだ、戦乱やその前のことを調べるのがタブーってわけじゃない。仕事のついでに知り合いに聞いといてやる。たまには確認しに来い」

「ありがとう、シブ。そうさせてもらう」
「ナナホシもな、うまくやれよ」
「ウン、コノ机、歩クノ楽シイ。マタ来ル」

「ところで、今日もらった香辛料だがよ、次も買えるか?もちろん金は払う」

3/5/2025, 9:50:02 AM

▶122.「約束」
121.「ひらり」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「なぁに?見てほしいって」
「旅の途中で出会ったんだ。ナナホシというメカだ」

虫型なので、驚かないで欲しいが。

そう前置きしながら、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は服の中に隠れているナナホシをそっと捕まえる。
されるがままに出てきたナナホシは、人形の手の上で丸まっていた。

「…僕、ナナホシ。自律思考型メカ、ダカラ、本当ノ虫ジャナイヨ」
「そうなのね。ナナホシちゃんって呼んでもいいかしら?」
「イイヨ」
「ありがとう、ナナホシちゃん。そして初めまして。私のことは子猫と呼んでちょうだい。見ての通り人間よ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬に、こんなに素敵な仲間ができたのね。嬉しいわぁ」

「ありがとう、子猫」
「ふふ、ねぇナナホシちゃん。私の手の上にも乗ってみない?」

子猫の発言を聞いたナナホシはチラッと触覚を人形の方へ向けてきた。
「大丈夫だ、ナナホシ」
「ウン」

あの施設の時、ナナホシは極度の動力不足に陥っており、熱源を求めてホルツの手の上に乗った。今は、意志もはっきりとした状態で自ら子猫の手の方へ歩いていく。

先に触覚で子猫の手に触れて安全か確かめる。
そうしてから、そろそろと手のひらへと移動していく。

「うふふっ、ちょっとくすぐったいわ」

小さなメダルほどの大きさであるナナホシは、子猫の手の中にあると人形のそれよりも、子猫には大きく見えた。ほっそりとした手が落ち着かないようで、もぞもぞと位置を変えている。

やがて、丁度いいところを見つけて大人しくなった。

「まぁ、なんてかわいいのかしら」
「コネコ、ヒンヤリシテル」
「ちょっと冷え性なの。寒かった?」
「ダイジョウブ。コネコ、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノトモダチ?」
「ええ、そうね。私が小さな子供だった頃、泣いていたら声をかけてくれたの。今の私は自由に外へ出られないから、時々旅の話を聞かせてもらっているのよ」
「ソッカ」
「ねえ?あなたの話、もっと聞きたいわ」
「イイヨ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬モ、手伝ッテ」
「分かった」

人形とナナホシは、かいつまんで冬の間の出来事を話していく。
子猫は瞳を輝かせて聞いていたが、終盤のイレフスト国の追っ手がかかった辺りから、真剣な表情に変わっていった。

「何よ、随分無茶なことして。危なかったのね…ナナホシちゃん、体はどう?」
「マダ平気」
「そう…でも、あなたたちは毎年イレフスト国に行かなくちゃいけないのね」
「ああ、そうだ。できるだけサボウム国を通るのは避けたいところだが」
「ノンバレッタ平原を通れればいいけれど、その様子だと軍が見張ってる可能性もあるわね」
「私もそう考えている」

「そう…」

少し考え込む様子を見せた子猫は、やがて首を振った。
「今の私に出来ることは無さそうだわ。フランタ国のお偉いさんに繋ぎを取るまではできそうだけど、イレフスト国やサボウム国との国交は途絶えているから」

「いいんだ、子猫。ありがとう」
「‪✕‬‪✕‬‪✕‬、旅で何かあったの?表情が、んー…なんだか柔らかくなった気がするわ」
「そうなのか?自分では分からないのだが」
「私の気のせいかもしれないわね。あ、そうだわ」

ぱっと思いついたように手を合わせ打ち、部屋の隅にある小さな引き出しへ向かう。
「渡そうと思っていたのがあるのよ。えーと…あったわ」

差し出されたのは、小さな小包。子猫に促され、人形が開けてみると、出てきたのは暖かそうな襟巻きだった。
「また冬に出るのでしょ?持っていって?」
「いいのか?」
「ええ。代わりにまた話を聞かせてちょうだいね?」
「ありがとう。約束する」
「ナナホシちゃんには…ちょっと待っててね」

襟巻きと同布の巾着袋と裁縫道具を取り出し、更に部屋の奥に小部屋となっている衣装たんすを漁り始めた。やがて持ってきたのは、袖口に防寒として付ける毛皮のつけ袖であった。
「これね、以前お客さんに貰ったんだけど。多分一緒に外へ出ましょうってお誘いね。要らないからあげるわ」

子猫は椅子に腰掛け、話しながらも容赦なくハサミを入れる。毛皮は加工するには固いはずだが、苦にした様子はない。

「いつか外に出られたら、‪✕‬‪✕‬‪✕‬のように旅をして、自分の目で見て良いと思った素材で服を作りたいの。もらった布も、自分で仕立てるつもりよ」

針を通し、巾着袋の内側に毛皮を縫い付けていく。

やがて裏起毛の巾着袋が完成した。

「はい、ナナホシちゃんにはこれ。専用の寝袋ってところね。こっち側は毛皮と巾着袋の間に何か入れられるように、縫わないでおいたわ」

「アッタカソウ…!アリガトウ、コネコ」
「ナナホシちゃんも、必ず私のところに会いに来てね。約束よ」

Next