▶122.「約束」
121.「ひらり」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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「なぁに?見てほしいって」
「旅の途中で出会ったんだ。ナナホシというメカだ」
虫型なので、驚かないで欲しいが。
そう前置きしながら、✕✕✕は服の中に隠れているナナホシをそっと捕まえる。
されるがままに出てきたナナホシは、人形の手の上で丸まっていた。
「…僕、ナナホシ。自律思考型メカ、ダカラ、本当ノ虫ジャナイヨ」
「そうなのね。ナナホシちゃんって呼んでもいいかしら?」
「イイヨ」
「ありがとう、ナナホシちゃん。そして初めまして。私のことは子猫と呼んでちょうだい。見ての通り人間よ。✕✕✕に、こんなに素敵な仲間ができたのね。嬉しいわぁ」
「ありがとう、子猫」
「ふふ、ねぇナナホシちゃん。私の手の上にも乗ってみない?」
子猫の発言を聞いたナナホシはチラッと触覚を人形の方へ向けてきた。
「大丈夫だ、ナナホシ」
「ウン」
あの施設の時、ナナホシは極度の動力不足に陥っており、熱源を求めてホルツの手の上に乗った。今は、意志もはっきりとした状態で自ら子猫の手の方へ歩いていく。
先に触覚で子猫の手に触れて安全か確かめる。
そうしてから、そろそろと手のひらへと移動していく。
「うふふっ、ちょっとくすぐったいわ」
小さなメダルほどの大きさであるナナホシは、子猫の手の中にあると人形のそれよりも、子猫には大きく見えた。ほっそりとした手が落ち着かないようで、もぞもぞと位置を変えている。
やがて、丁度いいところを見つけて大人しくなった。
「まぁ、なんてかわいいのかしら」
「コネコ、ヒンヤリシテル」
「ちょっと冷え性なの。寒かった?」
「ダイジョウブ。コネコ、✕✕✕ノトモダチ?」
「ええ、そうね。私が小さな子供だった頃、泣いていたら声をかけてくれたの。今の私は自由に外へ出られないから、時々旅の話を聞かせてもらっているのよ」
「ソッカ」
「ねえ?あなたの話、もっと聞きたいわ」
「イイヨ。✕✕✕モ、手伝ッテ」
「分かった」
人形とナナホシは、かいつまんで冬の間の出来事を話していく。
子猫は瞳を輝かせて聞いていたが、終盤のイレフスト国の追っ手がかかった辺りから、真剣な表情に変わっていった。
「何よ、随分無茶なことして。危なかったのね…ナナホシちゃん、体はどう?」
「マダ平気」
「そう…でも、あなたたちは毎年イレフスト国に行かなくちゃいけないのね」
「ああ、そうだ。できるだけサボウム国を通るのは避けたいところだが」
「ノンバレッタ平原を通れればいいけれど、その様子だと軍が見張ってる可能性もあるわね」
「私もそう考えている」
「そう…」
少し考え込む様子を見せた子猫は、やがて首を振った。
「今の私に出来ることは無さそうだわ。フランタ国のお偉いさんに繋ぎを取るまではできそうだけど、イレフスト国やサボウム国との国交は途絶えているから」
「いいんだ、子猫。ありがとう」
「✕✕✕、旅で何かあったの?表情が、んー…なんだか柔らかくなった気がするわ」
「そうなのか?自分では分からないのだが」
「私の気のせいかもしれないわね。あ、そうだわ」
ぱっと思いついたように手を合わせ打ち、部屋の隅にある小さな引き出しへ向かう。
「渡そうと思っていたのがあるのよ。えーと…あったわ」
差し出されたのは、小さな小包。子猫に促され、人形が開けてみると、出てきたのは暖かそうな襟巻きだった。
「また冬に出るのでしょ?持っていって?」
「いいのか?」
「ええ。代わりにまた話を聞かせてちょうだいね?」
「ありがとう。約束する」
「ナナホシちゃんには…ちょっと待っててね」
襟巻きと同布の巾着袋と裁縫道具を取り出し、更に部屋の奥に小部屋となっている衣装たんすを漁り始めた。やがて持ってきたのは、袖口に防寒として付ける毛皮のつけ袖であった。
「これね、以前お客さんに貰ったんだけど。多分一緒に外へ出ましょうってお誘いね。要らないからあげるわ」
子猫は椅子に腰掛け、話しながらも容赦なくハサミを入れる。毛皮は加工するには固いはずだが、苦にした様子はない。
「いつか外に出られたら、✕✕✕のように旅をして、自分の目で見て良いと思った素材で服を作りたいの。もらった布も、自分で仕立てるつもりよ」
針を通し、巾着袋の内側に毛皮を縫い付けていく。
やがて裏起毛の巾着袋が完成した。
「はい、ナナホシちゃんにはこれ。専用の寝袋ってところね。こっち側は毛皮と巾着袋の間に何か入れられるように、縫わないでおいたわ」
「アッタカソウ…!アリガトウ、コネコ」
「ナナホシちゃんも、必ず私のところに会いに来てね。約束よ」
3/5/2025, 9:50:02 AM