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3/5/2025, 9:50:02 AM

▶122.「約束」
121.「ひらり」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
「なぁに?見てほしいって」
「旅の途中で出会ったんだ。ナナホシというメカだ」

虫型なので、驚かないで欲しいが。

そう前置きしながら、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は服の中に隠れているナナホシをそっと捕まえる。
されるがままに出てきたナナホシは、人形の手の上で丸まっていた。

「…僕、ナナホシ。自律思考型メカ、ダカラ、本当ノ虫ジャナイヨ」
「そうなのね。ナナホシちゃんって呼んでもいいかしら?」
「イイヨ」
「ありがとう、ナナホシちゃん。そして初めまして。私のことは子猫と呼んでちょうだい。見ての通り人間よ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬に、こんなに素敵な仲間ができたのね。嬉しいわぁ」

「ありがとう、子猫」
「ふふ、ねぇナナホシちゃん。私の手の上にも乗ってみない?」

子猫の発言を聞いたナナホシはチラッと触覚を人形の方へ向けてきた。
「大丈夫だ、ナナホシ」
「ウン」

あの施設の時、ナナホシは極度の動力不足に陥っており、熱源を求めてホルツの手の上に乗った。今は、意志もはっきりとした状態で自ら子猫の手の方へ歩いていく。

先に触覚で子猫の手に触れて安全か確かめる。
そうしてから、そろそろと手のひらへと移動していく。

「うふふっ、ちょっとくすぐったいわ」

小さなメダルほどの大きさであるナナホシは、子猫の手の中にあると人形のそれよりも、子猫には大きく見えた。ほっそりとした手が落ち着かないようで、もぞもぞと位置を変えている。

やがて、丁度いいところを見つけて大人しくなった。

「まぁ、なんてかわいいのかしら」
「コネコ、ヒンヤリシテル」
「ちょっと冷え性なの。寒かった?」
「ダイジョウブ。コネコ、‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノトモダチ?」
「ええ、そうね。私が小さな子供だった頃、泣いていたら声をかけてくれたの。今の私は自由に外へ出られないから、時々旅の話を聞かせてもらっているのよ」
「ソッカ」
「ねえ?あなたの話、もっと聞きたいわ」
「イイヨ。‪✕‬‪✕‬‪✕‬モ、手伝ッテ」
「分かった」

人形とナナホシは、かいつまんで冬の間の出来事を話していく。
子猫は瞳を輝かせて聞いていたが、終盤のイレフスト国の追っ手がかかった辺りから、真剣な表情に変わっていった。

「何よ、随分無茶なことして。危なかったのね…ナナホシちゃん、体はどう?」
「マダ平気」
「そう…でも、あなたたちは毎年イレフスト国に行かなくちゃいけないのね」
「ああ、そうだ。できるだけサボウム国を通るのは避けたいところだが」
「ノンバレッタ平原を通れればいいけれど、その様子だと軍が見張ってる可能性もあるわね」
「私もそう考えている」

「そう…」

少し考え込む様子を見せた子猫は、やがて首を振った。
「今の私に出来ることは無さそうだわ。フランタ国のお偉いさんに繋ぎを取るまではできそうだけど、イレフスト国やサボウム国との国交は途絶えているから」

「いいんだ、子猫。ありがとう」
「‪✕‬‪✕‬‪✕‬、旅で何かあったの?表情が、んー…なんだか柔らかくなった気がするわ」
「そうなのか?自分では分からないのだが」
「私の気のせいかもしれないわね。あ、そうだわ」

ぱっと思いついたように手を合わせ打ち、部屋の隅にある小さな引き出しへ向かう。
「渡そうと思っていたのがあるのよ。えーと…あったわ」

差し出されたのは、小さな小包。子猫に促され、人形が開けてみると、出てきたのは暖かそうな襟巻きだった。
「また冬に出るのでしょ?持っていって?」
「いいのか?」
「ええ。代わりにまた話を聞かせてちょうだいね?」
「ありがとう。約束する」
「ナナホシちゃんには…ちょっと待っててね」

襟巻きと同布の巾着袋と裁縫道具を取り出し、更に部屋の奥に小部屋となっている衣装たんすを漁り始めた。やがて持ってきたのは、袖口に防寒として付ける毛皮のつけ袖であった。
「これね、以前お客さんに貰ったんだけど。多分一緒に外へ出ましょうってお誘いね。要らないからあげるわ」

子猫は椅子に腰掛け、話しながらも容赦なくハサミを入れる。毛皮は加工するには固いはずだが、苦にした様子はない。

「いつか外に出られたら、‪✕‬‪✕‬‪✕‬のように旅をして、自分の目で見て良いと思った素材で服を作りたいの。もらった布も、自分で仕立てるつもりよ」

針を通し、巾着袋の内側に毛皮を縫い付けていく。

やがて裏起毛の巾着袋が完成した。

「はい、ナナホシちゃんにはこれ。専用の寝袋ってところね。こっち側は毛皮と巾着袋の間に何か入れられるように、縫わないでおいたわ」

「アッタカソウ…!アリガトウ、コネコ」
「ナナホシちゃんも、必ず私のところに会いに来てね。約束よ」

3/4/2025, 9:29:37 AM

▶121.「ひらり」
120.「誰かしら?」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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これまでのあらすじ
舞台は、遠い遠いどこかの大陸。ここに、長き戦乱によって当時の技術を喪いつつも存続している3国があった。
この物語の主人公である人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、光と熱を糧に人間のフリをしながら、3国のひとつであるフランタ国内を旅してまわっていた。数十年そうして過ごしていたが、今年の冬は動力節約のため戦乱中の施設があると噂があった山で冬ごもりをすることに決めた。
しかし、たどり着いたのは戦乱中に敵国であったはずの隣国イレフスト国が建てた研究施設であった。人形は施設機器の起動に成功し、ナナホシと名乗る自律思考可能な虫型メカを手に入れる。
その後、施設を出た人形たちはサボウム国、イレフスト国と旅をしていく。イレフスト国ではナナホシを盗んだとして追っ手がかかり逃亡する。なんとかフランタ国へ戻ってきたのであった。






「ココガ花街?」
「いや、もっと奥にある。花街とは芸を売る店が集まった一角を指す。街の名前は別にある」

人形たちは、山を下りたあと街道に入って東の辺境を抜け、首都のすぐ北にある街にやってきた。ここの花街で人形の知り合いである子猫が働いている。子猫が幼少の頃から知り合いであり、‪✕‬‪✕‬‪✕‬が人間ではないことを知っている数少ない人間だ。

「ソッカ。他ヨリ、大キイ街ダネ」
「ああ、首都を姉とするなら、この街は妹にあたる。だから発展していて、モノも人もたくさん流れてくるのだ」
「コレガ‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノイタ街…」

人形は旅をするようになってから、この街含め、どこにも家を構えたことはない。だからナナホシの発言は正確には違うのだが、興味深げにヒクヒクと触覚を動かす様子を見た人形は訂正しないでおくことにした。目的を持って何度も通っていたことは間違いない。

時は昼間。花街はまだ眠っている。

「先に配達屋へ行ってもいいか?進路に沿うものがあれば受けたい」
「ウン」

フランタ国における配達は、首都と周りにある妹分にあたる大きな街との間で主にやり取りがされる。だが金を払って内容審査さえ受ければ、国民の誰でも国内に限り配達を依頼することができる。そして遠方への仕事を受けるのは、人形のような旅人や商隊たちだ。

看板に手紙の絵が描かれた配達屋の建物の中に入る。
ドアを開けると、入り込んだ風がひらり、掲示板に貼られた依頼書をめくり上げた。


「ちょうどあったな」
1人つぶやくように発した人形は、依頼書を1枚取り、書物台で請書を記入するとカウンターへ持ち込む。

「これを受けたい」
配達の受け取り主にサインを書いてもらい、実績を示すのに使用する証明カードと共に出せば、
「ありがとうございます」

そもそもの数が少ないため、すぐに荷物が出てきた。

「確かに。必ず届けよう」

ひらり、人形は身を翻して配達屋を後にした。




「これを全部私に?」

その後、市場で外套を春物に買い替えたりなどして夜まで待った人形たちは、
子猫のもとを訪ねた。


ひらりと軽やかに広げられた薄紅色の布は、
サボウム国の新首都で購入した温泉を使った染め物だ。
若草色や他の色のものも並べて置かれ、ここだけ花畑のようだ。

「新調する時期から少し遅れてしまったが」
「ううん、それは大丈夫よ。それより、こんなに綺麗なものを、こんなにたくさん」

まだ来ないまだ来ないってやきもきしていたのに、笑っちゃうわ。

子猫はコロコロと呆れたように笑いながらも、嬉しそうに染布を抱きしめていた。
「これ、サボウム国のものでしょ?ひと冬で行って帰ってこられるなんて、さすがね。無茶なことはしていないかしら?」

「私は大丈夫だ。それより見てほしいことがある」
「あら、何かしら」

3/3/2025, 9:08:12 AM

▶120.「誰かしら?」
119.「芽吹きのとき」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---
〜人形たちの知らない物語 小話〜

「冬は雨が降らないから虹も見れないって、とーちゃん言ってたぞ!」
「違うもん!見たもん!」

「じゃあ明日見せてみろよ!」
「いいよ!見せてあげるから!」

これが昨日の私。

「はぁ…なんであんな嘘ついちゃったんだろう…」

膝を抱えてションボリ。

「どうしたんだ?具合が悪いのか?」
「あ、おじさん!帰ってきたの!?」
「そうだよ。それより大丈夫なのか?」

「うん…実はね」

おじさんは、私の幼なじみのお父さんの弟。
人形づくりをしてる家では珍しいけど、旅をしながら色々学んでいるんだって。
時々帰ってきては、私にも優しくしてくれる。

事情を話してみると、おじさんは笑うことも無く話を聞いてくれた。

「ふむ、虹か。瓶詰めに使う、空の瓶はあるか?」
「うん、お母さんに借りれば、あるよ?」

「上手くいくかは分からないが、虹を作ってみよう」



水をいっぱいに入れた瓶を見せると、案の定、

「これが虹?こんなの嘘じゃん」

幼なじみは呆れ顔。

「まぁ、そう言わずに。今日は晴れてる。私は運が良かった」


苦笑しながらもおじさんは私から瓶を受け取り、太陽に透かす。

すると時折、

「あ、虹だ!」

思っていたより、ずっと小さいけど、虹だ。

「すごいな。嘘つきって言って悪かったよ」
「ううん、私も意地張って変な嘘言っちゃった。ごめん」

「2人とも、仲良くするんだぞ」
「ありがとう、おじさん!」

瓶を私の手の中に置いたおじさんは、私と幼なじみの頭を撫でて去っていった。
きっと幼なじみの家に帰るんだろう。

「おい、もっとやってみようぜ!」
「あ、うん!」







雨上がりの空に大きな虹を見つけた。

「わぁ!大きい〜!」

子どもたちにも知らせてあげよう。

私が小さい頃なんて、虹が見られなくておじさんが…

「あれ?」




君と見た虹。
私がおじさんから教えてもらって作った小さな虹。

とびきり大きな思い出のはずなのに。

私は誰と見たんだっけ?
お隣さんの子?

昔住んでた家のお隣は人形づくりしてて、お店もやってて、
私は人形を見るのが大好きで通ってたけど、
でも跡継ぎがいないからって、畳んじゃった。


だから、違う。

でも、そこの子じゃないなら、本当に誰かしら?



____の故郷にいた幼なじみの話。
違う大陸かもっと遠くなのか、細く細く繋がっていたチャンネルが、博士が最期を迎えたことで途切れてしまった瞬間。

3/2/2025, 9:35:47 AM

▶119.「芽吹きのとき」
118.「あの日の温もり」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
---

陽気なサボウム国と、洗練されたイレフスト国。
人形が渡り歩いた国々で出会った人間たちは、
最後にトラブルはあったものの確かに善良な者ばかりであった。

けれども人形は牧歌的な雰囲気を求めて、
元いたフランタ国に戻ることにした。

「なぜだろうな」

揺れる炎を見ていたら、何かこみ上げてくるものを感じた。
それの存在を認識した途端、それは消えてしまったが。ただ、後には、フランタ国に戻りたいという思いが芽吹いていた。

ナナホシに話しながら、とはいえ体の手入れに忙しいようで相槌が時折返ってくる程度であったが、人形も明確な答えは求めていなかったので気にしていない。
口に出して整理するように、今までなかった自身の変化について考える。

その間も燃え尽きた焚き火を片付ける手は動く。
施設の脱出から既に1日経過しているため可能性は低いが、人目に付きにくい山中ならば探しに来るかもしれない。
丁寧に痕跡を消していく。

「よし、こんなものだろう。出発する」
「ハイ」
「まだ手入れ途中だったか?」
「ウウン、モウイイ」
「そうか」

洞窟の隅にいたナナホシをすくい上げて肩に乗せる。
「では、行こう」


そうして出た外は、あちこちで芽吹きのときを迎えていた。

「来た時には目も向けなかったが」
「僕ハ、寝テタカモ」
「近い状態だったな」

冬の吹き降ろす風が、
今日は母性が目覚めたかのような優しいものに変わり、
しなやかに草木を揺らしている。

しばし立ち止まり耳を傾け、また歩き出した。

3/1/2025, 9:40:44 AM

▶118.「あの日の温もり」
117.「記録」「cute!」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「追っ手は…いないようだ」

晴れた昼下がり。
人形にとって有利な天候であるが、現在残っている動力は少ない。

少し離れた場所から追っ手の有無を確認した人形は、以前に年越しを過ごした洞窟へ向かった。



「アッタカサ、シミワタル…」
洞窟の中、人形は集めた枝を惜しみなく焚べる。
大きな火はナナホシだけでなく人形自身も温めくれた。

「無理をさせたな」
「ウウン…ホルツ、イイ人デ良カッタ」
「そうだな…あの管理人は、信じても大丈夫だろう」

‪✕‬‪✕‬‪✕‬の意図を汲んで上手いことやってくれる、そう思わせる人物であった。

(そういえば、私もこうして温めてもらったのだった)

そう考えると、人間というのはー

「‪✕‬‪✕‬‪✕‬、イマ、笑ッタ?」
「え?」
人形は頬に手を当ててみるが、口角が上がっているということはない。
手をおろし、再び枝を火に投げ入れ始める。

「思い出していたのだ、あの日の温もりを」

情報収集しようと話し掛けた男に誘われて森の奥に採集に行ったこと、
注意が間に合わず、穴に落ちて足を大きく損傷したこと。
そして、その男に修復の手助けをしてもらったこと。

「大変だったと思うのだ」

ありがたいことなんだ。そう人形は考えた。

「ソッカ」
「ああ。動力を充分に確保できたら、フランタ国の町に行こう。そこに知り合いがいる町があるんだ」

「ア、オミヤゲ?」
「それもあるが。今回の旅で分かったのだ」
「何ガ?」

「フランタ国の方が気質の穏やかな人間が多くて、過ごしやすい。ナナホシ、いいか?」
「イイヨ、行コウ」

花街の子猫や仕入れ屋のシブは、健在だろうか。

子猫は、遅いと言って怒るかもしれない。
ナナホシのことをかわいがってくれそうに思う。

ただ話を聞き、望まれるままに旅の話をした。
それだけの過去が温もりとして感じられる。
単なる温度ではない、人間の温もり。

(ありがたいことなんだ)

ぱちん、と火の中の枝が弾けた。

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