▶118.「あの日の温もり」
117.「記録」「cute!」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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「追っ手は…いないようだ」
晴れた昼下がり。
人形にとって有利な天候であるが、現在残っている動力は少ない。
少し離れた場所から追っ手の有無を確認した人形は、以前に年越しを過ごした洞窟へ向かった。
「アッタカサ、シミワタル…」
洞窟の中、人形は集めた枝を惜しみなく焚べる。
大きな火はナナホシだけでなく人形自身も温めくれた。
「無理をさせたな」
「ウウン…ホルツ、イイ人デ良カッタ」
「そうだな…あの管理人は、信じても大丈夫だろう」
✕✕✕の意図を汲んで上手いことやってくれる、そう思わせる人物であった。
(そういえば、私もこうして温めてもらったのだった)
そう考えると、人間というのはー
「✕✕✕、イマ、笑ッタ?」
「え?」
人形は頬に手を当ててみるが、口角が上がっているということはない。
手をおろし、再び枝を火に投げ入れ始める。
「思い出していたのだ、あの日の温もりを」
情報収集しようと話し掛けた男に誘われて森の奥に採集に行ったこと、
注意が間に合わず、穴に落ちて足を大きく損傷したこと。
そして、その男に修復の手助けをしてもらったこと。
「大変だったと思うのだ」
ありがたいことなんだ。そう人形は考えた。
「ソッカ」
「ああ。動力を充分に確保できたら、フランタ国の町に行こう。そこに知り合いがいる町があるんだ」
「ア、オミヤゲ?」
「それもあるが。今回の旅で分かったのだ」
「何ガ?」
「フランタ国の方が気質の穏やかな人間が多くて、過ごしやすい。ナナホシ、いいか?」
「イイヨ、行コウ」
花街の子猫や仕入れ屋のシブは、健在だろうか。
子猫は、遅いと言って怒るかもしれない。
ナナホシのことをかわいがってくれそうに思う。
ただ話を聞き、望まれるままに旅の話をした。
それだけの過去が温もりとして感じられる。
単なる温度ではない、人間の温もり。
(ありがたいことなんだ)
ぱちん、と火の中の枝が弾けた。
3/1/2025, 9:40:44 AM